長期レビュー

正田拓也の中古「サンバー」生活

第1回:サンバー買いました

サンバー買いました

 クルマ好きの中ではたびたび持ち上がる「軽トラおもしろい」という話題がある。軽量ボディで操作にダイレクトに反応する走行感覚、いっぱいにブン回して走るエンジン、そしてドリフト走行もできるかもしれない後輪駆動。ある意味スポーツカーに必要な要素を十分に満たしたクルマと言える。

 しかし……。軽トラはおもしろいという話題にはなっても、実際に買う人はまずいない。単なるおもしろい話の域を抜け出ない。自分もそんな話題に花を咲かせるひとりだったが、あるとき、まわりで安い出物があったときから一気に現実味が出てくる。

 その出物は約20年モノ。軽トラの寿命は年数や走行距離といった単純なものではなく、機関やボディが腐っていなければいつまでも使うものということは知っていた。だから20年オーバーといってもそれほど恐れるものではない。安いから即決しようとも思ったが、ほかもよく調べてみようと思ったのだ。これが軽トラ生活のはじまりだった。

今、入手可能な5車種とスペック

 一口に軽トラといってもOEMを除けば現在はスズキ、ダイハツ工業、本田技研工業の3メーカーが製造する3タイプがあり、中古で購入となると最近自社製造から撤退した三菱自動車工業とスバル(富士重工業)の2社を加えた5車種ある。そして、さまざまな年式のものが流通していることからすると、実にさまざまな選択肢がある。

 新車で買うなら3つから選べばよいが、今回は中古購入。予算はなるべく安くということが大前提。それでもトラブルなく普通に走れる個体が見つかりやすいことを条件とすると1995年~2005年あたりのものが対象となる。この期間には1998年に軽自動車のサイズ変更があり、その後の数年のうちに各社とも大型化するモデルチェンジが相次いだ。

 ボディサイズ変更とともに変わったものがタイヤ配置。走行安定性や衝突安全などの理由で、1998年の規格変更後にフロントタイヤをフロントシートの下から前側へ移動させたメーカーがある。ホンダ、スズキ、三菱自動車がそうだ。舗装路重視ならこのタイプを選ぶのもおもしろい。

 しかし、ホイールベースが長いことによって畑や悪路の走破性と小回りに難があり、主な利用用途である農業系には適さない。もし、アウトドア的な使い方も想定しているならこのタイプのデメリットをよく理解した上で選んだほうがよいだろう。なお、3社とも次のモデルチェンジまでに元に戻され現在は3車種ともすべてフロントシートの下にタイヤのある構造となっている。

 そして、メカニズム的な違いもある。特徴的なのはスバルとホンダのエンジン配置で、スバルはリアエンジン、ホンダはリアミッドシップとなっている。ほかはフロントのキャビンの下にある。また、エンジンはスバルだけが4気筒で、ほかは3気筒。ATとMTが用意されるのは各社共通で、4WD車の設定があるのも共通。4WDはホンダがスタンバイ式、そのほかはパートタイム式が基本。リアのサスペンション形式が独立懸架なのはスバルだけとなっている。

新規格以降の軽自動車スペック比較
製造メーカー車名エンジン位置エンジン気筒数通常駆動輪4WDモデルの方式リアサスペンション前タイヤ位置
スズキキャリイキャビン下3気筒パートタイムリーフリジット前端
ダイハツハイゼットキャビン下3気筒パートタイムリーフリジットシート下
ホンダアクティ荷台下(MR)3気筒スタンバイリーフリジット(ド・ディオンアクスル)前端
三菱自動車ミニキャブキャビン下3気筒パートタイムリーフリジット前端
スバルサンバー後端荷台下4気筒パートタイムセミトレーリングシート下

※新規格以降~2004年ごろまでの個体のうち、主な仕様
※現在は三菱自動車、スバルは自社製造から撤退し他社製造に切り替え
※スズキ、ホンダの現行モデルは前タイヤ位置をキャビン下に変更

 なお、CVTやフルタイム4WDもあったが、レアな仕様なので、ひとまず検討外とする。また、その中でも数も多く最も入手しやすと筆者が感じたのは、MTでパートタイム4WD。なぜなら軽トラのメインの使いみちのひとつ、農家の利用では畑からの脱出には4WDは絶対必要、さらに耐久性や慣例でMT車が選ばれているからだ。

予算少なくゲットする方法はあるのか?

