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日本大学生産工学部自動車工学リサーチ・センター、「自動車技術に関するCAEフォーラム2016」開催

基調講演には日産自動車 取締役会技術顧問 山下光彦氏が登壇

2016年3月8日~9日 開催

 日本大学生産工学部自動車工学リサーチ・センターは3月8日~9日、東京 ソラシティカンファレンスセンターにて「自動車技術に関するCAEフォーラム2016~自動車の研究開発・設計・製造におけるCAE最前線 - それを支える計測・実験技術~」を開催した。

CAEは自動車メーカーでは必須の技術

 第2回「自動車技術に関するCAEフォーラム」は、「構想設計」「構造・設計」「機能設計」「燃焼・熱流体」「自動運転と走行制御系の予測・設計技術」のカテゴリーごとに、多彩な専門分野のエンジニアを講演者として配し、昨年よりも内容を充実させ新たな視座から課題提起をするもの。CAE(Computer Aided Engineering)は各自動車メーカーでは多岐にわたる分野で必須の技術になっているものであるが、その説明やフォーラムの趣旨については昨年の記事を参照していただきたい。

日本大学 生産工学部 自動車工学リサーチ・センター長の景山一郎教授

 プログラム委員会委員長であり、日本大学 生産工学部 自動車工学リサーチ・センター長の景山一郎教授は「前回に続き今回も約1000人が足を運んでくれるので、CAEは注目を浴びている分野だと言える」と話し、「このフォーラムは産学連携を推進することが目的の1つ。基調講演では日産自動車で技術統括を担ってこられた山下氏、各界から注目を浴びているロボット技術に造詣の深い本田技術研究所の竹中氏にご登壇をお願いした。有意義な2日間にして欲しい」とコメントした。

「これからのモビリティ社会とクルマの進化」日産自動車 取締役会技術顧問 山下光彦氏の講演

日産自動車 取締役会技術顧問 山下光彦氏

 初日の基調講演で、日産の山下氏は「グローバル経済と自動車産業」「日本の産業構造」「クルマの進化」について話した。まず各国のGDPについて、2000年以降、中国の伸びに注目が集まる中でアメリカもほぼコンスタントに伸びていることを指摘、一方、日本はほぼ伸びておらず、EUも2005年を超えたあたりから少し持ち上がってきている状況を解説。山下氏は「世界の産業別GDPを見ると、第1次、第2次産業を合わせた製造に関わるものが34%。その中でもクルマは大きな割合を占めている。日本車のグローバルシェアは1980年代から約3割。現在はEUすべての数字よりも日本のほうが大きい。国内の他産業が下がってきている中で、自動車だけはあまり変わっていない」と、自動車産業の存在感について語った。

世界の自動車産業について語る山下氏とプレゼンテーション。写真では判りづらいが、日本と他国の製品別売上高・シェアのシートを見れば自動車産業の大きさが分かる

 日本の産業構造については「日本経済は1995年以降、20年間成長していない。また他の国に比べて製造業の割合が低く、サービス業のほうが上。従業員1人当たりの付加価値を並べるとサービス業は低い。つまり1人当たりの利益が少ない産業に多くの人が就いている」と語った。クルマについては、1台あたりの売上から割り出した各メーカーの付加価値について記したスライドで説明。「スバルさんは頑張っているが、ダイムラーやBMWなどのドイツ車が圧倒的に高い。また高級車の市場では日本車は12%に止まっている」と話した。

「日本企業がシェア50%以上を占める製品が206もある。アメリカでも79製品しかないのだから、日本企業のポテンシャルは高い」と山下氏はコメントしていた
1台あたりの売上から割り出した、各メーカーの付加価値について記したスライドと、高級車のブランド別シェア。トータルでは30%のシェアを持つ日本だが、高級車では12%しかない

 クルマの進化については「自働車を取り巻く環境の課題については、エネルギー、地球温暖化、渋滞、交通事故の4つを挙げている」とコメントし、エネルギーについては「世界の消費エネルギーは年々増えているが、2011年に年間120億トンの石油が消費がされていた。エネルギーは太陽から届くものがほとんどであるが、それは時間あたりで149億t。なので、これを10%でも有効活用すれば我々はエネルギーに困ることはないかも知れない」と語り、地球温暖化については「極端な気象がどんどん起こっている。猛暑日、竜巻なども温暖化の影響。部門別のCO2排出量は運輸部門が14.3%なので、我々は半分以下、できればゼロに持っていきたい」と話した。

 渋滞や交通事故を減らすためには、やはり運転支援は必要な技術であることは誰でも分かっているいることだとは思うが、あらためてグローバルな数値と日本国内の数値を見ると納得させられる。「4つの課題への日産のチャレンジは、エネルギーと温暖化問題に対しては電動化、渋滞や交通事故に対しては知能化によって解消すること」と山下氏はコメントした上で、リーフの販売台数が増えていることや、自動運転への取り組みなどについて話した。

