インプレッション

【日産360】インフィニティ「Q50」

スタイリッシュな外観と数々の最新テクノロジー

 「スカイライン」として発売されるはずの国内への具体的な導入スケジュールが、現時点(9月19日)では明らかにされていないのが少々じれったい気もするところだが、日産自動車のワールドイベント「日産360」において、米国で8月に発売されたばかりの「インフィニティQ50」に試乗することができた。

 スカイラインのインフィニティ版と言うと、ご存知のようにこれまでは「インフィニティG」だった。ところが、インフィニティが呼称を見直す方針を採ったことで、セダンが「Q50」、クーペが「Q60」と異なる車名が用いられることになった。ちなみに北米では現行のGセダンおよびクーペも当面は継続販売されるようだ。

 1月のデトロイトショーでQ50が初公開されてから写真は何度か目にしていたのだが、それを見てイメージしていたとおり、実車も非常にスタイリッシュだ。「エッセンス」「エセレア」「Emerg-E(エマージ)」などのコンセプトモデルとの共通性をところどころに見受けられるスタイリングは、美しく、ダイナミックで、新しさを感じさせるものだ。

高級スポーツクーペのコンセプトカー「エッセンス」
インフィニティブランドのエントリーコンセプト「エセレア」
ミッドシップのスポーツEV(電気自動車)コンセプト「Emerg-E(エマージ)」

 聞いたところでは、インフィニティの特徴でもある人間の目のようなデザインのヘッドライトを仕上げるためディテールにこだわり、かなりの時間と情熱をかけて完遂したのだと言う。

 ボディーサイズは従来モデルから30mm長く、50mm広くなり、4783mm×1824mm×1443mmに。ホイールベースは2850mmを維持した。モデルチェンジでひとまわり大きくなったレクサス「IS」と比べてもだいぶ大きく、欧州勢の同セグメントに属するメルセデス・ベンツ「Cクラス」、BMW「3シリーズ」、アウディ「A4」の中で最大となるA4と比べてもやや大きい。

Q50のボディーサイズは4783mm×1824mm×1443mm。ホイールベースは2850mm

 インテリアも車格がひとクラス上がった印象だ。ドライバーを中心に据えたコックピット感のあるインパネに設定された、新しいインフィニティの「InTouch」通信システムは、大型のデュアルタッチスクリーンシステムを搭載したディスプレイを備えており、ハンズフリー電話やナビゲーション、エンターテインメントシステムとスマートフォンアプリのすべてを統合。ドライバーは運転中でも車外環境とのコミュニケーションをこれまでとは比較にならないほど容易に行うことができると言う。今回は試していないが、楽しみなアイテムだ。

 そしてQ50には、待望の日産独自の1モーター2クラッチ式のハイブリッドシステムがこのクラスにも与えられるとともに、「インフィニティ・ダイレクト・アダプティブ・ステアリング」「アクティブ・レーン・コントロール」という、量産車で世界初となる2つの新しいテクノロジーが搭載されたことに大いに注目したい。

ガソリンモデルのインテリア
ハイブリッドモデルのインテリア

ダイレクト・レスポンス・ハイブリッド・システムによる強力な加速

 米国市場向けのパワーユニットは2タイプ。1つは最高出力328HP、最大トルク269lb-ftを発生するV型6気筒3.7リッターエンジン「VQ37VHR」をキャリーオーバー。もう1つは日本では「フーガ」や「シーマ」に搭載されるインテリジェント・デュアル・クラッチを持つハイブリッド。V型6気筒3.5リッターエンジン「VQ35HR」(296HP/255lb-ft)に67HPのモーターを加え、システム出力は354HPを誇る。

V型6気筒3.7リッターエンジン「VQ37VHR」
ハイブリッドはV型6気筒3.5リッターエンジン「VQ35HR」にモーターを搭載

 これ以外に、欧州向けにはメルセデス・ベンツ製のディーゼルも用意されるようだが、今回は用意されていなかった。

 試乗を許されたのはクローズドコース内のみで、公道を走ることはできなかったものの、そこそこ長いストレートと大小のカーブやS字スラロームが組み合わされたレイアウトのコースは、なかなか走り応えがあった。VQ37VHRを搭載するガソリン車も十分にパワフルなのだが、ハイブリッドに乗ると「速っ!」と思わず声が出てしまうほどだった。

