電気自動車の乗り比べもできた、女神湖氷上ドライブレッスン 「2012 iceGUARD TRIPLE PLUS & PROSPEC Winter Driving Park」 |
本誌でもおなじみの日下部保雄氏。本イベントのメインインストラクター。氏の人柄に惹かれて、スノードライブレッスンに参加する人も多い |
1月21日、氷結した女神湖でスノードライブレッスンを行う「2012 iceGUARD TRIPLE PLUS & PROSPEC Winter Driving Park」が開催された。
このスノードライブレッスンは、自分の愛車を使い、滑りやすい路面での運転テクニックを磨くドライビングスクール。インストラクターは、元ラリードライバーであり、現在はモータージャーナリストとして本誌でもおなじみの日下部保雄氏。日下部氏のほかに、6名のインストラクターが参加した。また、このイベントを後援する横浜ゴムからは、スタッドレスタイヤの開発者が参加。現代のスタッドレスタイヤに関する技術動向などを語ったほか、後述する特殊タイヤを提供。特殊タイヤによる乗り比べができるようになっていた。
今年は新たな試みとして、電気自動車(EV)「i-MiEV」「MINICAB MiEV」、アイドリングストップ機構付きSUV「RVR」の試乗時間を設定。EVでのアイスドライブを体験できるようになっていた。
初参加のEV「MINICAB MiEV」 | 昨年も参加していたEV「i-MiEV」。今年は希望者だけでなく、全員に試乗時間が用意されていた | アイドリングストップ機構付きのSUV「RVR」は初参加 |
■がっつり走れるスノードライブレッスン
1日の走行時間は、フリー走行50分が4本、20分が1本となっており、タイムアタック1本とあわせると、約4時間も氷結した女神湖を走ることができる。
コースは、直線加速後の急ブレーキとスラロームを行う「ブレーキング&スラロームエリア」、完全氷結した円状のスペースで、定常円旋回もしくは8の字旋回を行う「アクセルワークエリア」、ゆるやかなコーナーと、S字コーナーが組み合わされた「ハンドリングエリア」の3つが用意されている。
参加者は計30組で、10組ずつのチームに分け、各組には2名のインストラクターがつく。走行アドバイスをインストラクターから受けることができるほか、インストラクターに同乗走行を依頼できる。自分で運転してみて、疑問があったらインストラクターに確認でき、それでも分からなかったらプロの運転を横で知ることができるわけだ。
そのため、このイベントは人気も高く、申し込みの受付開始後1週間も経たずに先着順で定員枠に達した。日下部氏によると、氷結した女神湖上であるため、1日の参加台数を増やすわけにもいかず、悩ましいところであると言う。2年、3年と続けて参加している人も多いことから、満足度の高いイベントであるのだろう。
レッスンの冒頭でコース説明を行う片岡氏 | コース図。左から、ブレーキング&スラロームエリア、アクセルワークエリア、ハンドリングエリア | 午前中は雪が降る天気 |
定常円旋回を実施中 | こちらは、4WDでの定常円旋回 |
昨年は無線機を使って参加者へのアナウンスを行っていたが、今年はミニFMでのアナウンスを実施した | 女神湖センター内の片隅に設けられたミニFM局。スケジュールを確認しながら参加者にアナウンス |
ハンドリングエリアのスタート風景。1台ずつスタートしていく | ハンドリングエリア後半部で華麗にドリフトを決める「MINICAB MiEV」 | MINICAB MiEVは、後輪駆動かつ、電池をシャシー中央の低い位置に搭載するので、元気な走りを楽しめる |
ハンドリングエリアからの1シーン | 元気に走りすぎてコースアウトすると、さすがにスタックしてしまう。その際は、レスキューカーが出動し、牽引ロープで引っ張りだしてくれる |
タレックス製のサングラスの貸し出しも行われていた。イベントの最後には、じゃんけん大会で1名にプレゼントしていた |
■EVや特殊タイヤの乗り比べを実施
今回採り入れられた企画は、EVの氷上試乗や特殊タイヤの乗り比べ。参加者にはEVのi-MiEVや、MINICAB MiEV、アイドリングストップ機構つきのRVRの試乗時間が10分設けられ、多くの人が試乗を行っていた。EVに初めて乗る人が多く、「静かだ」「独特のトルク感がある」との声が聞かれた。氷上での試乗となったため、「正直、一般道との比較ができないので、よく分かりませんね」という答えもあったが、軽自動車サイズということもあり、その運転を楽しんでいるようだった。
また、横浜ゴムは、スタッドレスタイヤ「iceGUARD TRIPLE PLUS(アイスガード トリプル プラス)」を装着した車両と、コンパウンドにアイスガード トリプル プラスを、トレッドパターンに夏タイヤのものを刻んだ特殊タイヤ装着車両を用意。
