【特別企画】
タイヤメーカーの戦いに注目の集まるSUPER GT【横浜ゴム編】

「開発を続けて、最終戦までチャンピオン争い」


横浜ゴム MST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏。同社のGT系モータースポーツ用タイヤの開発を行っている

 SUPER GTのGT500クラスに参戦するタイヤメーカー紹介第2弾は横浜ゴム。横浜ゴムは古くからADVAN(アドバン)ブランドでモータースポーツ活動を続けており、モータースポーツに詳しくない読者でもADVANカラーのレーシングカーをどこかで見かけたことがあるのではないだろうか。

 現在横浜ゴムは、SUPER GTのほか、全日本F3選手権にワンメイク供給しているほか、S耐やラリー、ジムカーナなど裾野を広くして日本のモータースポーツをサポートしている。F1やWRCと並ぶ世界選手権の1つであるWTCC(World Touring Car Championship)、F3インターナショナル・トロフィーの1つであるフランスのグランプリ・ド・ポー、年末に行われるマカオGPなどグローバルな活動にも力を入れている。

 横浜ゴムが供給するSUPER GTのエントラントは、GT500クラスではレクサス(トヨタ自動車)のWedsSport ADVAN SC430と、日産自動車のADVAN KONDO GT-R。GT300クラスに関しては実に20台に及ぶ多数のチームに供給しており、まさにSUPER GTの屋台骨を支えていると言っても過言ではない。開幕戦の富士でも、GT300からGT500にステップアップしたばかりのレーシングプロジェクトバンドウのWedsSport ADVAN SC430が、デビュー戦でいきなり3位に入るなどの活躍を見せた。

 今回はそうした同社のGT系モータースポーツタイヤの開発を統括している横浜ゴム MST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏に、SUPER GTへの取り組みに関してお話を伺った。

SUPER GTのみならず、WTCC、マカオGPなど幅広くグローバルなモータースポートをサポート
──横浜ゴムがSUPER GTに参戦している理由を教えてください。
荒川氏:弊社は過去から現在にかけて様々なカテゴリーのモータースポーツにタイヤを供給してきた歴史があります。レースと言えば横浜ゴム、横浜ゴムと言えばレースという形で切り離すことができません。そのイメージリーダーとして、日本のトップカテゴリーであるSUPER GTに参戦し、成績を残していきたいとの思いがあります。特に、今年のSUPER GTはブリヂストンもGT300に参入されますし、弊社もGT500で2台体制になりますので、タイヤメーカー間の競争はさらに激しくなっていくだろうと予想しています。

──GT500に関しては今年はトヨタ、日産の1台ずつに供給していますが、昨年の1台からサポートする数が増えました。供給台数が増えると何か変わってくるのでしょうか?
荒川氏:現在はレギュレーションでシーズン途中でのテストの機会が制限されていますので、弊社のタイヤを使っていただくチームが増えることは、テストのn数(筆者注:テスト量が台数に比例して増えていくこと)が増えていきますので、データ量が増え、タイヤの開発スピードが上がるというメリットがあります。

富士スピードウェイに常設されている、横浜ゴムのピットで荒川氏にお話を伺った富士が雨となったため、ピットには多くのレインタイヤが用意されていた

 開発の方向性ですが、一歩一歩階段を登っていくのがタイヤ開発ですので、突然開発の方向性ががらっと変わるということはないですが、その中でも昨年から今年にかけて様々な新しいトライを行ってきており、昨年のタイヤから見れば大きな進化をしてきているのではないかと自己評価をしております。

 2007年から昨年まで、必ずシーズンに1勝はさせていただいていますが、シーズンを通じてチャンピオン争いに残れる形にはなってきていませんでした。今年は、しっかりと開発を続けて、最終戦までチャンピオン争いに残れるような戦い方、サポートをしていきたいです。

横浜ゴムがGT500でサポートする19号車 WedsSport ADVAN SC430。開幕戦の富士で3位を獲得もう1台のGT500マシン、24号車 ADVAN KONDO GT-R

──横浜ゴムはツーリングカーレースであるWTCCにも参戦していますが、SUPER GTとの関係はどうなっているのでしょうか?

荒川氏:弊社のモータースポーツ用のタイヤは、WTCCやドイツF3、マカオGPなどを含めて日本で開発しております。それぞれの担当エンジニアは同じフロアで開発していまして、材料や部材の観点では横のつながりをもって開発しています。ただ、SUPER GTとツーリングカーでは、GT500とGT300の違い以上に大きな違いがありますので、まったく同じモノが利用されるのではありませんが、技術や開発手法などは共有しつつ、方向性を変えて開発していっております。

サポート台数が多い横浜ゴムだからこそ、各チームを公平に扱うことを大前提に
──GT300に関しては供給台数も非常に多く、サポートするのにも苦労があるのでは? また、各チームに供給しているタイヤは基本同じものと考えてよいのですか?
荒川氏:弊社のタイヤを使っていただけるチームが多いという意味では非常にありがたいと思っています。ただ、ワンメイクではなく、他のタイヤメーカーと競争している中で、弊社の多数のユーザーに均等な品質のタイヤを供給するというのは義務だと思っています。コンペティションとしての競争力を高めながら、なおかつ弊社のユーザーの中では公平なモノを供給していくというのは簡単なことではありません。

