【特別企画】SUPER GTタイヤメーカーインタビュー2012【ミシュラン編】
同一車種内でミシュランユーザーがトップを目指し、結果としてチャンピオン獲得を


 昨年実施したSUPER GTタイヤメーカーインタビュー。昨年のSUPER GTではタイヤ戦争が激化すると予想し実施したものだが、その予想以上にタイヤの性能が勝敗を左右した部分が見られた。

 今年は、昨年初めてGT500クラスのチャンピオンとなったミシュランに対するブリヂストン、横浜ゴム、ダンロップの巻き返しが予想されており、さらなる激戦を見ることができると思う。日本ミシュランタイヤ、ブリヂストン、横浜ゴム、ダンロップ(住友ゴム工業)の順で、SUPER GT第2戦富士の予選終了後に行ったインタビューを4日連続でお届けする。


 フランスのタイヤメーカーであるミシュランは、グローバルなタイヤ市場でブリヂストンとシェアを争う世界のトップメーカーの1つだ。ミシュランは古くからモータースポーツに積極的に参戦しており、2007年にF1タイヤがワンメイクになる前にF1に参戦。ブリヂストンと激しい争いを繰り広げていたことを覚えている読者も少なくないだろう。

 ミシュランは、その“宿命のライバル”というべきブリヂストンのお膝元である日本のモータースポーツにも積極的に参戦しており、昨年はミシュランタイヤを装着した車両がSUPER GTの歴史上初めて、トップカテゴリーのGT500でブリヂストンを破りチャンピオンに輝く成果を得ている。

 今年も昨年のチャンピオンカーである1号車(S Road REITO MOLA GT-R)と39号車(DENSO KOBELCO SC430)の2台を擁してSUPER GTに参戦するミシュランは、昨年に引き続きGT500でのチャンピオン獲得を目指している。

 そうしたミシュランのSUPER GTでの2012年の活動に関して、日本ミシュランタイヤでSUPER GT参戦を統括する小田島広明氏にお話しをうかがってきた。

日本ミシュランタイヤでSUPER GT参戦を統括する小田島広明氏チャンピオンゼッケンをつける1号車 S Road REITO MOLA GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)第2戦富士で優勝した39号車 DENSO KOBELCO SC430(脇阪寿一/石浦宏明)

基本的には昨年の体制を継続・強化。さらなる飛躍を目指す
──初めにミシュランがSUPER GTに参戦するにあたっての目標や、現時点での評価を教えてください。
小田島氏:昨年は何よりも勝つことを目標に掲げ、チャンピオンを獲得でき、それを実現することができました。今年はチャンピオンタイヤメーカーとしてシーズンに望むことになります。

 ただ勝つだけでなく、弊社のユーザーチームやドライバーに、ミシュランを使っているから優位に立っていると思っていただけるようにしていきたいです。それは、タイヤの製品技術、安定性、サービスの質、タイヤフィッティング、そしてデータの分析能力、それらのすべてにおいて我々の優位性を明確にしていくシーズンにしたいと考えています。

──ミシュランのモータースポーツ活動に関して教えてください。
小田島氏:日本ではこのSUPER GTに参戦するほか、世界耐久選手権(WEC)、そしてその1戦でもあるル・マン24時間レースに参戦します。また、WRCやラリーレイドといったラリー活動の方も継続して行っています。残念ながら2輪の方はトップカテゴリーがワンメイクになってしまったので参戦していませんが、欧州の耐久選手権に参戦する予定です。基本的には昨年の活動の延長線上にあるものが多いです。

──今年のSUPER GTの体制に関してはいかがでしょうか?
小田島氏:1号車(日産 GT-R)に関しては昨年チャンピオンを獲った体制が継続して強化されています。39号車(レクサス SC430)に関しては、昨年いくつか取りこぼしがあったので、それをなくせば十分チャンピオン争いができていたと考えています。

 ただ、39号車の方は弊社のタイヤを使っていただくのは1年目で、前半戦はやや手探りなところがありました。しかし今年は2年目で、シーズンオフのテストでも昨年のようにマッチングから始める必要もなく、昨年の土台を元に発展させることができるようになっています。

 また、ベテランの脇坂寿一選手が加入したことも好材料です。脇坂選手とSUPER GTでご一緒させていただくのは今回が初めてなのですが、人気と実力の両方を兼ね備えた選手で、すでにテストや第1戦で一緒にお仕事をさせていただき、人気も実力に裏付けされたものだということがよく分かりました。

──ミシュランは一昨年まではGT300にも積極的に取り組まれてきましたが、もうGT300への参戦は考えておられないのでしょうか?
小田島氏:GT300に関しては2002年から一昨年まで取り組んできましたが、決して興味がなくなった訳ではありません。しかし、こればっかりは相手のある話ですので、我々の意志だけ決められることではありません。FIA GT3車両の増加などによりGT300が盛り上がっていることは認識しており、ご縁があればとは思っています。

