東海大学、「ワールド・ソーラー・チャレンジ」の連覇に挑む
今回はソーラーカーにパナソニック製太陽電池と充電池を搭載

東海大学のソーラーカー「Tokai Challenger」

2011年8月24日発表



 東海大学は8月24日、同校湘南キャンパスで「ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参戦体制発表会を開催した。今年参戦するソーラーカー「Tokai Challenger」では新たにパナソニック製のHIT太陽電池を使用。充電池には同じくパナソニックのものを、ボディーなどは東レ製のカーボンファイバーを使用したものとなる。

「Tokai Challenger」。左側がフロントになる
フロントリア
太陽電池はパナソニック製のHIT太陽電池を使用ボディーは東レ製のカーボンファイバーで作られている

 ワールド・ソーラーカー・チャレンジは太陽光のみを動力源として、オーストラリア連邦のダーウインとアデレード間、総延長3000kmを走破するタイムを競う世界最大級のソーラーカーレース。1987年に第1回大会が開催され24年の歴史を誇る(1999年からは隔年開催)。

 前回大会(2009年開催)では、東海大学が優勝。10月16日~23日に開催される今年の大会では2連覇を目指して戦うことになる。

東海大学 副学長(教育研究担当)山田清志氏

 東海大学 副学長(教育研究担当)山田清志氏は太陽電池の変更について「前回使った宇宙用の太陽電池パネルがレギュレーションの変更により使えなくなった。そのためパナソニック製のHIT太陽電池パネルを使う。リチウムイオンバッテリーについては、従来どおりパナソニック製のものを使用する」と言い、今回の変更が新レギュレーションに対応するためだったことを明かした。

 その上で、このソーラーカーによる世界的レースへの挑戦を「ただ、単にレースに勝つということだけでなく、社会貢献、環境、ものづくりを目的に行っている。このプログラムを1つの例として、ほかの教育現場で活用していく」と言い、大学の使命である研究、そして産学連携の強化が大切であると述べた。


東海大学 工学部電気電子工学科 教授 木村英樹氏(右)と、学生代表 工学部 動力機械工学科3年 瀧淳一氏(左)

 レースや参戦体制に関する詳細な説明は、東海大学 工学部電気電子工学科 教授 木村英樹氏と、東海大学 ソーラーカーチーム 学生代表 工学部 動力機械工学科3年 瀧淳一氏から行われた。木村教授はレースの準備中に東日本大震災が起きたことで「このまま続けてよいか葛藤があった」と語り、参戦作業を続けることに悩んだと言う。

 ただ、震災後、原発事故などにより電力不足が起きたことで、「これからのエネルギーは再生可能エネルギー、とくに太陽光に由来するものであると思っている」と言い、この参戦を太陽光発電による創エネ、電池を使った蓄エネなど、日本が得意とするもの作りの技術を世界にアピールしていくための場に位置づけた。


東海大学の行っているチャレンジプロジェクト。ソーラーカーも含め18のプロジェクトを行っている今回のチャレンジは震災復興のためと位置づける被災地においてソーラー技術を利用した生活復興支援を行っている
ソーラーカー大会参戦の目的「ワールド・ソーラー・チャレンジ」概要

 今年の「ワールド・ソーラー・チャレンジ」には、20の国と地域から42チームが参戦。日本からは、東海大学を含め芦屋大学、Team Okinawaの3チームが参戦する。

 山田副学長が触れたレギュレーション変更については、前回東海大学が化合物の太陽電池で、南オーストラリアの制限速度である110km/hで巡航したことで十分走行性能を実証したために行われたのではないか、また比較的安価なシリコンの太陽電池を選択させるために大会側が誘導したのではないかとの推測を示した。

 2011年のレギュレーションでは、化合物の太陽電池の場合パネル面積が6m2から3m2と半減。シリコンでは6m2と据え置きのため、結果的にシリコンの太陽電池を使ったほうが高い出力を得られ、パナソニックのHIT太陽電池を選択することにしたとのこと。この太陽電池は住宅の屋根に使用されているHIT太陽電池と同じものだが、ソーラーカーの3次曲面に貼るため発電セルを細分化したり、電池表面のカバーを変更。また、直列接続数を増やしており、家庭用よりもソーラーカーに適した高い電圧を発生する。変換効率22%の太陽電池6m2を貼ることで、出力1.32kWを得ている。

