日産「2010年度 先進技術説明会」リポート【第4回:環境技術】
マーチ搭載の3気筒直噴スーパーチャージャーとフーガ ハイブリッドのシステムを解説

3気筒直噴スーパーチャージャーエンジンを搭載した新型マーチの試乗も行われた

2010年7月27日開催



 日産自動車は7月27日、神奈川県横須賀市内の追浜グランドライブにおいて「2010年度 先進技術説明会」を開催した。

 同社は「環境」「安全」「Life on Board」「Dynamic Performance」の4つの領域ごとに独自の先進技術を開発している。この4つの領域に基づき、最終回の今回は環境技術についてお伝えする。

日産自動車 開発本部 部長 高橋哲哉氏

日産が取り組む環境技術
 環境技術の説明は、日産自動車 開発本部 部長 高橋哲哉氏が行った。

 同社では現在、大気中のCO2濃度を450ppm以下に抑えるため、短期的な取り組みとしてエンジンの効率向上を、中長期的な取り組みとして電動化の促進や、リニューアブルエネルギー(持続的利用可能エネルギー)への転換などの取り組みにより、新車からのCO2排出量を2050年までに90%削減することを目標にした「ニッサングリーンプログラム2010」を掲げている。

 CO2排出量を90%削減するには、「内燃機関、ハイブリッド車から電気自動車、燃料電池車まで、全方位で持ちうる技術を投入しなければ実現できない」と、高橋氏は言う。その一方で、エンジンやトランスミッションなどクルマのみの効率向上だけではなく、交通渋滞を緩和する仕組みやエコ運転をサポートする機構を開発することで、クルマ、人、社会全体で低燃費化を図る「トリプルレイヤードアプローチ」と呼ばれる考え方を取り入れる。

日産では新車からのCO2排出量を、2050年までに90%削減することを目標にした「ニッサングリーンプログラム2010」を掲げるトリプルレイヤードアプローチ

 クルマ単体でのCO2排出量低減技術においては、まずエネルギーロスをいかに少なくするかに注目した。

 現在の内燃機関では、燃料エネルギー(ガソリン)の力を100%とすると、熱損失(冷却損失/排気損失)、ポンプ損失、機械損失(フリクション)などにより、パワートレーンに出力される力はわずか20%に留まると言う。そのため、エンジンの吸気バルブの作動角とリフト量を連続的に変化させることで、吸気抵抗の軽減と空気吸入の応答性を向上させるVVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)のほか、1シリンダーあたり2本のインジェクターを設けたデュアルインジェクター、DIG(直噴ガソリンエンジン)、ダウンサイジング過給、水素フリーDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングといった技術でパワートレーンの高効率化を図る。

 さらに、一度捨てたエネルギーを回収していかに再利用するかという点についても着目する。現在、同社ではブレーキやオルタネーターから運動エネルギーを回生させる「運動エネルギー回生」と、エンジンの熱を利用し、より早くトランスミッションのオイルを温めるCVTオイルウォーマー技術など、熱エネルギーを回生させる「熱エネルギー回生」の2つを軸に研究・開発を行っている。しかし後者については、ポテンシャルは高いものの、技術的な難易度が高いわりに変換効率が低いということから、現在は研究中としている。

 そして今回、新たな低燃費技術として発表されたのが、「3気筒直噴スーパーチャージャー」と「ピュア ドライブ ハイブリッド」の2つだ。

エネルギーロスの低減を目標に、さまざまな技術が投入されるエネルギー回生の鍵は「運動」と「熱」エネルギー今回説明のあった新技術は3気筒直噴スーパーチャージャーとピュア ドライブ ハイブリッドの2つ

3気筒直噴スーパーチャージャー「HR12DDR」
 3気筒直噴エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせた「HR12DDR」は、ガソリン車で世界最高レベルの低CO2排出量を目標に開発されたもの。2011年前半から欧州市場に投入している「マイクラ」(日本名:マーチ)に搭載される予定で、新型マーチに搭載される直列3気筒エンジン「HR12DE」をベースにしている。

 HR12DDRエンジンには大きく4つの特徴点が挙げられる。

 1つは燃焼効率の向上で、高温に圧縮された混合気を冷やすことを目的としたDIGや、燃焼室の熱を逃がすためピストンクーリングチャンネル、Na封入排気バルブを採用した。さらにCVTC(連続可変バルブタイミングコントロール)によって吸気バルブの閉じるタイミングを遅くすることで、実質的な圧縮行程を短縮して膨張行程を長くし、熱エネルギーを有効に運動エネルギーに換えるミラーサイクルを採用したことで、燃焼室内の温度を上げずに異常燃焼(ノッキング)を抑え、13という高い圧縮比を実現した。

