自動車事故対策機構、自動車アセスメントの衝突試験を公開【衝突試験映像掲載】
オフセット前面衝突試験に加え、来年度導入試験のデモも披露

オフセット前面衝突試験など3つの試験を公開した

2011年1月20日公開



 自動車事故対策機構(NASVA:National Agency for Automotive Safety & Victims' Aid)は1月20日、茨城県つくば市にある日本自動車研究所において、自動車アセスメント(JNCAP:Japan New Car Assessment Program)試験を報道関係者に公開した。

オフセット前面衝突試験
 自動車アセスメントとは、自動車の安全性能比較評価のこと。試験結果は国土交通省と NASVAが「チャイルドシートアセスメント」とともに自動車ユーザーに公表し、より安全な自動車やチャイルドシートの普及とメーカーによる研究開発を促進することを目的としている。

 自動車アセスメント結果の広報活動として、パンフレットやWebページだけでなく、自動車アセスメントグランプリの開催や東京モーターショーへの出展など積極的な活動をしている。

 今回公開された試験は、「オフセット前面衝突試験」「側面衝突試験」「歩行者脚部保護性能試験」の3つ。歩行者脚部保護性能試験は2011年度から新たに導入される試験としてデモンストレーション公開された。

 最初に公開されたのは2000年度より導入されている「オフセット前面衝突試験」。運転席と後部座席にダミー人形を乗せた試験車を64km/hでデフォーマブル・バリア(障害物)に前面衝突させ、車室変形などで乗員に及ぼす加害性を評価するもの。試験車の車幅の40%がバリアに衝突するように、オフセットさせて行われる。バリアはアルミ製ハニカム構造で、衝撃を吸収しながらつぶれるような構造だ。

会場となった日本自動車研究所試験前の様子。左手奥から試験車が加速し走ってくる。衝突個所では高速度撮影のために強い照明が用意されている自動車に見立てたデフォーマブル・バリアはアルミハニカム製。車幅の40%が衝突するように配置されている

 衝突時のダミー人形の頭部、頚部、胸部、腹部(後部座席)、下肢部に受けた衝撃や室内の変形を元に、乗員保護性能の度合いを評価する。もちろん後部座席にもダミー人形が置かれる。後席シートベルト着用義務化に伴い試験方法が見直され、同時に後席の乗員保護性能評価法も新たに策定された。

 試験車輌は三菱自動車工業「RVR」。グレードは「G(2WD)」で、エアバッグ(運転席・助手席エアバッグ+運転席ニーエアバッグ)が標準装備されている。排気量は1798cc、車輌重量は1360kg。駆動系はFFで乗車定員は5名となっている。

 試験開始がアナウンスされると、高速度撮影のために多くの照明が点灯し衝突する場所が明るく照らされる。無人の試験車を加速するためのカタパルトからモーター音が鳴り、秒読みが始まる。カウントがゼロになると同時に試験車がアルミ製バリアに衝突した。

衝撃音とともにエアバッグが作動する衝突の瞬間試験車は、衝撃で衝突場所よりかなり移動した。砕けた部品が散乱し、衝突のすさまじさを物語る



 試験車は衝撃で、バリアからかなり離れた場所まで移動した。試験車の動きが落ち着くと、迅速に調査員が歩み寄って、測定や写真撮影などの調査を開始する。ダミー人形や試験車各部に装着されたセンサーの計測値はトランクルームに設置された機器類に集約され、今後さらに細かく解析するとのこと。調査がひととおり終了すると、報道陣も近くで撮影することを許可された。

衝突後、すぐに写真撮影が始まった激しく損傷した試験車樹脂フェンダーも粉々になった
トランクルームに測定機器が設置されている原形をとどめていないアルミ製バリアフロントガラスにも大きな亀裂が入った
車内やダミー人形の様子を記録する調査員運転席のダミー人形。エアバッグが正しく作動したようだ試験会場では、高速度カメラの映像を流していた

側面衝突試験
 続いて行われたのが側面衝突試験だ。運転席にダミー人形を乗せた静止状態の試験車の側面に、950kgの台車を55km/hで衝突させる。側面衝突時の車室変形等による運転者への加害性を評価するため1999年度から導入された試験だ。また、2008年度からサイドカーテンエアバッグが装備された車輌については、その展開状況や展開範囲についても評価している。自動車の衝突事故における乗員障害のうち、前面衝突に続いて障害程度が大きくなるのが側面衝突とのこと。

