【特別企画】SUPER GTタイヤメーカーインタビュー2012【ヨコハマタイヤ編】
GT500は年間でのチャンピオン争い、GT300は4連覇が目標


 SUPER GTに参戦しているタイヤメーカーの中でも、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)はモータースポーツに非常に熱心に取り組んでいる企業の1つだと言ってよい。というのも、ヨコハマタイヤは多種多彩なモータースポーツに参戦しており、SUPER GT以外にも、全日本F3選手権へのタイヤ供給など国内選手権だけでなく、WTCC(世界ツーリングカー選手権)のような国際格式の選手権にもタイヤを供給している。

 そのヨコハマタイヤはスポーツタイヤブランドである“ADVAN”でSUPER GTにタイヤを供給している。GT500の19号車(WedsSport ADVAN SC430)、24号車(D'station ADVAN GT-R)のほか、GT300に至っては20台を超える車両に対してタイヤを供給しており、文字どおりSUPER GTを足下から支えているタイヤメーカーだ。

 ヨコハマタイヤは昨年のGT300で0号車(GSR 初音ミク BMW)がチャンピオンとなり、2010年から3年連続でGT300のチャンピオン獲得を達成した。今年もGT300のタイトル防衛を目指すほか、GT500に関してもチャンピオン争いに絡むことを目標に戦っていくと言う。2012年のSUPER GTの参戦について、横浜ゴム PC製品企画部 モータースポーツグループ グループリーダー 関口和義氏、同 MST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏にお話しをうかがった。このインタビューは、SUPER GT第2戦富士の予選終了後に行っている。

横浜ゴム MST開発部 技術開発1グループ リーダー 荒川淳氏(左)、PC製品企画部 モータースポーツグループ グループリーダー 関口和義氏(右)GT500は、写真の24号車 D'station ADVAN GT-Rのほか、19号車 WedsSport ADVAN SC430にもタイヤを供給
GT300では昨年のチャンピオンマシンGSR 初音ミク BMWのタイヤはヨコハマタイヤ。今年も0号車 GSR 初音ミク BMW(写真)や4号車 GSR ProjectMirai BMWに供給2号車 エヴァンゲリオンRT初号機PETRONAS紫電、27号車 PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリもヨコハマタイヤ。GT300クラスの痛車をフルサポートするほか、数多くのチームに供給

FIA GT3車両の増加で22台のGT300がユーザーに、ロジスティックスの規模も拡大
──初めにヨコハマタイヤがSUPER GTに参戦する意義やSUPER GTに対する評価を教えてください。
関口氏:世界のモータースポーツでは、ワンメイクによるタイヤ供給がトレンドになっています。これに対してSUPER GTは世界でも群を抜くようなハイレベルのタイヤ戦争が行われているレースであり、かつGT500においては3つの自動車メーカーがハイレベルで競争している激しいレースです。そうした点を評価し、弊社としても開発の場としての意味合いも兼ねて参戦しています。また、SUPER GTはマレーシアのセパンで開催されるなど、アジアへの影響力もあり、そうしたプロモーション的な意味合いももちろんあります。

──ヨコハマタイヤの今年のモータースポーツ活動を教えてください。
関口氏:グローバルな活動という意味では、WTCCへのタイヤ供給、FIA F2選手権、ドイツで行われているFIA GT3ベースのレースであるGT Masters、Brazil Porsche CUP、IMSA GT-3 CUP Challenge、5月からアジアで始まるGT Asiaに対してタイヤを供給します。また、毎年11月に中国のマカオで行われているマカオGPに対しても、今年もタイヤを供給します。特に今年は弊社がマカオGPにタイヤの供給を開始してから30周年にあたり、メインのF3だけでなく、同時に開催されるWTCCも、GT Asiaに関しても弊社がタイヤを供給するなどヨコハマ色の強いイベントになりますので、ぜひとも歴史も含めて楽しんで頂ければと思っております。

──今年の体制に関してはいかがでしょうか?
荒川氏:基本的には昨年の体制から大きな変更はありません。GT500に関しては両チームともに継続ですので、昨年のデータを元に開発を継続していきたいと考えています。

 また、GT300に関しては今年も台数が増えて全部で22チームになり、特にFIA GT3車両が増えています。GT300は昨年までに比べて特にリアタイヤのサイズが280幅から330幅に広がっています。GT500のような幅広のタイヤになり、フロントタイヤもそれにあわせて幅広になる車も多いというのが大きな特徴です。またGT300の車両規定はFIA GT3の規定そのままということになり、全体的な性能が底上げされていますので、それに合わせて今年のよりハイパフォーマンスな車にあわせた開発を行っています。

──GT300の参戦台数が増えると、物流面などロジスティックスコントロールが大変そうですね。台数が多いとさまざまな苦労があると思いますが?
荒川氏:例年大変なんですが、今年は特にです。先ほど述べたようにタイヤのサイズが物理的に大きくなっているので、タイヤを持ってくるトレーラーの台数も増えており、チームをサポートするスタッフも増えています。ただ、GT300の大多数のチームに弊社のタイヤを選んでいただけるというのは大変光栄なことです。チームの期待に添えるように、安定して同じ性能のタイヤを各車に供給していくことは重要だと考えています。一方で競争もありますので、その中でどのようにして性能を上げていくか、そこが課題です。

