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スタッドレスタイヤはなぜ氷上でも走れる? 横浜ゴムがタイヤ勉強会を開催
スタッドレスタイヤやタイヤラベリング制度、次世代技術について紹介
(2015/12/11 00:00)
低燃費タイヤ「BluEarth(ブルーアース)」シリーズ、スタッドレスタイヤ「ice GUARD(アイスガード)」シリーズ、スポーツタイヤ「ADVAN Sport(アドバンスポーツ)」シリーズなど、幅広いタイヤラインアップを展開する横浜ゴムが、報道陣向けにタイヤ全般に関する勉強会を同社の平塚製造所で開催したので、その模様をお伝えする。
今回の説明会は、スタッドレスタイヤやタイヤラベリング制度、同社の次世代技術についての座学と、平塚製造所内にある研究開発センター「RADIC(Research and Development Integrated Center)」見学会という2部構成。座学では、スタッドレスタイヤについてはタイヤ材料開発本部 網野研究室 室長の網野直也氏から、タイヤラベリング制度については横浜ゴム タイヤ第一設計部 設計1グループ グループリーダーの川瀬博也氏から、次世代技術については研究本部 技師長 日座操氏から行なわれた。なお、平塚製造所の見学会については撮影不可だったため、横浜ゴムから提供された写真での紹介になる。
新スタッドレスタイヤ「iceGUARD 5 PLUS」の紹介
網野氏からは、8月から発売が開始された乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD 5 PLUS」(製品名:アイスガード アイジーゴジュウ)についての解説が行なわれた。
「iceGUARD 5 PLUS」は8月に発売されたばかりの新スタッドレスタイヤで、「氷に効く」「永く効く」「燃費に効く」の3コンセプトを継承しつつ、スタッドレスタイヤで特にニーズが高いという氷上性能と省燃費性能のさらなる向上を目指している。
網野氏のプレゼンテーションは、そもそもなぜ氷上は滑りやすいのか? という点から始まった。その原理について家庭で作られる氷を例に挙げ、冷凍庫から取り出したばかりの乾いた氷は滑りにくいが、時間が経って氷の表面が溶け、水で濡れた氷は滑りやすい。アイスバーンではこれと同様の現象が起こっており、濡れているから滑ってしまうことを説明。そしてクルマで氷上を走行すると、その圧力や摩擦によって表面の氷が溶け、ミクロの水膜が発生する。この水膜によってタイヤは路面に密着しにくくなり、トレッドゴムの摩擦力を十分に発揮できないことが滑りやすい理由だと解説された。
では、スタッドレスタイヤを履くとなぜ氷上で走行できるようになるか。これは氷の上の水膜を取り払うことで実現しており、大きくはスタッドレスタイヤのトレッドパターンに細かいサイプを採用し、サイプから水を吸収することで実現しているが、「サイプを細かくしすぎると剛性が低下して上手く走れなくなってしまう。このサイプの入れ方も工夫の1つ」(網野氏)になる。また、ゴムの表面にも工夫をしているといい、「我々は10年以上前から吸水バルーンを配合しており、トレッドの断面に小さな穴を開けている。この穴が水を排除する効果があるということと、iceGUARD 5から新しく吸水ホワイトゲルを配合しており、このゲルが水を吸うという効果を発揮している」と紹介。
そして最新モデルとなるiceGUARD 5 PLUSでは、バルーンとホワイトゲルの吸水性能をさらに高めるため、ホワイトゲルのサイズを特殊な製造により従来から最大で30倍ほど大きくした「エボ吸水ホワイトゲル」を採用した。これにより、スリップの原因となる氷表面の水膜吸水率をiceGUARD 5に比べて20%向上することに成功したという。
同社の一般的なゴムでは低温時にゴムが硬くなり、氷表面の微細な凹凸の隙間が埋められず、タイヤ表面が完全に密着できないそうだが、エボ吸水ホワイトゲルを用いたスーパー吸水ゴムは低温でも柔らかいという特性を持ち、吸水効果だけでなく路面への密着効果も兼ね備えていることが紹介された。
結果として、iceGUARD 5 PLUSは従来のiceGUARD 5と比べて氷上の制動性能が7%向上したほか、転がり抵抗も7%低減しており、網野氏は「冬タイヤだと燃費があまりよろしくないと思われている方もいらっしゃるかと思うが、燃費についても改善している」とアピールしてプレゼンテーションを締めくくった。
タイヤラベリング制度を振り返り
川瀬氏からは、タイヤラベリング制度についての解説が行なわれた。タイヤラベリング制度はJATMA(日本自動車タイヤ協会)が制定したもので、2010年1月からリプレイスタイヤを対象に運用を開始。転がり抵抗性能とウェットグリップ性能で等級分けが行なわれ、転がり抵抗性能をAAA、AA、A、B、Cの5等級に、ウェットグリップ性能をa、b、c、dの4等級にそれぞれ分類し、転がり抵抗性能A以上かつウェットグリップ性能d以上のタイヤだけを「低燃費タイヤ」と呼ぶことができる。
