ブリヂストンの新“らくタイヤ”「PZ-X」「PZ-XC」リポート(後編)
高速道路、一般道でのPlayz新旧比較を実走クロスレビュー



比較試乗のためにタイヤ交換を行った「タイヤ館 パドック246」。スタッドレスタイヤの交換でもお世話になったお店だ。環状8号線と国道246号の交差する瀬田交差点から国道246号を少しだけ都心方面に戻ったところにある

 前編では、第2世代「Playz(プレイズ)」の「PZ-X」「PZ-XC」で用いられた技術などを紹介したが、後編では新Playzと旧Playz(PZ-1)の比較インプレッションをお届けする。セダン/スポーティーカー用の「PZ-X」の比較試乗には、メルセデス・ベンツ「E320ステーションワゴン(W210)」を、軽自動車/コンパクトカー用の「PZ-XC」の比較試乗には、本田技研工業「フィット(DBA-GD3)」を使用した。

 比較のために東名高速東京ICを起点に横浜町田IC~保土ヶ谷バイパス~首都高神奈川1号横羽線~お台場地区(一般道)~首都高台場IC~レインボーブリッジ~首都高環状線(C1)~首都高3号渋谷線というルートを設定。高速道路、一般道、合計約100kmを走ってみた。PZ-X、PZ-XCと2日間に分けて行い、あわせて車内に騒音計を持ち込み音量を計測してある。

左がE320、右がフィットで比較試乗を行ったルート。横浜方面で若干の差異はあるものの、高速道路、一般道合計約100km。フィットを比較試乗した際の天気は雨だった
パドック246でタイヤ交換作業を行うE320。スタッドレスタイヤの交換記事でも紹介しているが、パドック246の交換作業は素早く確実なものだった

メルセデス・ベンツ E320+PZ-1/PZ-X
 初日に比較を行ったのは、FR車のE320。前後とも215/50 R17サイズのPZ-1、PZ-Xを付け替えその印象を3人でチェックした。天候は晴れ、気温は17℃、湿度は41%。レビューアーとしては、小林隆(Robot Watch編集部)、田中真一郎(Car Watch編集部)、谷川潔(Car Watch編集部)の3人。小林は以前にスタッドレスタイヤの記事においても登場しているが、元自動車雑誌編集者ということで今回も参加している。また、小林と谷川は、ブリヂストンのテストコース「プルービンググラウンド」において、FR車の日産自動車「スカイライン」、トヨタ自動車「マークX」、FF車のフォルクスワーゲン「ゴルフ」の比較試乗をしており、その印象も交えてある。

 試乗方法は、最初に旧PlayzであるPZ-1を装着して前述したルートを一回り。その後新PlayzであるPZ-Xに履き替えて同様に一回りしている。騒音計は前席と後席の中央部分に設置し、東名高速の横浜青葉IC付近で100km/h走行時の音量を、ゼブラペイントがされたお台場付近のトンネル内で50km/h走行時の音量を1秒ごとに計測。20秒間の計測結果をグラフ化してある。また、計測の際のモードは人間の聴感にあわせた(ラウドネス曲線に従って重み付けをした)A特性を使用し、単位はdB(A)。

E320で比較試乗を行ったのは、PZ-1(右)、PZ-X(左)の新旧Playz。タイヤサイズは両タイヤとも215/50 R17のものPZ-1のトレッドパターン。右がアウト側になる。三角形の3Dトライアングルブロックが特徴的PZ-Xのトレッドパターン。PZ-1と同様右がアウト側。同サイズながら1つ1つのブロックが大きくなっており、トレッド面での剛性向上が図られているのが分かる
高速道路、一般道において騒音計測を行ってみた。写真は一般道の計測を行ったトンネルで、路面にはゼブラペイントがされていた騒音計は「Digital Sound Level Meter AR834」を使用し、それを前席と後席の中央部に配置し計測した

●小林 隆:
 比較試乗前にE320が履いていたタイヤは某海外メーカー製の激安タイヤで、ドライ・ウェット路面ともにグリップが甘く、雨が降ると普通に発進しても滑るという、正直よろしくないもの。