──ここまでGT300のヨコハマタイヤユーザーが増えた理由はどうしてなのでしょうか?
関口氏:弊社の事情というよりは、GT300は今年からFIA GT3の車両を使っているチームが増えたことが多いのではないかと思っています。その結果、例年の実績の積み重ねとかが評価されて選んでいただけたのかと。他のタイヤメーカーさんは、GT300に関しては1チームのみへの供給がほどんどなので、本当はもう少しバランスがとれたらなというのが正直なところです。

今シーズンから、GT300ではFIA GT3車両を使用するチームが増えた。ヨコハマタイヤは、JAF GT車両、FIA GT3車両、そしてハイブリッド車と、多様な車両に対して、タイヤを供給している。写真は左上から時計回りに、TOYOTA PRIUS (JAF GT、ハイブリッド)、SUBARU BRZ(JAF GT)、Mercedes-Benz SLS AMG GT3(FIA GT3)、Aston Martin Vantage GT3(FIA GT3)

タイヤメーカーテストの規定変更は、GT300でのテスト機会の増加というポジティブな変更
──今年はタイヤテストの規定やタイヤの使い方についてのルールが若干変わりました。タイヤメーカーテストが40時間から16時間に減らされ、合同テストが増えました。台数の多いところ、少ないところで有利不利もあるとは思いますが、特にGT300の台数が多いヨコハマタイヤさんへの影響はいかがですか?
荒川氏:確かにタイヤメーカーのテスト時間は減りましたが、その分合同テストは増えましたので、トータルで見れば回数やテスト機会に関しては大きく変わっていません。逆にGT300に関してはテストできる機会が増えており、GT500と同じだけテストができるようになっています。また、合同テストの時間が増えたことも、弊社のようにユーザー台数が多いメーカーにとってはデータを集めやすいということは言えると思います。

──今年の規定では、Q1(予選一回目)前に決勝で利用するタイヤをマーキングするルールが追加されました。その影響はありますか?
荒川氏:正直あると思います。今回(富士500km)のようにフリー走行でドライを全く走らずに決勝のタイヤを決めないといけない場合には、タイヤメーカーの側でどれだけベースになるデータを蓄積しているかが鍵になってくると考えています。いずれにせよ、タイヤメーカーにはどんな状況にも対応できるワーキングレンジの広いタイヤが求められていると考えています。

第2戦富士のようにドライとウエットが予想される場合、ドライ用、ウエット用と大量のレーシングタイヤが持ち込まれる。これもサポートするチームの多さ故だ

GT300で安定した結果を残し、その結果として4連覇を目指す
──レーシングタイヤと市販タイヤの関係について教えてください。
荒川氏:レーシングタイヤだからと言って特別だという訳ではなく、“タイヤ”としては同じですから、基本的には市販タイヤで利用されている技術と同じモノが元になっていることも少なくないです。弊社では昨年そうした技術の1つとしてオレンジオイルをご紹介させていただきましたが、レーシングタイヤも市販タイヤも源流を辿れば1つ(=“タイヤ”)なのです。

関口氏:オレンジオイル以外にも、レーシングタイヤの開発で培った技術は常に市販タイヤへフィードバックされています。例えばウエットタイヤにおけるパターンや構造などの技術などがそれに該当します。弊社の中ではレーシングタイヤと市販タイヤを設計する部署は別になっていますが、基礎技術の開発みたいな部分は共通しており、それらを共有しています。例えば、今年はGT300ではFIA GT3ベースの多種多様な車両があります。それらに対して幅広く対応できるタイヤを開発する必要がありますが、対応できるだけの技術的な引き出しが弊社にはあるのだと自負しています。それが弊社のタイヤを多くのユーザー様に選んでいただいている1つの理由なのかなと考えています。

──今年の目標を教えてください
荒川氏:GT500に関しては、きっちりとポイントを取り、最終戦までチャンピオン争いに残ることです。もちろん優勝を狙うことも大事なのですが、安定してポイントを積み上げることがより重要だと考えています。それこそがタイヤとしての安定した性能や技術を持っていることの証明だと思いますので。

 GT300に関しては、4連覇を確実に実現したいです。そしてこれは昨年もお話しさせていただきましたが、弊社のユーザーチームの中でウエイトハンデが軽いチームなどが毎戦優勝してくれて、毎戦違う弊社のユーザーが結果を残していただくというのも面白いでしょう。そうした多くのユーザーに表彰台に上がっていただき、結果としてチャンピオンを獲れれば非常に嬉しいことです。


このインタビューはSUPER GT第2戦富士500kmの予選の後に行っているのだが、その翌日に行われた決勝レースで、ヨコハマタイヤのユーザーチームである昨年のGT300チャンピオン 0号車(GSR 初音ミク BMW)が見事に優勝を飾った。

 先日マレーシアで行われた第3戦セパンでは、優勝こそ逃したものの、2位に911号車(ENDLESS TAISAN 911)、3位に66号車(triple a vantage GT3)が入る結果となった。特に911号車(ENDLESS TAISAN 911)はオープニングラップの1コーナーでスピンして最後尾まで交代してから追い上げての2位だっただけに、そのスピンさえなければ充分優勝が争えたレースだっただけに惜しい結果と言えるだろう。

 ヨコハマタイヤの課題はGT300では台数が多いだけに、勝ちが分散する傾向があり、ライバルメーカーが1チーム1台に集中しているのに比べるとやや不利な条件もある。それでもチャンピオンシップ4連覇を飾ることができるかどうかが大きな注目点の1つと言ってよいだろう。

(笠原一輝/奥川浩彦/Photo:清宮信志)
2012年 6月 27日