インプレッション
ボルボ「V60 T4 SE」「XC60 T6 AWD」2014年モデル
Text by 橋本洋平(2013/9/18 00:00)
“フツウ”になった2014年モデル
新機構が搭載されるとメーカーはこれ見よがしにそれをアピールする。それがウリになるからだ。これはクルマに限らず工業製品なら当然の流れ。クルマの場合、その存在をできるだけ分かりやすくしようと、ほかのグレードとは違うデザインを採用したり、エンブレムを敢えて新調して装着することもある。
だが、それはいつまでも続かない。新機構がメーカーにとってもユーザーにとっても“フツウ”になったとき、メーカーはすべてのアピールをやめてスッキリと見せることに躍起になるから面白い。古い話では5速MTやATであることを掲げるクルマ、最近ではハイブリッドであることを声高に宣言するクルマなどもあったが、それをいつまでも続けるクルマは少ない。
ボルボが新たに投入する2014年モデルは、まさにそんな流れを受けたもの。今回は「S60」「V60」「XC60」「V70」「XC70」「S80」の6モデルが一気にフェイスリフトを実施。変更点はこれら6モデルトータルで4000カ所以上にも及ぶというから驚きだ。なぜならボルボは世界で年間40万台を販売するという小規模なメーカーだから。大メーカーの人気モデルなら単独車種で売るぐらいの生産台数のメーカーで、主要モデルの多くを一気に変更しようというのだから、2014年モデルに対するボルボの本気ぶりがうかがい知れるというものだ。
フェイスリフトに関する話は後まわしにするとして、まずは個人的に感心した部分をご紹介する。それはボルボのキモとも言っていい安全装備を支える機構が一見して分からなくなったことだ。ボルボにはリアの死角を監視する「BLIS」と呼ばれる機構が存在するのだが、60シリーズではこれまでドアミラー下にカメラを備えてその機構を支えていた(70&80シリーズは2014年モデルでも変更なし)。これをリアバンパー内部にレーダーを埋め込む形式に変更し、ドアミラー下のカメラを排除することに成功している。また、「歩行者検知機能付き衝突回避&軽減フルオートブレーキ」などの機構を担うフロントグリル内に備えられたミリ波レーダーのカバーも一新。弁当箱のようなボコッとした盛り上がりがなくなり、グリルとの一体感が高まった。
この改良のおかげでフロントもサイドもスッキリ。これまではそのカメラ自体が特別だと感じていたものだが、それも当たり前となった今では無骨に映るだけという判断が下されたのだろう。これ以外にも、ボンネット上にあったウォッシャーノズルを排除。ヘッドライトウォッシャーの出っ張りをなくしてバンパー形状がスッキリとしたことなど、すべてが洗練されて“フツウ”になった。安全性を新機構としてこれ見よがしにアピールする時代は終息しつつあるのだ。
S60/V60のデザイン面では水平ラインを強調したことが目新しい。フレームレスでワイド化されたフロントグリルが採用されたことで、グリル脇にあったポジションライトを廃止。その代わりにバンパー下部にはLEDのポジションライトが追加され、ヘッドライトは切れ長なイメージに一新。さらにボンネットには彫刻的なプレスラインが与えられ、伝統的なVシェイプデザインを死守している。こうしたデザイン変更は、あとで乗ったXC60でも同じ傾向。今回は試乗する機会を得ることはなかったが、V70/XC70/S80においてもラグジュアリーテイストが大幅に向上したことは誰の目にも明らかだ。
現在、ボルボの販売実績は上昇中で、1~7月は前年比で+18.5%だという。輸入車全体では+13.1%、国産車を含めた販売実績では-13.3%という状況を考えれば、ボルボがいかに好調であるかがご理解いただけるだろう。これを牽引しているのは、今年投入されたV40であることは確かな事実。そこでV40に追従するようデザインの統一感を図り、さらなる販売の向上を目指そうというのが2014年モデルの変更と言っていいだろう。
V40を船頭としてボルボ全体を牽引していこうという考えは、ドライバーズシートに収まってみても即座に理解ができるところだ。それはメーターまわりが刷新されているから。V40と同様の「アクティブTFTディスプレイ」が全車に採用されたのだ。オーソドックスなアナログメーターからガラリと変化したその見栄えは、どのモデルに乗っても未来的。オートクルーズの設定をはじめとするすべてのアナウンスが理解しやすかったことが印象に残っている。その一方で、どの車両に乗っても特徴的な部分が得られないところはやや残念。どれに乗ってもボルボを感じられると好意的に捉えればいいのだろうが……。
今回はそんな2014年モデルのなかでも、まず主力モデルとなりそうなV60 T4 SEに試乗した。1.6リッターのターボエンジンを搭載するこのモデルは、1560kgという巨体を感じさせることなくグッと加速を重ねていく。小排気量であることをさほど気にさせないトルク感が実に心地よい。それもそのはず、わずか1600rpmから240Nmものトルクが発生しているのだ。今回は福島県の会津若松までのロングドライブだったが、高速道路からワインディングまで、一切ストレスを感じることなく走り切ってくれたところが好感触。疲れは一切感じない。
疲れ知らずという点では、前走車との車間距離を一定に保ちながら走る「全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロール」やBLISによる死角のカバーがとにかく快適だった。もちろん、僕自身も前方や後方を注意しながら走行を続けてはいるが、そこに注視しなくても何かあればクルマがフォローしてくれる状況は確実に疲れを軽減してくれることを再確認した。今回はお世話になることがなかったが、低速用追突回避・軽減オートブレーキは、従来型が30km/h未満しかカバーできなかったものを50km/h未満と速度域を高めたところも、確実に心の余裕に繋がっていたと思う。
ボルボは2020年までに、新しいボルボ車が関わった事故による死者・重傷者をゼロにしようという“ビジョン2020”を掲げているのだが、その本気ぶりが2014年モデルからヒシヒシと伝わってくる。モデルイヤーによる改良で、少しでも多くの安全をユーザーに届けようと毎年必死になって安全対策を重ねてくるあたりがボルボらしい部分である。
見た目どおりの豪快な走りっぷり
会津若松からの帰路はXC60 T6 AWDをドライブ。こちらは直列6気筒の3.0リッターターボエンジンを搭載。グレード名が示すとおり4WDモデルである。見た目も中身も豪快な仕上がりで、車両重量は1930kgにもなる巨体だが、ゆったりとした乗り味と滑らかなエンジン回転のフィーリングによって豪快な走りっぷりを実現するところが好感触だった。その一方で、ワインディングでも狙いを外すことのないシャシー性能にも感心した。それに加えて前述したV60のようなサポートシステムも万全。ゴージャスな雰囲気とスポーティな走り、4輪駆動による安定感、さらには安全サポートが充実しているのだから文句ナシである。
こうしてボルボの2014年モデルを見たり乗ったりを繰り返していると、やはりそのすべてを声高に宣言せず、シレッと収めている部分こそボルボの素晴らしさだと改めて感じた。あまりにも当然の流れで構築されるそのデザインと機能には、没個性になりはしないかと心配に思うところもある。だが、実はこれこそ工業製品として熟成の域に達してきたことの証なのだ。燃費性能や「ぶつからない!?」ということばかりを全面に押し出す世界とは一線を画す仕上がりが、そこには確実に存在していたのである。
【お詫びと訂正】記事初出時、2014年モデルでのギヤチェンジ時間の短縮と0-100km/h加速タイムに関する記述がありましたが、これらはT6 AWDモデルが対象となるデータでした。該当文を削除し、お詫びして訂正させていただきます。