【2012 International CES】開発移行が容易なNVIDIAの車載向け「Tegra 3」システム アウディ、メルセデス・ベンツ、ソニーなどが車載情報システムを展示 |
NVIDIAが公開したTegra 3搭載開発ボード。自動車メーカーへはこのようなキットとして提供され、ソフトウェア開発を行うことができる |
会期:1月10日~13日(現地時間)
会場:米国ネバダ州ラスベガスコンベンションセンター
2012年のInternational CESは、通常よりも1週間程度遅いスケジュールになったため、通常であればCESの翌週にデトロイトで行われる北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)とほぼ同じタイミングで開催されることになった。
巨大な米国市場での新車展示会であるデトロイトモーターショーは、自動車メーカー各社にとって非常に重要なイベントだが、自動車メーカーにとってCESも重要なイベントになりつつある。メルセデス・ベンツブランドを展開する独ダイムラーAGがCESの基調講演に登場したほか、フォード、アウディなどがCESでも記者会見を開催し、自社の車載情報システム(In-Vehicle Infotainment、IVI)に関するビジョンを説明した。
また、半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)は、同社のIVI向けSoC(System on a Chip:1チップで様々な機能実装したプロセッサーのこと)「Tegra」シリーズの最新製品である「Tegra 3」が、独アウディの2013年モデルに採用される予定であることを明らかにした。NVIDIAの共同創始者・CEOのジェン・スン・ファン氏は「デジタル家電に最近登場し、そしてこれから急成長を望めるデジタル家電が自動車だ」と述べ、今後数年のうちに通信機能を持ちWebサービスを利用できるようなIVIシステムの普及が急速に進むだろうと述べ、そうした製品に同社のTegraシリーズの採用を呼びかけていくと説明した。
■NVIDIAがIVI向けTegra 3を発表、自動車メーカーが容易にシステムをアップグレード可能に
NVIDIAは近年、自動車向けのIVI向けSoCに力を入れており、アウディやBMWなど多くのメーカーで採用例がある。NVIDIAがこれまでIVI向けに提供してきたのがTegra 2というSoCだ。Tegra 2はARMと呼ばれる家電やスマートフォンなどで多数採用されているアーキテクチャのプロセッサーを2つ内蔵した製品で、Tegra 2は同社のPC用グラフィックスチップの流れを汲む強力なグラフィックスエンジンを内蔵していることが大きな特徴となっている。このTegra 2を利用すると、自動車メーカーは強力なグラフィックスエンジンを利用してグラフィカルでリッチなユーザーインターフェースを備えたIVIをこれまでよりも低コストで製造することが可能になるのだ。
NVIDIAは、昨年末にこのTegra 2の後継となるTegra 3の提供を開始し、ASUSTeK Computerが台湾で発売しているAndroid 4.0搭載可能な10インチタブレットに採用されるなどして、CESでも話題の製品の1つとなった。Tegra 3の特徴は、Tegra 2より性能は向上しながら消費電力が下がっているところにある。Tegra 3では、内蔵されているプロセッサーコアの数が2から4に、グラフィックスエンジンのコア数も8から12に増やし、強化しているのだが、これまで使われていなかった省電力の手法を活用することで、消費電力は低く抑えられているのだ。
NVIDIAはこのTegra 3を、Tegra 2を提供していた拡張ボード上に搭載して自動車メーカーに提供している。NVIDIA 自動車事業マーケティング部長 ダニー・シャピロ氏は「Tegra 3はTegra 2を提供していたのと同じボードで提供される。このため、自動車メーカーはTegra 2のボードをTegra 3に置き換えるだけで簡単にアップグレードできる」と説明した。
これにより、自動車メーカーは、開発の期間を短縮でき、開発コストの削減が可能になる。こうした仕組みで製品を提供していることは、製品のライフサイクルへの対応という点でも意味がある。自動車は、一般的なIT製品などとは異なり、製品ライフサイクルが10年になるもの少なくない。従って、EOL(End Of Life)と呼ばれる製品が継続提供される期間を長く設定する必要があるのだが、Tegra 2とTegra 3のように互換性があるボードにしておくことで、自動車のマイナーチェンジの時にTegra 2からTegra 3へ切り換えたりなどの対応も可能になる。
Tegra 2やTegra 3のチップそのものは、こうしたモジュール上に実装されており、自動車メーカーはモジュールを交換するだけで簡単にTegra 3へアップグレードできる | Tegra 3を利用したメータークラスターのデジタル化の例。スピードメーター、タコメーターなどすべてがTegra 3によりデジタル表示されている |
■NVIDIAブースにTegra 2搭載のテスラ モデルS、ランボルギーニ アヴェンタドールを展示
