エヌビディア、デュアルコアSoC「Tegra 2」説明会
年内には5倍、2014年には75倍の性能へ

デュアルコアSoC「Tegra 2」

2011年4月13日開催



 エヌビディアは4月13日、モバイル向け・車載向けデュアルコアSoC「Tegra 2」の説明会を開催した。Tegra 2は、アウディやBMW、テスラ・モータースのIVI(In-Vehicle Infotainment、車載向け情報システム)への採用が発表されているが、この説明会はTegra 2を搭載するLG製タブレット端末「Optimus Pad L-06C」の発売と関連して行われたもの。

 そのため、モバイル用途を中心としてものとなっていたが、Tegra 2の将来像についても触れられていたので、本記事ではTegra 2の概要や、その将来像についてお届けする。

エヌビディア ジャパン テクニカル・マーケティング・エンジニア スティーブ・ザン氏

「Tegra 2は一言で言えばSoC」
 Tegra 2に関する説明を行ったのは、エヌビディア ジャパン テクニカル・マーケティング・エンジニアのスティーブ・ザン氏。ザン氏は、「Tegra 2は一言で言えばSoC。パソコンに搭載されているものがワンチップに入っている」と説明する。SoCとは、システム・オン・チップのことで、さまざまな機能を持つシステムが1つのチップに統合されている。

 Tegra 2では、一般的な演算を受け持つARM Cortex-A9プロセッサーが2つ、HDビデオ エンコーダー、HDビデオ デコーダー、オーディオプロセッサー、カメラなどの画像を処理するイメージプロセッサー、グラフィックスを処理する8コアのGeForceプロセッサー、システム管理を行うARM 7プロセッサーの8つのプロセッサーのほか、メモリやUSB、HDMIなど各種インターフェースを1つのチップに搭載。異なるアーキテクチャのプロセッサーを搭載することから、ヘテロジニアスタイプのプロセッサーとなる。

Tegra 2は5セント硬貨より小さい。このチップの中に、8つのプロセッサーが搭載されているTegra 2の構成。異なるアーキテクチャのプロセッサーを搭載するヘテロジニアスタイプTegra 2のパフォーマンスの例。比較対象となっているのは、モバイル向けの他社製プロセッサー

 ザン氏は、Tegra 2が初のモバイルコンピューティング向けデュアルコアであることから、従来のシングルコアプロセッサーと比べ、より快適なマルチタスク処理、より速いWebブラウジングを実現できると言う。また、同社がアドビとパソコン分野でこれまで協業してきたため、Webコンテンツで数多く利用されているFlashを、より高速に実行でき、快適に楽しめるとする。

 また、グラフィックス処理に8コアのGeForceプロセッサーを搭載することから、従来よりもリアルなゲームを楽しめ、Tegraバージョンのゲームプログラムでは、詳細なディティール、高度なエフェクト、背景の動的なアニメーション処理などが再現できる。

Webブラウジングの速度。他社製のモバイル向けプロセッサーと比べて高い性能となるFlashやHTML5の実行速度も速い同社が得意とするゲーム分野。8コアのGeForceプロセッサーによって処理される
Tegra向けのゲームでは、処理能力に余裕があるため、グラフィックスを向上させている
グラフィックスだけでなく一般的な処理能力も高い。そのため、高度なAI処理を実行可能実際の動作例。中央が通常版で右がTegra向け。中央の宇宙船の表面処理がより複雑なものになっている

 Tegra 2は、処理能力が高いだけでなく、デュアルコアであるため省電力にも優れているとし、ザン氏は1つの計算式を紹介した。

POWER=f(周波数)×C(キャパシタンス)×V(電圧)2

 上記の式は、半導体での消費電力の関係を示すもので、周波数は命令を実行する周波数を表し、キャパシタンスは半導体の回路量を表す。シングルコアのプロセッサーでは、FlashビデオやJavaスクリプトなど多数のコンテンツが掲載されたWebサイトの表示に、1000MHzの周波数と1.1Vの電圧でフルパワーの処理能力が必要なのに対し、デュアルコアでは550MHzの周波数と0.8Vの電圧ですみ、同じ処理能力を約40%少ない消費電力で得られる。

