新型レガシィに乗ってみた。その2~B4編~ |
新型「レガシィ」シリーズを、本誌編集部の谷川潔と、筆者の瀬戸学が試乗した。前回はアウトバックのレビューを掲載したが、2回目となる今回は、レガシィB4のレビューをお届けする。
試乗したのは、B4 2.5GT S Package。ボディー剛性の点でも最も有利なセダンモデルで、エンジンも最もパワフルな2.5リッターターボを搭載。さらにS Packageは、ビルシュタイン製ダンパーや18インチタイヤなど、特に走りを意識したスポーティーなグレードだ。トランスミッションは6速MTと5速ATが用意されるが、今回はその両方に乗ることができた。
高級感があるクリスタルブラックのB4 |
■濃色が似合うエクステリアとインテリア
6速MTモデルを目の前にしての第一印象は、先代より高級感が増し、品格がアップしたなというもの。これはボディーカラーがクリスタルブラックだったからというのもある。アウトバックでも感じたのだが、新型レガシィはホイールアーチがフラットな印象のため、濃色のボディーカラーがよく似合う。また、濃色のほうがサイドガラスのメッキモールが際立つというのもその理由の1つだ。
インテリアには、オプションのマッキントッシュサウンドシステム&HDDカーナビが装着されていたこともあって、ブラックのシンプルなイメージの中にも華やかさがある。さらに、ヘアライン調のフラットなラウンド曲面はアウトバックと同様に広さを感じさせるものだ。
シフトノブの見た目や操作方法は従来のままだが、トランスミッションそのものが変更された6速MT |
■ロッド式からケーブル式に変わった6速MT
この試乗車でやはり気になるのが、ケーブル式のリンケージに変更された6速MTだろう。先代のレガシィに搭載されていた6速MTは、インプレッサのSTI用に開発された、本格的なモータースポーツ用途にも耐える耐久性を持ったトランスミッションを流用したもの。その分重量が重くなるのが難点だった。
今回のレガシィに搭載されたのは、それとは異なる6速MTで、ヨーロッパで販売されているレガシィディーゼル用に開発されたもの。従来の6速MTに比べサイズがコンパクトになり、重量ではなんと24kgも軽量化されていると言う。そしてこのトランスミッションのリンケージがケーブル式になっているのだ。
では、ロッド式とケーブル式で何が違うのかというと、シフトレバーとトランスミッションの変速機構を、ロッドでつないでいるのかケーブルでつないでいるのかが異なる。一般的に横置きエンジンの場合、トランスミッションがシフトレバーから遠いエンジンルームにあるためケーブル式となることが多い。レガシィのように縦置きエンジンの場合は、シフトノブのすぐ下にトランスミッションが来るため、一般的にロッド式が使われる。
ロッド式の場合、トランスミッションとシフトレバーがリジッド(ゴムブッシュなどは介するが)につながるため、シフトのフィーリングが分かりやすく、シフトチェンジを積極的に行うスポーティーな走りに向いている。しかし一方でエンジンやトランスミッションの振動をそのまま車内に持ち込んでしまうというデメリットもある。今回のレガシィでもこの振動や音を遮断するために、ケーブル式を採用したのだ。
このケーブル式6速MTでは、レバー側にクリック感を持たせることで、コクッコクッと入る気持ちのよいシフトフィールを演出しているとは開発者の談。なお、谷川も記者も縦置きMT車(ロッド式)に乗っており、シフトフィーリングにはうるさいほう。そのフィールがいかがなモノかは非常に気になるところだ。
■ケーブル式6速MTのフィーリングはいかに?
