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トヨタ、新開発の「GD型」クリーンディーゼルエンジン説明会

最大熱効率44%を達成した「1GD-FTV」は新型プラドに搭載

2015年8月19日開催

ランドクルーザープラドに搭載される1GD-FTVユニット
トヨタ自動車 エンジン開発推進部 濱村芳彦氏

 トヨタ自動車は8月19日、東京本社(東京都文京区)において新開発グローバルディーゼルエンジン説明会を実施した。このユニットは「2015年までに全世界で合計14機種投入」される高効率、低燃費エンジン群の一翼を担うモデルとなる。

 新開発となる「GD型」ディーゼルエンジンは、これまで採用されてきた「KD型」に代わるユニットで、2.8リッターの「1GD-FTV」と2.4リッターの「2GD-FTV」の2機種が用意される。前者は先日マイナーチェンジを実施した「ランドクルーザープラド」に、後者はタイで発表された新型「ハイラックス」に搭載済みだ。このGD型ユニットは2016年までに年間70万機規模で生産され、約90の国や地域に展開。さらに2020年までには150の国や地域に展開可能だという。

 説明を行ったのはトヨタ自動車 エンジン開発推進部の濱村芳彦氏。まず、前置きとしてトヨタのディーゼルエンジンが年間100万台規模で生産、販売されており、2014年においてはフォルクスワーゲン、フォード、PSA(プジョー・シトロエン)に次いで世界第4位の生産台数であると説明。「その中でも世界中のお客様にご愛顧いただいているのは2.5リッターと3.0リッターの排気量バリエーションを持つ“KD”エンジンで、年間にグローバルで生産する100万台のうち、約8割を占める」とした。その理由として、「2001年に当時としては世界を見渡しても珍しいことでしたが、国内、欧州を除く地域に最新鋭のコモンレールディーゼルを導入した」ことを挙げ、現在では導入国が156カ国となり世界中の自動車メーカーの中でトップ(トヨタ調べ)であるとした。

 続けて世界中から大きな信頼が寄せられていることに対し、エンジニアとして「どんな過酷な道路事情でもお客様が安心して生活できるクルマづくりを目指している」と説明。「過酷な環境でも平地と変わらずシッカリ走れるクルマでなければお客様は満足されません。特定の地域だけでなく世界中のどのようなシーンでも品質、耐久性、信頼性に満足し、安心して乗っていただけるトヨタのディーゼルエンジンの載ったクルマづくりを目指して開発を続けてきた。今までも、これから先も変わることはありません」と、エンジニアとしての思いを語った。

トヨタはディーゼルエンジンを年間100万台規模で生産しており、そのうち8割がKD型
コモンレール式ディーゼルエンジンを156カ国に展開
トヨタのディーゼルエンジンは過酷な道路条件下で使われている
使用される環境もさまざま
同時に快適なドライブも提供
世界中どのようなシーンでも品質、耐久性、信頼性を満足し、安心して乗っていただきたい

“もっといいクルマ”に向けて3つの取り組みを実施

 今回、新たにディーゼルエンジンを開発したことについては、「世界中のお客様にトヨタのディーゼルエンジンを鍛えていただいた。今度はお客様の期待を上回るべく全社で取り組んでいる“もっといいクルマづくり”でお応えしたい」とプロジェクトをスタート。コンセプトとして掲げられたのは、「もっと走りやすいクルマ」「もっと燃費のいいクルマ」「もっと静かなクルマ」「もっとクリーンなクルマ」の4点。これらを実現するために「エンジン基本骨格の最適化」「燃焼の革新」「触媒システムのリニューアル」と、3つの取り組みが行われた。

 エンジン基本骨格の最適化では、エンジンが自然に吸う吸入空気量を上げ、燃焼をコントロールする技術を進化させ、何かを犠牲にすることなく燃費、発進時の走り、静粛性、排気性能といったすべての商品力を、どのような使われ方でも向上させる排気量をさまざまな検討で見極めた結果、2.4リッターと2.8リッターのチョイスとなった。KD型エンジンに対して排気量をダウンサイジングした格好だが、一般的に燃費向上や機械騒音が低減できる一方、発進時のトルクやエミッションレベルが悪化してしまう。そこで動力性能に対しては吸気量の増加と高レスポンス加給で、エミッションに対しては燃焼温度のコントロールと触媒システムの改良で対応したという。