まず転がり抵抗性能についてだが、そもそも走行するクルマには空気抵抗、タイヤの転がり抵抗、部品の内部摩擦による抵抗という3点の抵抗がかかっており、抵抗の割合はそれぞれ65%、20%、15%という。この中で、タイヤメーカーとしては20%を占める抵抗値を少しでも低減させ、クルマの燃費を向上させることに昼夜研究を行なっている。しかし、タイヤラベリング制度で定められる転がり抵抗性能とウェットグリップ性能は技術的に相反する関係であり、「この相反する性能をいかに両立するかということを我々は追求してきており、これが低燃費タイヤの歴史といっても過言ではない」と川瀬氏はいう。
そしてタイヤラベリング制度が導入される前の2009年に、同社はユーザーがタイヤに求める性能について市場動向調査を実施。その結果によると、「ブレーキの効き」「濡れた路面での性能」を重視していることが明らかになるとともに、首都高速道路の調査で雨の日は晴れの日に比べて交通事故件数が約5倍になることから「低燃費タイヤといえどもウェットグリップ性能が求められることが最大の命題になっている」(川瀬氏)。
そうした中で2014年2月に発売されたのが、低燃費スタンダードタイヤ「BluEarth AE-01F」だ。このタイヤは先代モデルとなる「BluEarth AE-01」から構造とトレッドパターンを踏襲しつつ、新開発した専用ナノブレンドゴムを採用したタイヤで、ラベリング制度最高の転がり抵抗性能AAAを達成。その転がり抵抗性能は数値でも表れており、同社の転がり実験ではAE-01が52.2mだったのに対してAE-01Fは59.4mを実現。転がり抵抗性能Aの「ECOS ES31」と比べて4%燃費が向上(交通安全環境研究所による計測)したという結果も得られており、川瀬氏は「ガソリンの価格でいうと130円が125円になった感覚で、お客様にとって非常に大きい数値だと思う」と、その低転がり性能に自信を覗かせる。
また、川瀬氏のプレゼンテーションでは摩耗したタイヤでウェットグリップがどのくらい低下するかについての解説も行なわれ、A/aグレードの「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」の新品タイヤと全摩耗タイヤ、そしてスリックタイヤを用いて80km/hからの制動力を比較したところ、新品タイヤでは27.2m、全摩耗タイヤでは32.7m、スリックタイヤでは35.6mと明らかに制動距離が伸びたことを示し、「スリップサインの出た摩耗タイヤは新品時に比べおよそクルマ1台分制動距離が伸びる(80km/hからの制動時)」とし、スリップサイズが出る前にタイヤを交換するよう注意を促していた。
地球環境に対する一層の技術革新を目指す
日座氏からは横浜ゴムの次世代技術への取り組みが紹介された。
日座氏は、近年発生している異常高温やゲリラ豪雨、大洪水など、これまでと異なる地球規模で起きている現象に「何かおかしい」と述べるとともに、CO2排出量が増加の一途をたどっていること、2014年の日本における石油使用量は約2億tに上り、日本人1人あたりで約4.15kg/日使っていることなどを説明。また、日本のCO2排出量は世界で3.8%(2014年)に過ぎないが、1人あたりの排出量ではインドの約6倍、中国の約1.6倍となっており、「小国ながら世界で5番目の排出量となっていることを認識しなければならない」と警鐘を鳴らす。
そうしたなかでタイヤのCO2排出量を見ると、使用段階で86.4%、原材料で9.8%、生産で2.9%、流通で0.6%という割合になり、いかに使用段階でのCO2排出量を削減できるかがポイントになってくる。そこで同社はいち早くタイヤでの燃費向上に着目し、1998年に国内メーカーで初めて低燃費をコンセプトにした「エコタイヤDNA」を発表。以降、積極的に環境貢献と安全性向上の両立のための技術開発を行ない、低燃費タイヤを普及させることでCO2排出の低減に取り組んできたという。日座氏は当時を振り返り、「横浜ゴムはなぜ環境を前面に出したのか当時は分からなかったが、今やエコタイヤは当たり前になっている。横浜ゴムの企画力の凄さに我ながら感心するとともに、DNAという名前があるとおり、我々横浜ゴムのDNAはこういった低燃費・環境というところにあると思っている」と解説。
これを踏まえ、同社では低燃費タイヤの開発普及に積極的に取り組むとともに、排出されたCO2を吸収することを目的に、創立100周年を迎える2017年までに国内外の生産拠点に約50万本の苗木を植える「千年の杜プロジェクト」などを推進している。また、近年では「生物資源(bio)の量(mass)」を表すバイオマスから合成ゴムを作ることにも着手している。バイオマスには廃棄される紙や家畜排せつ物、食品廃棄物などを資源とする「廃棄物系バイオマス」、稲わら、麦わらなどの非可食作物を資源とする「未利用バイオマス」、米やトウモロコシなどを資源とする「資源作物」の3つに区分され、横浜ゴムではこの非可食作物を活用するべく研究が進められている。
その成果として、東京工業大学との共同研究により、バイオマスであるセルロース(植物繊維の主成分である糖)から直接ブタジエンを合成する触媒の開発に成功するとともに、理化学研究所と日本ゼオンとの共同研究により、バイオマスからイソプレンを合成することに成功したことが紹介されている。現時点ではこれらをすぐに製品化に結び付けることは難しいとしているが、「横浜ゴムとしてはDNAのコンセプトをベースとして開発を続けるとともに、個人としてもDNAの魂を今後も引き継いでいきたい」と述べ、地球環境に対する一層の技術革新を目指すことを誓った。