ニュース
NVIDIA、「GTC Japan 2014」でデジタルコックピットや自動運転向けソリューションを紹介
Tegraシリーズにより「将来的に電話をカスタマイズする感覚で自分の車をカスタマイズできるようになる」
(2014/7/16 20:54)
半導体メーカーのNVIDIA(エヌビディア)は、7月16日に東京ミッドタウンにおいて同社の開発者向けの説明会「GTC Japan 2014」を開催した。午前中には同社 フェローのデビット・カーク氏による基調講演が行われ、同社のロードマップやソリューションなどが紹介された。
その基調講演には同社の自動車担当 シニアディレクター ダニー・シャピーロ氏も登壇し、同社の自動車向けソリューションを紹介。シャピーロ氏は「NVIDIAが提供するVCMのようなソリューションを利用することで、ソフトウェアもハードウェアも容易にアップグレードできるようになる。自動車は製品サイクルも長いので、それをうまく活用することで自動車メーカーは柔軟に対応することができる」と、同社製品の特徴を説明した。
また、同社の自動車向けSoCとなるTegraシリーズを利用することで、ドライバーが自分の好みにカスタマイズして表示できるデジタルコックピットや、自動運転を実現するコンピュータなどを、詰めかけた自動車メーカーの関係者にアピールした。
NVIDIAのGPU汎用処理の基礎となるCUDAの解説やホンダのTOPSが紹介される
基調講演に登壇したのはNVIDIAのフェローであるデビット・カーク氏。カーク氏は、以前はNVIDIAのCTO(最高技術責任者)を務めており、NVIDIAの現在の基礎を作った1人である。カーク氏は同社が推進するGPUコンピューティングのソフトウェア開発環境であるCUDA(クーダ)に関する基本的な説明などを行った。
同社が推進するCUDAは、従来はCPU(中央演算装置、一般的なコンピュータで採用されている演算装置)で行われていた汎用処理を、グラフィックス専用とされてきたGPU(ジーピーユー、グラフィックス用として開発された演算装置)で行うためのソフトウェア開発環境だ。CPUに比べてGPUは、複数の処理を並列して処理を行うのに向いているとされており、CUDAにより作られたソフトウェアを利用して画像処理や物理演算などの処理をGPUで行わせると、CPUで行う場合に比べて圧倒的に高速に処理することができる。
カーク氏は、NVIDIAがCUDAの普及にどのように取り組んできたのかを説明しつつ、CUDAを活用したソリューションとして機械学習やコンピュータビジョンなどの例を紹介。同社のGPUのロードマップなどについても説明が行われた。なお、基本的な内容は、3月に米国カリフォルニア州サンノゼで行われた「GTC 2014」において、同社のCEOであるジェン・セン・フアン氏が行った基調講演の縮小版という形だったので、興味があればGTC 2014の基調講演記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140326_641290.html)をご参照いただきたい。
また、カーク氏に次いで登場した同社副社長マーク・ハミルトン氏の講演では、本田技術研究所の井出大介氏が登場し、ホンダが自社で開発し、実際に自動車の開発に利用しているTOPS(トップス)システムについてのデモが行われた。TOPSシステムは、昨年のGTC Japanで紹介(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130805_610233.html)された、自動車の開発をコンピュータ上だけで完結するためのシミュレーションソフトウェアだ。TOPSを利用することで、エンジニアはほぼリアルタイムで、写真品質でコンピュータ上に試作品を再現し、どのように見えるかを確認することで、従来よりも短い期間で自動車の開発を可能にするシステムだ。
TOPSは、NVIDIAが提供しているQuadro(クアドラ)というビジネス向けのGPUを利用して演算されており、今回の講演のデモではQuadroを8つ搭載したシステムを会場に持ち込んでデモを行っていると説明された。井出氏によれば「弊社ではすでに200GPUのスーパークラスタが導入されており、それを利用するとほぼリアルタイムでレンダリングできるようになる」と述べ、すでにホンダの社内ではTOPSをほぼリアルタイム(今回利用された8GPUのシステムでは若干のタイムラグがある)で利用できるようになっているとした。
