特別企画

【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2012-2013(ミシュラン編)

2年連続GT500チャンピオンを獲得

 日本を代表するモータースポーツのシリーズである“SUPER GT”は、レクサス(トヨタ自動車)、日産自動車、本田技研工業といったトップ3メーカーがワークス参戦するトップカテゴリーの「GT500」と、JAF-GTやFIA GT3などモータースポーツ向けに少量生産されたスポーツカーを利用した「GT300」の2つのカテゴリーから構成されており、いずれのカテゴリーでも非常に熾烈なレースが展開されている。

 そのSUPER GTを、文字どおり足下から支えるのが、タイヤメーカーだ。国際的に見れば、F1やWRCといったトップカテゴリーを含めて、タイヤに関してはワンメイク(1つのメーカーがすべてのエントラントに対してタイヤを供給する)が主流になりつつあるが、日本のトップカテゴリーであるSUPER GTは、複数のタイヤメーカーが供給する“競争状態”になっており、毎戦毎戦激しい戦いが展開されている。本インタビューではそうしたSUPER GTのGT500カテゴリーにタイヤを供給するミシュラン(日本ミシュランタイヤ)、ブリヂストン、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)、ダンロップ(住友ゴム工業)のSUPER GT担当者に2012年シリーズのSUPER GTを振り返っていただくとともに、2013年シーズンの目標を語っていただいた。

ミシュランタイヤを装着して2年連続GT500でチャンピオンを獲得した1号車 S Road REITO MOLA GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)
2012年シーズンは、39号車 DENSO KOBELCO SC430(脇阪寿一/石浦宏明)もミシュランタイヤを装着

2年連続GT500チャンピオンを獲得したミシュラン

 フランスのミシュランは、日本のブリヂストン、アメリカのグッドイヤーと共に世界のトップシェアを争うタイヤメーカーで、WRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)などにもタイヤを供給するなど世界的に見てモータースポーツ活動に積極的に取り組んでいるメーカーだ。

日本ミシュランタイヤでSUPER GT参戦を統括する小田島広明氏

 SUPER GT参戦は一時期はGT300のみの供給となっていたが、近年はトップカテゴリーであるGT500への供給に力を入れており、2011年シーズンにはブリヂストン以外のメーカーとしては初めてユーザーチームがチャンピオンを獲得。その勢いは2012年シーズンも続いており、1号車 S Road REITO MOLA GT-Rが同じチーム/ドライバーの組み合わせとしては初めて2年連続でチャンピオンを獲得した。

 今回は日本ミシュランタイヤでSUPER GT参戦を統括する小田島広明氏にお話しをうかがってきた。

GT500のチャンピオンを2年連続で獲得するも、点数は80点

──2012年シーズンを振り返ってみていかがでしょうか? 最終戦を残してチャンピオンを決定するなどまさに圧勝という感じでしたが……。
小田島氏:第4戦菅生以降、最終戦まで連続表彰台という形で結果を残せ、強さというのをお見せすることができたかなと思っています。正直、最終戦前のオートポリスで決まるとは思っていませんでした。もちろん数字上の可能性はありましたが、確率的にはかなり低いと考えていましたので。

──チャンピオンを獲った1号車ですが、その菅生より前の3戦は、正直あまりよくない結果が続いていました。
小田島氏:1号車に関しては、確かに序盤戦でかなり取りこぼしがありました。オフシーズンのテストでは2011年シーズンを超えるような性能向上を確認できていて、まとまっているなという感触を得ていました。しかし、第1戦岡山ではGT300車両との接触、第2戦富士ではホイールナットが緩んでいたというトラブルでの緊急ピットイン、そして第3戦ではブレーキのトラブルでのリタイヤと流れがわるい方向に行っていました。そのため、第3戦終了後に関係者で集まり、(この流れを)修正するためにはどうしたらよいのかという話し合いを行い、それが第4戦以降の躍進につながっていきました。

 一方ミシュランユーザーという意味では、第2戦の富士で39号車 DENSO KOBELCO SC430が優勝することができました。このため、タイヤ開発の方向性としては間違っていないという確信はありました。39号車に関しては、その後部品の故障によるリタイヤなどがあり、それにより多くのポイントを失ってしまったのが残念でしたね。以前も申し上げましたが、弊社としては同じ車種の中で弊社のユーザーチームが1番になることを目標にしています。今年39号車はレクサス勢の中で2番目でしたので、そこには課題がまだあるなと感じています。

──それでも39号車のレクサス内での序列は2011年より上がっていますね
小田島氏:39号車とのスタートは2011年からですが、それ以前のチーム戦績に比べればミシュランに切り換えていただいてから大きく向上していますし、2011年に一緒に戦ったときに見えてきた課題をチーム様と話し合って一緒に改善していき、2012年シーズンでは確実に数字に出るようになってきました。ただ、やはりトラブルによるポイントの取りこぼしが痛かった。弊社の側でもGT-RとSC430ではタイヤ選択も開発の方向性も異なっていますので、もう少し迅速にそれに対応すべきだったのではと反省しています。

──2012年シーズンを振り返って100点満点で何点をつけますか?
小田島氏:チャンピオンを獲得できたのでいい点をつけたいところですが、いくつかの課題もありますし、これからも投入できる新しい技術も見つかってきてますので、80点ぐらいにしておきます。

