【特別企画】2012-2013年シーズンの新スタッドレスタイヤを雪氷レビュー
第3回:ヨコハマタイヤ「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」


 「2012-2013年シーズンの新スタッドレスタイヤを雪氷レビュー」の第3回は、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)の「iceGUARD 5(アイスガード ファイブ)」(製品名:アイスガードiG50)。ダンロップと同様、非対称パターンを新たに採用してきたが、ヨコハマの場合は、従来製品「アイスガード トリプルプラス」と同様、“アイスガード”の名称を用いることで、後継製品であることを明確にしている。

 つまり、従来製品の「氷に効く」「永く効く」「燃費に効く」の3コンセプトを踏襲した製品であり、その上での+αが加えられていることを製品名から訴えかけている。

 とはいえ、変更点は+αというものではなく、タイヤのコンパウンドの変更や、非対称パターンの採用など全面的なモデルチェンジになっている。コンパウンドには、従来比21%の吸水性能を達成した、新マイクロ吸水バルーンと吸水ホワイトゲルを持つ「スーパー吸水ゴム」を採用。この非対称パターンは、イン側に低速で走行する氷上での制動性能を重視したパターンを、アウト側に比較的高速で走る雪上でのコーナリング性能を重視したパターンを持つと言う。

 これらにより、氷上ブレーキ性能は8%アップ、さらに同社の低燃費タイヤに採り入れられている「BluEarth(ブルーアース)」コンセプトの技術を投入することで、従来品に比べ転がり抵抗を5%低減している。

 スタッドレスタイヤは、氷結路上で不必要に発熱して氷を溶かして水膜などを増加させることのないよう、技術開発が行われている。不必要に発熱することは、転がり抵抗を増やすことにつながるため、転がり抵抗低減を目指す低燃費タイヤ開発に通じる部分であり、ブルーアースシリーズのバックボーンとなっている技術が採り入れられたのだろう。

 製品の詳細や技術解説については、リリース記事や発表会記事のリンクを記載しておくので、あわせて読んでもらえばありがたい。


リリース記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120702_544268.html

発表会記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120731_550232.html

 アイスガード ファイブの試乗会は2月中旬、同社が北海道上川郡鷹栖町に持つタイヤテストコース「T*MARY(ティー・マリー)」において行われた。今回のアイスガード ファイブに関する開発者からの説明が行われた後、テストコースを試乗。

非対称パターンを新たに採用したアイスガード ファイブ

 新スタッドレスタイヤ アイスガード ファイブと、アイスガード トリプルプラスとの比較試乗を行えたのは、圧雪路でのスラローム、氷盤路での加速と単制動、アップダウンやS字コーナーを持つ圧雪路面の周回路走行だった。

 アイスガード ファイブを雪の上で初めて見て思ったのは、非対称パターンを採用したとはいえ、「ヨコハマタイヤらしいパターンでデザインされているな」ということ。アウト側から1列目のブロック、そして2列目、3列目、4列目の縦方向に大型化された、マルチベルトブロックは、ヨコハマならではの幾何学的パターンに見える。これらのブロックデザインは、アイスガード トリプルプラスでもセンター部に採用されており、サイプの倒れ込みを防ぐため、サイプの折りを3段に重ねた「トリプルピラミッドサイプ」となっていた。アイスガード ファイブでは、センターブロック(アウト側から4列目)に、サイプ内部に凸凹のディンプルを配置した「トリプルピラミッド ディンプルサイプ」とし、サイプの入ったブロックの剛性を向上した。

左から、従来モデルのアイスガード トリプルプラス、非対称パターンのアイスガード ファイブ(右がアウト側)、同じくアイスガード ファイブだが17インチ以上かつ235幅以上の幅広タイプ
アウト側のブロック。美しい成型エッジで構成されている右から、2列目、3列目、4列目のマルチベルトブロック。一番手前が、マルチブロック&サイプコンビネーションサイプを無理矢理めくると、ディンプル状のものが見える。これが剛性向上に役立っている

 実際にサイプの入った部分を無理矢理倒してみると、凸凹がかみ合っているのが分かる。ダンロップの新ミウラ折りサイプもそうだが、氷上や雪上での性能確保に有効なサイプは増やしたいが、増やしすぎると剛性低下が問題となるため、その対策が必要となるということだろう。対策と書くと簡単だが、サイプ内部に凸凹を作り出すには、高度な金型技術とゴムの成形技術が必要となる。デザイン力に加え、しっかりした製造能力を持つメーカーだけが、トップクラスのスタッドレスタイヤを作り出せるゆえんだ。

 イン側から2列目にあるのが、マルチブロック&サイプコンビネーションというブロック列。ブロックとサイプの方向をさまざまな方向に配置することで凍結路面や雪上路面にエッジ効果などで追従すると言う。これは従来のアイスガードにはなかった形状で、氷上ブレーキ性能の向上に一番寄与している部分かもしれない。やや幅広のブロックでありながら、多様な角度でブロックが構成されており、多方向の力を支えてくれそうだ。

