【特別企画】2012-2013年シーズンの新スタッドレスタイヤを雪氷レビュー
第2回:ダンロップ「WINTER MAXX(ウインターマックス)」


 「2012-2013年シーズンの新スタッドレスタイヤを雪氷レビュー」の第2回は、ダンロップ(住友ゴム工業)の「WINTER MAXX(ウインターマックス)」。今シーズンの新スタッドレスタイヤの特徴として、ミシュランは従来同様回転方向指定ながら、ダンロップとヨコハマタイヤ(横浜ゴム)はトレッドパターンにイン側とアウト側でパターンの異なる非対称パターンを採用してきたことにある。どちらがよい、わるいということではなく、より性能を追求した結果なのだろう。

 とくにダンロップは、製品ブランドから一新しており、この新スタッドレスタイヤにかける意気込みが伝わってくるものだ。製品の詳細については、リリース記事や発表会記事のリンクを記載しておくので、あわせて読んでもらえばありがたい。


リリース記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120724_548764.html

発表会記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120822_554291.html

 ウインターマックスの試乗会は2月中旬、住友ゴム工業が北海道名寄市に所有する名寄タイヤテストコースにおいて行われた。当日は詳細な技術説明はそれほどなく、従来製品である「DSX-2(ディーエスエックス ツー)」との比較試乗が3セット、ウインターマックスを装着した2WD(FF)車の公道試乗が1セット組まれていた。みっちり乗り比べてくださいという、ダンロップの配慮だろう。

 名前からしてウインターマックスが、DSX-2の延長線にない製品であるのは明らかだし、非対称パターンを新たに採用しているのは見た目から分かる。一般的に非対称パターンを採用する場合、イン側は直進時や低速時に主に働くパターンを、アウト側はコーナリング時や高速時に主に働くパターンを配置するのがお約束となっている。これはサスペンション形式によって異なってくるが、キャンバーや荷重による変化の影響があるためで、コーナリング時にタイヤの外側が使われているのは経験上から気づいている人も多いだろう。

従来製品のDSX-2方向性指定、非対称パターンなどは採用していない
新スタッドレスタイヤのウインターマックス右がアウト側。イン側とアウト側で性格の異なるリブが並ぶ

 ウインターマックスでも、外側(アウト側)1列目のブロックが大型化しており、ブロックあたりのサイプ数も4本から5本に増加。さらにブロックの横方向の辺が、弧を描くものと段差状のエッジを描くものとの組み合わせになった。また、外側から2列目のブロックは複雑な幾何学形状となり、3列目のブロックとあわせて、荷重を受け止めようとしているように見える。

 横方向の溝であるラグも、深く大きくなっており、雪をしっかり捉える意図が見て取れるほか、ブロックの複雑なライン形状を生成するために、より高度なシミュレーションが行われているのが予想できるものだ。

ウインターマックスの新ミウラ折りサイプ。サイプの密度も向上している

 DSXシリーズの特徴ともなっていた、サイプを増やしつつもブロックの強度を保つ「ミウラ折りサイプ」は、25%薄くシャープになった「新ミウラ折りサイプ」に進化。サイプの増量などエッジ成分を22%増やしながら、設置面積もアップしている。

 コンパウンドに関しては、DSXシリーズから大きく転換。これまでは、単結晶針状セラミック「ハイパーテトラピック」などを配合することでひっかき効果によるグリップを氷結路で得ていたが、同社の新材料開発技術「4D NANO DESIGN(フォーディー ナノ デザイン)」を活用することで、マクロ領域の剛性と、氷に追従・密着するナノ領域の柔軟性を持つという「ナノフィットゴム」を開発。エッジ成分を増やした「MAXXシャープエッジ」とナノフィットゴムで氷上ブレーキ性能を11%向上させた。

 実際にDSX-2とウインターマックスを、スラロームや円旋回が可能な氷盤路で乗り比べてみると、2WD(FF)車(ホンダ フィット)、4WD車(日産 セレナ)とも、ウインターマックス装着車のほうがコントローラブル。DSX-2装着車でも進むのだが、ステアリングの効きが明らかに劣る。制動力や加速力にも差を感じるのだが、ステアリング操作に対する反応の違いが印象的だった。

