新型レガシィに乗ってみた。その1~アウトバック編~



 5月20日にフルモデルチェンジした「レガシィ」シリーズ。アウトバック2.5iを除くすべてのグレードでエンジンの排気量が拡大されたほか、CVTやリアダブルウィッシュボーン式サスペンションの初採用など、その走りの進化には期待が持てるところ。本誌編集部員である谷川潔と筆者の瀬戸学が、レガシィツーリングワゴン、B4、アウトバックを試乗してきたので、そのリポートを3回に分けてお届けする。

 1回目となる今回は、アウトバックの試乗リポートだ。乗ったのはアウトバック3.6R SI-Cruise。シリーズ最大となる水平対向6気筒 3.6リッターエンジンを搭載したモデルで、5速ATが組み合わされる。0~100km/hで前走車を追従可能なレーダークルーズコントロール「SI-Cruise」が搭載されたグレードだ。

試乗したのはアウトバック3.6R SI-Cruise。ボディーカラーはカメリアレッド・パール。オーバーフェンダーが装着されたアウトバックのスタイリングは、シリーズの中でも一番しっかりとした印象だ

寸法以上に広く感じるインテリア
 アウトバックの場合、室内は従来に比べ、室内の高さで30mm、長さで350mm、幅で100mm拡大されている。運転席と助手席の間隔も30mm増えており、谷川、瀬戸の2人が前席に着座した場合でも、シートに座った瞬間から広くなっていることを感じ取ることができた。

 横方向に曲線を描くセンターコンソールのデザインのせいもあるのだろうか、数字以上の広さを実感できる。インテリアに関しては、これまでのレガシィでは、曲面と平面を組み合わせたような密度感のあるデザインであったのに対し、新型レガシィではゆるやかなカーブを描くフラット感を重視しているようだ。

 身長183cmの筆者にとって、とにかく頭上高に余裕があるのを感じた。さらに座面も高くなっていて、先代では多少反っくり返るような格好で着座する感じだったが、新型では姿勢のよい状態で着座できる。個人的には、運転する際は着座位置が低いほうが好みだが、助手席に関しては、この着座姿勢は長距離でも疲れにくそうだ。また、ステアリングまわりのSI-DRIVE関連のスイッチ類がなくなりシンプルになったのが印象的だ。

試乗車にはSUVらしくヨコハマのGEOLANDAR(225/60 R17)が装着されていた

先代を圧倒的に上回る静粛性
 いざ走り始めてみると、すぐにその静粛性の高さに2人とも驚かされた。水平対向6気筒エンジンは、もともと振動が圧倒的に少なく、なめらかな回転が特徴だが、新採用のクレードルマウントの効果なのか、振動だけでなく車内に入ってくるエンジンノイズも圧倒的に抑えられている。特に高速道路を走ると如実で、その静かさゆえに、逆にロードノイズのほうが気になってしまう。とくにアウトバックはSUVというキャラクターにあわせてオールシーズンタイヤを履いているため、ロードノイズが余計に目立ってしまうのだろう。

 試乗車にはメーカーオプションのマッキントッシュ・サウンドシステムが装着されていたので、高速道路を走りながらマッキントッシュのサウンドチェックも行った。マッキントッシュサウンドシステム自体も進化しているのだとは思うが、従来ではノイズに消されていた中音域がしっかりと聞こえて、静粛性のアップがオーディオにもとてもよい効果を与えていると感じた。

高速道路とワインディングでアウトバックの走りをチェック

Iモードは実用的で、S#モードでは排気量アップの効果を納得
 では、気になる走りをチェックしてみよう。ボディーサイズが大きくなると、走りに関して従来よりも劣るのではという心配もあるが、3.6リッターエンジンは、最高出力191kW(260PS)、最大トルク335Nm(34.2kgm)と十分以上の力を持ち、上り坂の続く高速道路もなんらストレスを抱くことなく走ることができた。

 走行特性を「Intelligent(インテリジェント)」モード(Iモード)、「Sport(スポーツ)」モード(Sモード)、「Sport Sharp(スポーツ・シャープ)」モード(S#モード)3つのモードに切り替えできるSI-DRIVEを搭載しているが、一番穏やかなIモードでも、アクセルを踏みこめばしっかりと加速していくし、明らかにセッティングが変更されている。先代のマイナーチェンジで初採用されたSI-DRIVEだが、その時の仕様ではIモードはかなりパワーを絞ったセッティングで、アクセルを床まで踏み込んでもスロットルは全開にならないようになっていた。おかげで高速道路での追い越しなどが厳しく、その対策としてステアリングに大きなS#モード切替スイッチが設けられ、素早くS#モードへと切り替えられるようになっていた。

