ニュース
日産、新型スポーツセダン「インフィニティQ50」のオフライン式を栃木工場で開催
「インフィニティを国内で展開することは決断していないが、スカイラインが日本で続くことは決まっている」
(2013/5/15 00:00)
日産自動車は5月14日、インフィニティブランドの新型スポーツセダン「Q50」のオフライン式を同社の栃木工場で開催した。オフライン式には同社の社長兼最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーン氏、栃木工場の工場長 黒沢良二氏らが出席するとともに、生産スタッフによる決意表明などが行われた。
栃木工場が新型Q50の生産を担う
Q50は、今夏の米国を皮切りに欧州、中国などで販売を開始する新型スポーツセダンで、ロー&ワイドなプロポーションと広い室内空間を両立したことが特長。
搭載エンジンは2種類。1つは連続可変バルブタイミング制御システム(CVTCS)とバルブ作動角・リフト量連続可変システム(VVEL)を採用した、最高出力328PS/最大トルク269lb-ftを発生するV型6気筒3.7リッター。もう1つはV型6気筒 3.5リッターエンジンとリチウムイオンバッテリーを搭載した1モーター2クラッチシステムのハイブリッド車。駆動方式は2WD(FR)と4WDを設定する。トランスミッションは、全車パドルシフトによる操作が可能な7速ATを搭載する。
これに機械式のステアリングシステムよりも素早く車輪に伝達し、タイヤの角度とステアリングの操舵をより高度に制御できる「インフィニティ・ダイレクト・アダプティブ・ステアリング」、車載カメラによる車線検出システムを使い、車両の直進性能を向上させることができると言う「アクティブ・レーン・コントロール」の2つの新技術を搭載した。
このQ50の生産を担う栃木工場はグローバルの中核工場で、敷地面積は約293万m2(約92万坪)とディズニーランド6個分の規模を誇る。1968年にアルミ・鉄の鋳造部品の生産を、1969年にアクスルの機械加工・組立を開始し、1971年の組立工場の完成に伴い車両の最終組立までを行う一貫生産体制を確立した。さらに実験部や全長6.5kmの高速耐久テストコースなども敷地内に含まれるとともに、高い技術力や生産能力を誇ることから、同社のマザープラントに位置づけられる。
栃木工場の組立ラインは2本。主に同社の高級車の生産を担い、第1ラインでは「NISSAN GT-R」「スカイライン/インフィニティ G37」「スカイライン クーペ/インフィニティ G37クーペ」「インフィニティ G37クーペ コンバーチブル」「フェアレディZ/370Z」「フェアレディZ ロードスター/370Z ロードスター」を、第2ラインでは「シーマ ハイブリッド/三菱ディグニティ/インフィニティ M LWB」「フーガハイブリッド/フーガ/三菱プラウディア/インフィニティ M」「スカイライン/インフィニティ G37」「インフィニティ FX」「スカイライン クロスオーバー/インフィニティ EX」の生産を行っている。
栃木工場は生産品質のベンチマーク
オフライン式に出席したゴーンCEOは、「今日はインフィニティの歴史に新たな1ページが刻まれます。新型Q50はドイツ、ジュネーブ、ニューヨーク、上海のモーターショーに出展し、今夏に発売を計画していますが、プレミアムマーケットで旧型車よりずっと素晴らしい実績をあげることを期待しています。新型Q50は、最高品質のクルマづくりで定評のある栃木工場の品質評価をさらに確かなものにするでしょう。皆さんの高いスキルとたゆまぬ改善活動のお蔭で、栃木工場は生産品質のベンチマークになっています。だからこそ栃木工場はこれまでも、そしてこれからも、インフィニティ車の生産の中心であり続けます。量産は始まったばかりですが、これまでの成果に自信を持ってください。素晴らしい仕事をしてくれた皆さんに改めて感謝するととともに、これからも大いに期待しています」と日本語でスピーチ。