自働車を取り巻く環境の課題に関するスライド。資源問題やCO2排出量、渋滞による損失の金額換算や減少傾向にはあるが交通死亡事故件数なども記されていた
あらためて見るとリーフのランニングコストの安さが判る。日産は電動化と知能化で交通環境の課題に取り組んでいくが、必要なものは「通信ネットワーク」「電気ネットワーク」「道路ネットワーク」とコメント

構想設計、構造・設計、燃焼・熱流体などのカテゴリーでさまざまな講演

本田技術研究所 第11技術開発室 主任研究員 髙山光弘氏

 会場内はA、B、Cの3つに分かれていたのですべての講演を聴くことはできなかったが、構想設計、構造・設計、燃焼・熱流体にカテゴリー分けされて、2日間で37もの講演が行なわれた。本田技術研究所の第11技術開発室 主任研究員である髙山光弘氏は「多様化ニーズに応じたFull Vehicle CAE開発の取り組み」とタイトルされた講演の中で「付加価値向上を狙いユーザーニーズの多様化に応えるためには、構成部品も含めた製造工程などに大きな影響がある。要求項目に対するチェックポイントを個別に見ていると結果としてトレードオフが生じるので、さまざまな要素を包括的に捉えることが必要」と語った。

髙山氏のプレゼンテーション。「開発コスト、期間を考えると横断的な管理をする必要がある」とコメントしていた
日産自動車 カスタマーパフォーマンス&CAE・実験技術開発本部 統合CAE・PLM部 車両運動性能CAEグループ主担 京極仁氏

 また、「シャシー・操縦安定性能開発におけるCAE貢献領域」とタイトルがされている日産自動車のカスタマーパフォーマンス&CAE・実験技術開発本部 統合CAE・PLM部 車両運動性能CAEグループの主担、京極仁氏の講演では「設計品質の向上と実験効率の向上にCAEの適用は不可欠。精度が高いシステムモデルにより、設計品質保証の幅が広がる」とコメントしていた。

日産は2005年からモデル化手法を構築している。「CAEにより、合理的な構造検討が可能となっている」と語った

会場内には、デモなどのさまざまな展示

 数多くの講演が行なわれた会場には、シミュレーション製品デモなどの展示があった。アルテアエンジニアリングは「HyperWorks」製品群を展示。プロダクトについては同社Webサイトを参照していただければと思うが、これからさまざまなところで利用されていくものであることは十分に分るものだった。

http://www.altairjp.co.jp/

 日本マイクロソフトは「Surface for Business」を展示。Microsoft Corporationのシニア プログラム マネージャー Tejas Karmarkar氏は「40マイルで4台のクルマの衝突実験を行なえば、すべて異なる結果になるのだから、何十万回もシミュレーションが必要。解析、最適化のために、必要な時だけクラウドを使えばコストも下がる」と特別講演で語っていた。

Surface(https://www.microsoft.com/surface/ja-jp)、Azure(https://azure.microsoft.com/ja-jp/)

 上記以外にもさまざまな展示が行なわれており、来場者の多くが自動車関係者であることから、専門用語なども多く使い細かな質問などを投げかけていた。

IPG Automotive株式会社(http://ipg-automotive.co.jp/applications/)
株式会社アドバンストテクノロジー(http://www.ad-tech.co.jp/)
アンシス・ジャパン株式会社(http://www.ansys.com/ja-JP)
エムエスシーソフトウェア株式会社(http://www.mscsoftware.com/ja)
株式会社くいんと(http://www.quint.co.jp/)
株式会社クレアクト・インターナショナル(http://www.creact.co.jp/)
計測エンジニアリングシステム株式会社(http://www.kesco.co.jp/)
神戸HPCクラスター / FOCUS(http://www.j-focus.or.jp/)
サイバネットシステム株式会社(http://www.cybernet.co.jp/)
CEIソフトウェア株式会社(http://www.ceisoftware.co.jp/)
株式会社テラバイト(http://www.terrabyte.co.jp/)
株式会社電通国際情報サービス(http://www.isid.co.jp/)
株式会社トップ・シーエーイー(http://www.top-cae.co.jp/)
株式会社日本ヴイアイグレイド(http://www.vi-grade.co.jp/)
ファンクションベイ株式会社(http://www.functionbay.co.jp/)
株式会社富士テクニカルリサーチ(http://www.ftr.co.jp/n/)
株式会社フォーラムエイト(http://www.forum8.co.jp/)
ムラタソフトウェア株式会社(http://www.muratasoftware.com/)
日本大学生産工学部 自動車工学リサーチ・センター(http://www.nu-car.cit.nihon-u.ac.jp/index.php/ja/)

(酒井 利)