冬の高速道路はこうして守られている(後編)
大雪となった水上方面で、明け方まで続く雪氷作業



 後編となる本記事では、NEXCO東日本が実際に行っている除雪作業や薬剤(凍結防止剤)散布作業の模様を紹介していく。0時50分に“雪のゴーマル(降雪時の最高速度50km/h規制)”が発令され、関越トンネルの群馬県側となる水上エリアでは雪が激しく降り始めた。

0時50分“雪のゴーマル”発令。写真では分かりにくいが奥のモニター群では、雪が多くの個所で見受けられるようになっていた

掲示板の表示変更や連絡作業が続く雪氷対策本部
 雪のゴーマルが0時50分に発令された後、NEXCO東日本(東日本高速道路)の湯沢管理事務所棟に設けられた雪氷対策本部では、電光掲示板の表示の変更、各基地との気象状況確認や、機材と人員配置の状況確認を行っていた。

 正直、雪が降り始めたときに、もっと緊迫感あふれる場面を想像していたのだが、たんたんと業務をこなすという雰囲気で、“怒号あふれる雪氷対策本部”という状況ではない。東京などと異なり、雪が降るということが毎日発生する場所なので、その天候にあった対策を着実に実行するのが日常業務として確立しているのだろう。

 とはいえ、雪が降り始めてからは明らかに各所との連絡が頻繁になり、モニターを確認したり、天候や路面温度を確認したりしながら各基地への連絡を行っていた。現時点の雪の状況や天候予測を確認し、過去の経験と照らし合わせつつ対策を決定。雪が降ると定時ごとに除雪を行うというルーチン作業もあるようだが、作業の状況を確認しながら適宜対応を行っていた。

 ただ、この日は前編でもふれたように、関越トンネルの群馬県側で雪が降り、新潟県側はみぞれかつ強風という天候で、NEXCO東日本のスタッフによると「めったにない気象状況」。チェーン規制も前橋方面から始まり、谷川岳PA(パーキングエリア)まで広がっていった。

速度規制が始まったため、各所の電光掲示板の表示の切り替え作業も開始された。写真の端末を操作して高速道路上の電光掲示板の表示を切り替える「出口路面低速車合流」の表示。関越トンネル(上り)内に表示する。低速車とは除雪車や凍結防止剤散布車のことで群馬県側で作業をしているため同じ端末の別画面。電光掲示板の現在の表示内容が一覧で見られるようになっている。上が設定内容で下が現在の表示
関越トンネル(上り)出口付近での電光掲示板表示。グレーの部分が関越トンネル内を示す前編でも紹介したリアルタイムに作業車の状態を監視する画面。大きなグレーの長方形が関越トンネル。下り線の関越トンネル直前に多くの作業車が集まっている。水上を出動した作業車が谷川岳PA(下り)まで作業を終えたところ別系統の電光掲示板の操作画面。道路上方にある電光掲示板とは異なり、PAなどに置かれている電光掲示板の操作を行うためのものと思われる。右下の「PA 本線」と書かれているのは土樽PA用の表示
作業車の出動状態などを雪氷対策稼働表に書き込んでいく。これにより現在の各基地での作業状況が一目で分かるようになっている土樽PA付近の中央分離帯にスノーボールができていた。スノーボールとは風によって雪が転がることでできる雪玉。画面上に見える小さな突起状のものがスノーボールで、通常はできないとのこと。土樽PA付近での風がそれだけ強いということか

雪氷作業の続く群馬県側へ
 水上IC~谷川岳PA間では、作業車のリアルタイム情報から分かるように、頻繁に除雪作業が行われている。現場の状況確認も兼ねて湯沢から道路パトロールカーが出ることになり、NEXCO東日本とともに道路管理を行っているネクスコ・メンテナンス新潟湯沢事業所の佐藤峰夫氏の運転で水上方面へ向かった。

 湯沢管理事務所を2時ごろ出発。湯沢IC近辺では雪はほとんど降っていなかったが関越トンネルに近づくにつれてみぞれ状の雪が降ってきた。土樽PAを抜けて関越トンネルへ。さすがにこの時刻ともなると交通量は少なく、前後に車を見かけることはほとんどなかった。

 関越トンネルを抜けるとそこは雪。最高速度50km/h規制は敷かれているものの、チェーン規制はまだ敷かれておらず、路面にはうっすら雪が見える状態。何度も除雪作業をした上でうっすらと雪が敷かれた状態になっている。佐藤氏によると「除雪作業をしてこの状態では結構大変だ」とのことで、水上ICへ向けての下り坂を走る。深夜、それも雪という最悪の条件での走行は精神的にも大変かと思うが、佐藤氏は着実な運転をしていた。

湯沢管理事務所を出て水上IC横にある水上基地へと向かう。湯沢では雪はほとんど降っていない関越トンネル上り線の入口、土樽PA近辺。この辺りではみぞれ状の雪が降っていた関越トンネル内を走行中。写真は作業車のダッシュボードに取り付けられている現在位置を連絡するシステムの画面。情報が雪氷対策本部へと送られることで、作業車の位置をリアルタイムに把握できる