 こうしたこともあり、基本的に弊社がGT300に供給しているタイヤはほぼ同じものであると考えていただいてかまいません。ただし、車によってタイヤサイズが異なりますので、その場合は若干違ったものになりますが、基本的な特性、キャラクターという意味では共通です。もちろんチームにより、コンパウンドのチョイスは変わる場合がありますので、その場合には違ってくる場合があります。

第1戦岡山のGT300クラスで優勝した66号車triple a Vantage GT2GT300クラスでは、参加車両のほとんどが横浜ゴムを利用。話題の痛車も横浜ゴムユーザーが多い

──GT300ではどのようなサポートをしているのですか?
荒川氏:どこのチームでもそうだと思いますが、当然自分達に最適なモノを供給して欲しいというご希望をお持ちです。しかしながら、弊社としてはすべてのユーザーに公平な立場であることを心がけており、どこかを特別扱いするということはありません。しかし、各チームにとって、どのコンパウンドをチョイスすることが適しているかはチームごとに異なる場合がありますので、弊社のエンジニアからリコメンド(推薦)という形でアドバイスはさせていただいています。具体的には、天気などのコンディション、テストやフリー走行などでの摩耗の状況であるとかなど、弊社のデータの中から、予選や決勝に向けてどのタイヤをメインにすべきかなどをリコメンドしていきます。

──これだけのチーム数をサポートするには人員もすごい人数が必要になると思われますが、どのような体制にななのでしょうか?
荒川氏:タイヤ温度のデータを計測するエンジニアが各ピットにおりまして、そのエンジニアがサポートします。GT500では1台に1人、GT300では1人で数台を掛け持ちする形でサポートしていて、GT300の開発を担当しているエンジニアは非常に忙しい週末を過ごしています。1人で複数台をサポートするGT300では、できるだけピットにマシンが入ってきたらすぐに温度を測りに行けるように両隣の3、4台を見るような体制になっています。ただ、正直複数台同時に入ってきた時には、すぐに測りに行けないときもあります。

レース用タイヤで鍛えられたオレンジオイルテクノロジーは、市販タイヤでも耐久性向上に貢献
──レーシングタイヤは溝のないスリックタイヤということもあり、特殊なタイヤに見えますが、市販タイヤとの関係はどうなっているのでしょうか?
荒川氏:レース用タイヤはレース専用に仕上げていますので、使用しているゴムは、一般のモノよりも段違いに柔らかいです。そうした意味では大きく違っていますが、実はレースで開発した原材料は市販タイヤにも応用されています。例えば、市販タイヤにはゴムの軟化剤としてオレンジオイルが利用されています。実はこのオレンジオイルを最初に利用し始めたのは、レース用タイヤなのです。

 オレンジオイルを利用するメリットは、タイヤのグリップ強化です。オレンジオイルを配合することで、レース用タイヤでは+αのグリップを獲得することができます。これに対して、市販タイヤではそこまでのハイグリップは必要がないので、低燃費性能とグリップ力の両立のためにオレンジオイルを利用しています。レースタイヤではとくに高性能のグリップ力を追求していますが、根っこの部分は一緒なのです。

──最後にレースを見るファンの皆さんに、タイヤのどのあたりに注目してみるとおもしろく観戦できるか、そのポイントを教えてください。
荒川氏:現在のSUPER GTのレギュレーションでは、スーパーラップやノックダウンなどの予選方式を採用していて、最終予選で使用したタイヤでレースをスタートする規則があります。

 予選順位で前に行きたいと考えれば、いわゆるグリップの高いタイヤを投入するのですが、そうしたタイヤでは比較的ライフが短くなる傾向がありますので、その辺りのトレードオフをどう考えるかがチームの戦略になります。予選ポジションを重視するチーム、決勝のタイムを重視するチーム、そうした違いが予選の順位と決勝の周回タイム、さらには最初のタイヤ交換までのスティントが短いのか長いのか、などからタイヤの特徴が見えてきますので、そこに注目していただくとおもしろいと思います。


 第1戦岡山(震災により、第2戦、第1戦の順で開催)までの横浜ゴムの成績は、GT500クラスは3位、9位。GT300クラスは3位、そして優勝となっている(最上位のみを記載)。このGT300クラスの優勝により、同社はGTシリーズにおいて通算100勝を達成した。

 GT500クラスでは、シーズンに1度は優勝しており、今後の活躍に期待したい。また、GT300クラスでは、多くのエントラントが横浜ゴムを利用しており、優勝シーンはもちろんのこと、表彰台を独占するシーンを見ることができるかもしれない。

 次回は、日本ミシュランタイヤをお届けする。

(笠原一輝/瀬戸 学/Photo:奥川浩彦)
2011年 6月 7日