NVIDIAは、後述するアウディのほかにも、いくつかのTegra搭載自動車を公開した。昨年のCESで公開された電気自動車(EV)「テスラ モデルS」に関しては、昨年の段階では外観だけを公開する静物展示に留まっていたが、今年のCESではきっちり動作可能なものを展示していた。すでにテスラ モデルSは米国で受注が始まっており、2012年の生産分に関しては予約が一杯だと言う。なお、価格は49,000ドルからとのこと。
テスラ モデルSには2つのTegra 2が採用されている。1つはメータークラスター内に、もう1つはセンターコンソールでの表示となる。メータークラスターは、完全にデジタル表示となっており、すべての描画はTegra 2のグラフィックスエンジンを利用して行われている。デジタル表示のため、さまざまな表示に切り替えることが可能で、現在再生中の音楽を表示したりとか、これまでメータークラスターには表示していなかったものも表示できる。
センターコンソールには、世界最大になる17インチディスプレイが納められている。画面は全面表示だけでなく、2分割も可能で、上に地図を、下にバッテリーの充電状況を表示するなど多様な表示が可能だ。標準で3Gのモデムが内蔵されており、Google Mapsを利用したナビゲーションシステムやWebブラウザなどのWebサービスを利用することができる。
また、標準でBluetoothのSIM Access Profile(SAP)に対応しており、Bluetoothで接続された携帯電話やスマートフォンの契約情報を利用して、データ接続することが可能になっている(ただし、携帯電話側もSAPに対応している必要がある)。
NVIDIAブースには、このほか「ランボルギーニ アヴェンタドール」も展示されていた。アヴェンタドールは昨年ランボルギーニが日本でも発売した自動車で、6.5リッターのV型12気筒エンジンを搭載した、スーパースポーツカー。このアヴェンタドールのIVIにTegra 2が搭載されており、実際に動作する様を見た来場者は、興味深く眺めていたのが印象的だった。
ランボルギーニ アヴェンタドールのIVIのSoCにTegra2が採用されている。操作はセンターコンソールにあるジョイスティックを利用して行う | ランボルギーニ アヴェンタドールのV型12気筒エンジン。コクピット後部のミッドシップ配置 |
■アウディは、2013年モデル全車種にTegra 3を採用
独アウディは、CESの2日目(1月11日、現地時間)に記者会見を開催。同社が2013年に発売を予定している全車種に、Tegra 3を採用すると発表した。発表によれば、メータークラスターの内部に用意されているデジタル式のメーター、およびIVIの両方を制御するSoCとしてTegra 3が利用される。
NVIDIAのシャピロ氏によれば「A3から始まりA8まで全車種に順々にTegra 3が採用される」と言う。NVIDIAのブースには現行のTegra 2を搭載したA7 3.0 TDI Quattroが展示され、実際に操作できるようになっていた。
また、アウディ自身のブースでもTegraベースのIVIシステム(MMI)が展示されており、実際に操作することが可能になっていた。システムはOSにQNXを利用し、アウディ独自のインターフェースが実装されている。操作はセンターコンソールに用意されていたジョイスティック風のコントローラを利用して行う仕組みだ。携帯電話をケーブルやBluetoothなどで接続してデータ通信を行えるほか、グローブボックス内に用意されているSIMカードスロットにSIMカードを挿して、直接IVIシステムからデータ通信することが可能になっていた。
すでにアプリケーションとしてFacebook機能、天気、フライト情報などが実装されており、実際にFacebookへアクセスして、他の人の投稿を確認したり、自分が投稿したりということが可能だった。なお、将来的には、アプリケーションを追加することも可能になるということだったが、現時点では標準で搭載されているアプリケーションのみ利用可能ということで、ユーザーが自分で追加することはできないということだった。
Facebookのメニュー | 車の設定変更などもIVIから行える |
3G/4Gに対応したモデムを内蔵しており、グローブボックスに格納されているカードリーダーにSIMカードを挿すことでデータ通信できる | アウディが参考出品したヘッドアップディスプレイ(HUD)。ダッシュボード天面に3つのHUD投影機が用意されている。操作はジェスチャーで行い、コントロールはTegra 3が担う |
■メルセデス・ベンツはアプリケーションを追加可能なmbrace2を展示
独ダイムラーAGは、CESのブースにおいて、同社の第2世代IVIとなるmbrace2の展示を行ったほか、CES初日に行われた基調講演で紹介したメルセデス・ベンツのコンセプトカー「F125!」を展示した。
mbraceは、メルセデス・ベンツが米国向けの車両に搭載しているIVIで、mbrace2はその第2世代の製品となる。mbrace2の最大の特徴は「メルセデス・ベンツApps」と呼ばれる、アプリケーション追加機能を有することだ。
メルセデス・ベンツから新しいアプリケーションが追加されると、ユーザーはmbrac2のシステムをアップグレードし、新しい機能を利用できる。現時点ではFacebookやGoogle検索などの機能を実装する予定と発表されていたが、展示機にはそれらの機能は実装されていないようだった。このほか、ディーラーやユーザー自身がスマートフォンやPCを利用して、車外から車の状態をチェックする機能などが実装されている。
