レビュー

ブリヂストン、静粛性に優れたSUV用新型タイヤ「アレンザ LX100」に乗る レグノ技術を導入

コンフォート性能をアップしたブリヂストンのSUV用新型タイヤ「アレンザ LX100」

ブリヂストンのSUV用新型タイヤ「アレンザ LX100」

 ブリヂストンのSUV用タイヤブランド「ALENZA(アレンザ)」に新たなる商品「アレンザ LX100」がラインアップされた。そもそもアレンザには「アレンザ 001」というオンロードにおける運動性能を重視したタイヤが存在するが、今回の「アレンザ LX100」はその真逆。オンロードにおけるコンフォート性能を追求したタイヤで、ネーミングの由来はLuxuryをアルファベット2つで表現しているほど。ちなみに「100」についてはアレンザブランド初のコンフォートラインを意味する第一世代=100ということらしい。今回は「アレンザ LX100」と「アレンザ 001」を共に試乗する。

「LX100」のトレッドパターンを見るとすぐにピンとくる人も多いと思うが、紛れもなく乗用車用のコンフォートタイヤ「REGNO(レグノ) GR-XII」の技術が多く盛り込まれていることがうかがえる。縦溝と路面との接地面両側から発する気柱管共鳴音を排除するように搭載された、ダブルブランチ型消音器を2つのリブに搭載。これにより4本の縦溝から発する音を軽減している。

SUV用新型タイヤ「アレンザ LX100」
SUV用新型タイヤ「アレンザ LX100」のトレッドパターン。右がアウト側で左がイン側。静粛性に優れたレグノの要素技術が見て取れる
アレンザの開発背景
ブランドラインアップ
アレンザ LX100商品概要
アレンザ LX100搭載技術
アレンザ 001商品概要
アレンザ 001搭載技術
性能レーダーチャート

 また、イン側ショルダー部には3Dノイズカットデザインを施すことで、ショルダー部にクッション効果を持たせ、トレッド面からの振動をやわらげてサイド部へ伝わりにくくし、ロードノイズを低減しようとしていることも同様だ。結果として実質上の旧商品となる「DUELER(デューラー) H/L850」に比べて騒音エネルギーを22%低減。60%摩耗の状態でも9%低減しているそうだ。

 だが、静粛性ばかりに気を取られているわけではない。重たく背が高いSUVの特性に対応するために、高負荷でも耐えるサイドウォールとしたり、ブロックひとつひとつのサイズは大きめに設計するなどの対策をしたりしたことで、ふらつきの低減や高い耐摩耗性能を得たという。ちなみに摩耗性能は「デューラー H/L850」比で5%向上している。耐摩耗性能対策はもちろん、溝の深さもその要因のひとつだろう。

アレンザ LX100試乗中

ハリアーで前世代の「デューラー H/L850」と比べてみる

ハイブリッド車のハリアー、そしてトンネルとタイヤの騒音が気になるシーンで確認してみた

 まずは「デューラー H/L850」が装着されたハリアーに乗り、その後「アレンザ LX100」に乗り換えると、即座に滑らかな感覚が伝わってくる。あくまでオンロード想定となったこのタイヤは、転がって行く感覚がまずあふれている。タイヤラベリング性能は転がり抵抗A、ウエット性能c。「デューラー H/L850」はM+Sだからそもそもその表記はないが、走って比べてみると明らかにスッキリとしたフィーリングが得られるのだ。

 荒れた路面からの入力をスッと受け止め滑らかにこなして行くさまはなかなか。静粛性も明らかに低減された感覚がある。シャー音は高周波がカットされたイメージがあり、例えモーター走行となった状況でも気になるものはない。最近はSUVであっても電動化の波がかなり来ているからこれは有難い。

アレンザ LX100
デューラー H/L850。考え方の違いが一目瞭然

アウディQ5でアレンザの違いを知る

アレンザ 001とアレンザ LX100の方向性の違いを確認

 続いてはアウディQ5で「アレンザ LX100」と「アレンザ 001」を乗り比べる。コンフォートタイヤとスポーツタイヤという違いは感じ取れるだろうか? 試乗の前に「アレンザ 001」のトレッドパターンをチェックすると、こちらは「POTENZA(ポテンザ) S007」譲りの顔つきであることがうかがえる。太めの縦溝を4本しっかりと与えながら、ブロックのひとつひとつを大き目にしたことが特徴的なトレッドは、「ポテンザ S007」よりもブロックは大きくしているのだとか。SUVの重量もショルダーで支える必要があるためだ。

 また、リブにはチャンファリングと呼ばれるブロック端の角を丸める加工を施したところもポイントのひとつ。制動時におけるエッジの巻き込みを防ぎ、フラットな接地を実現している。また、「アレンザ LX100」にはない3D-M字サイプを与えることで、制動時のブロックの倒れ込みを抑制。これは剛性調整を行ない、乗り心地を狙った結果のひとつでもある。これらの対策によって、中央部の接地圧を高めると共に、接地形状を最適化しウエット性能も確保している。

「アレンザ LX100」でまず走ると、静粛性や乗り心地のまろやかさは相変わらず。これはこれでアリだと感じる。アウトバーンをぶっ飛ばすわけではなく、日本のタウンユースを考えればこれくらいソフトな感覚もわるくない。ステアリングの初期応答はやや曖昧になるが、コンフォートを得たいというのであればこのチョイスは面白い。

 対する「アレンザ 001」は、Q5ならではの世界観をより高めたイメージで、ステアリングはセンターの座り感が高く、直進安定性も高い。微操舵域から敏感な反応を見せ、切り込み応答までキビキビとしたハンドリングが得られるところが爽快だ。リブ基調でしかも浅溝で作られたことで、反応のよさはピカイチだ。スポーティなSUVに対するマッチングはかなり高い。コンフォート性能に関しては「アレンザ LX100」に比べれば高周波のシャー音がやや感じられるが、苦痛なレベルというわけではない。乗り心地もやや硬質ではあるがハードすぎるわけではないところはマルだと感じた。ちなみにウエット性能はシリカが増量されていることもあり、「アレンザ LX100」よりも高いそうだ。そもそも欧州向けのブランドでベルト剛性なども高められた製品だから、スポーツ性能は抜群。けれどもコンフォート性能を完全に犠牲にしているわけではないバランスのよさがこのタイヤの魅力であるように感じた。

アレンザ LX100のパターン。縦溝、そして直線成分のリブパターンに、レグノ由来の消音・静音技術が刻まれている
アレンザ 001のパターン。LX100と同じリブ基調だが、より剛性感を高めることに注力。しかし固くなりすぎないように横溝を刻んで剛性調整。弱くならないように3D-M字サイプの内部形状で制動時の剛性を出す。技術てんこ盛りタイヤ

 昨今はSUVブームでさまざまな方向性に仕上げられたタイヤが存在するが、あくまでオンロードユースがメインのユーザーなら、「アレンザ LX100」「アレンザ 001」という2種類のタイヤに履き替えるのも面白い。悪路性能も舗装路性能もいずれもほしいというM+S表記のタイヤもわるいくはないが、マッド&スノーを走ることなんて皆無というユーザーなら、オンロード用SUVタイヤを一度試してみてはいかがだろうか? そうすれば、きっと新たな愛車の魅力が見えてくるはずだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