 最初にPZ-1を装着し走り出してみたが素晴らしく印象がよい。かつてはブリヂストンのスポーツタイヤ「POTENZA(ポテンザ)」シリーズの「RE711」「RE-01」を使っていたこともあり、個人的にタイヤはとにかくドライ路面でグリップしてくれれば、ノイズもウェット路面でのグリップも関係ないという考えを持っていた。それだけに、PZ-1はPOTENZAシリーズと比べたら“中途半端”なタイヤなんだろうな、と勝手に想像していた。

 ところが、PZ-1は一般道を普通に走っていても分かるくらい、ハンドルの応答性が素直。多少ゴツゴツとした硬めの乗り心地を感じるところもあるが、問題と言えるほどのものではない。高速道路での加速時や、ステアリングを切ってレーンチェンジをしてみても、スイスイと走ってくれる。PZ-1ってこんなにいいタイヤだったんだ……と、正直目からウロコ状態。

 次にPZ-Xである。PZ-1の印象がかなりよかっただけに、どのように進化しているのかとても興味深々。ハンドルを握って、走り出してみる。ん~、さらに静か。街乗りでも高速道路でも静粛性が向上しているのが分かる。一方、直進安定性に関しては、自分くらいの素人レベルでは大差がなく、PZ-1、PZ-Xともステアリングを軽く握っていても安定感をしっかりと感じた。この安定感こそ、運転時のストレス軽減に直結するものだと思うし、Playzシリーズの狙うところなのではないだろうか。

 PZ-1、PZ-Xともに静粛性、グリップ力は高く、安心して運転できる。シビアに比較をしてみると、ロードノイズはPZ-Xのほうが抑え込まれている感じがする。このクラスのクルマにはより静粛性を重視した「REGNO(レグノ)」シリーズが向いている気もするが、PZ-Xも十分に静かな印象を受けた。

プルービンググラウンドのウェット路面を走るマークX。PZ-Xは滑り出すまでの限界速度がPZ-1より高く、滑ったときのグリップ回復時間も短い

 また、ブリヂストンのプルービンググラウンドにおいて、ウェット路面の比較試乗を行ったときの印象も記しておく。現行のゴルフ(FF、前後225/45 R17)、同じく現行のマークX(FR、前後215/60 R16)で、PZ-1とPZ-Xの比較試乗を行ったのだが、50~60km/hの速度域のコーナリングでPZ-1の印象は良好であった。特にFRのマークXは速度を上げていくと滑ってコントロール不能になるのでは……と、戦々恐々としていたのだが、ドライ路面とあまり変わらない感覚で走ることができる。その後PZ-Xに履き替え、同様に走ってみたが、PZ-XはPZ-1の1つ上を行く印象。滑り出すまでの限界速度が1段階高く、かつ滑ったときのグリップ回復までの時間がPZ-1よりも早いことを体感できた。

●田中真一郎:
 学生時代から、2輪も4輪も欧州製のタイヤばかり愛用してきた。欧州製タイヤは日本製に比べて、タイヤの持ちがよいように思えたからだ。走り屋ではないのでグリップ力は普通にあればよいし、ロードノイズも気にしない。大切なのは、減りにくく、乗り心地や性能といった使い心地が長続きすること。財布の問題もあるが、重度のものぐさなので、交換なんて面倒なことをしょっちゅうしたくないのだ。

 というわけで日本製タイヤビギナーといってもよい筆者なのだが、PZ-1にしろPZ-Xにしろ、メインストリーム(最量販品種)のフツーのタイヤ、という先入観は見事に覆された。いつも買っていたメインストリーム向け欧州製タイヤよりも格段に静かで、どことなく高級感漂う乗り心地だったからだ。

 PZ-1からPZ-Xへ履き替えてみたら、1ランク上のクルマに乗り換えたように感じた。1ランクが言い過ぎだと言うなら0.7ランクくらいにまけてもよいが、なにしろ“静かだ”と思ったPZ-1よりも、PZ-Xはさらに静かだったのだから、インパクトは大きい。乗り心地も、PZ-1よりもゆったりとした感じが増したように思えた。