いざ試乗開始。プッシュ式のエンジンスタートボタンを押し、エンジンをかけた瞬間から確かに振動や騒音が抑えられていることが分かる。シフトレバーを触ってみても、エンジンやトランスミッションから伝わってくる振動は皆無だ。
クラッチを切り1速へシフトレバーを入れると、コクッというクリック感とともに、引っかかりもなくスムーズに入る。加速を始めて、2速、3速とシフトアップするが、そのフィーリングは1速に入れたときと同じもので、コクッコクッと何事もなく入っていく。確かに気持ちよいシフトフィーリングで、一般的な横置きトランスミッションの車と比べれば、開発者の意図したところを感じ取ることはできる。
ただし、普段からロッド式に乗り慣れている2人にとっては、このスムーズ過ぎるシフトフィールに違和感を覚えてしまう。トランスミッションというのは構造上、ギアの回転があわないとシフトチェンジができない。今のトランスミッションはシンクロメッシュ機構というものが入っていて、シフトチェンジをしようとすると、このシンクロの働きによって回転をあわせている。最近ではこのシンクロを2つ、3つと増やすことで、よりスムーズに回転をあわせるので、ドライバーが意識的に回転数をあわせる必要はほとんどない。
しかし、少し古い車であったり、シンクロが傷んだ車では、回転があっていない状態で強引にシフトチェンジすれば、ギア鳴りを起こしたり、シフトがうまく入らなかったりする。ロッド式の場合は、それが振動としてシフトレバーにも伝わってきて、手のひらで感じることができる。
逆にこの手のひらの感覚で回転数があっていないことを感じたり、あるいはピッタリと回転数があって、気持ちのよいシフトチェンジができたことを実感しているのだが、新型レガシィでは、回転数があっていようがあっていなかろうがいつでも同じフィーリングでシフトチェンジできてしまうため、とても違和感を感じてしまうのだ。
MTモデルであってもメーター内にシフトインジケーターが表示される。さらに最適なポジションになるようシフトアップやダウンを促す矢印も表示される |
普段マニュアルに乗っている身としては恥ずかしいことなのだが、2人そろって試乗中に何度かシフトを入れ間違えるということがあった。その理由の1つは、5速MTと比較してゲートの横方向の間隔が若干狭くなっているというのもあるが、これが自分の車であれば、ゲートを間違えてもシフトの入りにくさから違和感を感じ、そのミスに気づいていただろう。ところがレガシィでは違和感なくスムーズにギアが入ってしまうので、クラッチをつなぐまでギアセレクトを間違っていることに気がつくことができなかった。
なお、今度の6速MTでは、ATと同様にメーター内に現在セレクトしているギアの段数が表示されるようになっている。これがあればギアを間違えるようなことはなさそうだが、クラッチをつながないと段数が表示されないので、この場合にはあまり役には立たなかった。
ということで、筆者と谷川の2人は開発者の意図に賛同しきれなかったというのが正直な印象ではあるが、これは2人がロッド式のMTに乗り慣れているという要因が大きく、もともとケーブル式のMT車に乗っている人なら、もっと素直に受け入れられるのだろう。コレばかりは理屈ではないので、ぜひ試乗して自ら体感してもらいたい。
■2.5リッターの排気量を生かしたターボエンジン
シリーズ中最高出力を誇る2.5リッターターボエンジンを搭載する試乗車。このエンジンの性能も今回のモデルチェンジで気になるポイント。スペック的に見ていくと、最高出力210kW(285PS)/6000rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/2000-5600rpmとなっている。先代の2.0リッターターボでは、MT車が280PSだったことを考えると大きな出力アップには見えないが、AT車は260PSだったので25PSの向上となっている。
ターボ車の場合、過給域では燃焼室内が高温・高圧となるため、圧縮比を低くすることが多い。圧縮比が低いとエンジン自体のパワーは落ちるが、その分ブースト圧を上げることでき、ピークパワーを出せるためだ。しかしその一方で、過給がかからない低回転域では、ドライバビリティの低下につながるという難点もある。新型レガシィに積まれた2.5リッターターボエンジンは、圧縮比が先代の8.4から9.5へと向上しており、ノンターボの2.5リッターエンジンの10.0と比べても優秀な値(ノンターボはレギュラーガソリン、ターボはハイオクガソリンという違いもある)となっている。ちなみに同じく2.5リッターターボエンジンを搭載するインプレッサWRX STI A-Lineの圧縮比は8.2だ。
