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橋本洋平の「TCL アドバンス」の開発者に聞いてみた

ペダルフィールにこだわったブレーキフルード

ULTIMATE PERFORMANCE SERIES「Premium」:4500円(1L缶:税別)

ULTIMATE PERFORMANCE SERIES「Competition」:6000円(1L缶:税別)

TCL アドバンスの競技専用ブレーキフルード「Competition」

 ブレーキフルードメーカーとして老舗の谷川油化が満を持して立ち上げたオリジナルブランド「TCL ADVANCE(以下TCL アドバンス)」。社運をかけた新ブレーキフルードが発売に至るまでには、耐久レースやジムカーナなど、さまざまな競技の現場で開発やテストが行なわれてきた。

 そして発売前の同社の製品を使って86レースに参加していたのが、Car Watchでもおなじみの橋本洋平氏である。今回はそんな橋本氏が、ヴィッツレースでTCL アドバンスの開発に積極的に携わったドライバーや開発者にインタビューを敢行。マシンの差がほとんどないワンメイクレースの中でのTCL アドバンスのポテンシャルを聞いた。


 一般的な走行をする人なら、まず気にしたことがないであろうブレーキフルードの性能。だが、サーキット走行をはじめとするスポーティな走りをしようと思った場合、まず手を付けなければならないのがブレーキフルードだったりもする。

 激しいブレーキングは、その熱によってブレーキフルードを沸騰させてしまう。そこで発生した気泡によってブレーキフルードの液圧は低下し、結果、ペダルがスポンジーになった上に満足な制動力が得られなくなる。こうした「ベーパーロック現象」は、近年の大容量のブレーキシステムを奢ったクルマでは、その現象が日常域で顔を出すようなことは少なくなった。だが、スポーツ走行をする場合はまだまだ気にしておかなければならない。だからこそ、走行前には事前にドライ沸点が高いブレーキフルードに交換し、さらに走行後にはエア抜き作業を行なうのがまだまだ通例といってよい。

 いま、そんな基本的なところだけでなく、ブレーキのペダルフィールにまで拘ったブレーキフルードが存在していることを皆さんはご存じだろうか。自動車部品や自動車用品の専門商社であるSPKと、オートケミカル用品メーカーの谷川油化興業は共同で新規ブランド・TCL アドバンスを立ち上げ、いままでよりも一歩踏み込んだブレーキフルード「Competition」と「Premium」を発売した。今回はその新しいブレーキフルードに注目し、開発者やユーザーの意見を伺うことで、その製品の魅力に迫ってみたい。

左がTCL アドバンスのDOT5.1規格に適合した「Premium」、右が競技専用ブレーキフルード「Competition」となる。

ドライ沸点を上げると低温時のフィーリングがわるくなる

 まずは谷川油化興業の技術開発部・主任である鈴木和参氏に、ブレーキフルードの基本的な特性について教えて頂くことにしよう。

谷川油化興業株式会社 技術開発部・主任 鈴木和参氏

「ドライ沸点をとにかく高くした場合、フルードの粘度が高くなり、低温では固く、ゴムみたいな弾力感が出てしまって追随性が落ちるといったネガティブな要素が出る傾向にあります。つまり、動粘度が高ければ高いほどドライ沸点を高めることが可能。しかし、ブレーキフルードがハチミツのようになり、ペダルの反応性・動作性能が落ちてしまうんです。テストの段階ではドライ沸点が350℃くらいのものまで試しましたが、残念ながら懸念していたネガティブな要素が出てしまい、そこまでドライ沸点を高めることはやめました」(鈴木氏)

 結果として行き着いたのはドライ沸点327℃、ウエット沸点212℃という「Competition」。−40℃動粘度は約2500cStとなる。高温の環境下でも剛性感の高いブレーキタッチを持続することを可能にし、さらに反応性や動作性能との折り合いもつけて誕生した製品がこれだ。ちなみにDOT5.1規格で動粘度が認められるものは1500cSt以下。よって、「Competition」は競技専用品となっている。

 一方でJIS規格にも適合し、さらなるペダルフィールにこだわったブレーキフルードが「Premium」である。これはドライ沸点273℃、ウエット沸点188℃を達成。−40℃での動粘度は768cStとなっており、ブレーキリリース時のダイレクトなペダルフィールを実現。ABSの制御とも良好なマッチングを達成している。

