GTC2015

自動運転をGPU処理のディープラーニング(深層学習)で実現するNVIDIA

基調講演で、ジェン・スン・フアンCEOとイーロン・マスク テスラモーターズCEOが対談

2015年3月16日~20日開催

San Jose McEnery Convention Center

NVIDIAの共同創始者でCEOのジェン・スン・フアン氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、GPUソフトウェア開発者向けイベントとなる「GPU Technology Conference 2015」(以下、GTC2015)を、3月16日~20日(現地時間、以下同)の5日間に渡り、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ市のSan Jose McEnery Convention Centerにおいて開催している。2日目となった3月17日の9時からは、同社の共同創始者でCEOのジェン・スン・フアン氏による基調講演が行われた。

 この講演では、新しいハイエンドGPU、ディープラーニング(深層学習)の開発環境とそのためのハードウェア、同社の最新GPUロードマップ、自動運転向けのソリューションなどが発表されたが、いずれも“ディープラーニング”(英語でDeep Learning)が絡んだ話しになっており、NVIDIAにとってディープラーニングが非常に重要なキーワードになっていることをうかがわせる内容となっている。

 さらに、講演の後半では、NVIDIAの車載用SoC(System On a Chip)搭載車を販売するテスラモーターズ CEOのイーロン・マスク氏が登壇し、フアン氏と自動運転についてのビジョンを議論した。

NVIDIAのGPUへのニーズを高める武器となる“ディープラーニング”

 NVIDIAのフアンCEOは、「今回の基調講演では4つの分野で発表を行う。それが最新のGPUとディープラーニング、ディープラーニングの開発環境、GPUロードマップとディープラーニング、自動運転車とディープラーニングだ」と述べ、同氏が今回の基調講演で取り上げるテーマはいずれもディープラーニングと関係しているテーマであるとした。

GPUのアクセラレーション機能を利用したディープラーニングの研究などは例が増えている。というのも、ディープラーニングのような処理は膨大な処理能力が必要で、GPUのような行列演算の性能が高い半導体に適している処理だから

 ディープラーニングというのは英語で“Deep Learning”と呼ばれる学術分野となり、現在各方面から非常に注目されている。ディープラーニングとは、言ってみればコンピュータが複数の事象の組み合わせを考慮し、自律的に学習していく仕組みのこと。“ニューラル・ネットワーク”と呼ばれる人工知能を構築していくことで、人間の脳が認識する仕組みと同じような形で学習が行われていき、その成果をもって画像を判別したり、音声認識を従来よりも圧倒的に高い精度で行ったりできるようになる。

 今後、自動車が自動運転をしたり、ロボットが自律的に動いたりなどの機能を実装していくことになると、人間の脳と同じような働きをコンピュータが果たさなければならないため、このディープラーニングが各方面から注目されているのだ。

 現在NVIDIAはこのディープラーニングに非常に力を入れている。というのも、ディープラーニングは、GPUが非常に高い演算性能を実現する行列演算を多用するため、GPUのアプリケーション(活用例)として非常に優れているからだ。NVIDIAの他社に対する強みはこのGPUにあるため、ディープラーニングが多用されるようになればなるほど、NVIDIAのGPUへのニーズが高まるという狙いがあるものと考えられる。

 GTC2015は、フアン氏の講演がディープラーニングにフォーカスを当てていた内容だっただけでなく、18日と19日に行われるGoogle、Baiduによる基調講演でもディープラーニングがテーマになっているなど、ディープラーニングに多くの時間が割かれている。つまり、それだけNVIDIAにとって、今欲しいアプリケーションがディープラーニングだと考えることができるだろう。

新GPU、新しいディープラーニングの開発環境、ロードマップなどを説明

 フアン氏は講演の中で、新GPU、ディープラーニングの開発環境、同社のGPUロードマップに関しての説明を行った。新GPUは、「GeForce GTX TITAN X」という製品で、従来の同社のハイエンドとなる「GeForce GTX 980」に比べて内蔵の演算器(CUDAエンジン)が増え(2048から3072)、単精度で7TFLOPS、倍精度で0.2TFLOPSの演算性能を持ち、12GBのビデオメモリという強力なスペックとなっている。価格は999ドル(日本円で約12万円)となる。

NVIDIAが発表した新しいGPUとなるGeForce GTX TITAN X。従来製品に比べて大幅に性能が向上している
GeForce GTX TITAN Xをディープラーニングに利用した場合の性能向上。16コアのXeonプロセッサで演算すると48日かかる処理がわずか3日で済む
GeForce GTX TITAN Xの価格は999ドル(日本円で約12万円)

 また、フアン氏はDIGITS(デジッツ)と呼ばれる、開発環境の提供を開始することを明らかにした。DIGITSは、ディープラーニングのソフトウェアを開発するときに利用できるソフトウェア開発キット。NVIDIAのWebサイト(https://developer.nvidia.com/digits)から、開発者登録することでダウンロードできる。フアン氏はこのDIGITSを利用できる開発プラットフォームとして、前出のGeForce GTX TITAN Xを4枚搭載した「DIGITS DevBox」を5月から1万5000ドル(日本円で約180万円)で発売する予定であることも明らかにした。