 今回のモデルでは、このステアリングに設けられたS#モードスイッチもなくなっており、この辺りについて開発者に聞いてみた。SI-DRIVEのセッティングは大きく変更されていると言い、今度のレガシィでは基本的にはIモードをデフォルトとして考えているとのこと。そのためエンジンを一度切ると、それまでSモードやS#モードを選んでいても、再始動時にはIモードに戻ると言う。これは新型レガシィが環境性能を最重要視して開発されたというのが最大の理由だが、同時にIモードが通常の使用状況において、たとえば高速での追い越しにおいても、不満なく使用できる味付けに仕上げられたというのもその理由の1つだろう。ステアリングのS#モードスイッチがなくなったのもこのためだ。

 今回のSI-DRIVEでは、Iモードが標準であり、SとS#のエクストラモードが用意されていると考えればよい。実際に走った印象としても、Iモードがちょうど先代の3.0リッターエンジン程度のパワーフィールで、Sモードで+600ccのゆとりを実感、S#モードで3.6リッターの本領を発揮という感じだ。買ったばかりならせっかくの排気量アップを実感するためにS#モードを多用するかもしれないが、日常ユースではIモードで不満を感じることはほとんどないだろう。

  3.6リッターのアウトバックの場合、組み合わされるトランスミッションはマニュアルモード付きの5速ATで、スバルお得意のVTD(不等&可変トルク配分電子制御)によって、基本トルク配分の前45:後55から前50:後50まで、路面状況にあわせて4輪に適宜トルク配分するタイプとなる。正直ドライの路面を普通に走っている限りはその制御状況を感じることはなく、安定した走りに終始した。

 実際に運転してみてこのATが最も変わったと感じるのが、マニュアルモードのシフトチェンジの方法で、従来からパドルシフトは用意されていたが、今回からはシフトレバーによるマニュアル操作ができなくなった。これまでパドルシフトをあまり使わなかった筆者にとっては、パドルシフトに慣れるのには少し時間が必要だった。ちなみにレガシィでは、右側のパドルを引くとシフトアップ、左側のパドルを引くとシフトダウンになる。

 なお、レガシィの場合、シフトレバーがマニュアルモードをセレクトしていなくても、パドルシフトを操作すると、通常のATモードからシームレスにマニュアルモードに移行する。この場合、一度停車などをするとまたATモードに戻るが、通常はATとして使用していて、追い越しなどで素早く加速したいときや、下り坂でエンジンブレーキを利かせたいときなど、一時的にマニュアルモードを使いたい状況で、ステアリングから一度も手を離すことなくコントロールすることができ、非常に重宝する。

アウトバックはラフロードもよく似合うシフトレバーではマニュアルモードのシフトチェンジができなくなった。シフトレバーの手前にあるのがSIドライブの切り替えスイッチ

SI-CruiseとEyeSightはなにが違う?
 3.6R SI-Cruiseは、グレード名にもなっているように、SIレーダークルーズコントロールを搭載している。先代で用意されていたステレオカメラ式オートクルーズの「EyeSight」と比べると、0~100km/h追従や車間距離が任意で調整できるところなどはEyeSightと変わらないが、停止保持機能が追加されているのが大きな特徴。停止保持機能とは、追従中の先行車が停車した場合に自車も停車し、その停止状態を保持する機能のこと。EyeSightでは、停車直前で警告音が鳴ってブレーキが解除されてる仕様になっており、停車を繰り返すような渋滞では実用的ではなかった。これは大きな進化と言えるだろう。

 SI-CruiseとEyeSightのハード的な違いはその認識方法で、SI-Cruiseがレーダーで前走車のリフレクターを認識しているのに対し、EyeSightは、ちょうど最近のコンパクトデジカメが顔認識するように、ステレオカメラで捉えた映像から、車や自転車、歩行者そして車線などを認識している。そのため、車線逸脱警告や、歩行者や車両に対するプリクラッシュセーフティの機能も持っている。

 ただし、室内に余計な出っ張りがあるのがEyeSightのデメリットで、SI-Cruiseでは、メーター表示やステアリングスイッチ以外で車内でSI-Cruiseであることを感じさせる違いは見つからない。なお、モデルチェンジでEyeSightの設定がなくなったが、先々代から先代へモデルチェンジした際にも、ステレオカメラ式(当時はADAと呼んでいた)は1度なくなっていて、モデル末期に特別仕様車として追加されているので、今回もいずれ登場するのではないかというのが筆者の予想だ。

オートクルーズをセットすると、そのときの車速でオートクルーズがセットされる。さらに前走車がいると、その車両との距離を認識し、自動で車速制御を行う前の車がいなくなれば、設定した速度まで加速を始める。設定速度はステアリングのスイッチで5km/h刻みで設定変更ができるブレーキを踏むとオートクルーズはキャンセルされるが、設定速度は記録されており、リジュームボタンで復帰することができる
先代アウトバックで採用されたステレオカメラ式オートクルーズの「EyeSight」。SI-Cruiseにはない、レーン逸脱警告の「LANE」、プリクラッシュブレーキの「P-CR」を機能として持っていたが、その分ステレオカメラが車内の出っ張りとなっていた
ステアリングコラムの右下にパーキングブレーキのスイッチが設けられる
パーキングブレーキレバーがなくなり、横並びの配列となったドリンクホルダー