 ひと言で言えば、PZ-XはPZ-1に「皮を1枚かぶせた」ようなタイヤだった。静かな代わりに、路面とのダイレクト感がやや薄れたように感じたからだ。これは批難をしているのではない。ダイレクト感がありゃあいいってものではないと思うからだ。ごくフツーのファミリーカーユーザーにとって、目を三角にして体中のセンサーを総動員して走る時間なんてそう長くはない。PZ-Xのようなタイヤのほうが気疲れせずに運転を続けられる。

 こうした鷹揚さも高級感を感じさせる一因ではないか。家族や仲間との会話を楽しみながらのんびり目的地へ向かう(飛ばしても問題ないタイヤだが)。そんな使い方をしたいタイヤだ。

●谷川 潔:
 自分がタイヤに求めるものは、タイヤが最終的に車と路面とのインターフェースとなる以上、まずグリップ力。絶対的なグリップ力はもちろん欲しいところではあるが、安心してコーナーを走ることができ、自信を持ってブレーキを踏むことのできるようなコントロール性の高いグリップ感覚を得られることを重視している。そのため、これまでいわゆるハイグリップタイヤを使い続け、多少のロードノイズの発生はグリップ力とのトレードオフで仕方がないと思っていた。

 PZ-1で試乗して思ったのは、それまでの「グリップ大=ロードノイズ大」という認識が崩れ去っていったこと。もちろん最新のPOTENZA RE-11と比べればサーキットでのラップタイムは劣るのだろうが、高速道路や一般道を走っている限りにおいては十分以上のグリップ感があり、直進の際の安定感も優れている。車線変更の際にも実に素直に曲がっていき、80km/hや100km/hなど速度域が変わっても同様の感覚で運転をすることができた。これは、E320でもそうだが、ブリヂストンの試乗会で乗ったスカイラインも同様で、“スッ”とスムーズに走って行くという走行感覚がある。ブレーキを踏んだ際にも横ブレなどのイヤな振動もなく“スッ”と止まるのだから正直驚いた。

 それでいてロードノイズは静かといってよいレベルで、ステアリングインフォメーションも適度なレベル。交差点で横断歩道のペイントを乗り越えた際にも“タタン”とほどよくコントロールされた感覚が手のひらに残る好ましいもの。これまで、Playz=気楽なファミリー向けタイヤという認識しかなかったのを反省した次第だ。

 PZ-Xは、そのPZ-1のさらに上を行く。PZ-Xに履き替え、タイヤが半回転するだけですぐ分かるのが、地面へのあたりが軟らかいこと。すべてにおいて1段上のあたりの柔らかさがあり、グリップ感も1ランク高い。車線変更時もPZ-1が“クッ”と曲がっていくのに対し、PZ-Xでは“グッ”と曲がっていき、グリップ力に頼ったコーナリングというより、タイヤ剛性(とくに横剛性)の高さからくるようなコーナリングのよさを感じることができる。ステアリング操作との遅れを感じることもなく、快適に高速道路を走ることができた。

 グリップ感があり、タイヤの剛性感があると、当然のことながらタイヤからのロードノイズはうるさくなるはず。しかしながらタイヤの静粛性は確実に上がっており、PZ-1との差を感じることができる。PZ-1が路面の状況を非常に素直に伝えるタイヤとするならば、PZ-Xでは路面状況をコントロールしつつ伝えてくるタイヤという印象。PZ-1のタイヤとしての素直さを生かしつつ、静かさやグリップ感、ステアリングとの反応速度などを意志を持って改善したのがPZ-Xなのだろうと思う。