円旋回可能な氷盤路。歩くのも困難なほどのツルツル路面だウインターマックスで氷盤路を走る。スタッドレスタイヤの凄さを感じる部分

 両タイヤのトラクションの違いを体感するコースも用意されていた。4%(100m進んで4m上る)の坂道の氷路、10%と13%の坂道の雪路だ。4%の氷路、10%の雪路でも両タイヤの差が分かるが、決定的な差は13%の雪路で現れた。DSX-2では、坂道の途中で止まると再度上るのが非常に大変な作業となる。さすがにクルマから下りる必要はないが、丁寧かつ慎重なアクセルワークを行わないと、DSX-2ではすぐに空転が始まる。ウインターマックスでは、“丁寧な”程度のアクセルワークでよいので、精神的にはずい分異なってくる。

 雪路では、DSX-2の特徴であったハイパーテトラピックなどの引っかき効果よりも、各ブロックが作り出す雪柱剪断力の影響が大きく、それがウインターマックスの有利さにつながったのかなと思う。氷結路面での差も確かにあるが、積雪路面での差が大きいのではないかと感じた部分だ。

 住友ゴム工業の名寄タイヤテストコースには、圧雪の外周路も用意されており、下りながらのS字、上りながらの左コーナー、幅広いバックストレート、下りながら徐々にRがきつくなってくる左コーナーを体験できる。ここは、4WDのセレナと、2WD(FF)のプリウスで周回したが、プリウスの電子制御の介入によってタイヤの性能差が簡単に分かるのが興味深かった。

 プリウスは、S-VSC(ステアリング協調車両安定性制御システム)というシステムを搭載しており、横滑りを防ぎ、スピンに移行するのを抑えてくれる。S-VSCやTRC(トラクションコントロール)、ABSが動作するとメーターパネル内のスリップ表示灯が「ピピピピ」という音とともに点滅。電子制御システムの介入を知らせてくれる。

ウインターマックス装着のプリウス(写真左)と、DSX-2装着のプリウス(写真中)。プリウスが性能限界の差を音で教えてくれる。圧雪周回路を走った後の、ウインターマックス。さすがにサイプには雪が入っているが、ブロックには雪が残っていない。北海道の雪が乾雪であることも影響しているが、低温下でもゴムの柔軟性が保たれているように見える

 周回路をDSX-2とウインターマックスで走り比べると、DSX-2では下りながらのコーナリング時に、すぐに音が鳴り始める。ウインターマックスでは、最後に回り込む際に介入が起きるのだが、極端な話、DSX-2では最初から最後のほうまで鳴りっぱなしになるほど。システムの介入によって、スピンに移行しないプリウスは素晴らしいとも言えるが、逆に考えるとすぐにシステムが介入してしまい、タイヤの限界域の挙動を学習するのは難しい。クルマの性格を考えると、妥当な設定なのだろうか。

セレナ 4WD。セレナの4WDは2WD(FF)とサスペンション形式が異なり、リアがマルチリンク。そのため、後輪の接地性が高く、雪道での走破性も高い外周路をプリウスで走行中。バックストレートでは100km/h以上出すこともできた

 この外周路を4WDのセレナで走ると、DSX-2装着時でもより積極的に走ることができ、ウインターマックス装着車であればなおさら楽しい雪道運転となる。従来のダンロップのタイヤ開発は、氷結路・積雪路を重視しており、ドライ路面の高速コーナリング時の安定感や、ステアリングの反応が自分としては今ひとつの部分があった。スタッドレスタイヤ市場で、ユーザーが最重要視するのは、氷結路・積雪路のグリップ。もちろんそれは理解しているのだが、ドライ路面の高速道路を走って雪国に行く機会の多い自分としては、高速走行時の操安性は重視している部分だ。

 今回の試乗では、ドライ路面を走ったわけではないが、圧雪テストコースのバックストレートでは120km/h近くの速度を出しても、タイヤがクルマからかかる荷重に対して負ける感覚はなかった。DSX-2で感じた“優しい乗り味”から、ウインターマックスでは“しっかりした乗り味”に変わっている。ダンロップは、氷上ブレーキ性能を向上させながら、耐摩耗性能について48%の大幅アップとしており、4D NANO DESIGNを活用したウインターマックスは、技術的なブレイクスルーを達成したスタッドレスタイヤであるのは間違いないだろう。


(編集部:谷川 潔)
2012年 9月 25日