VCMを採用することで自動車メーカーは柔軟にシステムを構成できる
次いで登壇したNVIDIA 自動車担当 シニアディレクターのダニー・シャピーロ氏は、同社の自動車向け事業について説明した。シャピーロ氏は「NVIDIAは15年に渡って自動車メーカーとビジネスをしてきた。以前はシミュレーションのためにGPUを演算に利用するという用途が多かったが、現在はそうしたコンピューティング技術が自動車そのものに搭載されるようになっている」と述べ、自動車に同社のSoC(System On a Chip)の採用が進んでいることをアピールした。すでに同社の自動車向けSoC「Tegra(テグラ)」は、ドイツのアウディやBMWなどで採用されており、現在も多くの自動車メーカーへの売り込みが進んでいる段階だ。
シャピーロ氏は「Tegraの特徴は、VCM(Visual Computing Module)のようなモジュールの形で簡単に交換することができ、かつプラットフォームに関してもQNX、Windows、Android、Linuxなどさまざまサポートしている。自動車メーカーは、ソフトウェアもハードウェアも容易にアップグレードすることができ、製品サイクルが長い自動車にも対応可能」とし、同社がモジュール単位でハードウェアもソフトウェアも提供しているので、それにより柔軟な製品作りが可能になると述べた。
シャピーロ氏は、すでにTegra 3(テグラスリー)、Tegra 4(テグラフォー)、Tegra K1(テグラケーワン)と複数世代にわたってTegraシリーズを提供していることを説明し、Tegra 3ではデジタルメーターパネル、Tegra 4ではカーコンピューター、Tegra K1では自動運転と、少しずつソリューションを増やしていると述べ、Tegraシリーズの採用を詰めかけた自動車メーカーの関係者に訴えた。
デジタルコックピットや自動運転などもTegraの持つGPUパワーで実現可能に
次いでシャピーロ氏は同社が「デジタルコックピット」と呼ぶデジタルメーターについて説明した。「アウディ TTのメーターはドライバーが自分でカスタマイズすることができる。そうした技術を支えているのがTegraシリーズだ」と述べ、Tegraのデジタルメーター向けのソリューションを紹介した。同社がマテリアル定義言語と呼ぶ仕組みを利用すると、よりリアルに再現された物体を利用してデジタルメーターを描画することができるようになる。そうした仕組みを紹介し、「将来的には、ドライバーが自分の電話をカスタマイズするような感覚で、自分の車をカスタマイズできるようになる」とし、同社のTegraシリーズを採用することで自動車における“ユーザー体験”(IT用語でユーザーが快適に利用できること)を改善することができるとした。
また、シャピーロ氏は先進運転支援システムについても触れ、「交通事故で亡くなる方は日本では減ってきているとは言え、それでも年間で5000人の方が犠牲になっている。これを減らしていくことは重要なことで、コンピュータビジョンの技術を利用することでそれを実現していくことができる」と述べ、NVIDIAのCUDAを利用して歩行者を検出し、ドライバーに通知するという機能を自動車に実装していくなどして、安全性を高めていく取り組みについて説明した。シャピーロ氏は「日産やBMW、アウディなどの自動車メーカーはシリコンバレーに研究所を置いて、ITベンダと協力して安全機能の開発を行っている。特にアウディに関しては1月に行われたInternational CESにおいてzFASを発表している」と述べ、アウディのzFAS(http://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/CES2014/20140109_630162.html)を例に挙げながら、自動車メーカーと協力してそうした安全装置の開発を進めていると説明した。
アウディのzFASは、渋滞を検出すると自動で一定の間隔を保って自動運転する機能や、自動で駐車する機能などがあるとシャピーロ氏は説明し「開発段階では非常に大きなシステムだったが、現在ではトランクに用意されている小さなスペースに格納できる程度に小さくすることができる」と述べ、今後も自動車メーカーと協力して先進運転支援システムの開発に努めていくとした。