これはエンジン本体が排気量アップしたことで、従来よりも過給に頼らず、エンジン本体の出力を生かしたセッティングにしているということ。ピークパワーよりも低回転からの分厚いトルクを狙ったのだろう。あえてエンストをするつもりで、回転数をそれほど上げずにクラッチミートをしてみても、何事もなくスルスルと走り出し、分厚くなった低回転域のトルクを実感することができた。
そこからアクセルを踏み込んでいくと、はっきりとブーストのかかりを実感できるほど明確なトルクを体感することができる。しかし先代も含めた一般的なターボと異なり、ブーストがかかり始めるタイミングに唐突感がない。言い換えれば常にタービンは十分に回り続けている状態で、アクセルを踏んだ分だけブーストが上乗せされるような印象だ。
これは、タービンがエンジン直下に配置されたことも、1つの理由だろう。排気ポートの直近にタービンを配置できたことで、排気圧力を効率的に利用することができ、ターボのレスポンスが向上しているのだ。そのパワーフィールはとても扱いやすく、ターボエンジン特有の唐突なパワー感が苦手な筆者であっても、気持ちよく走ることができた。排気量アップやタービンレイアウトの変更の恩恵は、スペックには現れない部分にしっかりと反映されているようだ。
■SI-DRIVEとMTの組み合わせの意外な盲点
2.5リッターターボにもSI-DRIVEは搭載されており、やはり以前に比べそれぞれのモードの完成度がアップしているように感じることができた。しかし、ワインディングを元気に走るような状況において、MTとSI-DRIVEの組み合わせに対する難しさを実感させられた。
というのが、コーナーに入るタイミングで、出口での立ち上がりにあわせてシフトダウンしておきたいのだが、最初はIモードにして走っていたため、エンジンの回転数をうまくあわせられなかったのだ。Iモードではアクセルを踏んだ際の回転の吹け上がりが鈍いのがその原因で、アクセルレスポンスのよいSモードにすればそのようなことはなくなるし、S#では逆に意識してアクセルの踏み込みを弱くする必要があるほどだったのだが。
5速ATにおけるSI-DRIVEでは、モードにあわせてATの制御も変更されるのだが、MTではドライバーがその分調整する必要がある。しかし人間の感覚はSI-DRIVEのようにスイッチ1つでは切り替わらないために、思わぬところで苦労したしだいだ。
B4では5速ATモデルも試乗したが、SI-DRIVEの味付けはアウトバックと同様で、Iモードでも日常ユースにおいて不満を感じるものではなく、SやS#モードでは、ターボ車らしい刺激的な加速を味わうことができる。MTのようにモードを常に意識する必要はないため、SI-DRIVEはATとの相性がよいと感じられた。
ワインディングのように積極的にシフトチェンジを楽しみたい状況であればSモードやS#モードがおすすめだ | ATとSI-DRIVEとの組み合わせは、一般道でも高速でも抜群。Iモードでの追い越し加速に不満はない |
■多少乱暴な操作をしても挙動を乱すことのないハンドリング
最後にハンドリングだが、試乗車はS Packageのため、サスペンションにはビルシュタイン製ダンパーがおごられ、タイヤも225/50 R17から225/45 R18にインチアップされている。しかしその乗り味に硬さはなく、滑るようになめらかに走り出す。ロードノイズも少なく、先に乗ったアウトバックよりもむしろ好印象なほどだ。厳密に言えば段差を超えた際のゴツゴツ感は、タイヤのエアボリュームが少ない分増えているはずなのだが、不思議とそれを感じさせられることはなかった。
最初に試乗した6速MTモデルは、峠に持ち込んでテスト。ゆるやかなカーブを描くワインディングロードが主な試乗場所だったが、スムーズにそして何事もなくコーナーを抜けていく。ハンドリングはあくまでニュートラルステアで、ステアリングを切れば切っただけ曲がっていくし、アクセルを極端に踏んだりしない限りその傾向が変わることはない。