 電池は従来どおり、パナソニック製のリチウムイオン充電池を使用。この充電池はノートPCなどに使用されているNCR18650Aそのもので、これを450本、15並列30直列使用することで、代用電池出力の3時間45分に相当する5kWhのエネルギーを蓄える。これらにより、90km/hでの巡航走行を想定し、リチウムイオン充電池だけによる航続距離だけでも330kmになると言う。

 レギュレーションの変更により、出力が前回の優勝車より低下したことからボディー構造を見直し、新たに東レ製のカーボンファイバー「トレカ」を使用している。とくに軽量化と高剛性がもとめられる個所には、F1マシンや人工衛星で使用される「1K」のものを使用し、リアスイングアームなどもアルミ製からカーボン製に変更している。

 また、空力性能を改善するため、全長は同じながら全高・全幅を-50mmとし、ボディーサイズは4980×1590×880mmに。これにより前面投影面積を低減し、空気抵抗を4%減少させている。この小型化なども含めて、重量は160kgから140kgへと20kgの軽量化に成功。そのほかミツバ製のDCブラシレスモーターもさらなるチューンアップをしており、他のチームに比べてアドバンテージを持つだろうとの見通しを述べた。

2011年レギュレーションの変更採用したパナソニック製の太陽電池と充電池ボディーは東レ製のカーボンファイバー。製作は童夢カーボンマジックが協力
モーターなども改良2011年マシンの特徴車体をコンパクト化
スイングアームをカーボン製にロールバーもカーボンに変更諸元表
テスト走行では好感触を得ていると言うソーラーカー1台にさまざまなサポートカーが付く天候データなど各種の走行支援を行う
ライバルチームの紹介

パナソニックと東レがサポート
 この東海大学チームをサポートする企業を代表して、パナソニックと東レが「ワールド・ソーラー・チャレンジ」に対する期待を述べた。

 パナソニック コーポレートブランドストラテジー本部 宣伝グループ 理事 小関郁二氏は、「太陽電池のHITは実用性のある量産型の住宅用太陽電池として世界最高水準となる変換効率を持っている」「リチウムイオン電池についても業界最高レベルの性能を持つ」とその製品品質に自信を持ち、東海大学がこれらのポテンシャルを最大限に引き出してもらえるのではないかと思っていると語る。パナソニックとしてもWebサイトでレースの模様を発信し、「世界中のグリーン革命に貢献していく」と述べた。

 東レ 複合材料事業本部 トレカ事業部門 部門長 河村雅彦氏は、「ちょうど1年前に、篠塚さんから世界連覇を狙うプロジェクトがあるとの話をいただいた」と、東海大学の卒業生であることからソーラーカーのドライバーを一部担い、日本を代表するラリードライバーの篠塚建次郎氏からの呼びかけが、このプロジェクトへの協力のきっかけだと言う。世界的なレースであることから、東レとしても協力することにし、木村教授の「1割軽量化したい」との目標に向かって東レの持つカーボンファイバーの提供などを行った。

 河村氏は「副学長は、『勝つということだけでなく』と語られたが、やる以上は勝ってほしい」と言い、女子サッカーのなでしこジャパンのように世界一を目指して戦ってほしいと熱いエールを送っていた。

パナソニック コーポレートブランドストラテジー本部 宣伝グループ 理事 小関郁二氏東レ 複合材料事業本部 トレカ事業部門 部門長 河村雅彦氏

篠塚建次郎氏による試走を実施
 参戦体制発表の後、湘南キャンパス内で試走が行われた。ドライバーは篠塚建次郎氏。ステアリングの切れ角が小さいため、方向転換は人手に頼る形だったが、力強い加速とソーラーカーらしい静かな走行音でキャンパス内を走った。

試走は篠塚氏が担当コクピットカウルを開ける運転席は非常に狭い
篠塚氏が乗り込んだところステアリング部運転席後方にはWi-Fi通信用のアンテナが見える
人力によって方向転換を行う
キャンパス内を使い、試走を行った

(編集部:谷川 潔)
2011年 8月 24日