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NVIDIA GTC2013に見るオートモーティブ向けソリューション
自動車向けTegraソリューションの新パッケージも登場へ
(2013/3/26 14:13)
半導体メーカーのNVIDIAは、3月18日~21日(現地時間)の4日間にわたり、GTC(Gpu Technology Conference)を、アメリカ合衆国サンノゼ市のサンノゼマクネリーコンベンションセンターにおいて開催した。この中でNVIDIAは、新しい自動車向けのパッケージを公開したり、米国の自動車メーカーであるクライスラーの幹部による講演を行うなど、GPUの自動車ビジネスへの採用に向けてアクティビティを行った。
ヨーロッパ車で採用が進むNVIDIAの自動車向けTegraソリューション
NVIDIAのTegra(テグラ)は、元々はスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイス向けに設計されたSoC(System On a Chip、1チップでコンピューターを実現する半導体のこと)で、自動車のIVI(車載情報システム)やメータークラスター向けなどにも販売されている。自動車向けのTegraは、製造段階から自動車メーカーの要件(稼働保障温度や製品のライフ)を満たすようにカスタマイズされた専用品になっている。
すでにヨーロッパの自動車メーカーであるAudiやBMWなどの市販車のIVIとして採用されているほか、米国ではテスラモーターズのEV(電気自動車)「モデルS」に採用されるなど、採用例が広がっている。
NVIDIAは1月にラスベガスで開催されているInternational CESにおいて、スマートフォンやタブレット向けのTegraシリーズの最新版となるTegra 4を発表しており、今後自動車向けにも投入することになる。NVIDIAはそうしたTegraシリーズ向けに、新しいパッケージを投入していく。
現在NVIDIAはVCM(Visual Computing Module)とよばれる小型基板に、SoC、メモリ、ストレージなどIVIを構成するのに必要なデバイスをすべて搭載したモジュールを提供しており、自動車メーカーはこのVCMを搭載するためのソケットを自社のシステムに用意するだけで簡単にTegraベースのIVIシステムを構築することが可能になっている。
NVIDIAは、このVCMの最新版となるVCM 3.0を投入する計画をGTCで明らかにした。このVCM 3.0はBGAパッケージの形状を採っており、自動車メーカーは自社システム側にBGAの配線基板を用意すれば、容易にTegraを自社システムに実装できる。NVIDIAでは最初にリリースしたVCM(VCM 1.0と呼ばれている)でそうだったように、複数世代でピン互換になるように配慮しているのが特徴で、Tegra 3ベースのVCMシステムをTegra 4ベースのVCM 3.0に置き換えるなどのアップグレードが容易にできる。今後NVIDIAは自動車メーカーに対して、VCM 3.0の採用を呼びかけていくが、従来のVCM 1.0の提供も続けていく予定で、VCM 3.0のBGAパッケージ基板上に実装した形のVCM 1.0も提供するという。
コンピュータデザイン導入で、柔軟になったクライスラーのカーデザイン
GTCの会期4日目(3月21日)には、3つ目の基調講演としてクライスラーグループ 製品デザイン担当上級副社長 ラルフ・ジル氏による講演が行われた(なお、全体的な基調講演に関しては別途僚誌PC Watchの記事を参照していただきたい)。
ジル氏はビッグ3の一角であるクライスラーの製品デザインチームの責任者で、自動車の設計やデザインなどに関して責任を負っている。ジル氏は「デトロイトに代表される自動車産業は以前は重厚長大な産業だったが、今や世界最大の家電メーカーになりつつある」と述べ、自動車産業は単なる移動手段としての自動車を作るのではなく、デジタル機能をあわせ持った家電のような製品を作る産業へと変わりつつあると指摘した。
さらにジル氏は「ITが自動車のデザインを変えつつある。クライスラーはフィアットの傘下となり、フィアットと協力してデザインをすることも重要になりつつある。そうしたことがITで実現できている」と述べ、自動車のデザインプロセスがITにより大きく変わりつつあることを指摘した。かつてであれば、自動車のデザインは、デザイナーがイラストとして描き、それを元にしてクレイモデルと呼ばれるものを作成してデザインをチェック、これを何度も繰り返し行ってきた。このため、車のデザインを完成するには膨大な時間とコストがかかっていたのだ。
このプロセスは、現在ではすべてコンピューターにより置き換えられたと言う。「現在ではCDDとよばれる手法を利用して、自動車の表面のデザインが行われている。以前はデザインしてそこからクレイモデルを作るだけで数カ月かかっていたが、コンピュータを利用すれば数秒で完了する」と述べ、コンピューターによるデザインプロセスにすることで、時間の短縮が可能な具体例を挙げながら、短期間でより優れたデザインの車を投入できるようになったと述べた。
また、このほかにもQC(クオリティコントロール)などもコンピューターのシミュレーションで代替することが可能であり、設計した後のロジスティックの効率化などにもGPUなどを利用したシミュレーションを行っていると言う。こうした作業は「以前は数万ドル(日本で数百万円)をかけて作っていた試作パーツなども数千ドル(数十万円)で製作できるようになった」(ジル氏)とコスト削減効果も大きいとした。
スマートフォンなどに影響を受け新しいユーザーインターフェイスを模索中
ジル氏は自動車のUI(ユーザーインターフェイス、操作体系)の進化についても触れ、「UIは大きく進化している。スマートフォンなどの登場によりユーザーは同じような機能を車に求めている。昔は“ナイトライダー”のような自動車のUIは夢でしかなかったが、今は夢ではなくなっている」と述べ、クライスラーがモーターショーなどに出展したスワイプとジェスチャーを利用して車を操作するUIの試作をどのように作成したのかを説明した。
ジル氏によれば、まさにPCやスマートフォンのUIを作るような環境でUIを試作し、それをショーカーに実装したのだと言う。そうしたUIの開発は市販車の開発にも役立てられており、液晶ディスプレイを利用したメータークラスターやIVIなどのUI開発に使われていると言う。ここでも設計はすべてコンピューター上で行われており、デザインプロセスそのものはIT機器を開発する環境とまさに同じになっている。
さらに、将来への応用としては「センサーをさらに活用していく必要があると考えている。現在ゲーム業界と協力してドライバーが寝ていないかを感知する研究を行っている。そうした研究を深めていけば、本当に自動運転の自動車を開発することも可能になるだろう」と述べ、GPUコンピューティングを含むITをさらに活用していくことで、より安全でより快適な夢のような車が実現できる日が来るはずだとまとめ、講演を終了した。