水上基地での雪氷作業
 水上IC横の水上に基地に到着したのが2時40分頃。ちょうど3時からの梯団(ていだん)走行に備えて凍結防止剤散布車が薬剤を積み込み始めているところだった。NEXCO東日本で言うところの梯団走行とは複数の作業車を連ねて走ることで、3車線の高速道路の場合、3台の除雪車に加え後方から来る一般車に警告する標識車で構成されることが多いようだ(作業車の配備台数の都合もある)。その際の配置も中央分離帯に近い追越車線から路肩に向かって除雪車を斜めに連ねていく。標識車は走行車線でしんがりを守り、一般車への警告と作業中の追い越しを防いでいる。

 この梯団走行には、雪の状況を見て行う梯団走行と、ある程度の雪が降ったら定刻ごとに行う定時梯団があるとのこと。今回水上IC~谷川岳PAで行われていた梯団走行は、2組の作業車グループで梯団走行を実施し、上下線を互い違いに、1往復を30分ほどで行っていた。このパターンの梯団走行ならば高速道路上の除雪が15分ごとに行える。

 梯団走行の撮影をしている間にも、雪は降り積もる。チェーン規制は湯沢管理事務所管内においては、水上IC(インターチェンジ)~谷川岳PAに間で行われ、水上ICの入口にはチェーンを付けているか(もしくはスタッドレスタイヤやスノータイヤを履いているか)確認するスタッフが立ち、谷川岳PA(下り)には金属製チェーンを外しているか確認するスタッフや作業車が配置されていた。

 関越トンネル内では安全のため金属製チェーンを付けての走行が禁止されており、万が一金属製チェーンを付けたままトンネル内に入って行こうとする車を見かけたら、すぐに追いかけて、可能なら安全なところに誘導してチェーンを外してもらうため。安全に外すことが不可能な所まで進んでしまったら、作業車がチェーン装着車を追走して、後ろから来る車への注意をうながす。

 佐藤氏によると、現在NEXCO東日本ではチェーン脱着自主判断化への取り組みを進めていると言う。これは、群馬県側でチェーン規制が敷かれた際に、強制的に全車谷川岳PAに引き込むのではなく、十分なチェーン規制の告知を本線上で行った上で、利用者自身の判断によってチェーンを外してもらうというもの。スタッドレスタイヤなど冬タイヤの装着率が9割を超え、1割以下のチェーン装着車のために、チェーン取り外し渋滞が発生しないように、ゴム製など非金属製チェーンは付けたままトンネル内の通過が可能になっている。

関越トンネルの群馬県側では路面に雪が積もっていた。雪も結構な勢いで降っていた水上基地では凍結防止剤散布車に薬剤を積み込む作業が開始されようとしていた。薬剤庫に凍結防止剤散布車を誘導し、所定の位置へ止める凍結防止剤散布車側方から薬剤庫を見上げる。湯沢と同じく2階建て構造となっており、薬剤投入のための金網が見える
薬剤庫の2階。クレーンを使って、薬剤の入った袋を金網の上へと動かしていく。湯沢と同じく1000kg入りのものだったかまで薬剤袋を切り裂いた。薬剤が勢いよく下に落ちていく
薬剤庫の1階で投入を待つ凍結防止剤散布車2階から勢いよく薬剤が落ちてきた。1回の投入で3袋、3000kgの薬剤を積み込んでいた最後にカバーが閉じる。薬剤は塩のため、散布作業の直前に投入しないと湿気で固まりとなってしまい、まくことができなくなってしまうとのこと
薬剤庫を出発する凍結防止剤散布車。この散布車は湯沢で見かけたものと異なり、斜めタイプのスノープラウが取り付けられていた薬剤を一杯に積み込んだ凍結防止剤散布車が、梯団走行の準備のため水上基地を出て行った同じく梯団走行へと出発する標識車(手前)と除雪車(奥)
標識車が出て行った後、除雪車も水上基地を出て行った先に出ていった標識車は水上基地の出口で待機。除雪車を先に行かせる。これは梯団走行時に標識車が最後尾に位置するため高速道路本線上での梯団走行隊形。中央分離帯側から斜めに除雪車を配置する。よく見ると追越車線の除雪車は上部が水平タイプのスノープラウで、走行車線の除雪車は斜めタイプ。路側に近い水上ICの合流車線に位置するのは、斜めタイプのスノープラウを持つ先ほどの凍結防止剤散布車。橋の下の走行車線に見えるのが標識車


