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日本自動車研究所、“特異環境試験場”を持つ日本初の自動運転評価拠点「Jtown」公開

「自動運転の試験、評価方法で日米欧の開発を先導する施設を目指したい」と永井所長

2017年3月28日 公開

4月1日から運用を開始する日本初の自動運転評価拠点「Jtown」

 日本自動車研究所(JARI)は、4月1日から運用を開始する日本初の自動運転評価を目的とした新拠点「Jtown」を報道向けに公開した。

 茨城県つくば市のJARI つくば研究所の敷地内に整備されたJtownは、産学連携で進められている自動運転技術開発のなかでの協調領域における課題解決と、将来必要になる評価法整備に取り組むための施設。

 施設整備にあたっては、経済産業省の「自動運転システム評価拠点整備事業」の補助金を基に、つくば研究所の「模擬市街地路」を刷新。さらに「特異環境試験場」も新たに建設している。

自動運転評価のための新施設「Jtown」が茨城県つくば市にあるJARI つくば研究所の敷地内に整備された
一般財団法人日本自動車研究所 代表理事 研究所長の永井正夫氏

 Jtownを実際に見学する前に、集まった報道陣はJARIの講堂に集合。ここで当日のスケジュール等が説明されたあと、日本自動車研究所 代表理事 研究所長の永井正夫氏による挨拶が行なわれた。

「今回ご案内するのは、我々が『Jtown』と呼ぶ自動運転評価拠点です。ここは約1年かけて工事を進めて来まして、ようやく完成したところです。そして4月から正式に運用を開始しますが、その前にメディアのみなさまに公開し、施設のことを広く伝えていただきたいと思っています」永井氏と語った。

 永井氏は続けて「さてJtownですが、その話をする前にJARIについても簡単に紹介させていただきます。JARIの歴史は1960年代から始まります。この頃、日本は日本のクルマを世界に売り込もうと動き始めた時期ですが、当時は高速走行の実験をする場所がありませんでした。そこで筑波のこの地に、高速走行実験場、つまりテストコースが作られました。そして1969年に、施設は財団法人日本自動車研究所になりました」と解説。

 その後にもクルマの試験を行なう各種施設が作られたJARIだが、「2006年のつくばエクスプレスの開業時に、線路や駅施設を作るためJARIの敷地が約半分になりました。そこで高速試験場は栃木の城里へ移動し、残った敷地内に衝突実験場や模擬市街路を新たに整備。ITSや予防安全の研究開発に使われる施設となりました」と語り、JARIの環境が変わっていったことを紹介した。

 そして「今は自動運転時代への注目度が高まっています。そこでJARIは自動運転技術を評価するための拠点として、この場所に自動運転評価拠点であるJtownを開設しました」と述べ、この場所が日本のクルマにとって新たに必要とされる施設であることをアピールした。

 永井氏が次に触れたのは、Jtownの基本的な内容について。「この施設は市街地における自動運転の基本性能を調べたり、公道走行時に経験するさまざまな道路環境、悪環境における機能の限界を評価するというものになっています。基本性能とはカーブを曲がれるか、交差点を曲がれるか、ほかのクルマや歩行者を見て判断して操作できるのかなどです。もう1つは、デジタルマップやGPSなど通信を利用する自動運転システムも評価項目になります」とのことだ。

 Jtownの活用については、自動車メーカーやサプライヤー、ベンチャー企業などが研究開発を行なうときに施設の貸し出すを実施。そのほかにも企業とJARIの共同研究、さらには大学と企業が行なう先行研究にも活用するという。また、そういった研究開発をつうじて人材育成も進めるなど「自動運転に関しての産学連携の拠点にもしたい」とのことだった。さらに「Jtownは自動運転の試験方法、評価方法において日米欧の共通的な開発を先導してやっていく施設を目指したい」と語った。