ダイムラーAGによれば、mbrace2は今年の春に米国で販売を開始する2012年型のSLに搭載するほか、2013年に米国で発売する多くのモデルで採用する予定。
F125!は、初日に行われたダイムラーAG 取締役会長 ディーター・ツェッチェ氏の基調講演で紹介された、デジタル機能を多くフィーチャーしたコンセプトカーだ。昨年の東京モーターショーで展示されたので、覚えている人も多いだろう。
コックピットには多数の液晶ディスプレイが配置され、さまざまな情報をドライバーに伝えたり、音声認識で自動車の操作が可能となっている。
ダイムラーAGのブース | メルセデス・ベンツの2012~2013年モデルに搭載されるmbrace2 |
地図や車の情報などをグラフィカルに表示できる |
メルセデス・ベンツのコンセプトカーF125! |
■フォードはSYNCのタッチ対応版を発表し、コンセプトカー「EVOS」を展示
CESの会場には米フォードモーターや韓国の起亜自動車などもブースを構えて自社のソリューションを展示していた。
フォードはCESの業界向けの講演に同社社長のアラン・ムラーリ氏が登場するなど、ダイムラーAGに次いで、CESに力を入れていた自動車メーカーと言える。フォードは米マイクロソフトと共同で開発しているSYNCというIVIシステムを同社の自動車に搭載して販売しており、すでにSYNC向けのクラウドサービスであるSYNC Serviceや音声でスマートフォンのアプリを操作できるSYNC APPLINKなどの機能を公開している。
CESではそれらに対応したアプリケーションを作成したい開発者向けの開発キットや、タッチ操作を可能にしたSYNCの2013年型モデルなどを展示していた。ヨーロッパの2社(アウディとメルセデス・ベンツ)がセンターコンソールにあるコマンドダイヤルでの操作を行うのに対して、フォードはこの点で差別化したい意向のようだ。
また、フォードはEVOSと呼ばれるコンセプトカーを展示した。EVOSは「クラウドに常時接続されているドライブ環境」をコンセプトにした車で、用意されているアプリケーションを利用してクラウドサービスを活用しながら運転できる。
フォードのブース | 2013年型のSYNCはタッチ機能をサポートするほか、性能などが大幅に向上する |
ナビだけでなくさまざまな操作がSYNCから可能になっている。スマートフォンのような感覚でタッチ操作できる | SYNC向けのアプリケーション開発キットを用意 |
フォードのコンセプトカーEVOS。ユニークなコックピットまわりのデザインが特徴 |
スマートフォンやPC、タブレットなどから利用しているクラウドサービス(FacebookやGoogleなどの各種サービス)が、自動車で運転しているときでも安全に利用できるようになっている。ドライバーの心拍数をハンドルから計測する機能なども用意されており、安全に快適にドライブできるようIT技術が多数搭載されている。
このため、内装のデザインも未来的になり、メーター表示もフルデジタルで、センターコンソール部分も液晶ディスプレイになっていた。
起亜が展示したのはEVコンセプトカー「NAIMO」と、それに搭載するIVIのコンセプトデザイン。いずれもフルデジタルのパネルに、さまざまな情報を表示できるほか、やはりクラウドサービスが利用をアピールしていた。
起亜のNAIMOは、電気自動車でクラウドを利用するためのコンセプトカー |
■ソニーはMirrorLink規格に対応した、スマートフォン操作のカーナビを展示
ソニーの米国法人は、昨年の9月にフランクフルトモーターショーで発表された、スマートフォンの画面表示と操作をIVIシステム上から行う「MirrorLink」規格に基づく、2DINのカーナビシステムを展示していた。
MirrorLinkは、PCで言うところのリモートデスクトップのような機能だ。要するにUSBやBluetoothなどでカーナビとスマートフォンを接続し、カーナビからスマートフォンの画面出力と操作性(具体的にはタッチパネル)を乗っ取り、カーナビ側の画面とタッチパネルを利用してスマートフォンを操作することを可能にするのだ。
つまり、ユーザーは、スマートフォンの小さい画面(3~4インチ)ではなく、カーナビの大きな画面(6~7インチ)のディスプレイとタッチパネルを利用して、スマートフォンのアプリケーションを利用することができる。このため、普段スマートフォンで利用しているアプリケーションをそのまま利用することが可能になるため、カーナビ側にアプリケーションをインストールする必要もないし、カーナビ側がプログラマブルである必要もない。
ソニーはHAV-701HDというヘッドユニットシステムを参考展示しており、このMirrorLink機能を、ソニーエリクソン(ソニーモバイルコミュニケーションズへ社名変更予定)とサムスン電子のAndroidスマートフォン、ノキアのSymbianスマートフォン(NOKIA 701)のプロトタイプを利用し、スマートフォンの画面がそのままカーナビに表示されるデモを行っていた。
このMirrorLinkの機能は、スマートフォンとカーナビの両方が対応している必要があるため、現在発売されているスマートフォンやカーナビではそのままでは利用することができない。OSそのもののアップデートが期待できるスマートフォン側は将来的な対応が期待できるが、OSのアップデートは基本的に行わないカーナビでは、最初からサポートされている必要がある。ぜひ日本向けの製品でも早期に対応してほしいものだ。
(笠原一輝)
2012年 1月 17日