 軽トラックの誤解として、中古なら安いと思われがちだがそうではない。新車では非常に安価なクルマであるが、中古は決して割安ではない。普通の乗用車と違って形が古くなったとか、多少汚れているなどはあまりマイナスにはならず、むしろ割安な個体には多くの必要な人が群がり、価格的に買い支えられているという印象だ。だから、10年落ちで10万キロ越えで傷が複数あればすぐ査定ゼロになる乗用車よりも、軽トラのほうが高いことが多い。

 また、春から秋にかけては農作業で使われるためか、出物が少ない時期がある。その時期は多少難があるか、割高な個体ばかりが目立ち、それでも買いたい場合は相応に高額となる。趣味で安価に乗り出そうという人が買うには向かない時期となっている。

 それでも、旧規格の個体なら安いものもある。サイズが小さいので趣味で使う分にはむしろ好都合な面もあるが、あまりに古い個体では買うほうとしても気分が高まらないので、今回は基本的に新規格に限ってみることにした。

 また、割安な個体の中には、OEM車にはまれに割安な値が付くこともある。たとえばスズキ「キャリィ」を検討しているなら同等のクルマであるマツダ「スクラム」や、三菱「ミニキャプ」と同等の日産「NT100クリッパー」もチェックしておきたい。

サンバーにほぼ決定するも出会いはナシ

これを重視して選ぶことに

 いろいろな車種を見てみたが、車種による値段の違いがあまりないということと、ほかと違った4気筒や独立懸架を採用することや、絶版メカニズムという点でなんとなくスバル「サンバー」に傾いた。そこで、サンバーを中心に探しながら、よい出物があればほかも検討するという方針を決めた。

 2WD/4WDはどちらでもよくMTであることが絶対条件。カラーは基本の色ということで白。年式はサンバーであれば、新規格の初期型の1998年から2002年が安いが、せっかくスバルを買うなら六連星のマークが付いていてエンジンが少し変わった2003年以降というように条件を固めていった。サンバーはスーパーチャージャーを搭載するグレードもあるが、一気に高くなるので対象外。

 そして、コストパフォーマンスのよい出物があれば、サンバーに限らなくてもよいというつもりで探しはじめた。

 具体的にはヤフオクチェックを週に数回行ない、自身の友人関係や知り合いの修理工場、ディーラーなどに声をかけはじめた。しかし、夏くらいから初めてみたものの、全くピンと来る出物に出会わない日々が続いた。

農閑期に勢いで決定

 そうこうしているうちに10月に入り、ある自動車店からオークション代行の話しがあり、それに頼ってみることにした。

 ここで中古車選びの話しを少ししておくと、中古車選びには独自の考えとそれなりの経験のある筆者が実感するのは「クルマ選びは店選び」という言葉。筆者もそれを信じており、店、あるいは店主のクルマを引き寄せる不思議なパワーというものが確実に存在する。きちんと判断する「眼」を持っていると言ってしまえばそれまでだが、それを超えた何かがあると思っている。

 小奇麗な売り物の個体ばかり引き寄せても、必ずと言ってよいほど後々トラブルが出てくるという残念な店も存在し、実際に以前に筆者がトラブル車と関わった店は、今でもトラブルを引き寄せているという話を見るほど、マイナス力が持続している。