気になる電動パーキングブレーキの使い勝手は?
 新型レガシィで追加された装備の中でも、地味ながら気になるのが電動パーキングブレーキだ。開発者の話によれば、センターコンソール周辺をすっきりさせたかったからとのことで、事実パーキングブレーキレバーがなくなったことで、センターコンソール部のドリンクホルダーが横並びの配列に変わっている。そして外されたブレーキレバーの代わりに、電動パーキングのスイッチが、ステアリングコラムの右下に配置された。

 その使い方はと言うと、パーキングブレーキをかけたい場合はスイッチを押し、解除したい場合はスイッチを引くだけ。しかし実際には、発進時にアクセルを踏めば、ブレーキは自動で解除されるため、スイッチを引く機会は少ないだろう。

 ドリンクホルダーに関しては、従来の縦並びの配列を運転席と助手席で使うと、どちらが自分の飲み物か分からなくなることがあった。そういう意味でもこのドリンクホルダーの配置は評価すべき点と言える。ただ、そのために慣れたハンドブレーキを捨てるというのはいかがなものかというのが個人的な感想だ。 例えば今回の試乗中も、山道の途中で切り返しが必要なUターンをする機会があった。転回用に道幅が広がっているところではあったが切り返しは必要な状況で、ほかの車が来る前に素早く転回したいという状況。試乗車はクリープのあるATだったためサイドブレーキを使わなくても問題にはならなかったが、もしこれがMTであったなら、素早くロック・アンロックができるハンドブレーキが非常に重宝したはずだ。

 それと、できれば電動パーキングスイッチが従来のハンドブレーキの辺りにあって欲しかった。ステアリングコラム右下の視界から外れたところにあるので、その都度スイッチの位置を目で確認してから押す必要があり、短い試乗の間では、最後まで慣れることはなかった。あえて書くなら、サイドブレーキは、引く→ロック、押す→解除のほうが自然だと思うのは筆者だけだろうか。

総論 谷川潔の場合
 アウトバック 3.6R SI-Cruiseを試乗して分かったのが、ドライバーがあれこれ操作することのない、ゆったりとしたドライビング空間の実現に極力配慮されていることだろう。マニュアルモード時にシフトレバー操作が排されたことも、電動パーキングブレーキになったことも、SI-DRIVEのセッティングが変更されステアリングまわりからスイッチがなくなったことも、すべてそのためと思えてくる。

 さらに静かで不要な振動も排除された広い室内空間が提供されているため、ドライバーはその空間で同乗者との会話を楽しむのもよいし、マッキントッシュサウンドシステムで音楽を楽しむのもよいだろう。

 アウトバック の6気筒モデルでは、クルーズコントロール機能がレーダー式に変わったのも先代との大きな変更点。レーン逸脱警告やプリクラッシュセーフティ機能がないのは残念だが、停止保持機能が付いているのは進化したところ。先代と同じ大きさのEyeSightユニットが室内に張り出したのでは、せっかく獲得した室内の広さが無駄となりかねず、現時点としてはベストな判断なのだろう。EyeSightに関しては、ユニットをコンパクトにするなどして、再設定してほしいところだ。

 アウトバックのトップモデルとなる3.6R SI-Cruiseは、優れた4WDシステムと十分以上のパワーを発揮するエンジンで、ドライビングの不安なく、どこまでも走って行けそうな実力を持つ車と言える。

総論 瀬戸学の場合
 先代の3.0Rは、どこか優等生すぎるというか、よくできている分、刺激のないエンジンだと感じていた。せっかくレガシィシリーズ最大の排気量を持っていて、ターボとは違うもう1つのフラッグシップであるはずなのに、どうもその特徴が見えず、印象が薄いと感じていた。 新型アウトバックも、最初に走り始めたときは、先代の3.0Rとほとんど同じ印象だったのだが、それはSI-DRIVEがIモードになっていたからで、SやS#モードを選ぶと、大排気量ならではのトルクの太さを存分に感じることができた。一般的なターボ車のようにドッカーンと加速するのではなく、一定のトルクのまま背中を押され続け、気がつけばスピードが出ているという感じで、大排気量NAならではの魅力を存分に感じさせてくれた。

 ハンドリングは、その車高による重心の高さと、タイヤのせいで「キビキビとスポーティーに」とまでは行かないが、室内のゆったり感や静粛性の高さなどもあわせて、カリカリ走るよりもゆったりとロングドライブを楽しむ車として、おそらくスバルの開発陣が狙ったところにうまく落とし込めていると思う。

 ボディータイプや排気量でさまざまなグレードがあるレガシィシリーズだが、今度の3.6R は、1つのフラッグシップとしてその存在意義を十分に持ったグレードと言えるだろう。

(瀬戸 学)
2009年 6月 17日