インプレッション

テスラモーターズ「モデルS(氷上試乗)」

「さすがはEV」を味わわせてくれるプレミアムセダン

 アメリカ発の電気自動車(EV)メーカー・テスラモーターズといえば、これまでロータス「エリーゼ」をベースに仕立てていたEV「テスラロードスター」のみがクローズアップされるのみだった。だが、ここにきていよいよ日本市場に新たなるモデルを正式に投入する。そのクルマがプレミアムセダンの「モデルS」である。

 ロードスターでは2シーターということもあり、一部のマニアにしか受け入れられなかったが、今度のモデルSは5人乗りのセダンボディーを持ち、その気になれば2名のチャイルドシートをラゲッジスペースに追加することができる。もちろん、そのシートはあくまで臨時のシートでしかないが、いずれにしても実用性がかなり高まったことは紛れもない事実だ。これならマニアでなくても購入対象としてくれそう。一気に一般向けになった感覚がある。

 けれども全長はおよそ5m。全幅は2m弱というその巨体を見ていると、「きっとお高いんでしょうね」と尻込みしてしまう。だがしかし、2月12日に正式発表された価格を見れば、823万円(消費税8%込みの価格)からという触れ込みが。決して誰もが届く価格というわけではないが、プレミアムセダンでしかもEVという成り立ちにしてはリーズナブルに感じてしまう。

 ちなみにこの823万円のモデルは60kWhバッテリーを搭載した標準モデル(最大航続可能距離390km、0-100km/h加速6.2秒、最高速190km/h)となっている。85kWhバッテリーの標準モデル(最大航続可能距離502km、0-100km/h加速5.6秒、最高速200km/h)は933万円から、さらに85kWhのバッテリーに高出力モーターを組み合わせたパフォーマンスモデル(最大航続可能距離502km、0-100km/h加速4.4秒、最高速210km/h)は1081万8000円からとなっている。

 今回はそんな中でもっとも尖ったパフォーマンスに試乗。それも都市部だけでなく、氷上でのテストも行い、多方面からこのモデルSを見てみることにしよう。今回試乗を行ったクルマはすべて左ハンドル仕様だったが、正式に発売されるクルマはすべて右ハンドル仕様となる。

氷上コースは長野県の八千穂レイクに準備された。車両はともにパフォーマンスモデル

 最初に出会ったのは東京 青山にあるテスラモータースジャパンの東京ショールーム前だった。前述した通りその姿はかなりの巨体であり、存在感はハンパじゃない。リモコンキーを手渡されクルマに近づいてみると、ドアハンドルがせり出して僕を迎え入れようとしてくれている。このドアハンドルは走り出すと自動的に収納。空力に配慮した結果がそこにある。

 ドライバーズシートに収まれば優雅さ際立つサイズ感があり、かなりゆったりとしていることが瞬時に感じ取れる。さすがはプレミアムセダンを謡うだけのことはある。ただ、関心事はそこだけじゃない。センターに備えられた大型のモニターが異様な雰囲気なのだ。ナビゲーションから空調、さらにはオーディオやインターネットも可能にするこのモニターが、かなり独特な雰囲気なのだ。いじり始めればパワーステアリングのアシスト量や足回りのセッティングまで変更可能なことを確認。通りで運転席まわりのスイッチ類が少ないわけである。

 走ってみるとさすがはEVといった感覚で、スッと加速を重ねながらも走行音は皆無。試しにオーディオを鳴らせば、まるでオーディオルームにでもいるのかと錯覚するほどの空間が広がるのだ。また、走行感覚はとにかくドッシリ。さすがは車重約2100kgといった乗り味が襲ってくるのだ。その安定感と安心感、さらには包容力さえ感じてしまうから面白い。どこまでも守ってくれそうなその成り立ちは、ほかでは味わえない心地よい世界だ。

 ただ、大人しさばかりが際立つわけではない。高速道路に乗って全開加速すれば、スポーツカーかと勘違いしそうなほどの加速が襲ってくる。0-100km加速4.4秒という数値はダテじゃない。それも0-50km/hあたりまでの加速Gがかなり高いことから、タイム以上に早く走っている感覚が得られる。この豪快な加速を味わうと、EVであることさえ忘れてしまいそうになるほど走りに没頭してしまう。前後重量配分を50:50に近づけたこと、さらには重量の大半を占めるバッテリーを床下に配慮し、低重心としたことも走りのバランスをよくしているのだと感じる。さらにタッチパネルで足まわりを硬くし、パワステを重たくすると、小手先だけのスポーツではないことがより伝わってくるのだ。

路面に吸い付くように氷上を駆け抜ける

 そんな走りのよさを感じた数日後、今回は長野県の八千穂レイクに準備された氷上コースでこのクルマの走りを堪能することになった。そこを訪れてみると、準備されたモデルSにはスタッドレスタイヤではなく、スノータイヤが装着されていることに気づく。湖面にはうっすらと雪が乗っている状況だが、それを少しでも掻き分ければアッという間に氷が見えてくるこのステージ。スノータイヤでは力不足だと思うのだが……。

八千穂レイクの氷上コース。湖面にうっすら雪が残るが基本は氷上での試乗となった
モデルSのパフォーマンスモデルが今回の試乗車。ボディーサイズは4978×1964(ミラー格納時)×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2959mm。パフォーマンスは85kWhのバッテリーに最高出力310kW(416HP)/5000-8600rpm、最大トルク600Nm/0-5100rpmの高出力モーターを組み合わせる。試乗車はスノータイヤであるピレリ製「SOTTOZERO」(245/45 R19)を装着
モデルSのインテリア。インパネ中央に縦型の17インチタッチスクリーンを備え、エアコンや車両設定、インフォテインメントなどの操作に使う

 しかしながら、モデルSはそんな心配をよそにグイグイと加速を続けて行くから驚きだ。きっと車重があり、タイヤに対してしっかりと荷重が乗っているからこその世界なのだろうが、もしやこれはスタッドレスタイヤなのかと思うほど路面に吸い付くように氷上を駆け抜けてみせるのだ。それはブレーキング時にも言えることで、4輪が安定して制動してくれる感覚に溢れている。

 そんな走り味があるためか、それともスタビリティコントロールの出来栄えがよいのか、さほど破綻することなく走ってみせるから面白い。試しにスタビリティコントロールを解除して走ると、やや走り出しにナーバスさは残るものの、右足でコントロールしきれないようなことはないことを確認。EVならではのレスポンスのよさが光っていた。

 ただし、スタビリティコントロールがあってもなくても、スロットルに対するトルクの出方はやや唐突さが感じられた。例えばエコモードのようなものでスロットルの特性をダルな方向にセットできれば、そんなネガも消えるとは思うけれど。

 正直に言ってしまえば、ここまでスポーティに走らなくてもモデルSの魅力は十分すぎるくらいに感じられるハズ。“プレミアムなEV”としてリーズナブルな価格設定にしてくれたこと、そして390kmという航続可能距離が確保されていることを考えると、バッテリー標準モデルという選択肢もアリなのではないか。そう思った次第である。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。