シングルコアCPUでのWebサイトの表示例。右側が処理能力グラフ。80%を超えている同じWebサイトをマルチコアで表示する。処理能力は40%超と20%超。まだまだ余裕がある消費電力の計算例
実際のテスト結果を元に電圧は算出されていると言うデュアルコアのほうが、約40%低い消費電力で処理が行われるTegra 2の電力制御。必要なときに必要な個所へ給電される
実際の電力制御例。最初にCoretex-A9プロセッサーに給電され、次に画像表示が必要となることから、GPUに給電されるTegra 2は、デュアルコアを特徴とし、Webブラウジングやゲームまでも楽しめるSoCであると言う

 また、Tegra 2はオーディオ再生時や、インターネットビデオストリーム再生時で、必要な個所に必要なだけ給電することができ、各プロセッサーは可変周波数、可変電圧で動作することで、電力消費を抑え、高いパフォーマンスを少ない電力消費で実現していると言う。

 このような特徴を持つTegra 2だが、同社ではすでに次世代、次々世代Tegraのロードマップを公開しており、2011年にリリースされる次世代TegraのKAL-EL(カルエル)では、4つのCPUを搭載するクワッドコアとなり、Tegra 2の5倍の性能を実現。2014年には、75倍の性能を持つSTARK(スターク)をリリースする予定だ。

 同社がこれほどまでにモバイル向けSoCを強化していくのは、その市場が大きく伸びると予想しているためで、2015年にはTegraがターゲットとしているスマートフォンやタブレット端末の市場がノートパソコンやデスクトップパソコンの市場を凌駕すると予測する。すでにマイクロソフトは、今年の1月上旬に行われた「International CES(Consumer Electronics Show、一般消費者向け家電展示会)」で、次世代WindowsがTegraの搭載するARMアーキテクチャをサポートすることを発表。現世代のWindows 7による、動作デモも行っている。

 次世代TegraとなるKAL-ELのパフォーマンスは、ノートパソコンに使われているCPU「インテル Core 2 Duo T7100(動作周波数:1.8GHz)」を超えるものであると言い、Tegraの将来性に絶大なる自信を持っているようだ。

Tegraのロードマップ。次世代TegraのKAL-ELは2011年リリース。2014年のSTARKではTegra 2の75倍の性能を実現するKAL-ELのパフォーマンス例。ノートパソコンのCPUを超えると言うKAL-ELの特徴。クワッドコアになり、12コアのグラフィックスプロセッサーを搭載。30インチ相当の2560×1600ピクセルの解像度をサポートする
今までのパソコン市場の予測(写真左)と、スマートフォンなどが加わった市場の予測(写真中央)。2015年には、スマートフォンなどが台数ベースでパソコンを凌駕するTegra 2で採用しているARM系のCPUと、一般的なパソコンで使用されているx86系プロセッサーの出荷台数予測
International CESでデモ展示された、ARM用Windows。Tegra 2では、Microsoft Officeアプリケーションのデモも行われたProject Denverは、パソコンからワークステーション、スーパーコンピューターまで、同社のSoCでカバーする

 エヌビディアでは、モバイル向け・車載向けSoCであるTegraとは別に、「Project Denver」と呼ぶ計画を進めており、こちらでは、ラップトップパソコンからワークステーション、スーパーコンピューターまで、同社の得意とするGPU(グラフィックスプロセッサー)とARMアーキテクチャーを混載するSoCでカバーしていく予定だ。


Optimus Padについての説明を行う、LGエレクトロニクス ジャパン プロダクト&ビジネスグループの金希哲氏

 現時点では、Tegra 2を搭載した車載機器は、まだ市場に登場していないが、高い処理能力を持つだけに、その登場は待たれるところ。デュアルコアのTegra2を搭載するタブレット端末「Optimus Pad」では、最新のAndroid 3.0 OSを搭載し、8.9インチのWXGA(1280×768ピクセル)IPS液晶で、HDビデオを楽しめるほか、快適なアプリケーションの切換動作を体感できる。

 すでに店頭には並んでいるので、Optimus Padの動作を確認しつつ、いずれ市場に登場するであろう、車載端末の姿を想像してみるのもよいだろうし、実際にOptimus Padをクルマに持ち込んで、一足早く大画面の助手席カーナビや、同乗者向けエンターテイメントシステムとして活用してみるのも、おもしろいかもしれない。

Android 3.0を搭載するOptimus PadTegra 2により、快適なコンピューティングを実現するHDビデオの再生もでき、HDMI端子経由でハイビジョンテレビと接続もできる
Optimus Padは、8.9インチのIPS液晶を搭載1280×768ピクセルの解像度を持つため、地図も高精細な表示が可能

(編集部:谷川 潔)
2011年 4月 14日