CES2014
NVIDIA、「Tegra K1 VCM」を用いたデジタルコクピットソリューション「PROJECT MERCURY」
クアッドコアCPU+192コアGPUで、自動車開発を効率化
(2014/1/7 12:44)
NVIDIAは1月5日(現地時間)、新たなモバイルプロセッサ「Tegra K1」を発表した。Tegra K1は、クアッドコア(4コア)CPUと192コアのGPUを搭載。とくにグラフィックス処理を担うGPUについては、電力効率に優れたスーパーコンピュータ世界上位10台に使われているものの自動車向けバージョン。このTegra K1が自動車にスーパーコンピュータ並の処理能力をもたらすとしている。
同日、「2014 International CES」に合わせて米国ネバダ州で「Tegra K1」に関するプレスカンファレンスを開催。Tegra K1に関しては、ゲーム用途の話も語られたが、Car Watchでは自動車関連についての記事をお届けする。
NVIDIA社長兼CEOのジェンスン・ファン氏が、Tegra K1に関するプレゼンテーションを「ゲーム」「自動車」「マーケティング」の3テーマで実施した。
最初のゲームのセッションではTegra K1の概要を説明。詳細な性能は語られなかったものの、32bitのARM Coretex-A15アーキテクチャCPUを4基搭載するクアッドコアバージョンと、62bitのDenverコアを2基搭載するデュアルコアバージョンが存在することなどが語られた。クアッドコアバージョンの性能比較の例に出したのは、一世代前とはなるものの3Dグラフィックスに優れたコンシューマゲーム機「Xbox 360」と「Playstation 3」。Tegra K1はこれらコンシューマゲーム機を超える能力を持ちながら、モバイルプロセッサに必要な5Wでの動作を実現している。
また、NVIDIAはこれまでTegra 3、Tegra 4と、モバイルSoC(System On a Chip)と進化させてきたが、モバイルのグラフィックスアーキテクチャとデスクトップPCでも使われているグラフィックスアーキテクチャではギャップがあったとし、このTegra K1ではTesla、Fermiに続くKeplerアーキテクチャをグラフィックスアーキテクチャに採用。そのGPUコアを192基搭載し、強力な3D処理性能を獲得している。
ジェンスン・ファン氏は、Tegra K1とAndroid OSを搭載したタブレット端末で、そのリアルタイムな描画性能をデモした。
Tegra K1のゲームにおける性能を紹介した後、このコンピューティングパワーが自動車にもたらすメリットを紹介。NVIDIAはその高い処理能力を持つコンピューティングソリューションで、自動車のデザイン、構造解析&シミュレーションなど設計・製造に関わる部分から、実際に自動車に組み込んで情報を処理する機能を提供している。
ファン氏が自動車のセッションで最初に行ったのは、クラウドコンピューティングによるリアルタイムレンダリングデモ。これはネットワーク経由で計算能力を提供するデモで、クルマのボディーに映り込む周辺の風景までレンダリング。完全な物理モデルシミュレーンを行いつつ描かれているという。クルマの向きを変えると、粗いレンダリング映像が描かれる瞬間があるものの、ほんの数秒で計算がネットワーク経由で行われ、写真と見まがうほどの画像が生成される。
レンダリング画像のため、視点変更も容易。ボディーカラーの変更や、ボディー表面の質感も変更可能で、高い反射率を持ち描画計算が難しいと思われるヘッドライト内部の様子もすぐに再現されていた。もちろん、環境光や周辺のオブジェクトの変更も可能。ボディーをクロームメッキ加工にしたデモも実施され、ボンネット上にはクルマが置かれた建物の内部構造や天井の配管までが映り込んでいた。
Tegra K1 VCMというモジュールで提供されるTegra K1
ファン氏は、すでにNVIDIAの半導体を搭載した自動車が4500万台道路上を走っており、20以上のブランド、100以上のモデルで採用されているという。その際に紹介されたスライドには、BMW「i8」、アウディ「A3カブリオレ」、テスラ モーターズ「モデルX」が登場していた。
タブレット端末などモバイル機器にはSoCという形で提供されるTegra K1だが、車載用としては「Tegra K1 VCM」というモジュール形態で提供される。これは前世代のTegraシリーズから行われていたことで、モバイル機器と比べて商品寿命の長いクルマのために、互換性確保、交換・修理などの容易性を狙ってのものだ。