一般的にスタッドレスタイヤは、サイプとよばれる細かな溝と、低温下でもグリップする特殊なコンパウンドから構成されている。この比較試乗は、アイスガード トリプル プラスの持つトリプル吸水ゴムの素の実力を知ってもらおうというものだ。実際、この2台の車両を乗り比べてみたが、夏タイヤパターンの車両でも、氷結路面のグリップ力を感じることができる。さすがにサイプがないため、発進時のトルクが大きいとすぐにスリップしてしまうが、そこさえ超えれば速度を乗せていくことが可能だ。氷上性能を重視して開発されたコンパウンドの実力を体感することができた。
日下部氏も、氷上で初めてMINICAB MiEVを試乗。楽しそうにドライビングを楽しんでいた。「重心バランスがよく、運転が楽しいね」とのこと | 謎な配達員に見えるが、日本屈指のラリードライバーです |
i-MiEVも後輪駆動のため、氷上でのドライビングが楽しい | このRVRはFFだったため、定常円旋回はなかなか難しそうだった |
横浜ゴムが持ち込んだ、2台のヴィッツ。同社の誇るトリプル吸水ゴムの体感試乗をしてもらうためのものだ | シルバーのヴィッツのタイヤ。一見、夏タイヤに見えるがコンパウンドはアイスガード トリプル プラスと同じ。このイベントのために、特別に生産した | ホワイトのヴィッツのタイヤは、アイスガード トリプル プラス。トリプルベルトブロックや、高密度サイプなど、最新の知見が注ぎ込まれている |
横浜ゴム タイヤ第一設計部 設計第2グループ リーダー 橋本佳昌氏 |
■スタッドレスタイヤ開発者が講義を実施
各組には50分の座学の時間が用意され、横浜ゴムのスタッドレスタイヤ開発者である橋本佳昌氏がスタッドレスタイヤのメカニズムを、日下部氏が雪道でのドライビングを講義。
国によって法規制や気候の違いがあり、各国によって使われている冬タイヤの種類は異なっている。日本ではスパイクタイヤ(スタッドタイヤ)が禁止されていることから、スタッドレスタイヤが主流。とくに日本では、気温がそれほど低くないわりに降雪量が多いため、溶けた雪がアイスバーンになりやすいと言う。そのため、とくに氷上性能を重視して製品化が行われている。
冬用タイヤの種類 | 日本の冬環境 | 環境による、冬タイヤの違い |
冬の路面の停止距離 | スタッドレスタイヤの性能要素 |
圧縮抵抗 | 雪柱せん断力 | エッジ効果 |
橋本氏の講義で興味深かったのは、ドライ路面とアイス路面のコーナリングフォースの違い。ドライ路面ではステアリングを切り増して行くことで、コーナリングフォースは強くなっていく。しかしながら、アイス路面では、コーナリングフォースは1度がピーク値となっており、ステアリングを切り増してもコーナリングフォースは強くならない。アイス路面で曲がらないという状況になったら、ブレーキを踏んで速度を下げるのが最善の対策と言う。
曲がらない状況を作らないのが一番だが、万が一そうなった場合は、一度ステアリングを直進状態に戻し、速度を落として、再度微少舵角を与えればよいというグラフになっていた。もちろん、万が一の事態に落ちついてそのような操作ができるよう、氷結路面を体験するのがこのドライビングレッスンの一つの目的になっている。
コーナリングフォース | スリップアングルとコーナリングフォース |
ドライとアイスのコーナリングフォース | スタッドレスタイヤの氷上摩擦特性 |
日下部氏によると「タイヤを細くして面圧を高めればよいという時代もあったが、その後スタッドレスタイヤの開発が進み、低扁平のタイヤで設地幅を確保すればよいという流れがあった。現在は、低扁平だと動きがピーキーになりすぎ、プロファイル(タイヤ形状)の工夫が進んでいる」とのこと。橋本氏も、「氷上性能はまだまだ上げていきたい」と語るなど、スタッドレスタイヤの進化に終わりはないようだ。
橋本氏の講義が終わると、氏を取り囲む参加者が続出。普段疑問に思っていることなどを直接開発者に聞くことのできる、貴重な時間となっていた。
スノードライブレッスンは、参加者1人ずつがハンドリング路を使い、タイムアタックをして終了。優勝者の表彰を行った後、じゃんけんによる勝ち抜きでタレックスのサングラスがもらえるプレゼントを実施していた。
このスノードライブレッスンは、すぐに定員に達してしまうほど人気のレッスンとなっている。来年も開催予定のため、興味のある方は、募集が始まったら早めの応募をお勧めする。
イベントの最後には、ハンドリング路を使ってタイムアタックを実施。青旗が振られたらスタート | コーンを使って、タイムアタックの停止エリアを設定。エリアが狭く、はみ出した場合は、後進してエリアに入れる。一発で止められるかどうかが、勝負を決めていた |
(編集部:谷川 潔)
2012年 1月 27日