 さらに、昨年のGTCで公開したロードマップの中で明らかにされた次世代GPUとなる「Pascal(パスカル)」についても紹介し、特にディープラーニング向けに利用した場合には、現行世代となる「Maxwell(マクスウェル)」に比べて10倍の性能を実現できるとアピールした。

同社のGPUを利用してディープラーニングの研究を行う時に必要なソフトウェアを開発するDIGITSを提供する
DIGITSを利用するためのスーパーコンピュータ相当の機能を持つDIGITS DevBoxを発表。GeForce GTX TITAN Xが4枚内蔵されている
DIGITS DevBoxは1万5000ドル(日本円で約180万円)で5月から販売する予定
ディープラーニングに利用したときという前提条件は付くが、NVIDIAの次世代GPUとなるPascalでは、現行世代のMaxwellと比較して10倍の処理能力を実現する

自動運転車の開発ソリューション「DRIVE PX」は1万ドルで5月から提供

 次いでフアン氏は同社が推進する自動運転車の技術についての解説に移行した。NVIDIAは1月のInternational CESで「DRIVE PX」という自動車向けのコンピューティングボードを発表した。DRIVE PXには、2つのTegra X1(NVIDIAの最新SoC、Maxwellの開発コードネームで知られる最新のGPUが内蔵されている)と12個のカメラインターフェイスが搭載されており、これを利用してADAS(Advanced Driving Assistant System:先進運転支援システム)や自動運転車向けのコンピューティングボードとして利用することができる。

現在のADASは非常にシンプルな機能が実装されているだけ
次世代のADASではもっと複雑な処理ができるようになる
DRIVE PXの機能を利用することで、ディープラーニングの機能を自動走行に応用できるようになる
DRIVE PXのボードを紹介するフアン氏

 このDRIVE PXでもディープラーニングは利用可能で、前出のDIGITSを利用して対応するソフトウェアを作ることができる。このDRIVE PXを説明するために、フアン氏は比較例として「Project Dave」という自動走行を行うモデルカーの例を紹介した。

 Project Daveはディープラーニングの機能が実装されている自動走行のモデルカーで、人間による学習データのほか、カメラから撮影された情報を元に自律的に自動走行を行うことが可能になっている。トレーニングなしでは障害物を避けて走れなかったが、5万2000枚のイメージでトレーニングを完了したときと、22万5000枚のイメージでトレーニングを終了させた状態での自動走行の様子を公開した。フアン氏は「このDaveと比較してDRIVE PXを使えば3000倍は高速になっている。それにより自動走行車を開発することができる」と述べ、DRIVE PXを利用した自動走行車の研究を自動車メーカーの関係者などに呼びかけた。

Project Daveと呼ばれる自動運転のモデルカーの取り組み
Project Daveの実装の様子。22万5000枚のイメージでトレーニングを終了させた状態での自動走行では、障害物を自律的によけて走る動画が公開された
Daveの例とDRIVE PXの比較。DRIVE PXを利用すると、Daveの3000倍の性能を実現できる

 フアン氏は「このDRIVE PXは、5月から1万ドル(日本円で約120万円)で販売を開始する予定だ」と述べ、具体的な出荷時期と価格にも言及した。これにより、自動車メーカーがこのDRIVE PXと、前出のDIGITS DevBoxを併せて購入すると、自動車側も、クラウド側になるサーバー側の開発環境も整うことになり、本格的に自動運転車を開発する環境が整うことになる。

DRIVE PXは5月から1万ドル(日本円で約120万円)で販売を開始する予定

自動運転はエレベータのようなあたり前の技術になる

 講演の最後には、テスラモーターズのCEOであるイーロン・マスク氏がゲストとして呼ばれ、自動運転車の未来についてのディスカッションが行われた。

 マスク氏はNVIDIAの自動運転技術の実現について触れ「NVIDIAのGPUは自動運転の実現にキーになる技術だ」と述べ、NVIDIAの自動運転技術への取り組みを賞賛した。ただし、自動運転の実現は簡単ではないと、その取り組みに時間がかかることも同時に説明した。

「5~10mph(8~16km/h)のレンジでは自動運転の実現は難しいことではない。しかし、10~50mph(16~80km/h)のレンジでは、歩行者、対向車などさまざまな要素を検討しなければならないために大変難しい。しかし、一度50mph以上で高速道路に乗ってしまえば、自動運転の実現は容易だ」と述べ、大事なことは、一般道を走る速度域でどのように自動運転を実現するかだと説明した。また、それと同時に現在世界中の道では20億台のクルマが走り、年間1億台のクルマを出荷しており、全部のクルマが自動運転に対応したクルマに入れ替わるまで単純計算でも20年かかる計算になり時間がかかると述べたほか、セキュリティの確保も重要だと説明した。

テスラモータースCEOのイーロン・マスク氏は起業家としても知られており、宇宙開発のSpaceXの創始者でCEOでもある
フアン氏とマスク氏のトークは座談会の形式で進められた

 しかし、それでもマスク氏は自動運転技術は普通の技術になると考えているという。「エレベータのように普通の技術になると考えている。エレベータに乗れば安全に自分が行きたい階に連れていってくれるが、自動車もそのようになるだろうと予想している」と述べ、今後近い将来に自動運転が実現するとマスク氏自身は予想していると述べた。

笠原一輝