ファン氏は、Tegra K1に搭載されるKepler世代のGPUコアを使ったスーパーコンビュータが、世界のエネルギー性能に優れるスパコンランキングのトップ10を独占していることを紹介。省電力性に優れながら、計算能力の高いものであることを実績で示した。ちなみに、世界一は東工大の油浸コンピュータ「TSUBAME-KFC」で、KFCはKepler Fluid Coolingから名付けられている。また、6位に入った同じ東工大の「TSUBAME 2.5」は、計算能力だけで比較しても世界11位で国内2位。つまり、あのスーパーコンピュータ「京」に次ぐ計算力を持っている。
計算処理を行うコア数が異なるためスーパーコンピューと直接比較できるわけではないが、1つ1つの計算能力が高くなければ世界最高の省電力性は獲得できないだろう。その計算力を持つTegra K1は、近年の自動車開発で注目されている先進運転支援システム(ADAS)にも利用できるという。
先進運転支援システムの実現のためには、前方や後方を認識するカメラやレーダー、ソナーなどから入るさまざまな情報をリアルタイムに処理していく必要がある。スキャン間隔にもよるが、直前の情報と比較して差分を抽出し、単体の情報でも何らかのフィルタリングを行うことで、必要な情報を分析する能力がリアルタイムで要求される。
ファン氏がデモしたのは、前方を走る車両、車線、側道を走る自転車、制限速度標識を認識していく映像で、認識した個所が別の色でマークアップされていた。
映像解析デモの後は、リアルタイムのレンダリング性能のデモが続き、クラウドコンピューティングによる自動車の物理シミュレーションデモほどではないものの、Tegra K1の能力の一端が示された。
この能力を持つTegra K1によるデジタルコクピットの実現が「Project MERCURY」になる。ファン氏がProject MERCURYとして紹介したのは、Tegra K1を搭載したタブレット端末でデザインツールとなる「UI Composer」を操作するデモ。タッチパネル上でメーターパネルのテクスチャをリアルタイムに変更でき、メーターパネルを見る角度や場所も自由に指定できる。メーターパネルそのものが3Dデータでデザインされているため、針と文字盤が立体的に配置されているほか、半透明の部品もリアルタイムに描画されている。
もちろんデジタルデータのため、表示内容は自由に変更することが可能。ファン氏はそれらのデジタルデータをパックでダウンロードし、着せ替え感覚でメーターパネルの変更が楽しめる未来を語っていた。
デジタルメーターパネルは一部の高級車で採用されつつあり、その簡易版であるマルチインフォメーションモニターは多くのクルマに採用され始めている。針や文字盤といった機械部品から、小さなLCDによる新しいメーターパネルへの移行は過渡期であり、開発における自由度の高さ、部品点数の少なさ、そして見た目の美しさや使い勝手のよさなどから、デジタルメーターパネルは広く普及していくことになるだろう。そもそも、機械的なケーブルで車速信号を伝えているクルマはすでに量産車に存在していない。デジタル信号で車速やエンジン回転数がやりとりされている以上、メーターパネルの最終的なアウトプットがデジタル画像であることに不思議はないだろう。
NVIDIAは高いコンピューティング能力を持つTegra K1を武器に、デジタルメーターパネル、先進運転支援システムなどのソリューションを自動車業界に提案していく。世界の新車販売台数は8000万台以上。Tegra K1でデジタルメーターパネルを描画し、Tegra K1で先進安全支援システムを構築し、Tegra K1でナビゲーションなどの情報画面を描画すれば、クルマは複数のTegra K1を搭載していくことになる。さらに、新興国の経済成長などで新車の販売台数の増加が見込まれており、そこには広大な市場が広がっている。
なお、Tegra K1 VCMを用いたデジタルコクピットソリューションの映像はCar Watchの関連記事を、Tegra K1の処理能力についてはPC Watchの記事を参照していただきたい。
●NVIDIA「Tegra K1 VCM」のデジタルメーターパネルを映像で紹介
http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/CES2014/20140107_629726.html
●後藤弘茂のWeekly海外ニュース「NVIDIAが究極のモバイルSoC「Tegra K1」を発表」(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaigai/20140107_629706.html