プルービンググラウンドのウェット路面では、FF、FRなど駆動形式にかかわらず、PZ-Xのほうが安心感あるものだった。コーナーでの安定感も高い

 ウェット路面での走行は小林と同様、プルービンググラウンドで行ったのだが、FR、FFと駆動方式によらず、PZ-Xのほうが安心感のあるものだった。では、PZ-1が不安感があるかと言えばそうではなく、PZ-1も十分な安心感がある。速度を上げていけばタイヤはグリップの限界に達し滑り始めるのだが、その際の感覚もゆるゆるとした感じでコーナリングラインがふくらみ、限界に達しつつあることが分かる。ただ、PZ-XではPZ-1よりも限界に達する速度域が高く、より高い速度でコーナリングラインがふくらみ始める。その場合でも、PZ-1と同様に唐突な感じはまったくなく、ゆるゆるとふくらむコントロール性の高いものだ。1段高い速度域でありながら、同等のコントロール性を実現していた。

 両方のタイヤを比べて感じたのは、PZ-1はとてもバランスのよいタイヤだが、PZ-Xはあらゆる面でそのPZ-1を積極的に改善したタイヤということ。タイヤライフについては、何とも言えないものの、グリップ感やタイヤ剛性、そして静粛性などが一段と高いレベルに引き上げられている。タイヤからのインフォメーションに関しては、よりハッキリした手応えが自分の志向にあっているためPZ-1のほうを好ましく感じたが、一般的にはPZ-Xの優しい感じが好まれるのであろうと思う。

●騒音計測結果

PZ-1とPZ-Xの騒音計測結果を折れ線グラフ化したもの。高速道路、一般道それぞれ20秒間計測した。縦軸の単位はdB(A)で、横軸が時間。グラフ縦軸のレンジが50dB(A)~70dB(A)。高速道路では100km/hで、一般道は50km/hで走行したが、同時計測ではないためあくまで音量の傾向の参考値としてほしい。高速道路でもPZ-1とPZ-Xで差が出ているが、一般道でより明確な差が出ている。これはエンジン音などそのほかの音量が、高速域で大きくなるため。PZ-Xの静粛性は、普段使いにおいてよりハッキリ実感できるということだろう

フィットもE320と同様に、パドック246でタイヤ交換。ボンネットの水滴からも分かるように比較試乗当日は雨

ホンダ フィット+PZ-1/PZ-XC
 前日と同様、タイヤ館 パドック246でタイヤを交換し、FF車のフィットで比較試乗を行った。最初はPZ-1、次にPZ-XCの順でタイヤを履き、両タイヤともサイズは185/55 R15。天気は、前日と異なり雨。気温は16.7℃、湿度は57%という条件であった。

 試乗は、小林、谷川に加えて、モータースポーツファンを自認しCar Watchでもカーナビ関連の記事を執筆している笠原一輝氏の3人。前日とほぼ同様のルートだが、横浜方面でベイブリッジを通るルートに変更し、PZ-1、PZ-XCでそれぞれ一回りしている。

 なお、E320と同様に車内音量を計測しているが、PZ-XCの一般道(ゼブラパターン舗装のトンネル内)のみ渋滞により当日の計測ができなかったため、後日計測し直している。また、その際の天候は晴れと、トンネルの中とはいえ条件が異なっているため参考値として見てほしい。

フィットで比較試乗を行ったのは、PZ-1(右)、PZ-XC(左)でタイヤサイズは両タイヤとも185/55 R15のものPZ-1のトレッドパターン。左がアウト側になる。PZ-1のシンボルである三角形の3Dトライアングルブロックがセカンドブロックに刻まれるPZ-XCのトレッドパターン。PZ-1と同様左がアウト側。PZ-1、PZ-Xのときと同様1つ1つのブロックが大きくなっており、トレッド面での剛性向上が図られている。また、センターブロックの切れ込みがより複雑な形状になっている
フィットで雨の保土ヶ谷バイパスを走行中。フィットでの比較試乗時はおおむねこのような状態で、路面にも水が浮いてしまうような悪条件であった騒音計は、前席中央部やや後ろよりに配置。計測モードはE320と同じくA特性

 