また、囲み取材で日本でのインフィニティブランドの展開の可能性について聞かれたゴーンCEOは、「日本国内でのインフィニティブランドのプレゼンスというのは常に検討してきた。インフィニティ事業を担当するヨハン ダ ネイシン常務執行役員を筆頭に新たな人材が入ってきて、皆プレミアム市場に知見が深く、色々社内で検討してチャレンジすることは今までと同様やってきているが、今のところは何も決断を下していない。ただ検討はしている」と述べるとともに、今回のQ50が新型スカイラインと目されていることから、その関連性について「今のところは社内でインフィニティを国内で展開することは決断していないが、スカイラインが日本で続くことは決まっている」と説明した。
Q50の開発にセバスチャン・ベッテル選手が関わる
オフライン式のあとには、インフィニティブランドや栃木工場での取り組みなどを紹介する説明会を実施。同社の加東重明 常務執行役員(品質部門担当)、坂本秀行 常務執行役員(生産部門担当)、ヨハン ダ ネイシン 常務執行役員(インフィニティ事業担当)、黒沢良二 工場長らが出席した。
ネイシン 常務執行役員はインフィニティブランドについて、「我々はインフィニティブランドでプレミアムセグメントを変えていきたいと思っている。F1の中でも素晴らしい地位を築いているレッドブル・レーシングチームとパートナーシップを結んでおり、もっとも最先端の技術をこのパートナーシップから得られる」とその特長を述べるとともに、レッドブル・レーシングに在籍するセバスチャン・ベッテル選手が、栃木工場にきてQ50の開発に関わったことを紹介。
また、プレミアムブランドにおけるインフィニティの価値を技術面、デザイン面に加え日本ならではのホスピタリティで高めていきたいとし、「生産から販売に至るまで決して凡庸ではない価値を提供していきたい」と説明した。
一方、加東重明 常務執行役員(品質部門担当)は栃木工場での取り組みについて説明した。
日産では、2016年に世界市場シェア8%、営業利益率8%という目標を掲げる中期経営計画「日産パワー88」を発表しており、目標達成のための戦略として「ブランドパワーの強化」「セールスパワーの向上」「クオリティの向上」「ゼロ・エミッション リーダーシップの有効活用」「事業の拡大を通じた成長の加速化」「コスト リーダーシップ」の6つの柱を掲げている。
そのうち、第3の柱となる「クオリティの向上」では、インフィニティブランドをラグジュアリーブランドのリーダー(2016年までに自動車全ブランドのトップ3にランクイン)にすることを目標にしている。
しかし、調査会社のJ.D.パワーが2011年に実施した自動車初期品質調査(IQS:Initial Quality Study)では、インフィニティはレクサス、ジャガー、ポルシェ、キャデラック、本田技研工業に続き6番目に落ち込んだ。そのため「レクサスが筆頭であることは間違いないと思うが、今までの品質向上の延長では(トップ3には)行き着けない。根本的に何かをしなければならなかった」と語り、これまでもインフィニティと日産ブランドを差別化してきたが、より差別化を図るため新たにインフィニティ工場要件(I-PES:Infiniti Plant Evaluation System)を策定したと言う。
新型Q50の生産を行う栃木工場は同社の中核工場であることから、まず栃木工場の改善から着手した。
I-PESで設定される具体的な工場要件は合計で100項目に上り、「たとえば汚れや騒音が起因となる品質不具合を低減するため、五感が研ぎ澄まされた状態で作業をできるよう静粛性を求めた」。また、インフィニティ車の生産を担う人材は必要な資質を持っていないと作れないとし、“技”“感性”“プライド”を兼ね備えた人材育成といった取り組みが行われたことで、栃木工場はI-PESで5点満点中4.5というスコアを達成したことを紹介。
最後に加東氏は、「クルマというのは工場を出たときが最高な状態ではなく、お客様が受け取るときが最高の状態でなければならない。I-PESはそれを目指した活動であり、満足・感動を与えられるようなクルマづくりをインフィニティではしていこうと、栃木工場がマザープラントとなって取り組んでいる。その結果が新型Q50であり、新型Q50には活動を行った栃木工場の従業員全員の集大成としてできたクルマ」と、完成度の高さに自信をのぞかせた。