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【GTC2014】NVIDIA、証券アナリスト向け説明会で自動車事業について解説
「自動車メーカーが求めるのは、チップサプライヤーではなくソリューションサプライヤーだ」
(2014/3/28 12:49)
- 2014年3月24日~27日開催(現地時間)
半導体メーカーのNVIDIAは、同社のソリューションや技術などを同社の顧客や開発者に対して説明するイベント「GTC(GPU Technology Conference)」を、3月24日~27日の4日間に渡りアメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ市にあるサンノゼコンベンションセンターで開催している。
2日目となる3月25日には、同社の共同創始者で社長兼CEOのジェンスン・ファン氏による基調講演(別記事[http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140326_641290.html]参照)が行われたが、その基調講演終了後には証券アナリスト向けに同社の戦略を説明する説明会が開催された。
この中で同社の副社長兼オートモーティブ事業部 事業部長 ロブ・チョンガー氏は、同社の自動車向け事業について説明を行った。チョンガー氏は「自動車向けの半導体はとっかかりに過ぎない。大事なことは最もコストがかかるソフトウェアソリューションを顧客に提供できるかどうかだ」と述べ、同社が自動車メーカーに対して提供しているUI ComposerやVisionWorksなどのミドルウェアが同社の自動車向けソリューションの強みだとアピールした。
コンピュータを利用した自動車の開発、設計に利用されるNVIDIAのGPU
今回の証券アナリスト向け説明会に自動車事業担当を説明する役割として登壇したロブ・チョンガー氏は、1995年にNVIDIAに入社し、同社の最初の製品であるNV1(エヌブイワン)の製品マーケティングの責任者を務めたあと、組み込み製品事業部長、ノートブックPC向けGPU事業部長、コーポレートマーケティング担当副社長、IR担当副社長などを歴任したNVIDIAの古参幹部の1人だ。NVIDIAにとっては、共同創業者で社長兼CEOのジェンスン・ファン氏の右腕と考えられている有能な幹部を、自動車事業担当に当てたことにもなり、そのことからもいかにNVIDIAが自動車事業に力を入れているかうかがい知ることができる。
そのチョンガー氏は「NVIDIAにとって自動車向けのビジネスというのは、ここ数年始めたモノではない。12年前からNV18をアウディに提供することから参入しており、実はロングタームのビジネスなのだ」と述べ、NVIDIAにとって自動車事業は、長期間行ってきたビジネスが結実したものなのだと強調した。
チョンガー氏が自動車向けのビジネスとして話を始めたのが、自動車メーカーの研究開発部門向けのGPU販売だ。よく知られているように、現在の自動車メーカーの研究開発では、すでにコンピュータを利用した開発が不可欠になっている。以前の記事でも紹介したように、本田技研工業(以下ホンダ)の子会社で研究・開発を担当する本田技術研究所は、TOPS(別記事[http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130805_610233.html]参照)と呼ばれる試作モックアップがなくても実車の状態をコンピュータ上で確認できるシステムを開発して、すでに新車開発に活用している。
そうしたシステムに利用されているのが、NVIDIAのワークステーション向けGPUとなるQuadro(クアドラ)、さらにはHPC向けのGPUとなるTesla(テスラ)という2製品で、自動車メーカーはQuadroやTeslaの持つ並列処理の高い演算性能を利用して画面をレンダリングしたり、さまざまなシミュレーションを行っている。
チョンガー氏は「現在、自動車メーカーでNVIDIAのGPUを使っていないメーカーはないと信じている。例えば、GMは2万5000台、VWグループはドイツ国内だけでも1万2000台のNVIDIAベースのワークステーションを導入している」と述べ、NVIDIAにとってもコンピュータによる自動車の設計が大きなビジネスチャンスになっていると指摘した。NVIDIAは今回、GTCの基調講演(別記事[http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140326_641290.html]参照)で、新しいIRAY VCAというKeplerベースのGPUを複数搭載したレンダリング用サーバーを発表し、ホンダのTOPSシステムをその上でリアルタイムで動かすというデモを行い注目を集めた。