 それらさまざまなサイプの入ったブロックを、横方向の大きな溝である「ビッグアイスグルーブ」が貫く。今シーズンのニューモデルであるミシュランの「X-ICE XI3(エックスアイス エックスアイスリー)」と比較すると、その違いは一目瞭然で、氷結路面での性能向上という目指す方向は同じながら、そこに至る哲学はまったく異なる。“YOKOHAMAの最高傑作”と高らかにうたうだけの面構えを見せている。

“YOKOHAMAの最高傑作”というアイスガード ファイブブルーアースのロゴが刻まれている

 では、その最高傑作は体感できるのだろうか? 結論を書くと、確実に体感できるものになっていた。最初は、「マークX 4WD」でパイロンスラロームを乗り比べ。圧雪のスラロームコースを比較走行すると、アイスガード ファイブのほうが1割ほど(40km/hだったら4km/hくらい)高い速度で安定したコーナリングが可能となる。また、コーナリング時のずれに対する安心感も高い。

さまざまな試乗車が用意されたマークX 4WDで比較試乗。トラクションコントロールをOFFにすると、その差がさらによく分かる

 圧雪路においては、S字コーナーや、アップダウンのコーナーを持つハンドリング試験路を、4WDのセレナやマークX、アウディ A4で試乗。2WD(FF)では、プリウスやリーフで試乗を行った。総じて言えるのは、圧雪路においてアイスガード ファイブは、ブレーキ性能、コーナリング性能、ステアリングレスポンスなどすべての面でアイスガード トリプルプラスを上回る。とくに大きな差を感じたのは、縦方向のトラクション性能。スタート時の蹴り出し、コーナリング脱出時の立ち上がりなど、速度を乗せていきやすい。これはパワーがあればあるほど顕著な感じを受け、セレナ 4WDよりもマークX 4WDのほうが、より分かりやすかった。

多様な表情を持つ圧雪路を、セレナ 4WDやプリウスで走行
優れた雪路走破能力を持つセレナ 4WD。アイスガード ファイブはその能力をさらに高いものにしてくれる電子音でグリップ限界を知らせてくれるのがプリウス。テスト車両としては便利な存在EV(電気自動車)のリーフは、重心が低く、トラクション能力も高い

 氷結路面の性能向上に関しては、直線の氷盤路で比較試乗。アイスガード トリプルプラスと比べ、30km/hからの制動時に、車体半分ほど止まる距離が短くなっていた。但し、このテストに関しては、アイスガード トリプルプラスとアイスガード ファイブの差よりも、テスト車両であるマークXのABS制御の介入差が上回るようで、ほぼ同じ距離で止まる人もいた。誰もが氷盤路での差を感じていたのは、氷盤路で加速して、目標地点で止まるというメニューで、アイスガード ファイブのトラクション能力、ブレーキ能力を体感できていたようだった。

ツルツルの氷盤路。直線の氷盤路で、まずは氷上ブレーキ力を比較当日は雪が軽く舞っており、ツルツル路面を維持するため、特殊車両で掃除中アイスガード ファイブのほうが短く止まることができた
両タイヤの差をはっきり体感させるため、加速して止まるというメニューを実施パイロンの個所にフロントタイヤをあわせて止める。アイスガード ファイブ装着車の圧勝だった

 つまり、この氷盤路においても、新モデルのアイスガード ファイブと従来モデルのアイスガード トリプルプラスを比較した場合、トラクション性能差がブレーキ性能差を上回っていることになる。氷上ブレーキ性能については8%の向上であると公表されているものの、トラクション性能についてはとくに公表されていない。雪上や、氷上で試乗した感覚では、このトラクション性能の向上は明確であり、そこがアイスガード ファイブの“走る楽しさ”につながっている。

 試乗会の最後のメニューは、ラリードライバーの奴田原文雄選手の助手席に座っての同乗走行。アイスガード ファイブを装着したランサー エボリューションのラリー仕様の加速は素晴らしく、雪をハデにまきあげてコーナーに入っていき、サイドブレーキターンで向きを変え、コーナーを加速しながら脱出していく。このマシンに装着されていたアイスガード ファイブは、通常のものとのことで、その優れたトラクション性能と、コーナリング性能を実感したしだいだ。

奴田原文雄選手の助手席に乗っての同乗走行アイスガード ファイブは、確かな加速性能を発揮コントロール性も高く、緊張感なく運転する奴田原選手

 アイスガード ファイブは、従来モデルのアイスガード トリプルプラスと同様のキャラクターを持ちながら、氷上ブレーキ、雪上コーナリングなど各要素は確実に進化しているスタッドレスタイヤだ。とくに、コーナリングからの立ち上がりなどは、トラクション性能の伸びしろを大きく感じる部分で、雪道を積極的に楽しめるものだ。ヨコハマタイヤならではの、スポーツ心を持った新スタッドレスタイヤ、それがアイスガード ファイブだ。

(編集部:谷川 潔)
2012年 9月 26日