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日本自動車研究所、自動運転車の公道での実証実験前に安全性を確認する「事前テストサービス」説明会

2月から開始

2018年1月25日 開催

自動運転システムの性能試験とともに、実験車に乗車するテストドライバーの対応力を試験・訓練するための「事前テストサービス」を2月にスタート

 JARI(日本自動車研究所)は、公道で実証実験を行なう実験車両の安全性を試験するための「事前テストサービス」を、日本自動車研究所内にある自動運転評価施設「Jtown」で2月より開始する。1月25日、その実施に先立って報道向けに事前テストサービスの説明会を行なった。

 事前テストサービスは、公道での実証実験中において自動運転システムが対応できない場合や、緊急時に運転席に乗車する人が適切に対応して安全を確保する必要があるため、システムとドライバーの双方をテストコースで試験できるサービス。

 公道実証実験に臨む実験車両に“基本的な性能”が確保されているかどうかがチェックされる「基本レベル」と、公道実証実験に臨む実験車両に“応用的な性能”が確保されているかどうかをチェックする「応用レベル」が用意され、テストシーンごとにシステムとドライバーがそれぞれどのように対応したかを計測・記録できる。雨天などを模擬した特異環境テストによって、システムの周辺環境を認識する性能が保たれるかを試験することもできるという。

 この事前テストサービスだが、名称のイメージからすると持ち込まれた自動運転の開発車両が公道実験を行なっても大丈夫かどうかをJARIがジャッジするものとも思えるが、そうではない。JARIでは試験車両の性能そのものとテストドライバーの対応力を見るだけで、公道実験開始に関する判断を行なうことはないとのこと。試験結果を経て公道実験を行なうかどうかは、各企業や団体が判断するものだ。このテストにおいては、試験者が公道実験を行なう前に注意事項を自ら確認することが大事なことなのだ。

一般財団法人日本自動車研究所 研究所長の永井正夫氏

 説明会の冒頭、挨拶を行なった日本自動車研究所 研究所長の永井正夫氏は、「私どもJARIは自動運転車の開発が急速に進むなかで、公道の実証実験の安全確保を非常に重視しています。そこで自動運転車の公道実験に向けた事前テストサービスを2月より開始することと致しました。JARIは自動車技術に関する中立公正な研究機関として約60年の歴史を持っています。そのなかでGoogleが自動運転車の開発に乗り出すなど、自動運転車の開発が急に盛り上がってまいりました。日本でも5つの省庁が国家的な動きとして自動運転の開発を推進しています。こういった動きに合わせて、大手自動車メーカー以外のところでも公道実験をやり始めていますし、これからやろうとしているところも出てきています」。

「ただ、そういったなかで実験車による大きな事故が起きてしまうと国の研究開発がストップしてしまう恐れもあります。また、2016年に警察庁より『自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン』が示されました。これによると、公道での実験に関わる安全性を評価するものが必要だということが記されています。そこでJARIとしては、健全な技術開発をサポートしていきたいということから自動運転技術を磨く場として、2017年4月に自動運転評価施設『Jtown』を設定しました。こういった場で今回ご紹介する事前テストサービスなど、標準的な評価法や試験法を提供していくことで、自動運転の技術開発をサポートしていきたいと思ってます」と語った。

一般財団法人日本自動車研究所 安全研究部 部長の山崎邦夫氏

 続いては、日本自動車研究所 安全研究部 部長の山崎邦夫氏から事前テストサービスの概要が紹介された。本題に入る前に、山崎氏からは「2016年に警察庁から自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドラインが公表されました。ガイドラインには“実験施設等において実験車両が自動走行システムを用いて安全に走行可能であることを確認”と、このような表記になっていますが、その確認をするための実験施設の1つとしてJARIの名前が挙げられています。そういったところからも、JARIは自主的にテストを行なうということです」と説明するとともに、「このガイドラインでは、実験車は公道を想定したテストで安全に走行可能であることを確認しなさいということと、テストドライバーが緊急時の操作に習熟しているかの確認を推奨していますので、ここがポイントになるかと思います」と語った。

