インプレッション
日産「スカイライン」
Text by 岡本幸一郎(2014/4/3 00:00)
キラリを光るものをいくつも持ったクルマ
日本車で1950年代から続く車名を持つクルマというと、いつの間にか「クラウン」と「スカイライン」だけになっていた。伝統と名声があるからこそ、とやかくいわれてしまうのがスカイライン。この13代目となるV37型も、日本よりも先に北米で発売(北米での車名はQ50)になったことに加え、日産車なのにインフィニティバッヂが付くことが揶揄されたり、Q50のリコールが報じられたりしたこともあって、どちらかといえばネガティブな取り上げられ方をしていたように思える。
しかし、このクルマが「スカイライン」であるかどうかはさておき、このクラスのセダンとして、これほど魅力的なクルマはそうそうないのではと筆者は思っているところだ。ドイツのプレミアムブランド勢やレクサス「IS」「GS」、あるいはトヨタ「クラウン アスリート」などと比べても、キラリと光るものをいくつも持っているのではないかと。
基本的に同じ内容であるインフィニティ「Q50」については、2013年の9月にカリフォルニアで開催されたグローバルイベント「NISSAN360」で乗ることができたが、正真正銘の新型スカイラインに乗るのはこれが初めて。
Q50ではいろいろ思うところがあり、率直にいうと全体的に粗さを感じたのだが、その際に乗った車両は、実は量産の一歩手前の仕様だったらしい。その後、日本向けのスカイラインの発売まで時間があったこともあり、追い込みでかなり熟成させることができたと開発者は述べていた。結果として、Q50からハンドル位置が変わっただけでなく、NISSAN360で乗ったQ50とは別物といえるほど全体的に洗練されていたことを、まずはお伝えしておこう。
このクルマ最大の訴求点というのは、どうこういっても、まずは見てのとおりスタイリングだと思う。何度目にしても、見るほどにホレボレさせられる。もっと高価な輸入車勢並みに精度を高め、ドアやフードなどのパネルの隙間を詰めたことも効いて、よりクオリティ感と流麗さを際立たせているようだ。
インテリアもなかなか雰囲気があってよい。中央に配されたツインディスプレイは見た目にも印象的で、これによりもたらされる新感覚の操作性もスカイラインの特徴の1つだ。トランクについては、ハイブリッドバッテリーを後席後方に搭載するため奥行きには制約があるものの、十分に広くて使いやすそうな形状となっているのもありがたい。
そして、報じられているとおり数々の非常に先進的な機構を身に着けたこともスカイラインの大きな訴求ポイントである。
第2世代に進化したハイブリッドシステム
スカイラインの走りは、動力性能、運動性能とも非常に印象深いものだ。
V型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」エンジン+1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムは、基本コンポーネントは従来と共通ながら、「第2世代」と日産がアナウンスしているとおり進化を遂げ、乗り味はずいぶん洗練されている。
軽くアクセルを踏んだだけでも、クルマは軽やかに速度を上げていく。第1世代では踏んでからワンテンポ遅れてグイッと加速する感覚があったが、スカイラインはアクセル操作に対してリニアにモーターがアシストするよう味付けされており、出足から心地よい加速Gが長く続く。意図したとおりに力強く加速してくれるというのは、やはり気持ちよいものだ。そしてひとたび全開を試みたときの速さはハンパじゃない! さらに走行モードを「スポーツ」にすると、“そこが命”とばかりに踏み込んだ瞬間からより瞬発力のある加速を示す。
音についてもボーズの「アクティブ・ノイズ・コントロール」により、不快なこもり音に対して逆位相の音を出力して静粛性を確保するとともに、「アクティブ・サウンド・コントロール」により、車内で聞こえるエンジンサウンドの音質を高めている。これもあって、エンジンの吹け上がり方がとてもスムーズで上質に感じられた。ご参考まで、ボーズ装着車と日産純正では、目的は同じでもそれぞれ味付けが異なるらしい。車両の都合で今回はボーズ装着車のみの試乗となったのだが、出来は上々であった。
おとなしく走っていると頻繁にエンジンが停止し、ハイブリッドシステムが誇る優位性を継承しているのはいうまでもない。エンジン停止~再始動時の音や振動は、注意深くしていると分かるが、ほぼ気になることはない。また、「フーガ ハイブリッド」や「シーマ」の第1世代は、微低速でクラッチのつながり方からして難があったところ、スカイラインはトルコン付きATと遜色ないほどスムーズだ。
聞いたところでは、基本的には同じシステムとはいえ、従来よりもクラッチをスムーズにつなぐため、油圧を制御しやすいよう油路の径を拡大するなど、ソフトだけでなくハード面でも細かいところに改良を加えているのだという。トルコンがないと、ここまで仕上げるのは無理ではないかと思っていたのだが、そうではなかった。これなら切り返して駐車するときのように、細かい動きを繰り返してもあまり煩わしさを感じない。
一方で、ブレーキフィールについては、中~高速域ではあまり気にならないものの、低速では初期の制動感が小さいことと、全体的に制動力をコントロールしにくいことを感じた。このあたりはさらなる改善に期待したいところだ。
世界初のステアリング機構による走りは?