報道公開に参加した経済産業省 製造産業局 自動車課 電池・次世代ITS推進室長の奥田修司氏。Jtownについて色々な期待を語ったあと、「産学官の連携によって活用されるときに、自動運転評価やこの施設の活用法などについて、活発に議論が行なわれる場となってほしい」とコメントした
一般財団法人日本自動車研究所 安全研究部 部長 山崎邦夫氏

 具体的なJtownの解説は、JARIの安全研究部 部長 山崎邦夫氏が担当し、講堂ではスライドを使った施設紹介が行なわれた。ここでは紹介後に実施された実際の施設見学で撮影した関連する画像も併せて掲載していく。

 最初はJtownが整備された背景だが、これは前出のとおり、自動車メーカー、サプライヤー、研究機関からの要望があったとのことで、内容は「公道走行前に安全に走行できるかどうかの確認」と「公道走行実験で明らかになった課題を再現し、その対策の検討」となる。これらを行なうには公道とは異なる閉鎖された場所でのテストが必要ということだった。それが経済産業省の補助事業「平成28年度自動走行システム評価拠点整備事業」として採択され、Jtownが造られた。

Jtownが造られた背景についてのスライド。JARIには交通事故の場面の再現を目的とした模擬市街路があったので、そこを改装している

 自動運転に求められる評価条件の項目は、大きく分けて5つある。まずはカーブや交差点をきちんと曲がれるかといったクルマ単体での走行について。2番目はほかのクルマ、2輪車、自転車、歩行者に対しての認識。これらが飛び出してきたときの危機回避などについてだ。3番目は信号や標識を認識できるかということ。これには短い間隔で信号が連続しているようなところでの認識度や、青から黄色に変わる瞬間で交差点に進入するようなケースにおいての判断など、かなり高度なことも含まれる。

 4番目はITSなどの通信利用について。ほかに多数のクルマなどがいる状態での受信状態や、受信状態が変化した際に自動運転のシステムをどう対応させるのがよいのかなどをチェックする。最後の5番目は、天候が変化した場合の走行性能の評価。逆光、ゲリラ豪雨のような強雨、濃霧などの悪天候下で走行したときに、どのようなことが起こり、どう対応するのがよいかを確認するということだった。

自動運転に求められる評価条件のまとめ

 これらを評価するため、Jtownは前出の特異環境試験場のほか、「V2X市街地」「多目的市街地」という3つのエリアで構成されている。今回はそれぞれの施設を順番に見学していった。

 最初に向かったのは特異環境試験場。試験場は幅16.5m、長さ200mの構造物で、屋外のコースを使えば周回走行も可能な作りになっている。建物の内部には4つの設備がある。まずは雨を降らせる設備で、降雨量は「強い雨」から災害が発生するレベルの「非常に激しい雨」まで設定できる。具体的な数値では30mm/h、50mm/h、80mm/hの3段階で降雨量を設定可能だ。

 次に霧発生設備。こちらは薄い霧から濃い霧を再現して視界を15m~80mの範囲で変化させるというもの。霧の粒も自然で発生するものに限りなく近づけることが可能になっているとのこと。

 そして日照設備。照度は2万ルクス以上で朝日や夕日が直接運転席に差し込んだときの眩しさを再現できるだけでなく、時間によって変化する日の色まで再現することが可能。これを使ってカメラやレーダーなどの機器に対して、日の向きや強さがどう影響するのかを試験できるのだ。さらに施設内の照明もただの明かりではなく、薄暮から夜間までの暗さを再現できる調整機能を持ったものになっていた。