 ということで、事前テストサービスの概要だが、ここからは山崎氏の解説と同時に表示されたスライドの写真で紹介していく。

警察庁から発表された公道実証実験のためのガイドラインについて
事前テストサービスを実施するにあたっては、金沢大学が行なった公道を走行する前に実施した内容を参考にしたという。その内容はシステムとテストドライバーの両方を確認するというもので、事前テストサービスの内容を具体化するための重要な実例とのこと
事前テストの構成について。公道走行前にテストコースでシステムが安全に走行できる性能を持っているか? システムが対応できなかった場合や緊急の場合、テストドライバーがそれに対応できるか? また、基本レベルの走行状態だけでなく、実際の道路で起こる場面を想定した応用レベルに分けて試験と訓練も行なう。さらに悪天候下でもシステムが周辺を認識できるかの試験も行なう
JARI内の事前テストの実施場所について。このテストは今後、月に1回ほどのスケジュールで希望者を募って行なっていくという。対象は自前でテストコースを持たないサプライヤーや研究機関などで、試験車両は自社で使用するものを持ち込む。テストに必要な機材はJARIのものをセットする
事前テストを行なうためには前提条件がある。それを記載したものがこれ。具体的にはテストドライバーが緊急時に安全確保のために自動運転を解除できる機能だ
基本レベルの試験はJARI内のJtownにある「多目的市街地」を使用する。一時停止や走行車線を守るなど法令、規則を遵守できるか? 路上障害物に対応できるか。そしてクランクやS字など狭い道でもはみ出さずに走行できるか? などを見る
応用レベルの試験にはJARI内のJtownにある「V2X市街地」を使用する。ここでは赤信号で交差点へ入ってくる他車への対応や、右折の際、直進車と歩行者がいる状況で的確に運転できているかなど、実際の道路で起こるような状況への対応度を見る
最後は特異環境テスト。暗い夜間、雨天、濃霧、それにクルマの正面から注す西日など、自動運転車にとって走行条件が厳しくなる状態でもシステムの周辺環境認識能力が保たれているかを見る
テスト時に計測しているデータとどのような項目を確認しているかについて
事前テストを行なうことで得られる結果と活用方法について。項目に対するシステムとドライバーの対応状況を1つずつ確認し、そこから結果を出す
3つのテスト例を挙げた判定結果の表では、システム、ドライバーともに対応できたものはもちろんのこと、システムが対応できていないシーンがあってもテストドライバーが適切に対応できていれば、それは「実験段階」としては評価されるので「安全性を確認」ということになる。しかし、システムもドライバーも対応できていないケースでは、公道走行前に安全性の向上が必要ということから「課題を確認」となる
事前テストの結果は現時点での実力の把握となる。ここで問題点を探り、対応していくことで公道走行実験の安全性向上につながる
テスト結果の一例:パターン①システムが対応できた(24秒)
テスト結果の一例:パターン②システムが対応できなかったが、テストドライバーが介入して対応できた(25秒)
テスト結果の一例:パターン③システムもテストドライバーも対応できなかった(22秒)
説明が終わると実際にテストを行なうJtwon内のコースを見学。写真は基本レベルのテスト用の「多目的市街地」だ。クランク等の幅狭路、交差点、障害物などが設置される。外周路にはカーブもあり、適切な速度調整ができるかも見る
「基本レベル」のテストシーン(信号交差点の右折/44秒)
次は応用レベルのテストを行なう「V2X市街地」。ここではJARIの自動運転用試験車両によるデモ走行も行なわれた
プリウスの装備。室内やフロントウィンドウに付いているカメラといった各種機材は、事前テストサービスに持ち込まれるクルマに取り付けられる
飛び出し用のダミー車。衝突しても試験車に被害がない作りとのこと。今回は歩行者の横断を絡めてのデモ走行予定だったが、強風のため歩行者ダミーを動かせず、キャンセルされた
プリウスが直進してきて交差点を右折。そのとき対向車線からエスティマが交差点を直進してくるので、それを待ち、通過後に右折というデモ。どちらも自動運転車だが、言われなければ分からないレベルのスムーズな走り
「応用レベル」のテストシーン(信号交差点の右折/41秒)
最後は特異環境テストだったが、この日は気温がかなり低かったため、施設の降雨装置や霧を発生させる装置が凍結して動かず、このテストもキャンセルされた
施設内には信号機、標識、歩行者ダミーなどがあり、雨や霧のなかでシステムがこれらを認識できるかチェックする
その代わりに、投光器による日光が直接当たるシーンのデモを行なった。投光器は照射角度を自在にセット可能。朝日や夕陽が真正面から当たっても、センサーやカメラなどシステムの周辺環境認識能力が保たれているかを見る
運転席に直接日が当たっている状況。人間の目では前は見えないが、この状況でも安全に走行させる機能が必要
こちらはヘッドライトしか照明がない状況で、システムの周辺環境認識能力を見るテスト。路面が濡れていて反射もあるが、それがあっても正確に状況を読み取るかも見ている

 以上が今回の説明会で公開された内容になる。この事前テストサービスは自動運転車の開発を行なっている企業であれば誰でも申し込みができる。テストに掛かる費用は、参考価格として基本レベルのテストは20万円前後、応用レベルのテストは30万円前後とのこと。試験はひと月に1度、日を決めて実施することを検討中。テストに掛かる時間はおおむね半日だが、この半日の中で何件かのテストを行なえるようにするということだ。