日産、「リーフ」発表会リポート
EVの普及だけでなく、ゼロ・エミッション社会創出を目指す

リーフと志賀COO

2010年12月3日発表



 日産自動車は12月3日、電気自動車(EV)リーフの発表会を、神奈川県横浜市の同社グローバル本社ギャラリーで開催した。ここではその模様をリポートする。リーフの詳細については関連記事を参照されたい。

ヘッドライトクラスターやリアのデフューザーの形状が空力に貢献するGグレードはルーフスポイラー上にソーラーパネルを備える
フロントホイール。タイヤはブリヂストンのエコピア充電コネクタのリッドのエンブレムにはイルミネーションが仕込まれるダッシュボード上にある3つのランプは充電状態を表すインジケーター。フロントウインドー越しに確認できる
インバーターリダクションギア付きモーター
バッテリーパックバッテリーパックは床下に置かれる。モーターはフロントリーフの床下を覗いたところ
ボンネットを開けるとインバーターが見える
充電コネクタは急速充電用と普通充電用を備える
リーフの室内。起動スイッチはステアリングホイール左に。インストゥルメントパネルは2段構え
バッテリーの温度と残量が左右に表示されるメーターパネル中央の表示
ステアリングホイールにはオーディオのリモコンやクルーズコントロールの操作系があるペダルは2つ。ボンネットと充電コネクタのオープナーが見えるステアリング右のスイッチ
シフトレバーはジョイスティック形式
ラゲッジルーム。シートは6:4の分割可倒式だが、倒したシートとラゲッジルームの床には段差があり、ラゲッジルームのほうが深い
スペアタイヤは搭載せず、パンク補修キットを積むリアシート

 

門田CVE

エンジニア冥利につきる会心作
 発表会には、リーフの開発責任者である門田英稔チーフビークルエンジニア(CVE)が登場、リーフの概要を説明した。

 門田CVEはまず、リーフの動力性能の魅力をアピール。「モーターは低回転からフルトルクを出せる優れた特性を持っているが、闇雲にトルクを出すとクルマがガクガク振動してしまう」ため「駆動系のねじり共振点近くのトルク制御を微妙に行うことで、スムーズな加速を実現した」と言う。

 また、重心点まわりにバッテリーを搭載したことで回頭性がよくなり、バッテリーによって重心が低くなったために、「リアの巻き込み感が少ない、非常にマイルドな挙動のクルマを作ることができた」とした。コーナーリング時にもモーターのトルクを1/10000秒単位で制御し、小気味よい曲がり方を実現していると言う。

モーターのトルクを細かく制御することで、スムーズな加速やコーナーリングを実現バッテリーが重心点近くに、しかも低い位置にあるため、コーナーリングも小気味よい
ITを駆使してドライバーをサポートするのもリーフの特長。スマートフォンでリーフの状態を知り、充電や冷房のコマンドを出すことができる。また航続可能距離や充電ステーションを分かりやすく表示する
iPhoneアプリでリーフの充電状態をモニターできるスマートフォンでステージ裏にあるリーフ(右上のスクリーンに映っているリーフ)に充電コマンドを送る門田CVE
リーフに搭載されているカーナビ。左下の「ゼロ・エミッション」ボタンを押すと、EV関連のメニューが表示される充電ステーションの検索
電池残量に応じてどこまで走行できるかを図示。同時に充電ステーション情報も表示される
各部の電力消費を表示燃費ならぬ電費情報。ユーザー同士で電費を競うアトラクションも検討されている
タイマー充電で夜間電力を活用する
ゼロ・エミッションであるだけでなく、リサイクル率の高さでもエコに貢献する。バンパーや内装材は他社製を含めた廃車からリサイクルされたもの

 次に、リーフの安全性をアピール。アラスカ、ドイツ、パリでの実走行テストのほか、衝突実験でもバッテリーの損傷が少ないこと、内燃機関車では走行できない水深700mmの冠水状態でも走行できることなどを説明した。