水上IC付近での梯団走行映像

除雪車から雪の関越道を望む。雪は激しく降り続くステアリングをしっかり握り除雪車を運転するスタッフ。このぐらいの雪はまだ軽いほうで、ひどいときには前方の視界がなくなるほどだと言う梯団走行を後方から望む。左が登坂車線を走る凍結防止剤散布車、右が走行車線を走る標識車。標識車の右側に出ているのは、作業中の追い越しを防ぐための標識。このような状態でも無理に抜いていこうとする車がいるそうで、安全のためにも作業中の追い越しは控えてほしいとのこと
水上からの梯団走行による除雪・凍結剤散布作業を終え、谷川岳PAに入って行く梯団走行最後尾の標識車上り線の谷川岳PAまでの梯団走行を終えた作業車は、専用の道路を使い下り線の谷川岳PAに移動する。その後、梯団走行にて除雪・凍結剤散布作業をしながら水上基地へと向かう。雪が激しく降っている間は、このような作業が繰り返し行われる谷川岳PA内の路面には散水施設があり、約4度の水を路面に散水すし、凍結しないようにしている。これは、谷川岳PAで金属製チェーンを外した夏タイヤの車でも問題なく走ることができるようにするため
下り線の谷川岳PA出口に配置されていた道路維持作業車。誤って金属製チェーンを付けたまま関越トンネルに向かおうとする車を誘導するためのもの上り線の谷川岳PAの表示。新潟県側ではチェーン規制が敷かれておらず、関越トンネルを出た車はここで振り分けられる。冬タイヤを付けた車は右側を通り奥に見える作業員のチェックを受け、そのまま通過。夏タイヤの場合、チェーンを取り付ける作業が発生する雪の中、上り線の谷川岳PAでタイヤの確認を行うNEXCO東日本のスタッフ。激しく雪が降る中、地道に確認作業を続けていた
谷川岳PAの入口標識。上下の標識がそれぞれ手前に傾く形で取り付けられている。これは雪が積もって標識が見えなくならないように配慮されているからだと言う谷川岳PAにある電光掲示板。この電光掲示板には屋根が付いていた。これも降雪対策のためだ水上IC入口。高速道路本線上ではチェーン規制が敷かれているため、ICに入る車のタイヤをチェックする。時刻はすでに4時をすぎたが、雪は強くなる一方であった
この日のチェーン規制は関越トンネルから前橋ICまでという大規模なもの。しかも、関越トンネルの群馬県側にだけ敷かれるという異例の天候
取材日に雪氷対策班長を務めていた東日本高速道路株式会社新潟支社湯沢管理事務所管理担当課長の生方直樹氏。時刻は5時前だが、生方氏の業務はあと4時間ほど続く

冬の間続く24時間体制の雪氷対策
 水上ICから湯沢管理事務所に戻ってきたのが4時半すぎ。24時間体制の雪氷対策本部では、水上へ向かったときと同じく、各所とのやり取りが行われていた。

 気象情報の画面を見てみると新潟県一帯が雲に覆われ、全域で降水や降雪が起きていることが分かる。雪氷対策本部での作業は、雪が降る限り続き、対応に終わりはないようだ。

 この日雪氷対策の班長を務めた生方氏によると班長の際の勤務は24時間勤務。8時50分から翌8時50分までの勤務で、9人で交代して行っているとのこと。雪氷対策で気をつけている点について聞いてみたところ「積雪量に応じた、除雪や凍結防止剤散布などの体制作りはもちろんですが、それ以外の作業、たとえば除雪によって雪をかぶってしまった非常電話の雪を取り除く作業や、除雪車によってトンネル内に雪が持ち込まれ狭くなった道路幅の回復作業の体制作りを心がけています」とのこと。見てきた以外にも、雪氷対策作業は幅広く行われていることがうかがえた。

 また、今回取材におけるさまざまなサポートをしていただいた佐藤氏に雪道の運転でとくに注意すべき点を聞くと「雪道の運転のポイントはしっかりスピードを落として、しっかりハンドルを握ることです。とくに最近多くの人が過信しているのが、スタッドレスタイヤを付けていれば大丈夫と思いがちなことでしょう。雪道は滑るということをしっかり頭に入れて、雪国に遊びに来てください」と語ってくれた。また、関越トンネルの金属製チェーンが規制されていることにもふれ、「安全のために必ず金属製チェーンを外して関越トンネルを通過してもらえればと思います。ゴム製チェーンであればそのまま通行可能なのですが、チェーンのゆるみによるトラブルなどはあるので、SAやPAなどで確認していただくことが大切です」と言う。

 今回取材してあらためて分かったのは、冬の高速道路は実に多くの人によって守られているということ。湯沢管理事務所の常駐のスタッフだけで159人、さらにこの日は多くのスタッフが招集され、深夜の雪氷作業に従事していたことになる。自分のためにも、そして道路を守るスタッフに余分な負荷をかけないためにも、雪道の安全運転を心がけたい。

株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟湯沢事業所工務課長の佐藤峰夫氏。忙しい業務の合間を縫って、取材のさまざまなサポートを行っていただいた。「しっかり気をつけて運転すれば、雪道はそれほどこわくありません」とも湯沢の雪氷対策本部に戻り、ウェザーニューズの気象情報を見てみると、広い範囲で天候が悪化していた4時50分現在の状況。群馬県側で気温や路面温度がマイナスとなっていた

 

(編集部:編集部:谷川 潔)
2009年 3月 2日