谷川油化興業株式会社 営業部・次長 今福啓太氏

 谷川油化興業の営業部・次長を務める今福啓太氏は「弊社は昭和20年代からブレーキフルードを開発してまいりました。一時は他社の下請けというポジションでレース界への供給を行なった経験はありますが、自社ブランドでのレース界への参入は行なってきませんでした。今回はTCL アドバンスというブランドを立ち上げたことで、拘りある製品を作り上げることができたと自負しています」とのこと。かつてないコンセプトでブレーキフルードを開発したからこそのコメントだろう。

ブレーキフルードにもブレーキパッドと同じように性能を求める

ディージャック 店長 大嶺高志氏

 こうして誕生したTCL アドバンスのブレーキフルードは、何も簡単にできあがったわけではない。当然のことながら、トライ&エラーを繰り返してようやく完成した製品である。そんな開発テストの一端を担ったのが、ワンメイクレースをはじめとする自動車競技で現場を支えているレーシングファクトリー・Djac(ディージャック)店長の大嶺高志氏である。

「我々がブレーキフルードに求めるものは、エアが噛まないことはもちろん、やはりブレーキのタッチです。それも、ブレーキを踏んだ時の剛性感だけでなく、最も気を遣っているのはリリースする時の追従性なんです。いまテストしているヴィッツはアンダーパワーなため、できるだけ減速をしないでコーナーを駆け抜けることが求められます。ですから、ブレーキパッドについても効きは当然として、リリース時のコントロール性を求めていますし、ブレーキフルードにも要求することは変わらないんですよ」(大嶺氏)

 テスト段階で用意されたブレーキフルードの中には、いくつか納得のいかないものもあったそうだが、それをきちんとチーム員と共に選別。現在あるブレーキフルードに行き着いたというわけだ。

マシンの差が少ないワンメイクレースだからこそ、少しの差が勝敗を分ける
減速しつつも減速し過ぎずに速度を維持したまま走る
ブレーキフルードとクラッチフルードを共用するヴィッツ

 実際にヴィッツレースを走らせたディージャックのドライバーからのコメントも上々だ。昨年のヴィッツ関東チャンピオンである蓬田昭男選手は「このフルードはタッチがよく、それが持続するところが気に入っています。現場でエア抜きすることなくレースができたことも満足です」とのこと。6時間耐久レースでも使用したという常盤剛史選手は「ブレーキのリリース時についてくる感覚がよいと思いました。6時間の耐久レースにおいても、途中でフィーリングが変化しなかったことにも感心しました」と言う。

 これまで何社ものブレーキフルードを試してきたという中村信彦選手は「今までどんなブレーキフルードを使っても同じ感覚だったんです。でも、TCL アドバンスを入れてみたら、確実にタッチとコントロール性が違うことに驚きを感じました。効果を感じられるブレーキフルードは初めてですよ」。同様に種村浩太郎選手も「ブレーキフルードを入れ替えた瞬間、硬くなったと感じましたね」とその変化を実感したと言う。

 こうしたチームのメンバーであってもクルマのメンテナンス費は自分持ちだ。レースごとのブレーキフルード交換やエア抜きの回数が減るというのも「ドライバーにとっては大きなメリット」だと大嶺氏は付け加える。

ディージャックとともにブレーキフルードテストに携わったヴィッツレースドライバー
蓬田昭男選手
常盤剛史選手
中村信彦選手
取材日は出走しないため私服の種村浩太郎選手

 最後に今シーズンの途中から、発売前のTCL アドバンスのブレーキフルードを使わせてもらっていた僕もコメントしておきたい。GAZOO Racing 86/BRZ Raceでこのブレーキフルードを使ってきたが、他の皆さんが言っているように、ブレーキリリース時のコントロール性は高かったように感じている。いま86のレースでは、ブレーキング時にタイヤが潰れ切ったところからそれを戻し、そして旋回させていくことを心掛けて乗っているのだが、狙ったことをやりやすくなったことが今年の大きな収穫だったように感じている。その一端を担ってくれたのは間違いなくTCL アドバンスが開発したブレーキフルードの新たなる特性だったことは言うまでもない。

 さらに、満足な体制でレースをできていないため、エア抜きをしないでレースウイークを過ごすこともあったが、それでも出発から帰宅までペダルフィールが変わらなかったためにかなり助けられた。このようにフィーリングから耐久性までを満足できるTCL アドバンスのブレーキフルードは、変えたことが体感できる数少ない製品である。皆さんも交換する時には是非1度試して、そのフィーリングを体感して頂ければと思う。

(橋本洋平)