●笠原一輝:
 モータースポーツファンの筆者にとって、ブリヂストンと言えば“雨のブリヂストン”だ。ブリヂストンの雨伝説は実に数多い。オールドファンにとっては、1976年の「F1 in Japan」(当時は日本グランプリの名称が別のレースで使われていたため使えなかった……)における星野一義選手の力走だろう。このレースでは土砂降りの雨の中、ブリヂストンのレインタイヤを履いた星野氏のティレル・フォードは一時3位を走り、ヨーロッパから来た関係者の度肝を抜いた。そのときはまだ子供だった筆者には残念ながら記憶はないのだが、実際に見た人によるとすごかったらしい。

 筆者にとって最初にブリヂストンのレインタイヤはスゲーと思わされたのは、1985年にやはり富士スピードウェイで開催された「WEC in Japan」だ。WEC(世界耐久選手権)は、グループCと呼ばれるプロトタイプレーシングカーで争われていた選手権で、その最高峰がル・マン24時間レースだった(ル・マン24時間レースのみ現在も続いている)。その日本におけるレースは、やはり土砂降りだった。その中で、ブリヂストンのレインタイヤをつけた日産のマーチ85Gに乗る星野一義氏(再び!)が、当時WECで圧倒的な強さを発揮していたポルシェワークスなどが豪雨を理由に撤退を決める中でスイスイとサーキットを駆け抜け、日本メーカーとしてWECで初優勝をしたレースを今でも覚えている。子供心に、スゲーと思ったことは刷り込まれるもので、そのとき以来ブリヂストン=雨という図式が出来上がったのだ。

 なぜブリヂストン=雨という話をしているのかと言えば、実はPZ-1、PZ-XCを評価するコンディションが雨だったからだ。ご存じのように自動車を走らせる上で、もっとも厳しいコンディションはおそらく雪だが、都会に住んでいると雪道を走らせる機会はほとんどない。ではよく出会う天候は何かと言えば、やはり雨だ。筆者にとっては雨のときにちゃんと働いてくれるタイヤこそ、よいタイヤというイメージがあるのだ。

 車にとってタイヤは非常に重要なパーツだと言ってよい。具体例を挙げてみよう。またレース話で申し訳ないが、非常によい例がある。残念なことにF1からの撤退を表明したホンダだが、そのホンダF1が昨年唯一表彰台に上ったレースが、雨のイギリスGPだった。このレースではほかの車が同じレインタイヤでも、晴れ用のタイヤと雨用タイヤの中間にあたる浅い溝のインターミディエイトタイヤを選択している中、ホンダのルーベンス・バリチェロ車だけは深い溝のスタンダードウェットを選択した。レース中に雨が土砂降りになったため、深溝のバリチェロ車は他車に比べて5秒も10秒も速いラップタイムを刻み、あれよあれよという間に2位にまで順位を上げていたのだ(その後ピットインで3位に後退)。つまり、数百億円かけても後ろにフォースインディアしかいない順位を走ることが多かった車(失礼!)が、タイヤ1つ付け替えただけで、他車を置き去りにしてしまった訳だ。これぞまさにタイヤが車にとっていかに重要なパーツであるかを示していると言ってよいだろう。

 いきなり前置きが長くなったようだ。役に立たないうんちくはそれぐらいにして、実際の評価に入りたい。コンディションは雨。それぞれのタイヤを評価した時刻にずれがあるため、雨の量などに若干の違いがあり、自分自身の評価が左右されている可能性がある。あくまで感覚だが、雨の量はほぼ変わっていなかったものの、どちらかと言えばPZ-XCを試したときのほうが路面状況は悪かったのではないかと感じた。

 そうした中での評価になるが、PZ-XCを履いて走ったときに感じたのは直進安定性が優れているのではないかということ。評価に使ったフィットは純正でブリヂストンのPOTENZA RE040が付いており、2万5000km近く走っていたのだが、それと比較すると明らかにステアリングが取られなくなっていた。正直言って旧モデルのPZ-1とPZ-XCの比較では、PZ-XCのほうが“ちょっと楽かな?”ぐらいの差であったが、雨の中で楽に走れるというのは、雨のときこそタイヤの真価が問われると考える筆者としてはポイントが高い。

