レビュー
【IVIレビュー】テスラ「モデル S」
今後のカーインフォテイメントの姿を一歩先取り
(2015/4/14 00:00)
テスラモーターズの「モデル S」は、5ドアハッチバック形状のボディーを持つスポーツセダン。といっても、ボンネットの下にエンジンはなく、リチウムイオンバッテリーでモーターを駆動するEV(電気自動車)だ。インプレッションや装備などについては別の記事が詳しいので、興味がある方はそちらを参照していただきたい。
テスラモーターズ「モデルS(氷上試乗)」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20140304_637821.html
写真で見るテスラ モーターズ「モデルS」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/photo/20130419_596567.html
今回の記事で注目するのは、IVI(In-Vehicle Infotainmen)の表示装置としてインパネ中央にドンっと装着されている「センターディスプレイ」だ。最近の国産車では8型や9型のディスプレイを持つカーナビが増えつつあるけれど、こちらは一気にサイズアップしてなんと17インチ。解像度は非公開となっているため見た目で判断するしかなく、とりあえず現物のアスペクト比を図ってみると16:10なので、WUXGA(1920×1200ドット)ぐらいといった感じか。17インチのWUXGAディスプレイを実際に見たことがないためあくまで想像にはなるけれど、まぁ、そのぐらいの緻密さに見えるという辺りで勘弁してほしい。
さて、解像度の話はこのぐらいにして、この17インチセンターディスプレイ、ひと昔前ならデスクトップPC用としてごく普通に使われていたサイズなだけに、車内のインパネに設置された存在感は強烈だ。もちろんタッチパネル式なので、操作は画面を見つつ直感的に行うことができる。描画まわりに関してはスマートフォンやタブレットでおなじみであるNVIDIAのTegra 3を採用。OSはLinuxベースの独自開発となっている。このあたりは別記事の「NVIDIAがテスラ『モデルS』に2つのTegraを搭載した意図」が詳しい。
NVIDIAがテスラ「モデルS」に2つのTegraを搭載した意図
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120905_557245.html
このタッチスクリーンを使ってできることは、ラジオやBluetoothといったAV系ソースの切り替え、マップ、バックビューカメラ、ハンズフリー通話、装備やエネルギー関連のコントロールと幅広い。とはいえ、エネルギー関連以外は、ぶっちゃけてしまえば純正カーナビと大きくは変わらない。ただ、実際に使ってみると操作感はかなり異なるものとなっている。順に紹介していこう。
まず、画面構成は上部にステータスなどを示すエリア(仮にステータスバーと書く)、下部にエアコンの操作パネルが表示される。ここは基本的に常に表示される部分だ。そしてステータスバーの下にはメニュー用のアイコン、中央は各種情報の表示&操作エリアになっている。各種表示はキチンと日本語化されているため、スマホなどに慣れているなら、まったく違和感を覚えることなく操作可能だろう。また、メニューに表示されている機能は「アプリ」として提供されており、今後追加することが可能な仕組み。同社のリリースを見ているとかなり頻繁にアップデートが行われており、将来的にはもっといろんなことができるようになったり楽しめたりしそうだ。
マップ部分はGoogleとの共同開発によるもので、当然、マップはGoogle Mapsのデータを使うことになる。同地図の場合はローカルに地図データを持っていないため、別途通信システムが必要になるが、Wi-Fiのほか、日本仕様ではプラットフォームおよび3G回線にNTTドコモを利用している。さすがに“日本全国どこでも”とまではいかないまでも、ほとんどの場所で通信が行えるハズだ。
ハズなのだけれども、実は現時点で日本仕様ではカーナビとしての利用はできず、残念ながらただの地図としてしか使えない。とはいえ、現在地と地図を見ることができるからロードマップを持って歩く必要はないし、EVであるモデル Sにとっては命綱となる充電ステーションの検索も可能だ。最低限の機能は備えているから、とりあえずは何とかなる、ってところか。
実際に使ってみると、操作感は大きなスマホといった感じ。地図の読み込みには若干時間が掛かるものの、Tegra 3のパフォーマンスのおかげか、地図の操作はきわめてスムーズ。ピンチイン/アウトによる拡大/縮小、2点タッチによる回転、ドラッグによるスクロールと、スマホライクというかそのものといった感じ。ただ、3D表示には対応していないようだ。
使っていてもっとも残念に感じたのは、Google Mapsの地図は“カーナビとしては致命的に見づらい”ということ。どういうことかというと、見た目には美しいのだけれど道路表示のコントラストが低く、チラ見では道路を認識できないのだ。スマホ程度の画面サイズならまだしも、モデル Sの場合は17インチもあることが逆に災いしている感じ。いわば「見る」ための地図と、「調べる」ための地図の違いといったところか。この先、ルート表示が加われば違ってくるとは思うけれど、もう少し見やすくするためにはコントラスト強調表示のようなモードが欲しいところだ。
その一方で便利に感じられたのがWebブラウザ。ディスプレイのサイズが大きいからモバイル用ページを利用せずに済むし、地図との2画面表示ができるので、Webで行きたいところを見つけてマップで目的地を検索という流れもスムーズ。今はまだできないけれど、そのままシームレスにルート探索までできるようになれば、相当便利になりそうだ。
と、原稿を書いているところで朗報がもたらされた。この夏以降(詳細時期は未定)に予定されているアップデートでナビゲーション機能が実装されるとのこと。その際は目的地を設定すると、必要に応じて充電ステーション(スーパーチャージャー)に立ち寄るようなルートを自動探索する「トリッププランナー」も用意されるという。充電時間と走行時間の組み合わせを最小限に抑えるアルゴリズムを搭載するなど、今までのカーナビには縁がなかった機能だけに、どんなものになるか今から楽しみだ。
AVソースはCD/DVDドライブが物理的に用意されていないため、ラジオもしくはインターネットラジオ、USB接続したオーディオデバイス(に保存してあるファイル)を利用することになる。日本製のカーナビのように地デジを見ることはできないし、iPhoneを接続して車載器側でコントロールするなんてこともムリなので、ガラパゴス的デバイスに慣れたユーザーにはちょっと寂しく映るかもしれない。常時接続できる3G回線を活用して好きなインターネットラジオ局を聞くといった使い方がメインになりそうだ。
装備のコントロールに関しては、画面が大きいことがそのままメリットに繋がっている。単純な機能のON/OFFボタンだけではなく、操作による前後のイメージも用意されているためとても分かりやすい。サンルーフの開度をスライダーで調整できる、なんてあたりは実用的にもイイ感じだ。
ちょっと駆け足になってしまったけれど、未来感あふれるテスラ モデル Sのセンターディスプレイ。今後進んでいくであろうカーインフォテイメントの姿を一歩先取りしているのは確か。ただ、現状では熟成不足だったり、エアコンのようにタッチパネルよりアナログダイヤルのほうが便利だと感じられる部分があるのも、これもまた事実。どんな風に進化し、何ができるようになるのか。この先が楽しみなデバイスだ。