6速MTの場合トルク配分は50:50、そしてセンターデフにはビスカスLSDが装着されていて、安定した走りを味わうことができる。この安定感があるからこそ、雨の日や雪の日においても過度な緊張を伴うことなくドライブできるわけで、これがスバルの4WDの美点だと再認識させられる。サスペンションの動きも非常に素直で、意図的に姿勢を崩そうとしても、しっかりと路面を追従してしまうほどだ。操舵の重さも重からず軽からず。しかしステアリングインフォメーションはそれほど多くはない。インプレッサSTIやS402などは、ステアリングインフォメーションがしっかりしていただけに、残念なところ。しかしその味付けも今回のレガシィの全体のコンセプトからすれば、当然開発者の狙った結果だとは思うが。
5速ATモデルは、高速道路で試乗を行った。不思議なことに、6速MTに比べてステアリングインフォメーションも多く、積極的に走らせようという気分にさせられた。これは谷川も同じ意見だった。6速MTモデルではトルク配分が50:50、5速ATモデルでは45:55から50:50の可変と、ATモデルがわずかながらも後輪重視になっているのがその理由なのかもしれないし、あるいはサスペンションのセッティングが、高速道路でのコーナリングや車線変更のような舵角が小さい状況、つまりサスペンションがゆっくり縮む状況で減衰の立ち上がりがよく、その結果、高速道路でのインプレッションにおいて好印象を受けたのかもしれない。
原因は不明だが、確かに高速での走りはひじょうにわくわくさせられるモノであった。さらにロードノイズも少なく、キビキビと、しかも快適にドライブを楽しむことができた。
5%以上の坂道で自動的にパーキングブレーキをかけるヒルホールド機能は、MTとの組み合わせでこそその利便性を実感する |
■谷川潔の総論
5速MTモデルは、フラットでどこからでも力の出るエンジンを搭載しながらも、振動の少なさを重視したケーブル式リンケージによって、そのエンジンの存在感を主張しすぎることもない。広く余裕のある室内もあってか、コーナーを積極的に楽しもうという気にはあまりならないというのが正直な感想だ。新型レガシィのホットモデルである2.5ターボ+6速MTというパッケージでも、静かさ、振動の少なさ、広さというコンセプトを重視して開発されたのを、改めて実感した。
電動パーキングブレーキと、ヒルホールド機能については、6速MTモデルでは活躍する場が多いだろう。正直、上り坂でのスタート時にそれほど気を使うことなく発進できるのはありがたい。
B4 2.5GT S Packageは、5速ATモデルにも試乗したが、こちらのほうは、SI-DRIVEが変速タイミングなども制御を行うためか、Iモードではゆったりと運転でき、SモードやS#モードでは積極的な運転が行える。これは、トルク配分による違いなのか5速ATモデルのほうがより積極的に走らせようという気分になる。SI-DRIVEを状況に応じて変更しても、自分の左足の感覚(クラッチを踏む足)や、右足の感覚(アクセルを踏む足)をアジャストする努力の必要もなく、モードを気軽に変えて楽しめる。6速MTと5速ATの走りの感覚の違いが、わずか5%のトルク配分の違いによるものなのかは分からないが、2.5リッターターボの走りを容易に楽しめるのは、5速ATモデルと言えるだろう。
■瀬戸学の総論
自分としては意外な結論だが、6速MTよりも5速ATモデルのほうが楽しいモデルだと感じた。静かでゆったりとした上品な乗り味。それ自体は認められる価値観ではあるが、自らがハンドルを握るドライバーズカーとして考えたとき、トランスミッションから伝わってくるザラつき感や、ステアリングから伝わってくるタイヤのインフォメーションは、むしろあって欲しいものだと思う。この時代にあえてマニュアルを選ぶ人が、果たして静かなトランスミッションを望むのか? せっかくひとつの車種でこれほど多くのグレードをラインアップするのだから、すべてを一貫して捉えるのではなく、ニーズを見据えて味付けをして欲しかった。
その点5速ATは、SI-DRIVEとの相性も良く、電動パーキングブレーキでも許せる。マニュアルモードでの変速レスポンスも、CVTには劣るのかもしれないが、なかなか素早くて、不満を感じることなく楽しく走ることができた。
マイナーチェンジでもまじめに進化を続けるのがスバルのよいところなので、6速MTモデルに関しては今後に期待したいところだ。
(瀬戸 学)
2009年 6月 18日