 もう1つ重要なポイントとして、ロードノイズが小さいという点が挙げられる。フィットという車そのものが普及価格帯の車ということもあり、ロードノイズ対策が十分ではないためかなりの騒音が入ってくる。特に後席での騒音はかなりあり、後席に乗っていると前席の話が聞き取りにくいほどだ。PZ-1、PZ-XCでの比較だが、いずれにせよ聞き取りにくいという状況は続いていたが、PZ-XCのほうが若干静かになっていると感じたし、前席の話もかなり聞き取りやすくなった。特にファミリーカーでは後席に大事な人(家族など)を乗せることも多いだろうから、この点は大きなメリットと言えるだろう。

 OEM用とは言えPOTENZAというモータースポーツファンにしてみれば“信仰の対象”であるブランドの標準のタイヤ(2万5000万km走行済み)と比較して、正直なところカーブを曲がるときなどのグリップ感などに関しては、それほど差はなかったように感じた。PZ-XCにしたから、RE040に比べコーナーが楽に回れるようになったということは感じなかったし、そもそもPlays自体がそういう方向性を目指したタイヤではないだろう。

 だが、PZ-XCを履くことで、直進安定性が増し、ステアリングの微修正が減ったように感じたのは事実だ。さらに、ロードノイズが減るというのは、軽自動車/コンパクトカー向けとしては正しい味付けなのではないだろうか。雨という車に厳しいコンディションの中でも、安心して運転できるのは、ドライバーを精神的に楽にするという意味でも大きな意味がある。軽自動車/コンパクトカーにPZーXCを選択するというのはアリなのかな、というのを筆者のまとめとしたい。

●小林 隆:
 E320でPZ-1、PZ-Xの試乗の翌日、フィットにPZ-1、PZ-XCを履かせて試乗ルートを走ってみた。E320の試乗時は、晴れだったのに対し、フィットのときはあいにくの雨。しかしドライ路面とはまた違ったコンディションを走れるので、比較試乗的には“あり”だろう。

 フィットでの印象は、新旧Playzの差をあまり感じられなかったというのが正直な感想だが、高速道路上のつなぎ目で滑りやすかったのはPZ-1だった。極端にスピードを上げていたわけではないが、コーナリング中に滑る感じを受けるのはやはりこわい。その点ではPZ-XCでもいくぶん滑る感覚はあったものの、安定感はPZ-XCのほうがある。車重が軽く、タイヤも細くなりがちな軽自動車やコンパクトカーこそ、コーナリング時の安定性や直進安定性を求めたい。PZ-1、PZ-XCの性能の差をハッキリとは実感できなかったものの、両タイヤとも実力が高いことは体感できた。

プルービンググラウンド内でのタイヤ交換風景。写真はムーヴのタイヤをPZ-1からPZ-XCに変更しているところ。同じ車両を使って比較試乗を行った

 また、PZ-1、PZ-XCの比較試乗をブリヂストンのプルービンググラウンドにおいて行っており、その際にはダイハツ工業の「ムーヴ」(FF、前後155/65 R14)を使用した。試走したのは、一般道や高速道路に見受けられる荒れた凸凹のアスファルト路面を模したコース。ここでは、主に静粛性について確認したが、段差を越えたときの「ガタガタ」音はPZ-XCのほうが小さかったことを実感できた。実際に音量が小さくなったというよりは、音がマイルドになった、というのが正しい表現かもしれない。段差を越えたときの突き上げ感も、同様にマイルドとなった印象を受けたことを記しておく。

●谷川 潔:
 フィットでPZ-1、PZ-XCの比較試乗をしてみた際の感想だが、最初に感じたのはPZ-1、PZ-Xのときと同様に路面へのあたりの柔らかさだ。E320と同様走り始めてすぐに分かるほどで、交差点のペイントの踏み越え、マンホールの乗り越えなどで柔らかい手応えを感じる。ただその差はE320のときと比べると小さいものであった。

