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NVIDIA、ワークステーション向けGPU「Quadro」の新製品を説明

“クラウドGPUソリューション”が最適に利用できるよう進化

NVIDIA プロフェッショナル・ソリューション・ビジネス 製品マーケティング シニア・ディレクター サンディープ・グプテ氏
2014年8月21日開催

 半導体メーカーのNVIDIAは8月21日、東京都内で記者説明会を開催し、同社が8月12日(現地時間)に発表したプロフェッショナル向けGPU「Quadro(クアドロ)」の新ラインナップに関する解説を行った。同社のQuadroシリーズは、自動車メーカーの開発部門などを中心に自動車のデザインやシミュレーションなどに利用されており、Quadroを採用したワークステーションは自動車の設計には欠かせないツールとなりつつある。

 NVIDIA プロフェッショナル・ソリューション・ビジネス 製品マーケティング 上席課長 サンディープ・グプテ氏は「新シリーズでは演算エンジンの数が増えたほか、メモリ容量が前世代と比べて倍になっており、前世代に比べて約40%の性能向上を実現している。また、GPUのリモート利用とのシームレスな切り替えもソフトウェア的に実現しており、使い勝手を向上させている」と述べ、前の世代に比べて性能を向上させているほか、NVIDIA GRIDやVCAといったクラウドにあるGPUを利用してレンダリングソリューションとシームレスに切り替えるソフトウェアなどを提供することで、エンジニアがより快適にGPUを利用できるように配慮していると強調した。

K5200以下の5製品が新規投入された新しいQuadro

NVIDIAが発表した新しいQuadroは、K5200以下の5製品

 今回NVIDIAが説明したのは、8月12日(現地時間)に発表した、同社のプロ向けGPUの「Quadro」の新シリーズだ。グプテ氏によれば2013年に発表された最上位モデルのK6000はそのまま据え置かれるが、その下のモデルが新シリーズとして発表された。

NVIDIAが発表した新しいQuadro(K5200以下の5つが新製品)

K6000K5200K4200K2200K620K420
GPUダイKeplerKeplerKeplerMaxwellMaxwellKepler
製造プロセスルール28nm28nm28nm28nm28nm28nm
CUDAコア数288023041344640384192
単精度性能5.2TFLOPs3.1TFLOPs2.1TFLOPs1.3TFLOPs0.8TFLOPs0.3TFLOPs
PCI ExpressGen3Gen3Gen2Gen2Gen2Gen2
メモリサイズ12GB8GB4GB4GB2GB1GB
メモリバス幅384ビット256ビット256ビット128ビット128ビット128ビット
スロット数221111
ディスプレイ出力数444444
ディスプレイ出力構成2XDP+2xDVI2XDP+2xDVI2XDP+DVI2XDP+DVIDP+DVIDP+DVI
電源コネクタ2x6ピン1x6ピン1x6ピン---
TDP225W150W108W68W45W41W

 グプテ氏によれば、今回発表された5つの製品のうち、K5200、K4200、K420の3製品はKepler(ケプラー、開発コードネーム)という従来タイプのアーキテクチャに基づいた製品で、K2200、K620の2製品に関してはKeplerの次世代となるMaxwell(マックスウェル、開発コードネーム)という新アーキテクチャに基づいた製品となる。こうした従来のアーキテクチャがハイエンドとローエンドに、新しいアーキテクチャがミッドレンジになっている状況について「我々はMaxwellをミッドレンジ向け製品としてスタートさせた。このため、こうした新旧のアーキテクチャが混在する形になっている」(グプテ氏)とのことで、製品の型番もK****とKeplerの「K」に由来する型番になっているのを今回は変更しなかったと説明した。

 グプテ氏は「新シリーズは、従来製品に比べるとGPUの演算エンジンの数が増え、かつメモリに関しても増えている。例えばK5200やK2200は従来世代の同クラスに比べてメモリが倍になっている。これらにより、性能はモデルによって異なるが、40%程度向上している」と述べ、新GPUはエンジン数が増え、メモリが倍になったことで性能が向上しているということをアピールした。