──チャンピオンを獲得したにしては厳しい点ですね。
小田島氏:チャンピオンを獲りましたというだけでは満足してはいけないということです。すでに申し上げたとおり、レクサス内の序列という意味では弊社のユーザーチーム様が1位では無かったので、そこも厳しめの点をつけた理由の1つです。弊社としては、技術的な課題やレースにおける対応力、そして自分達の目標を達成できたかどうかを重視しており、それが達成されれば必然的に結果はついてくると考えています。

世界中のミシュランレーシングタイヤはGT500で開発されている

──2012年はタイヤ規則が若干変更されました。タイヤメーカーテストが減り、合同テストが増え、決勝で利用するタイヤを1回目の予選で決めないといけなくなりました。1年やってみてどうでしたか?
小田島氏:弊社にだけ不利なルールであるならともかく、ルールというのは誰にとっても同じ条件ですので、特に問題ないと思います。タイヤメーカーにとって楽なルールとは思いませんが、それだけ各メーカーにとってはチャレンジの場になっている、よいルールだと思います。

──2014年からGT500とDTMの車両規則の統合が行われる予定です。その中でタイヤメーカーにはフロントタイヤのサイズを小さくすることが求められますが、いかがですか?
小田島氏:最初に申し上げたいのは、ルールとして決まったのであれば、それは誰に対しても公平なので、それ自体には問題はなく、ただ対応していくだけです。ただ、現状では2014年のクルマがどのようなモノになるのかもあまり見えていませんし、今ある情報を元に試作を始めていく形になると思います。

 タイヤメーカーの一致した意見として、現行のGT500の規則維持をお願いしてきましたが、DTM側とGTAの話し合いの結果としてこうしたルールに決まったと聞いています。これはタイヤメーカーとしてコストアップにつながっていきますので、そこは困ったなとは思っています。一方でDTMとルールを共有することで、新しいタイヤメーカーの参入につながる可能性もありますから、さらに競争が発生する可能性があります。弊社としてはそれはウェルカムです。

──JGTCからSUPER GTに名称を変えたのも世界に出ていきたいからというのがあったと思います。その中ですでにマレーシアで開催しており、2013年は韓国でエキシビジョンマッチを行います。今後アジア市場でSUPER GTは有効なツールになり得るでしょうか?
小田島氏:今後は成長市場でのマーケットが伸びていくにしたがって、その市場での自動車文化の発達というのが見込めます。レースというのは自動車文化の重要な部分ですので、日本発信のSUPER GTがどのように展開されているのかは注意深く見守っています。

 SUPER GTの将来を考えても、日本以外に積極的に打って出ることは必要なことです。韓国ラウンドの開催、そしてDTMとの規則統合によりヨーロッパやアジアでの認知度の向上が実現するのであれば、タイヤメーカー側のコストアップも十分正当化されるのではないかと思います

──2012年シーズンには富士スピードウェイでWEC in Japanが開催されましたが、そこでの使用タイヤに日本ミシュランタイヤ側からフィードバックはあったのでしょうか?
小田島氏:ミシュランの世界で展開するレーシングタイヤの開発はSUPER GT/GT500が大きく関与しています。小回りが効くのは日本のSUPER GTですので、ここで新しいトライや基本的な作り込みなどを試し、それをルマン24時間やWECなどにフィードバックしているのです。

 もちろん、カテゴリーが特殊なモノは、そのカテゴリーで開発していきますが、タイヤの基礎力はGT500が鍛えているのです。我々はGT500をレーシングタイヤ開発のラボだと考えています。

1号車の巻き返しの裏には、チームやドライバーとの徹底した意思疎通が

──1号車は序盤3戦でつまずきましたが、菅生以降は連続表彰台と見事なリカバリーでした。その要因はなんですか?
小田島氏:セパン戦の後に、チーム、ドライバー、我々が一同に集まってミーティングをしました。自分達の持っている能力はどこまでで、それを発揮させるには何が大事なのかをはっきりさせるためです。

 そのときに2人のドライバーが「何が必要かと言えば、まずは結果だ。自分達が何ができるのかを示すために、菅生では絶対に表彰台に上がることが大事だ」と言ってきてくれました。その結果チーム側も結束して、菅生では絶対に結果を出そうということになり、実際に表彰台に上ることができました。

 序盤3戦の結果でチームの自信みたいなものが揺らいでいる時期だったので、ドライバー自身が自ら結果でそれを見せてくれた。菅生では優勝はできなかったのですが、あのときに表彰台を取れたことはシーズンを通してみると非常に大きかったと思います。その意味で、クルマをちゃんと表彰台に持って行ってくれたドライバーは非常によい仕事をしてくれたと思います。

──そうしたチームとのミーティングというのは頻繁に行うモノなんでしょうか?
小田島氏:技術開発というのは、タイヤそのものの技術開発、具体的には他社のタイヤよりもよいモノを作るということも重要ですが、レースにおいてチームやドライバーとコミュニケーションを図るというのも以上に重要な要素なのです。新しいタイヤを作って、それがテストベンチ上で性能を向上したとしても、その効果がドライバーやチームに理解されなければ本当の性能を発揮することができません。このため、弊社ではユーザーチーム様やドライバーとの日々のコミュニケーションを大事にしています。

──2013年以降についてはいかがでしょうか。 3連覇という声も聞こえてくると思いますが?
小田島氏:簡単なことではないですが、以前から申し上げている通り、弊社の目標はタイヤ競争をしている中で、他社を上回ることです。その結果としてチャンピオンという称号がついてくると考えています。1つだけ言えることは2013年もミシュランはGT500に参戦し、チャンピオンタイヤとして恥ずかしくない開発を続けて、チャンピオンを狙っていきたいです。

笠原一輝

Photo:奥川浩彦

Photo:安田 剛