3つのエリアに分かれているJtownのレイアウト。特異環境試験場を新たに建設し、そのほかはJARIに従来からあった模擬市街路をベースに手を加えている
特異環境試験場の外観。全長は200mで幅は16.5mある。車線で言えば3車線ぶんの広さだ。外周路を使うと周回走行も可能。場内には雨発生設備、霧発生設備、日照設備、試験場内照明設備がある
降雨テストでは雨やしぶきなどの影響のほかに、路面にある水たまりの反射を自動運転のシステムがどう認識するかなども評価できる。降雨量も「強い雨」から「非常に激しい雨」まで再現できる。降らせるエリアも場内を半分に分けて設定可能
30mm/h(左)、50mm/h(中央)、80mm/h(右)の3段階の降雨量
霧のテスト例。信号機も設置されているので、霧でかすんだ状態で信号が読み取れるのかも確認できる
実際に霧を出してみるデモ。霧が濃くなるまでは5~10分ほどの時間が掛かる。霧の粒のサイズにもこだわっていて、設備が発生させる霧は自然界に近いとのこと
巨大な投光器を使う日照設備。本来は建物の奥側から入り口(メディアの見学位置)に向けてセットしているが、光を直接見るのは危険とのことで反対向きで日照設備のデモが行なわれた。逆光時に前方だけでなく、路面の白線が読めるかのテストも行なわれる
車車間、路車間通信の技術であるV2Xを使った各種走行を試験するV2X市街地

 特異環境試験場の次に向かったのはV2X市街地。ここは全長400mの直線で片側1車線の道路となっている。コース内には1基の光ビーコンと4つの信号が設置されていて、クルマと道路設備との通信試験が行なわれる場所だ。

 ここで使われているV2Xとは、車車間、路車間での通信のこと。自動運転にはほかにも通信手段はあるが、V2Xはリアルタイム性が高いので、交差点で直交する交通や前前方車両の急停止など、クルマ側から直接見えていない情報や、効率的でスムーズな交通の流れを実現するための信号との協調情報などのやり取りに利用される。

 デモでは光ビーコンを通過した試験車がV2Xを使った走行支援システムにより、途中で停止することなく信号を通過することを実践して見せた。

V2X市街地には400mの直線と4つの交差点&信号機がある
信号機は2種類使われていて、写真手前が信号機制御、1つ奥が路側無線機、歩行者・クルマセンサー、信号機制御付き。3つ目は信号機制御、4つ目が再び路側無線機、歩行者・クルマセンサー、信号機制御付きとなる
光ビーコンを使ったグリーンウェーブ走行支援システムのデモを実施。最初の信号で停止したあとは、クルマの進行に合わせて信号が青に変わっていった
2つ目と4つ目の信号には歩行者・クルマセンサーが付いている。停止車両などの影から進行してくるクルマや、クルマに隠れて視認できない歩行者がいた場合に、それをV2Xの通信で交差点に進入するクルマに伝える実験が行なえる。現場では死角を作るため、コンテナを用いた模擬建屋も用意。これは位置は移動することも可能。また、連続した信号を正しく読み取れるかも実験する
多目的市街地は歩行者の飛び出しに対する危機回避を評価する交差点だけでなく、多目的試験エリアとして100m×100mの舗装された広場を用意する

 最後に紹介するのは多目的市街地。ここには歩行者の飛び出しに対する危機回避を評価する交差点だけでなく、多目的試験エリアとして100m×100mの舗装された広場も用意。移動式の白線を用いてさまざまな角度の交差点やラウンドアバウト式の交差点などが設定できるようになっている。コースの直線区間を使って、デジタルマップの情報に対して実際の道路状況が異なっている場合の評価も実施。例えば道路工事などが行なわれたときなどに、きちんと工事区間を避けて通行できるかということも含まれる。

多目的試験エリアにはさまざまな交差点を作って走行実験が可能。白線は路面に敷くタイプの移動式の白線を用意している
歩行者の飛び出しに対して自動運転の車両がどのように対応するかのデモも予定されていたが、装置の不調によりキャンセルとなった
デジタルマップにはない突発的な道路事情の変化への対応もこのコースで実験する。実際の道路環境に近づけるため、標識も各種用意していた

 以上がJtownの施設概要と実施される各種試験だが、ここは国の補助金を受けた施設でもあり、自動運転の進化に向けた協調領域目的の利用が主体となるが、個別企業による競争領域目的の受託研究、試験も受託可能で、個別企業に対する施設の貸し出しも行なうという説明だった。