Quadro K5200
Quadro K4200
Quadro K2200
Quadro K620
Quadro K420

クラウドGPUソリューションと組み合わせるのが最適とアピール

 グプテ氏は、新世代になったQuadroのメリットについて「新世代のQuadroでは、リモートGPUのソリューションと組み合わせて利用するのがより容易になっている」と述べ、同社が提供するGPUアプライアンスである「VCA(Visual Computing Appliance)」や「NVIDIA GRID」などのクラウドベースのGPUレンダリングと、ローカルにあるQuadroをシームレスに切り替えていけるソリューションをISVなどと協力して提供していき、それらを最適に利用できるのが新しいQuadroシリーズであるとアピールした。

 現在、自動車メーカーなどがニューモデルの設計などにワークステーションを利用する場合、レンダリングと呼ばれる画像処理はワークステーションに内蔵されているCPUやGPUを利用して演算される。例えば「レイトレーシング」と呼ばれる陰影をリアルタイムに計算して表現する処理などは、Quadroであっても1つのGPUではかなり荷が重くなっている。このため、実際にはレンダリングされるまで時間がかかり、レンダリングが完了されるまでずいぶん待たされたりすることが普通だ。しかし、だからといって、すべてのエンジニアに対して、複数のQuadroを搭載したスーパーコンピュータを渡すというのはコストの面からも現実的ではなく、さらにいえば、開発拠点が複数あるようなグローバルな企業では、そうした機材を拠点ごとに多数用意するというのも現実的ではない。

 そこでNVIDIAが提案しているのが、前出のVCAと呼ばれる企業のLAN内に設置するGPUサーバーアプライアンスと、NVIDIA GRIDと呼ばれるクラウドGPUソリューションだ。VCAを利用すると、LANに接続しているほかのワークステーションからVCAのGPUの処理能力を活用することができる。これに対して、NVIDIA GRIDの方はクラウド上に用意されているクラウドGPUサーバーを利用してレンダリングなどを実施するソリューションで、いずれも結果をストリーミングとしてクライアントに返す仕組みになっている。どちらを利用しても、複数のユーザーが多大なGPUの処理能力を共有することができ、コスト面でも、リソースの有効利用という観点からも合理的な選択肢となっている。

レンダリングにローカルのQuadroだけでなく、リモートにあるVCAやNVIDIA GRIDをシームレスに使う仕組みを積極的に提供していく
MAYAの設定をクラウドやVCAに切り替えると、より大きなGPU演算性能を持つそれらを利用して演算できる。このように設定をちょっと変えるだけ
複雑なレンダリング処理でも、ローカルのQuadroだけを利用した場合より高速化してさまざまなデザインを試せるようになる
ヨーロッパの著名なカーデザイン企業モーターシティ・ヨーロッパ社のチーフデザイナーからも「性能にびっくりしている」という評価をもらったとアピール

 今回グプテ氏は、ライブデモでMAYAを利用したリアルタイムレンダリングのデモを披露。ローカルにK5200が2枚入ったワークステーション(HP z820)でローカルレンダリングをしたあと、簡単にVCAを利用したリモートレンダリングに切り替えて、より速くレンダリングできる様子などをアピールした。なお、グプテ氏によれば、ここで紹介した切り替えの機能などはすでにリリースされている従来型のQuadroでも利用可能であり、あくまでより高性能なローカルと、リモートを切り替えて使えるようになるという意味でのアピールだと説明している。

 今回発表されたQuadroの新シリーズは9月から提供を開始する予定で、Lenovo、HP、Dellといった大手OEMメーカーのほか、日本ではエルザ ジャパン、リョーヨーセミコンといったチャネルパートナーなどが購入可能になるとのことだった。

レンダリング処理をローカルのGPUではなく、より多くのGPUを搭載したシステムで行うとどう違うかを紹介。16個搭載している右下が一番スムーズにレンダリングできている
Quadro K5200だけでレンダリングしている様子。カメラの方向を変えてから、実際にボディーの質感などを再現するまでに時間がかかっている
こちらはクラウドにある8つのGPUを搭載したシステムでレンダリングする場合のデモ。データのアップロードに少し時間がかかっているものの、レンダリングそのものはあっという間に終わる

(笠原一輝)