もう一方でスカイラインの走りを特徴づけているのが、ステアリング操作を電気信号に置き換えてタイヤを操舵するという「ダイレクトアダプティブステアリング」によるハンドリングだ。応答遅れのない操縦性を実現し、ステアリングの重さや俊敏さを任意に調整できるというものだが、まさしくそのとおりである。
駐車場に用意されたコースで走行モード(スタンダード/スポーツ/エコ/スノー/パーソナル)の違いを試し、その後に公道へ出てさらに色々と試してみたところ、同じクルマでフィーリングがまるで変わることに驚いた。また、段差を乗り越えても、同システム採用の大きな目的の1つであるキックバックの小ささを感じる。走りにはこのサイズと車両重量のクルマとは思えないほど一体感があり、操舵に対して遅れることなく車体全体がついてくる感覚も心地よい。
ただし、システムのことはさておき、ステアリング機構そのものの素性として、中立からヨーが立ち上がるまでにやや不感帯が認められることや、キックバックがないことは快適である半面、相反する要素であるインフォメーションが乏しいことなどが挙げられる。これは日産としては、あえてそうした部分でもあるだろうし、ドライバーにとっても好みが別れることと思う。「制御によって、いかようにできるのが同システムの強み」と開発者も述べており、むろん初出しのシステムゆえ、これから色々改良されていくのだろうが、ひとまず現状の仕上がりはお伝えしたような印象であった。
乗り心地の快適性は、概ね高く保たれている。プラットフォームは基本的には先代スカイライン(V36)のキャリーオーバーで、走りもその延長上にあることには違いないが、大幅に洗練されており、乗員が不快に感じそうな突き上げや上下左右の振動などが上手く緩和されている。
スプリングとダンパーを同軸化するなど、機構面での変更があるとはいえ、もっとも大きく変わったのは、方向性の「考え方」だと思う。ドライバー主体であることには違いないが、後席の乗員への配慮も、これまでよりもなされているように感じられた。スポーティなイメージの強いスカイラインだが、むしろコンフォート性においてもフーガを上回るほどである。また、滑りを抑える電子制御デバイスも、既存のどの日産車よりも煮詰められており、違和感なく素直に作動するように感じられた。
欲をいうと、個人的には最小回転半径が5.6m(2WD車)と、やや大きめである点が気になる。たとえフロントタイヤを細くしてでも、もう少し切れ角が大きいほうがありがたい。
さらに、先進装備を満載していることも新型スカイライン(V37)の大きな特徴である。
「全方位運転支援システム」を採用したと謳っているとおり、現状でこれだけ安全装備を詰め込んだクルマは世界的にも数少ないほど充実している。それぞれについてリポートしたいところだが、それだけで1本の記事になるほどなので、いずれ機会があれば改めてということにしたいのだが、注目の「アクティブレーンコントロール」には触れておこう。
これは前で述べた物理的につながっていないダイレクトアダプティブステアリングにより実現したもので、車線認識カメラによって車線に対する車両の進路のズレを検出したときに、前輪の角度とハンドルのトルクを自動的に補正することで、そのズレを低減してくれる機能を持つ。角度のついたコーナーではさすがに無理だが、高速道路を走行していて、強い横風を受けたり轍に取られたりしたときにドライバーがあまり修正舵をあてなくても、楽に安定してラインをトレースしていける。これがあれば長距離ドライブでの疲労感も、より小さくてすむことだろう。
ただし、この機能はデフォルトではOFFになっているため、有効にするには乗るたびに画面を呼び出してONにしなければならない。そのあたりのロジックも、やや反応の遅いカーナビと併せて見直して欲しい部分である。
本命はタイプSP
新型スカイラインの本命は、やや高価ではあるものの、やはりトップグレードの「タイプSP」だ。外観ではスポーティな形状のバンパーが付き、サスペンションセッティングは他グレードと共通だが、19インチタイヤ&ホイールが標準装備で付く。ブレーキはフロントが対向ピストンのスポーツチューン仕様となる。インテリアではパドルシフトが付くほか、アルミペダルや本アルミフィニッシャーが装備される。これだけ付いてタイプPの約40万円高というのは、むしろ買い得感を覚えるほどだし、せっかくスカイラインを買うなら、やはりこれらの装備は欲しいところ。
このように、新型スカイラインは“魅せる”要素をいくつも備えたクルマであった。同程度の価格帯に、ドイツ勢をはじめ競合車が居並ぶ中において、こんなに魅力的なセダンが身近にあることを、もっと見直してもよいのではないかと思った次第である。