 一方、静粛性については明らかな差があり、フィットの構造に影響されている部分もあるのだろうが、後席において明確に静かになったことが感じられた。PZ-XCのほうがロードノイズも小さく、またタイヤから伝わってくる振動も小さい。軽自動車やコンパクトカーでは、ミドルクラスの車と比較して小さなボディーに多数の機能を詰め込む必要があり、より燃費が求められることからもともとの静粛性がミドルクラスの車に比べて低いものが多い。また、フィットなど2BOXタイプの車では、室内へのノイズの進入を防ぐのは構造上難しく、そういう点でもPZ-1とPZ-XCの静粛性の差が強く感じられたのだろう。

 比較試乗時は雨ということで、タイヤのグリップ力に関しても差を感じ取ることができた。とくに分かりやすかったのが、お台場地区から首都高台場ICに乗り、レインボーブリッジへと進入していく部分。雨、上り坂、FF、加速状態、しかも路面につなぎ目となる鉄板があるなど、上り坂で前輪の荷重が抜けがちなFF車にとってツラい状況。PZ-1は道路のつなぎ目で“ツッツッ”とタイヤ幅の半分程度滑るような感覚だったのに対して、PZ-XCでは“ツッ”とタイヤ幅の1/4程度滑る感覚であった。“ツルッ”とならないPZ-1も大したものだが、さらなるグリップ力を発揮したPZ-XCには脱帽もの。もちろんグリップ感は終始PZ-XCのほうが高く、雨の高速道路や一般道においてより安心して運転することができた。

ムーヴで比較試乗を行った凸凹のアスファルト路面。色が変わっている部分が、アスファルトのはがれた個所だ。このような路面を比較試走した際の振動も、PZ-XCのほうが小さく、PZ-1よりも安心してブレーキングが行える

 プルービンググラウンドでは、小林と同様ムーヴで凸凹のアスファルト路面を走ったのだが振動は明らかにPZ-XCのほうが小さい。特記しておきたいのは、ブレーキング時の安定感で、80km/hからの急制動も安心して行うことができた上、PZ-1よりも短い距離で止まった(およそ車体半分程度の距離)。短い距離で止まれることは大切なことではあるが、ステアリングのブレもなく安心してブレーキを踏み続けることができるのはタイヤにとって大切な要素だろう。

 ステアリングインフォメーションに関しては、PZ-1、PZ-Xのときと異なり、PZ-1とPZ-XCの比較ではPZ-XCのほうが好ましいものであった。これは天候が雨ということもあったのだろうが、PZ-XCは路面の状況を分かりやすく伝えてくれるのに対して、PZ-1はやや希薄な感じ。ドライ路面であればまた評価は変わるかもしれないが、雨というより安全が求められる状況において、PZ-XCはより優れたタイヤであると確認できた。

●騒音計測結果

PZ-1とPZ-XCの騒音計測結果を折れ線グラフ化したもの。E320と同様、高速道路、一般道それぞれ20秒間計測し、走行速度もそれぞれ100km/hと50km/h。本文にも記したが、一般道のPZ-XCのみ、トンネル内とはいえ晴れのときの計測になる。そのことを考慮してもやはりE320と同様の傾向が出ているのではないだろうか。E320と異なり、縦軸のレンジを60dB(A)~80dB(A)でグラフ化してあるが、これはフィットのほうが平均して音量が大きかったため。騒音計の設置位置に若干の差はあるが、E320のほうが静かな車であった

まとめ
 ブリヂストンの新Playz、PZ-X、PZ-XCを前後編の2回に分けて紹介してきた。PZ-X、PZ-XCそれぞれ3者3様のコメントになっており、重視するポイントや表現方法は異なっているが、共通して読み取れる部分はあるだろう。また、今回騒音計を持ち込んで音量を計測してみたが、各人のコメントと同様、新Playzの静粛性の高さを読み取ることができた。

 タイヤという商品は消耗品ではあるものの、一度購入すると少なくとも数年は使い続けることになる。それだけに自分の使い方に適したタイヤを選びたい。従来の“らくタイヤ”PZ-1を車種クラスによって最適設計し、さらに高いレベルのタイヤ性能を実現しているPZ-X、PZ-XCは、タイヤ選択の際に有力な選択肢となり得るだろう。

 

(編集部:編集部:谷川 潔)
2009年 3月 24日