チョンガー氏は「こうしたコンピュータ支援の設計は、将来的には自動車を販売するときのツールとしても活用できる。NVIDIAが提供するNVIDIA GRIDというクラウドGPUの仕組みを利用すれば、ディーラーや消費者のレベルで、自動車の写真品質のCGにアクセスして、インテリアの色を変えるとどうなるのかなどを彼等のタブレット端末などで確認するといった用途にも使える」と述べ、将来的には開発、設計段階だけでなく、マーケティングや販売の段階にも活用可能だとした。
2013年に大きく飛躍したTegraビジネスは、今後20億ドルを超えるビジネスに
次いでチョンガー氏が説明したのは、クルマに直接搭載される半導体製品となる「Tegra(テグラ)」について。Tegraは元々、スマートフォンやタブレットなどの組み込み製品向けに開発されたものだが、自動車向けの半導体としても大きな注目を集めている。チョンガー氏は「車載用Tegraのニーズは3つある。1つめは車載情報システム用であり、2つめがメータークラスター用、そして3つめがドライバー支援だ」と述べ、センターコンソールなどに設置される車載情報システム(現在のカーナビゲーションにインターネットへアクセスする機能を付加した情報端末)、いわゆる“デジタルコックピット”などと呼ばれるメータークラスターのデジタル化、さらにADAS(エイダス、Advanced Driving Assistant System、先進運転支援システムなどと日本語訳される)と呼ばれるドライバーの運転支援機能(例えば、前車との車間距離を見て自動でブレーキをかける機能などのこと)という3つをターゲットにした製品の開発を行っていると説明した。
チョンガー氏は「会計年度2014年(筆者注:2013年2月~2014年1月)にはNVIDIAの自動車向け半導体出荷台数は450万台になった。デザインウイン(実際に発売された訳ではなく、自動車メーカーから発注を受けた数のこと)ベースの予測では、複数の自動車メーカーから複数モデルで採用が予測されており、会計年度2014年には累計が2500万個に達していると予測している。これは将来売り上げが20億ドル(日本円で約2000億円)を超えることを意味する」と述べ、自動車メーカーからの受注が順調に進んでいるとした。
なお、チョンガー氏が示したグラフによれば、会計年度2013年(2012年2月~2013年1月)には1500万個だった累計のデザインウインが、会計年度2014年には2500万個に増えている。つまり、1年で1000万個(自動車の台数ではなく、1台の車体に複数個搭載される可能性がある半導体の数)近い発注があった計算になるので、いかにNVIDIAの自動車事業が急速に成長しているかをこの数字からもうかがい知れる。
チョンガー氏は「自動車メーカーによれば、自動車用のコンピュータ開発コストの80%はソフトウェア開発に占められている。このため自動車メーカーは、増え続けるソフトウェア開発のコストを最適化できるソリューションを求めている、自動車メーカーが求めているのはチップサプライヤーではなく、ソリューションサプライヤーなのだ」と述べ、同社がTegraと共に提供している、GPUコンピューティングを実現可能なCUDAやVisionWorks、UI Composerに代表される開発環境などのソフトウェアソリューションがNVIDIAの自動車向けビジネスの強みだと強調した。
アウディ、BMW、テスラなどに続々と採用され、GTCでアピールされる
最後にチョンガー氏は、顧客となる自動車メーカーから発売されたTegra搭載の自動車を紹介した。最初に紹介されたのは、自動車向け製品としては同社の最初の顧客となったドイツのアウディで、同社のデジタルメータークラスターとなるFPKにTegra 3が、リアシート向けのスマートディスプレイ(要するに車内専用タブレット)にTegra 4が、そして今回のGTCの基調講演でも登場したアウディの自動運転システム(zFAS)モジュールを搭載したA7ベースの試作車にTegra K1が搭載されていると説明した。チョンガー氏は「アウディはTegraを搭載したA3を、自動車メーカーとしては初めてシリコンバレーで発表した」と述べ、自動車メーカーもそうしたコンピューターとしての価値を認め、コンピュータを重視するような消費者に向けたマーケティングを始めていると強調した。
そのほかにも、BMWはミニからロールスロイスまでという普及価格帯から高級車まで採用し、Tegraを搭載したi3を今年の春に、i8を今年の夏に投入すると述べたほか、メータークラスターと車載情報システムに2つのTegraを搭載しているテスラモーターズのモデルSなどに採用されていることなどを説明した。