グローバルディーゼルエンジン開発の狙い
「もっと走りやすいクルマ」として発進と低速トルクに開発の力点を置いた
「もっと燃費のいいクルマ」のために最大熱効率45%を目標に掲げた
「もっと静かなクルマ」のためにすべての運転条件で低騒音化を目指した
「もっとクリーンなクルマ」のために世界中の使われ方やインフラ、燃料、規制等刻々と変化する環境ニーズに素早く対応可能な低エミッションシステムを開発
開発コンセプトを実現する3つの取り組み
KDエンジンから排気量をダウン
燃焼の革新

 燃焼面では空気をシリンダーの中に一杯入れ、燃焼温度をコントロールし、一杯入った空気を使い切り、発生した熱エネルギーを逃がさないことが重要になってくる。現在主流となっている、シリンダー内の空気流動を利用し、燃料と空気をかき混ぜることで均一化を図るというアプローチでは、どうしてもロスが大きくなってしまう。そこで「燃焼室空間に燃料噴霧をくまなく配置し、かき混ぜるエネルギーのロスを減らすことに挑戦した」という。これが次世代高断熱ディーゼル燃焼の考え方のスタートになった。

 発想の転換と燃焼シミュレーションの検証から生まれたのが、「パイロット燃焼で温度条件を整え、燃焼空間にくまなく配置された燃料噴霧をかき混ぜずに燃焼させ、燃焼後期にはアフター燃焼で最後に残った中央付近の空気を使い切る」というコンセプトだ。従来の「かき混ぜる燃焼」から「精密にコントロールする燃焼」への転換が図られたわけだ。

 この次世代高断熱ディーゼル燃焼は、大まかに3つのステップで進行していく。まず、メインの噴射時に急激な温度上昇が起きるのを防ぐため、ピストンが上死点にくる前に数回の微少噴射による予備燃焼を行う。その際、外気の状態を予備燃焼にフィードバックしており、濱村氏によれば「この技術こそ我々が世界の過酷な地域で蓄えてきたノウハウそのもの。これにより燃焼音の抑制、安定した始動、燃焼の安定性、白煙の抑制などさまざまな効果がもたらされる」という。

 2ステップ目となるメイン噴射時は、燃焼室の空気を使い切るため燃料の噴霧形状に合わせて設計された外周部をA、B上下の2つの空間に分け、燃料噴霧を配置し燃焼させる。ゆるやかな空気流動を利用することで、火炎を重ねずに周方向の空気を使い切ることができる。

 最後に微少なアフター噴射を行うことで、まだ使っていない燃焼室中央付近の空気層を使い切ることができる。細かな制御を行うことで、燃料と空気をムダなく効率的に使い切り、その結果、効率アップはもちろん世界中の過酷な環境でも安定したパフォーマンスが実現できるわけだ。

従来型の燃焼(左側)
次世代高断熱ディーゼルの燃焼

 同時に吸入空気量の増加を目指し、吸気ポートを低流動のポート設計に変更した。これにより従来型より11%向上し、結果として排気量を2.8リッターに下げたものの、ターボチャージャーが過給していない領域においてもトルクが8%向上。ターボチャージャーも小型化が可能になったため、発進時、低速時の動力性能が飛躍的に向上したという。

空気量の増加のために吸気ポートを新開発
排気量を下げつつ吸入空気量を向上
ピストンが上死点に来る前に外気の状態にあわせて燃焼室内の温度を一定にするため、数回の微少噴射による予備燃焼を行う
燃料の噴霧形状に合わせて設計された外周部をA、B上下の2つの空間に分け燃料噴霧を配置し燃焼させる
微少なアフター噴射によりまだ使っていない燃焼室中央付近の空気層を使い切る

世界初の「TSWIN」技術を採用、ターボチャージャーも新開発

 こうして得た熱エネルギーを効率よく動力に変換する、世界で初めてトヨタが取り入れた技術が「TSWIN(Thermo Swing Wall Insulation Technology)」だ。ピストンに断熱特性を持ったシリカで強化した多孔質の陽極酸化膜をコーティングすることで、ピストンから奪われる熱エネルギーを約30%低減できたといい、実験では「断熱特性が高いだけでなく、ある温度以下になると放熱特性が高まり、エンジンの吸気行程時に冷たく密度の高い空気をシリンダー内に取り込むことができる」ことが裏付けられたそうだ。