 最後に「リーフスマイル」という言葉を紹介。同社はリーフ発売に先立って全国で試乗イベントを開催し、約10万人がリーフの運転を体験したが、「試乗を終えた人がみなニコニコしていた」ために、関係者から生まれた言葉と言う。

 1991年から同社でEVに携わってきた門田CVEだが、「会心作となった。エンジニア冥利に尽きる」とリーフへの自信をのぞかせた。

アラスカでの走行テスト。外気温は-20度アウトバーンで高速域のサスペンションセッティングをテストパリでは市街地での走行テスト
前方衝突(上)と後方からの追突試験(下)。いずれも右の写真は衝突後のリーフを底面から撮影したもの。赤い枠の右側がバッテリーだが、ほぼ変形していないのが分かる
車体と、バッテリーのパック、モジュール、セルの各レベルで安全性を担保するバッテリーケースとボディーをボンディングワイヤで接続し、電位を等しくしてあるので、万が一故障しても感電しない落雷試験の映像。充電器とリーフの間にヒューズがあり、落雷の電流が流れこむことはない
充電コネクタに水をかけても、漏電しない構造を採る内燃機関車では走行できない700mmの冠水でも走行できる
水深700mmを走行する映像

 

志賀COO

EV普及だけでなく、ゼロ・エミッション社会創出を目指す
 2009年にリーフの開発を発表して以来、同社はリーフそのものと、リーフに関連した取り組みについて頻繁に情報を発信してきたが、発表会では同社の志賀俊之COOがこれらを総括した。

 従来の内燃機関とはインフラや使い方がことなるEVゆえ、志賀COOがまず強調したのは「高い品質を確保するだけでなく、EVを初めて購入されるお客様に、万全の販売サービス品質をお届けする体制を整えた」ということ。さらに、EV普及には社会全体での取り組みが必要なことから、地方自治体などとパートナーシップを組んでいることもアピールした。

 日産はEVの開発と販売だけでなく、EVを取り巻く環境づくり、ひいては電気エネルギーをベースとしたゼロ・エミッション社会の創出も視野に入れて活動しており、多方面からのアプローチを進めている。志賀COOのスピーチからこれらを要約すると、次のようになる。


    全国の日産ディーラー2200店舗で200Vの普通充電が可能
    うち200店舗には約30分で80%までの充電が可能な急速充電器を設置
    急速充電器設置店舗を中心に半径40kmでほぼ日本全国をカバー
    急速充電器を独自開発して、競争力のある価格で市販
    車両購入方法にはEVの特性を生かした様々なプランを提案
    EV普及だけでなく、ゼロ・エミッション社会を作り出すことを目指している
    政府、地方自治体、電力会社、民間企業、多くの専門家の協力を得た
    世界中で80を超えるパートナーシップを締結
    日本では現在9つのパートナーシップを締結
    住友商事と共同で、EVで使用されたリチウムバッテリーの2次利用の事業開発を行う合弁会社を設立
    バッテリーバリューチェーンの管理やエネルギー貯蔵に向けた取り組みを行う

 また、リーフは国内だけでなく、欧米でも販売、生産を行うことが発表されている。これについては次のように述べた。


    10月に追浜で生産開始
    間もなく米国で、2011年初めには欧州で販売開始
    2012年後半に米国スマーナ工場で、2013年には英国サンダーランド工場で生産を開始
    バッテリーはNECとの合弁会社オートモーティブエナジーサプライで生産
    2012年後半から米国、ポルトガル、フランス、英国でバッテリーの生産を開始
    2015年までにルノー日産アライアンスで年間約50万台分のバッテリー供給体制を整える

 

これまで日産は、パートナーシップを結んだ自治体で試乗イベントを開き、約10万人が試乗した。同時に市民によるワークショップを開き、EVの活用と、EVのある社会について考えるワークショップを開催した
志賀COOが運転するリーフが、ワークショップの参加者や予約した人たちに迎えられる
日産ギャラリーにはたま電気自動車とハイパーミニも展示されている

(編集部:田中真一郎)
2010年 12月 3日