 また、反対に一見、ボロいクルマを並べてる店には、ボロいながらも乗り回す分には後々まで問題ない当たり個体を引き寄せるという不思議なパワーを持った店主が存在する。低予算のクルマ選びには、多少クルマが綺麗なことよりも、トラブルで後々費用が発生しないことが何より重要で、そんな不思議なパワーを持つ店は、隠れた名店と言えるだろう。

 今回、お世話になった店はまさにそんなところで、その自動車店の名誉のためにも店名は言わないが、店主の選択眼はまさにそれ。オークション代行なので、完全に店主が選ぶわけではないが、条件をいくつかあげたあと、店主が選んだのが、なぜか最もボロそうで評価点も低い今回のサンバーだったのだ。

 もちろん予算優先という条件もあったので、無理にボロい個体を選んでくれたわけでもないが、プロの眼を今回は信じることとし、勢いで候補を決定、しかも、店主のほぼ予想どおりの金額で落札できた。ちなみに金額はもちろん一桁万円だ。

やっぱりボロかった……

届いたサンバー。少しだけ磨いた後の様子です

 落札から数日たって届いた個体はやっぱりボロかった(涙)。第一印象は「ひさびさにハズレ個体を引いてしまった。やっちゃった~」というものだ。

 年式は2003年、走行は15万8000キロ、4WDのグレードはTBで5速MT。エアコン、パワステ装備という個体だ。車検はあってもあまり有り難くもないが、2017年2月まで十分残っている。とにかくボロい、汚いという個体だ。

 オークション出品票には錆の記載もあったが、錆の穴が予想よりもひどかった。特にキャビンの後ろの穴は雨漏りがする。はっきり言ってボロボロではあるが、陸送の到着場所から用意した駐車場までの回送では、ボディ剛性が感じられ、軽快にエンジンが回り、きちんとトルクも出ている印象を受けたのが唯一の救いとなる。

 このまま放っておいても余計ボロくなるだけなので、まずは雨漏りの簡易補修ということで、建物のエアコン工事に使うガム状のパテで塞ぎ、雨が降ることにひどくなる車内への浸水に対応した。

 また、車内外を見回すうちにあることに気づいた。冷却水のリザーブタンクにひびがはいっており、水がほとんど入っていなかったのだ。これも放っておけばオーバーヒートにつながるので、すぐにスバルディーラーに行って発注、翌日には手にして交換した。

 リザーブタンクの価格は2052円。応急ということで、水を少し足してエア抜きをしてやり、エンジン音をあらためてチェックしても特に異常は感じられない。強いて言えば若干タペット鳴りがしている程度で、オイル漏れやオイルに冷却水が交じるということもなく、問題ないようだ。

フェンダーの錆と、無理やり塗装した後で相当ボロくなっている
荷台にも錆穴がある。このおかげでなぜか荷台の水はけがたいへん良くなっている
冷却水のリザーブタンクは即新品に交換した

レストアを楽しむことにすることに

唯一の救い。調子のよい(と思われる)エンジン。サンバーは軽トラ界の中でも貴重な4気筒エンジンを搭載する
リア側に傾けて横置きで配置
荷台の蓋を開けると上部からもメンテナンスができる。エアクリーナーや冷却水の水抜きはこちらから

 業者向けオークションからの購入なので、書類は後から届く。前の名義のまま走り回るわけにもいかないので、駐車場に止めたまま、じっくりとサンバーと向き合った。今回はクルマの手配だけで、整備や登録はすべて自分。届いたままの完全に仕上げ前の状態。とにかくボロい、汚い。

 ボロい、ボロいと考えるだけでは気が参ってしまう。そこで、縁あってうちにやってきたサンバーをかわいがってると気持ちを切り替えた。逆に考えれば、ボロい状態から少しずつきれいにしてやれば、その過程も楽しむことができる。

 そうなれば、後は行動するのみ。まずは車内の掃除からスタートだ。

農道のなんとかとは言いませんが…… 後ろの車両は本文とは関係ありません

正田拓也