トヨタはWindows Azureを利用したEV・PHV用G-BOOKサービスを投入へ トヨタ・日本マイクロソフト、次世代テレマティクス戦略的提携説明会 |
トヨタと日本マイクロソフトによる戦略的提携説明会は、米国での発表を日本マイクロソフトの樋口社長が読み上げる形で始まった |
トヨタ自動車と日本マイクロソフトは4月8日、昨日米国において発表された両社の「次世代テレマティクスのプラットフォーム構築に向けた戦略的提携についての基本合意」に関する説明会を日本マイクロソフト社内で開催した。
この戦略的提携の詳細については、関連記事を確認いただきたいが、要旨は下記のものになる。
1.2012年に市販予定の電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)のテレマティクスの展開にあたり、クラウド用OS「Windows Azure」を採用、2015年までにグローバルクラウドプラットフォームの構築を目指す。
2.トヨタのスマートグリッドの取り組みである「トヨタスマートセンター」のグローバル展開を、両社が構築するグローバルクラウドプラットフォームを利用して行う。
3.トヨタの顧客向けITを提供する子会社の「トヨタメディアサービス」が10億円の増資を行い、トヨタのグローバルクラウドプラットフォームの構築を行う。この増資にはトヨタとマイクロソフトが出資するが、出資比率は現時点では未定。
これらは、米国で米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOと、トヨタの豊田章男社長によって基本合意されたが、改めて日本での説明会が行われた。
説明会の冒頭、日本マイクロソフト 代表執行役社長 樋口泰行氏より合意文が読み上げられ、その後、トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹氏より、トヨタの考える戦略に付いて説明が行われた。
トヨタの戦略に付いて語る、トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹氏 |
■トヨタは、低炭素・省エネ社会の早期実現を目指す
トヨタの友山氏は、最初に「TOYOTA Smart Center 20xx」というイメージビデオを紹介。このビデオの中では、非接触充電を行うEVが、Windows Azureの提供するプラットフォーム上で、充電情報、メールなどさまざまなサービスを受ける様が紹介された。
トヨタは、2012年から北米・日本でEV・PHVの投入を予定しており、その際に必要となってくるサービスをWindows Azureを利用することで、グローバルに、そして速やかに展開していく。
「TOYOTA Smart Center 20xx」と題されたイメージビデオ。自然エネルギーの活用や、非接触式EVの紹介、メールサービスなどが上映され、それらのマネジメントは、Windows Azure上のサービスによって行われる |
サービスはG-BOOKの一環として提供され、スマートフォンからEV・PHVの充電情報の管理、充電開始時刻や終了時刻の通知ができるほか、乗車前にエアコンを動作させておくことでクルマのバッテリー消費を抑える「プレクール」や、カーナビ上に航続距離や充電スポットを表示することなどを予定している。いずれもWindows Azureならではの機能と言えるものではないが、これらのサービスをクラウドコンピューティングを使うことで、世界展開を容易にできるのがポイント。
トヨタは現行のG-BOOKサービスを2002年に開始しており、中国・北米市場に2009年に導入している。また、現行のG-BOOKサービスのバックエンドとしてトヨタが独自にデータセンターを日本、米国、中国に設置しているが、これもWindows Azureのクラウドプラットフォームに統合していき、「自前のインフラはトヨタは持たない方向である」と語った。
また、フルEVではないPHVですら家庭の消費電力の33%を充電に使用することから、充電時間を電力負荷の低い時間帯にシフトしていくことが大切であると言い、それらの統合的な電力マネジメントを次世代テレマティクスサービスである「トヨタスマートセンター」で提供していくことになる。
この電力マネジメントは、太陽光パネルからの発電、家庭に備わる蓄電池への充放電、その蓄電池からのEV・PHVへの充電をその構想範囲としている。現在日本では一部地域に計画停電が行われたりなど、EVやPHVからの家庭電力への給電能力が注目されているが、それについては「H2V(Home to Vehicle:家庭電力からクルマへの充電)はサポートする。ただ、V2H(Vehicle to Home:クルマから家庭電力への給電)については、現在豊田市で評価実験をしている段階であり、将来のマネジメントシステムとしては視野にある」とし、2012年段階では行われないことを示唆した。ただ、「被災地ではプリウスが炊飯器の電源として使われており、社会的なニーズはあると認識している」と語った。
トヨタとしては、Windows Azure上に構築するトヨタスマートセンターを通して、2012年に発売するEV・PHV向けのG-BOOKサービスを速やかに、そして低コストでグローバル展開していくのが狙いとなる。
日本マイクロソフトの役割について語る樋口社長 |
■開発リソースなどを提供する日本マイクロソフト
トヨタの友山氏の説明を引き継ぐ形で、日本マイクロソフトの樋口社長が自社の役割を説明。マイクロソフトはこれまでトヨタが展開する情報サービス「GAZOO.com」への開発ツールの提供、従来のテレマティクスサービス「G-BOOK」への統合開発環境である「.NET」の提供などを行ってきたが、Windows Azureをトヨタが利用することについては「ある種、非連続のジャンプアップの関係」と表現。
Windows Azureのメリットとして、これまでユーザーが開発してきたWindowsアプリケーション資産を容易にWindows Azure上に持っていくことができると言い、機能を拡張したい場合にスピーディに拡張できることや、クラウドプラットフォームであることから災害時に強いことなどを挙げ、「トヨタの世界展開の手伝いができるのをうれしく思う」と語った。
日本マイクロソフトとしては、実際のアプリケーション開発を行うトヨタメディアサービスに開発人員の投入を行うほか、トヨタへの技術移転の手伝いや、米国本社と連携したグローバル展開・運用のサポートを行っていく。
また、Windows Azureのサービス提供の一例として、現在行われているG-BOOKの「通れた道マップ」(被災地域のための移動支援地図。G-BOOK搭載車両のプローブ情報を利用している)を挙げ、これがPaaS(Platform as a Service)であるWindows Azureと、SaaS(Software as a Service)であるbingを利用しており、開発期間はわずか1日であったと紹介した。
マイクロソフトは、車載端末向けのOSであるWindows Automotiveを提供しているが、Windows Azureは車載端末へ向けて提供する情報サービスの基盤になる。この戦略的提携に関しては「トヨタとのエクスクルーシブな契約ではない」(樋口社長)と言い、ほかの自動車メーカーとの協業もあり得るとした。
G-BOOKとして提供される、Windows Azure上のサービス開発は、トヨタメディアサービスで行われていくことになる。EV・PHV向けだけでなく、ガソリン車やディーゼル車向け、家庭の電力マネジメント向けも想定されていることから、それらの開発で得られるノウハウや定義されるAPI(Application Program Interface)は膨大なものになるだろう。これらの知的所有権に関しては基本的にトヨタメディアサービスが持つこととなるが、「マイクロソフトも出資割合に応じて持つことになるだろう」(樋口社長)と言う。トヨタとマイクロソフトがトヨタメディアサービスに対して行う増資額は10億円。7月に実施される。
(編集部:谷川 潔)
2011年 4月 8日