 ディーゼルエンジンと相性のよいターボチャージャーも新たに開発した。燃焼技術を最大限に引き出すためにタービンやインペラの改良に加え、ターボの特性をより全域で高応答でダイナミックに作動させる高流動なベーンを持った可変ノズルとアクチュエーターの改良に取り組んだといい、「エンジン開発と一体化することで出力あたりのターボサイズでは世界最小」を実現。さらに、従来モデルより約50%の過給圧の上昇特性を得ることができたそうだ。これにより低速からの動力性能を大きく向上しているという。

ピストン上部にシリカ強化多孔質陽極酸化膜をコーティング。燃焼を精密にコントロールすることでスラッジなどの付着による性能低下はないという
アルミと比較した時の温度差
ターボチャージャーを新開発
約30%の小型化を実現
触媒システムのリニューアル

 GD型ユニットでは「平成22年(ポスト新長期)排出ガス規制」や「EURO6」に対応するために、窒素酸化物を最大99%低減する尿素SCRシステムを国内と欧州に導入している。これはシミュレーションや可視化技術を活用し、独自開発したコンパクトな高分散尿素システムで、過酷な地域での実車試験で品質、信頼性、耐久性を確認しているという。プラドの場合、尿素タンクの容量は12Lで、一般的な走行なら1万5000kmほど持つ。これはエンジンオイルの交換時期を意識したもので、同時に交換することを想定している。

 一方、尿素インフラが十分でない地域や、燃料やオイルの特性レンジが広く高機能な触媒が使えない地域でも、触媒に改良を加えることで触媒サイズを小型化。使用貴金属量を減らし資源環境に貢献しているという。また、「刻々と変わる環境ニーズにタイムリーに対応するため、これまで車種ごとに違ったレイアウトで配置していた触媒を、エンジンにシンプルにまとめ展開性を高めていることも特長」だと語った。

独自開発したコンパクトな高分散尿素システムを採用
プラドには2.8リッターの1GD-FTVユニットを搭載
ハイパフォーマンスと静粛性を両立
燃費の向上とエミッションの低減も実現
87カ国から順次新型エンジンに切り替え
69万台/年を順次新型エンジンに切り替え
グローバルモデルを開発する際は、さまざまな環境や使われ方にミートしているかを現地で確認。海外のテクニカルセンターやエンジン工場、車両工場といった海外事業体が一緒に開発を行う
欧州向けオーリスには1.4リッターディーゼルエンジンを搭載
今回のディーゼルエンジンにより、14機種投入予定の高熱効率低燃費エンジン中11機種を予定通り展開

 最後にGD型エンジンは「骨格の刷新とトヨタ次世代高断熱ディーゼル燃焼、新開発の小型ターボチャージャーの効果で発進時から力強い動力性能が楽しめる」「エンジンを掛けた瞬間から全域で静かで快適な走行を体感できる」とアピール。「我々が世界中で鍛え抜いて開発した最新のディーゼルエンジンを、日本の皆様にもお楽しみいただけたらと考えています」と締めくくった。

デンソー製の第4世代となる高圧燃料サプライポンプ。最大噴射圧は250MPaまで対応するが220MPaで使用
コモンレール
G4Sインジェクター
ピストン。上面にシリカ強化多孔質陽極酸化膜がコーティングされている
触媒システム。触媒部分が2分割となっているのは取り回しの都合だという
触媒部分
尿素インジェクターと奥に見えるのが高拡散分散板。3枚の分散板を重ねることで圧力損失を最小限に抑えている
新開発のターボチャージャー
吸気側は新開発のアルミ材で排気側と同じく3次元翼を採用。これは世界初という
排気側。ホイール周囲にあるのが可動式ベーン。負荷に応じてアクチュエータにより無段階に変化
インコネルを使って精密鋳造されたタービンホイール。奥がKD型、手前がGD型で使われているもの
3次元翼&内部構造の最適化などにより最高回転数は16万rpmから23万rpmへとアップ
エンジン一体となったDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)
新たに採用となった高効率低流動吸気ポート

(安田 剛)