試験車はフォルクスワーゲン「ポロ」。久々の輸入車の試験とのこと衝突するのは重量950kgの台車。これにもアルミハニカムが取り付けられている

 台車の前面(衝突部分)は、自動車の前面に見立てたアルミ製ハニカム構造の衝撃吸収材が設けてある。衝突させる側面は必ずしも運転席側ではなく、構造的に弱い側面へ衝突させる場合もあるとのこと。例えば、助手席側がピラーレスの場合は、あえて助手席側に衝突させるという。

 試験車輌はフォルクスワーゲン「ポロ」。グレードは「TSI コンフォートライン」で、エアバッグ(運転席・助手席用エアバッグ+前席サイドエアバッグ+カーテンエアバッグ)を装備している。排気量は1500cc、車輌重量は1100kg。駆動系はFFで乗車定員は5名となっている。先ほどと同じようにカウントダウンが始まり試験開始。カタパルトで加速された台車が試験車に衝突し、激しく試験車を横に滑らせた。

衝突の瞬間。ボディー側面が大きくへこむ試験車は衝撃で衝突位置から5m以上も吹っ飛んだ



 衝突の衝撃で窓ガラスが激しく飛散し、エアバックの煙が立ち込める。試験車が落ち着くと、調査が開始された。側面衝突試験では、衝突によるダミー人形の頭部、胸部、腹部、腰部への衝撃をもとに乗員保護性能を評価する。今回のポロは横転しなかったが、車高の高いミニバンやトールワゴンタイプは、衝撃で横転することもあるそうだ。この側面衝突試験では、横転そのものは評価していないとのこと。

測定機器のデータを吸い出している衝撃で大きくへこんだ側面
台車のアルミ製バリアも、大きく変形している車内の様子。サイドカーテンエアバッグも作動している

歩行者脚部保護性能試験
 最後に公開されたのが、来年度から導入される歩行者脚部保護性能試験だ。これは、横断歩道などで歩行者と自動車が衝突するような状況を想定し、衝突時における自動車前部(バンパー)の対歩行者保護性能を評価するもの。今回はトライアル試験という位置付けである。試験では、人体脚部を模した「インパクタ」を自動車前部に打ち付けて行なう。このインパクタは日本が中心に開発した「FLEX脚部インパクタ」というもので、ひざの靱帯(じんたい)の伸び量や頸(けい)骨の曲げモーメントなどを計測できる。

 試験車輌は日産自動車の「セレナ」。実際の試験では、フロントバンパーエリアを6分割し、各エリアで試験を実施すると言う。今回は中央部の試験となった。試験速度は40km/hだが、、今後、国の試験として導入された後には44km/hで実施することを検討しているとのこと。

右手の壁のすき間からインパクタが打ち出される射出装置にセットされたFLEX脚部インパクタ試験後の車輌はボンネットがへこんでいた
フロントグリルにもひびが入っている実際の試験は車両前面の中央だけでなく、細かく各エリアを分け、何度も行なわれる左がFLEX脚部インパクタ、右の金属棒が従来のインパクタ



 最後にNASVA理事長 金澤悟氏による挨拶と、質疑応答が行なわれた。

NASVA理事長 金澤悟氏

 近年増加しているハイブリッド車だが、ガソリン車の試験結果の違いを訪ねたところ、車の構造自体は変わらないため安全性の評価に違いはないとのこと。安全性に関しては、昨年の自動車アセスメントグランプリでトヨタ自動車「プリウス」が最後までスバル(富士重工業)「レガシィ」とグランプリを争ったとのこと。これまで自動車アセスメントでは評価していなかったハイブリッド車の電気系統の評価を今後はしていくため、評価方法を整備している最中とのことだった。

 自動車アセスメントだけではなく、NASVAは交通事故被害者への支援にも力を入れている。金澤氏は「事故死者数は少なくなったが、交通事故被害者を見ていると乗員以外、つまり歩行者など交通弱者が多い」という。乗員以外を守るための策の1つが今回公開された歩行者脚部保護性能試験でもある。金澤氏は「自動車アセスメントによって、我が国で利用する車が、より安全になっていくことが必要だ」と最後に熱く語っていた。


(政木 桂)
2011年 1月 21日