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横浜ゴム、オールシーズンタイヤ「ブルーアース 4S AW21」の雪道性能は?
エッジと接地のバランスで雪道重視のオールシーズン性能
2020年2月7日 15:13
- 2020年2月3日 実施
横浜ゴムは2月3日、メディア向け勉強会を開催。その中で1月9日より全国発売が開始された乗用車用オールシーズンタイヤ「BluEarth-4S(ブルーアース・フォーエス) AW21」に関する商品説明を行なった。
横浜ゴム 消費財製品企画部 製品企画2グループ グループリーダーの増渕栄男氏によれば、ブルーアース 4Sの4Sは4シーズンズの略で、AW21はパターンナンバーでオールウェザーの意味が込められており、コンセプトは、「雪道に強いオールシーズンタイヤ」だとした。
市場が一気に拡大した“欧州型”オールシーズンタイヤ
オールシーズンタイヤというと、従来のM+S(マッド&スノー)だけが付いた、いわゆる北米型オールシーズンタイヤと呼ばれるものがあったが、M+Sは「夏タイヤよりも積雪路を走れる」というもので、実際には性能の幅が広く「雪道を結構走れるタイヤもあれば、ほとんど走れないタイヤもあった」と増渕氏。
一方最近市場が拡大しているのが欧州型オールシーズンタイヤと呼ばれるもので、M+S(マッド&スノー)マークに加えて、スノーフレークマークが付いているのが特徴。こちらは雪上性能が高く「積雪路を安心して走れる」タイヤだという。
欧州においては、2010年より冬期における冬タイヤ(M+S以上)の装着義務が始まったが、さらに2012年からは、降雪路の走行時にはスノーフレークマークの付いたタイヤの装着が義務づけられた。こうした法的規制の背景もあって、欧州型オールシーズンタイヤは近年需要が大幅に拡大。2010年比で2017年の需要本数は実に500%増になるという。横浜ゴムのブルーアース 4Sもこうした背景を受けて開発されたもので、欧州においては2018年より発売を開始している。
日本では19サイズ、市場の声に合わせて日本でもサイズ拡大も
一方で日本の首都圏においても、近年では隔年で大雪に見舞われていて、非降雪地域の人の間でも突然の降雪に対する危機意識は高まっている。調査によれば、関東以西の非降雪地域では、積雪路の走行日数が年間4日以内という人が約93%を占めるという結果に。さらにこうした非降雪地域でオールシーズンタイヤについて聞いたところ、約54%の人が装着意向を示したという。
オールシーズンタイヤについては、東京地区の販売店でも、スタッドレスタイヤを必要としないようなユーザーに勧めたいといったポジティブな意見が多く、そうしたユーザーの声、販売店の声を持って今回の国内販売に至ったという。
国内での発売サイズについては、当初は19サイズをラインアップしているが、増渕氏によれば「すでに欧州では発売しているものでサイズはこれ以外にも保有しており、お客さまからのご要望があれば順次拡大していく」としていた。
また、ブルーアース 4Sをオススメしたいユーザー層としては、雪上走行は年に1回あるかないかというスタッドレスは不要と思っている方に対して、急な降雪時の安心のためとして。あるいは、経済面から夏、冬タイヤともに廉価な製品を使いつつ、性能に不安を感じている方にとっても、タイヤ交換の手間や保管場所の確保(保管費用など)が不要で、でも性能は全体的に1段階上がって、トータルでは経済的でオススメできるとした。また、冬用タイヤ規制で困った経験がある人も、冬用タイヤ規制の高速道路も走れるタイヤとしてオススメしたいという。
一方で「北海道など降雪圏に住んでいるユーザーにはオススメできないということではなく、夏タイヤの代わりとして使ってもらえれば」と増渕氏。スタッドレスタイヤに交換する前の秋口や、夏タイヤに戻してしまった後の春先など、夏タイヤ代わりに履いてもらうことで、季節外れの急な降雪時にも対応できるとした。
スノー寄りの性能でエッジと接地をバランス
続いて横浜ゴム タイヤ第一設計部 設計2グループ 森将一氏より、ブルーアース 4Sの搭載技術について説明が行なわれた。
森氏によれば、冬用タイヤの氷雪性能を向上させるキーポイントは4つあるという。1つ目は圧縮抵抗で、これはタイヤが回転するときの雪の抵抗力。ただし雪質や雪の量による影響が大きくタイヤでコントロールするのは難しいという。2つ目は雪柱せん断力で、これはタイヤの溝が雪を踏み固め、その雪の柱を排出するときの力。これはタイヤの溝が多く深い場合に影響力が大きい。3つ目はエッジ効果で、溝やサイプのエッジが雪や氷をひっかく力。これは雪上性能だけでなく氷上性能にも効果がある。4つ目は凝着摩擦力。これはゴム表面が路面と密着する力で、いわゆるゴムが持つグリップ力。これは接触面積が大きいほど効果が高く、これも雪上だけでなく氷上性能にも効果がある。