 0-100km/h加速は5.5秒とのことで、もちろん速いとは言え、もっと速いクルマはいくらでも存在するわけだが、モーターのアシストによるブーストをかけたような盛り上がりのある加速感や豪快なサウンドの演出が効いて、より体感的に速く感じられるようだ。

 開発関係者によると、同システムを「現代版スーパーチャージャー」と考えているとのこと。それでいてCO2排出量は140g/km、実用燃費も2.5リッターエンジン並みというのもハイブリッドのメリットに違いない。

 欲を言うと、シフトダウンのレスポンスがもう少し素早いほうが理想に近いが、「ダイレクト・レスポンス・ハイブリッド・システム」のネーミングどおり、トルコンを用いていないためかアクセル操作に対する応答遅れも小さく、ダイレクト感もある。

 誤解なきように再度述べると、VQ37VHR搭載モデルだって十分に速い。そしてハイブリッドモデルは、ガソリン車よりも増えた車両重量差を補ってあまりある強力な加速感を味わえるというニュアンスだ。

 ところで、日本向けはハイブリッドのみになるという情報もある。近年の日本市場の傾向からすると、そうせざるを得ないのも分からないでもないが、これだとスタート価格が500万円台を超えそうで、さすがに「スカイライン」という雰囲気ではなくなってしまいそう。果たしてどうなるのだろうか……。

世界初のステア・バイ・ワイヤ技術の印象はいかに?

 量産車で世界初のステア・バイ・ワイヤ技術を用いた「ダイレクト・アダプティブ・ステアリング」によるハンドリングにも大いに関心があった。

 また、これによる「アクティブ・レーン・コントロール」には、車線逸脱防止機能のほか、外乱によって本来トレースすべきラインからずれることを自動的に修正するという機能が付く点も興味深いのだが、今回は一般道での現実的な状況ではなく、クローズドコースでの試乗ということで、ダイナミック性能がどうであるかに的を絞って述べると、まず印象的だったのは切れ味鋭い俊敏な回頭性だ。

 「操舵入力とタイヤの切れ角を調節し、従来のメカニカルな機構よりも素早い応答性」と発売時のリリースにもあったとおりで、スポーツチューンドサスペンションとの好マッチングもあって、決して軽くない車体ながら面白いほど軽々と向きを変える。

 半面、操舵力が全体的に軽く、路面情報のフィードバックがもう少し欲しいことと、実際のクルマの動きと微妙なズレがあり一体感に欠けるところには改善の余地があるように思えた。また、リアアクスル上の高めの位置にバッテリーのような重量物を搭載するハイブリッドは、やはり挙動が大きく出がちだった。

 このプラットフォームの宿命として、リアサスペンションのストロークが短く、バンプ時の姿勢が不安定になりやすく、横滑り防止装置が早々に介入する傾向があるのは相変わらずだったので、そのあたりがもう少し洗練されるよう期待したい。

 ……と、早くも注文をつけてしまったが、とにかくハイブリッドモデル、ガソリンモデルとも、パワーフィールとハンドリングには運転していてワクワクさせるものがあったことには違いない。

インフィニティ中国でゼネラルマネージャーを務める石川義人氏

 同日行われたプレゼンテーションにおいて、ゼネラルマネージャーの石川義人氏はQ50について、「インフィニティの誇りと情熱を表現するため、エキゾーストノートの響き、ドアの閉まる音と閉まり方、スイッチ類の仕上げも見た目だけでなく手触りが心地よいかどうか、レザーシートの匂いなど、細部に至るまで入念に気を配った」と述べた。さらに同氏は、インフィニティは「先進的」「最新テクノロジー」「差異化」「若々しさ」を備えたブランドとなることを強調していた。

 内容的には「V36のキャリーオーバー」というイメージの強いQ50だが、制約の中にありながらも新しいものを積極的に採り入れ、インフィニティが目指す上記の世界観を垣間見させるクルマに仕上がっていることをお伝えしておきたい。

 新型「スカイライン」として登場する日本での発売を楽しみにして待ちたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。