 2つめはフリクションの低減で、バルブリフターやピストンリングに平らで滑らかかつ、硬質表面処理による硬さなどを備える水素フリーDLCコーティングを成膜した。水素を含まない膜を作ることで、従来よりも大幅に摩擦低減効果が得られるそうで、これにより約30%ものフリクション(摩擦抵抗)を低減したと言う。

 3つめは高効率スーパーチャージャーの採用で、低速運転領域で過給をカットするON/OFFクラッチを備え、出力が必要なシチュエーションでは1.5リッター並みの動力を発揮し、市街地など一定走行時ではスーパーチャージャーをOFFにして効率のよい運転が可能だと言う。

 4つめは新型マーチにも採用されるアイドリングストップ機構を備えたことで、CO2排出量をさらに低減させることに成功した。

 こうした技術の採用によって、1.5リッタークラスの出力を実現しながら、CO2排出量を95g/km(欧州計測モード)としており、これは他のガソリンエンジン車と比較しても世界トップクラスを誇ると言う。

ガソリン車で世界最高レベルの低CO2排出量を誇るHR12DDRエンジン採用される主な技術
CO2排出量は95g/km(欧州計測モード)1.5リッタークラスの出力を持つ

 実際に新型マーチにHR12DDRを搭載したモデルに試乗する機会を得たが、ベースエンジンのHR12DEと比べてトルクフルな印象を受けた。トランスミッションは5速MTで、乗り初めは市街地走行をイメージして3000rpmあたりで変速していったが、アクセルをベタ踏みにしなくても低速トルクがあるためかスムーズに加速してくれる。ロングストレートではエンジン音がややうねりをあげたものの、小気味よく加速していくので、トータルでは不満を感じることがなかった。試乗はコース1周程度だったので、燃費がどの程度かは不明だが、1tを切る軽量ボディー(2WD車)と相まって軽快感を体感できるエンジンだった。

HR12DDRを搭載した新型マーチHR12DDRのエンジンカットモデルも展示

ピュア ドライブ ハイブリッド
 ピュア ドライブ ハイブリッドは、コンパクトかつ軽量を特徴とする日産独自のシステムのことで、今秋発売予定の「フーガ ハイブリッド」に搭載される。駆動用と回生用を兼ねる1つのモーターと、エンジン・トランスミッションを2つのクラッチで接続する1モーター2クラッチ(インテリジェント デュアルクラッチ コントロール)のパラレルフルハイブリッドシステムで、高出力なモーターとリチウムイオンバッテリーを搭載することで、「コンパクトカー並みの燃費とガソリン車を越えるレスポンス、リニアな加速感を体感できる」(高橋氏)と言う。

 エンジンは従来からのV6 3.5リッターで、その直後にクラッチ(1)、モーター、7速AT、クラッチ(2)と続き、車体後端にリチウムイオンバッテリーを搭載する。

 エンジンからの動力をトランスミッションの軸に伝えるトルクコンバーターは廃止され、駆動と発電を兼ねた1モーター方式を採用したことで構成部品を減らし、軽量でコンパクトな構造にできたと言う。

 また、燃費についても触れ、V6 3.5リッターながらこうしたハイブリッドシステムの搭載により、1.8リッターエンジンを搭載するコンパクトカー並みの燃費を実現したと言う。実際にフーガ ハイブリッドを米国ロサンジェルスに持ち込み、エンジン停止時間がどのくらいあるか調べたところ、1週間トータルでエンジン作動時間は41%、停止時間は59%と、走行時間の約6割でエンジンが停止していたことが分かったそうだ。

ピュア ドライブ ハイブリッドの概要システムはV6 3.5リッター、クラッチ(1)、モーター、7速AT、クラッチ(2)、リチウムイオンバッテリーで構成されるピュア ドライブ ハイブリッドはエンジンとモーターをクラッチで断続することで、効率を向上させている
V6 3.5リッターながらコンパクトカー並みの燃費を誇ると言う米国ロサンジェルスでの走行実験結果。走行時間の約6割でエンジンが停止していたトルクコンバーターを廃止し、大電流を瞬時に供給できるリチウムイオンバッテリーやモーターにより、ダイレクト感とレスポンスに優れるフィーリングを実現した
フーガ ハイブリッドの試乗も行われ、アクセルを踏んだときのパワー感を十分に体感できたほか、ごく普通にアクセルを踏んでいた走行区間ではほぼモーターで走行していたことに驚いたピュア ドライブ ハイブリッドのシステムも展示されていた

(編集部:小林 隆)
2010年 8月 3日