雪上性能にはこの4つすべてが効果があるが、特に圧縮抵抗と雪柱せん断力が重要な項目になるとのこと。
森氏によれば、横浜ゴムの冬用タイヤ開発では“エッジ”と“接地”をポイントとしているという。エッジとは溝やサイプによる雪柱せん断力やエッジ効果の強化であり、接地は倒れ込みの抑制によってゴムを接地させる、つまりは凝着摩擦の強化を指す。
しかし、トレッドパターンの溝やサイプを増やせばブロック剛性は低くなるため、一般的にはエッジと接地は背反する関係になる。これをバターンやサイプ、コンパウンドの技術によって最大化してバランスさせているのが、同社のスタッドレスタイヤ「アイスガード」の性能を支える技術というわけだ。
そしてこのエッジと接地のバランスをどこに置くかというのがタイヤのキャラクターとなる。アイスガード 6では、乾いた凍結路から圧雪、シャーベット路面に対応するようにバランスを取っているし、夏タイヤではドライ路面とウェット路面でグリップするため、特にドライ性能のために接地に重きを置いてバランスさせている。そして、ブルーアース 4Sでも、オールシーズンとしてのエッジと接地のベストのバランスを追求するためパターンにさまざまな検討を重ねてきたという。
オールシーズンタイヤに求められる性能は、ウェットとスノー、ドライの大きく3つがある。そこで開発にあたって、エッジ量とそれぞれの性能の関係を明らかにしたという。パターンのエッジ量に応じてそれぞれの性能を評価したところ、ウェット性能においては、エッジが多すぎても少なすぎてもダメで、適値があることが分かった。スノーに関しては、エッジを増やせば雪柱せん断力がアップし性能が向上。ドライについてはエッジを増やすと接地が減少し性能が悪化することが分かった。
そこでオールシーズンタイヤとしてはこの3つがバランスするエッジ量を目指すわけだが、ブルーアース 4Sは“雪に強い”がコンセプト。オールシーズンタイヤとしての適地としてはもっともスノー寄りとなるスノーとウェットがクロスするポイントのエッジ量を採用した。
新開発のトレッドパターンは、スノーの強さとウェット、ドライをバランスさせた方向性トレッドパターンとした。エッジの最大化としてV字のダイバージェントグルーブを採用することで、あらゆる方向からのエッジ量を確保しつつ、排雪性と排水性を向上。V字とV字の間にはクロスグルーブという溝を採用しているが、これも旋回性や制動性を確保するために最も効率的に排雪排水ができる角度を研究して配置したという。
また、エッジを増やしたことでドライ性能が少し落ちてしまうところがあったが、オールシーズン3Dサイプというサイプを採用。表面からの見た目はまっすぐだが、深さ方向に変化がある3Dサイプとすることでブロック剛性の確保に貢献している。また大型ショルダーブロックを採用してショルダー部の剛性を確保しつつ、幅広トレッドをバランスさせるなど、アイスガードで培った技術を応用することでオールシーズン向けのトレッドパターンが完成したとした。
コンパウンドについても、先進技術を採用することでスノーとウェットを両立させた。末端変性ポリマーの配合によりシリカ分散性を向上させ、ゴムのしなやかさを維持。またスノーグリップポリマーとウェットグリップポリマーをバランスよく配合することで、スノーとウェットを高次元で両立。また、マイクロシリカを多量配合することでウェットの性能を補填したという。
オールシーズンタイヤならではの走らせ方とは?
最後にオールシーズンタイヤであるブルーアース 4Sの雪上での走らせ方について、エッジ量に着目して走らせ方を意識してもらえればという話がなされた。
森氏によれば、夏タイヤである「ブルーアース GT」のエッジ量を100%とすると、ブルーアース 4Sのエッジ量は167%、アイスガード 6のエッジ量は197%になるという。夏タイヤと比べればエッジ量は多いが、アイスガード 6と比較すればエッジ量が少ないのがブルーアース 4S。そのため、雪道で曲がるときに大きな舵角を与えてしまうと、アイスガード 6では曲がれるシチュエーションであっても、ブルーアース 4Sでは曲がりにくくなるという。そこで、小さい舵角で曲がるように心がけることで、ブルーアース 4Sであってもスタッドレスタイヤと同じように曲がれるといい、雪上でオールシーズンを走らせるときは小さい舵角で曲がるようにするのがポイントだとした。
この翌日には実際に雪上や氷上でアイスガード 6とブルーアース 4Sでの乗り比べが行なわれたが、そちらのインプレッションについては後日お伝えしたい。