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「GTC Japan 2014」で紹介されたホンダの最新試作レス確認ツール「TOPS」

200GPU並列実行のシステムに進化

本田技術研究所 CIS技術課 井出大介氏
2014年7月16日開催

本田技術研究所の井出大介氏は、ホンダの最新試作レス確認ツール「TOPS」の最新状況について講演

 半導体メーカーNVIDIAは、PC向けのGPUやスマートフォン/タブレット向けSoCを設計、販売する企業として知られている。近年では自動車向けのソリューションに力を入れており、同社のTegra(テグラ)シリーズはアウディ、テスラ、ランボルギーニなどの高級車に採用されつつあり、自動車産業に対してのプレゼンスを強めている。

 そのNVIDIAは7月16日に東京ミッドタウンにおいて同社のソリューションを紹介する「GTC Japan 2014」を行ったが、その基調講演の1/3の時間は自動車向けソリューションに割り当てられており、同社にとって自動車事業は今最も力を入れている事業の1つであることがうかがい知れる。本記事ではGTC Japan 2014で行われたホンダの最新試作レス確認ツール「TOPS(Total Objective and Physical Simulation、トップス)」に関する講演をお届けする。

●NVIDIA、「GTC Japan 2014」でデジタルコックピットや自動運転向けソリューションを紹介
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140716_658274.html

200GPUの並列実行システムでほぼリアルタイムの表示を実現したホンダのTOPSシステム

 本田技術研究所 CIS技術課 井出大介氏は、昨年の「GTC Japan 2013」で紹介したTOPSと呼ばれるシミュレーションツールの最新状況について講演した。TOPSの概要に関しては、2013年の記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130805_610233.html)を参照していただくとして、本記事では昨年からの差分となる部分を中心に紹介していく。

 井出氏は「TOPSを開発した背景としては、実際に試作品を作って確認すると修正するのが大変になる。このため実物と同等の確認を、データで完結することを目指した」と述べ、試作品を作らなくても製品の完成度を確認できることを目指したとした。その上で実物同等の確認に必要な要素として“Real Quality(実物同等に信頼される)”、“Easy Operation(現場で使ってもらって効果を出す)”、“Real Time(現実の見方を再現する)”の3つを挙げ、それを実現するソフトウェアの開発を目指したと語る。井出氏は「従来のCGツールは難しかったり、そのソフトウェアを使うためのスペシャリストが必要になっていた。TOPSではそうではなくツールの都合で仕事を増やさないというコンセプトを掲げた」と述べ、エンジニアが難しいことを知らなくても使えるツールを目指したものだ。

TOPSシステムの狙いは、実物がなくても同等の確認をコンピュータ上ですませたいという点にある
実物同等の評価に必要な3つの条件
従来型システムとTOPSの違いは見え方を徹底的にシミュレーションすることにある

 1つ目のReal Qualityの実現では、従来のCGでは見え方をコントロールしていたのに対して、TOPSではよりリアリティにこだわり見え方をシミュレーションしたと説明した。井出氏は「(開発現場での)実物確認がどんなことをやっているかを調べ、必要な描画要件を調べた。ガラスの屈折や反射、グリル内部の見え方などを実物からモデル化した」と述べ、光や素材などをすべて実測値からモデル化を行ったと説明した。

 2つ目のEasy Operationでは、井出氏は「素材や環境データなどはソフトウェア側で用意し、簡単にアウトプットをただ1つ出せるようにした。それによりユーザーによる調整をなくしている」として、素材などはすべてソフトウェア側で用意し、ユーザーはそれを選んでいくだけで誰が使っても同じ結果が出ることを重視して設計したと語る。

 3つ目のReal Timeでは「実際の試作品をチェックする現場ではエンジニアが主体的に動いて、ときには触ってみることで主体的に評価している。このため、TOPSではその場でリアルタイムに動かして確認できるパフォーマンスが大事だと判断した」として、そのためにGPUを利用したレンダリングを導入していると説明した。井出氏によれば、従来の方式ではレイトレーシングとグローバルイルミネーションというレンダリング手法を利用しており、計算が複雑になってしまったため、CPUへの依存が増えていたという。

必要な要件を定義し、どの部分が必要であるのかを決定する
ガラスの反射・屈折、グリル内部の見え方などが必要だと判断された
光の当たり方や素材の見え方などはすべて実測してモデル化している
素材や環境、データ構造などはすべてソフトウェア側で対応して誰が使っても同じような結果が出せるような設計になっている
実際の実車モデルを作った場合にはエンジニアが動きまくって判定するので、それをリアルタイムでモデルを動かせるようにして判断できるようにする
従来のCPUを利用したレンダリングではレイトレーシングとグローバルイルミネーションの組み合わせでやってきたが、それをGPUで処理しやすいパストレーシングへと切り替えている

 これに対して、TOPSではパストレーシングというモンテカルロ法を用いる手法を利用して陰影の一体計算を行うことにより、反射モデルを最適化し個々の計算を単純化することでGPUで演算することが容易になるように工夫されているという。これにより、1枚のレンダリングを行うのに従来方式では120秒かかっていた計算が、TOPSではわずか5秒でできるようになっているという。

 井出氏によればこの5秒という結果は、GPUを8個並列に利用するサーバーで実現されているとのことで、現在ではさらに200個のGPUを並列に利用するサーバーを利用して演算することでほぼリアルタイムに描画ができるようになっているという。井出氏は同社の社内にある200GPUを搭載したサーバーを利用して演算する様子の動画を公開した。なお、井出氏によれば、闇雲にGPU数を増やしていけばよいという訳でもなく、GPU数とパフォーマンスのバランスをチェックした結果、現行の200GPUというシステムに落ち着いたとのことだった。

従来は8GPUの並列実行だったものを、200GPUの並列実行にすることでほぼリアルタイムでの表示を実現
TOPSシステムを実行しているところ
TOPSを実際に運用している運用例。これで現物なしで仕上がりを確認できるまでになっているという
現場にあわせたシステムを作ることが大事だと井出氏は強調した

(笠原一輝)