新しいタイヤ規定に対応できるように作動レンジの広いタイヤを目指す
──タイヤテストの規定が変わり、タイヤメーカーテストの時間が40時間から16時間に減り、その分合同テストが増えていますが、参戦台数が少ないタイヤメーカーには不利ではないですか?
小田島氏:確かにタイヤメーカーテストの時間は減りましたが、その分合同テストが増えているので総枠としては影響はありません。合同テストはそれ自体をイベントととらえてお客様にも公開しますので、レースのショービジネスという面を考えればよい機会だと考えています。

 参戦台数の問題ですが、確かに台数が多いメーカーは走らせる述べ時間が増えますので、有利になる面があることは否定できません。実際、我々のように台数が少ないタイヤメーカーはテスト直近のレースで車が壊れたりすればそもそもテストに参加できなくなります。しかし、逆に特定の車に特化することはできますので、その車にあわせたタイヤを作っていくことが可能になります。このあたりはトレードオフだと考えています。

──SUPER GTの運営団体であるGTAがこの規定を決めるにあたり、ミシュランも意見を表明されたんですか?
小田島氏:我々の意見を表明させていただきましたが、最終的にはGTAの方で決定されました。結局のところタイヤメーカーのニーズは皆異なっており、全員が同じ方向を向くことは難しい。そうした各タイヤメーカーの意向、そしてチームの意向をGTAがくみ取って、折衷案としてこうした規定になったと理解しています。

──もう1つタイヤ規定の大きな変更ということで、予選1回目(Q1)が始まる前に決勝で利用するタイヤをマーキングしなければいけなくなりました。この影響は?
小田島氏:はい、昨年までの規定ですと、Q1を通るだけのためのタイヤというのが可能だったんですが、今年の規定ではそれが完全に排除されています。このため、Q1でも、スーパーラップでも決勝で使用するタイヤでアタックしなければなりませんので、いかに予選でも一発のタイムが出て、かつ長持ちして安定しているタイヤを用意できるかが鍵になると考えています。

 どのメーカーでもそうですが、やはりタイヤメーカーのキャラクターによって得手不得手というのはあります。ですが昨年のチャンピンカーである1号車は、全戦できちんとポイントが取れており、それがチャンピオンにつながっています。つまり、それだけスイートスポットではないような温度領域でも最低限の競争力が維持できていたという作動レンジの広さが実現できていました。今年も、その弊社のタイヤの特徴である作動レンジの広さというのを活かして、いつでもしぶといレースをしていきたいと考えています。

車種内でミシュランユーザーがトップを目指し、その結果としてのチャンピオンを目指す
──レーシングタイヤと市販タイヤの関係というのはどうでしょうか?
小田島氏:何か特別なことをやっているということではないのです。どちらも同じタイヤですから。弊社では市販タイヤも、レーシングタイヤも基本的には同じ研究所の基礎技術の引き出しを使っています。

 例えばレインでのタイヤなどですが、雨の中でも速く安定して走れる技術というのはレーシングタイヤでも市販タイヤでもまったく同じなのです。ドライタイヤに関しても、一定の摩耗があっても性能が安定して発揮できるという基礎的な部分はやはり同じです。

 弊社のタイヤで走っていただいているGTドライバー達にも、普段の街乗りで弊社のタイヤを履いていただいていますが、「レーシングタイヤと同じ乗り心地だね」とのコメントが多いです。また、一般の方に弊社のハイパフォーマンスのタイヤに乗っていただいた時にも、「雨でもドライでも、グリップだけが尖っているようなタイヤじゃなくてバランスのよいタイヤだね」と言っていただくことが多いです。結局、レーシングタイヤでも、市販タイヤでもメーカーのフィロソフィーみたいなものは共通化していくのです。

──最後に今年のSUPER GTでの目標を教えてください
小田島氏:昨年は勝つことにこだわると公言して、チャンピオンを獲ることができました。もちろん今年もそれを目指していきますが、決して簡単なことではないのも事実です。

 弊社としての最低目標は、弊社のユーザーチームが同車種の中で、トップのポジションを占めるということです。そしてその車種がチャンピオンになれば、必然的に弊社のタイヤがチャンピオンということになりますので。昨年であれば、GT-Rで1番になりチャンピオンを獲得しました。今年はそれをSC430でも実現し、両方の車種で一番になりたいです。

 というのは、タイヤメーカーにとっては、同じ車種でタイヤだけが違う競争の中で勝つことにこそ大きな意味があるからです。例えば、ブリヂストンのタイヤがついたHSVと、ミシュランがついたGT-Rを比べてもタイヤの要素で勝ったかどうかは分からないのです。しかし、同じGT-R同士の競争で、ブリヂストンのタイヤをつけたGT-RよりもミシュランのタイヤをつけたGT-Rが上に行けば、我々の優位性を証明できるのです。それこそがタイヤメーカーにとってのチャンピオンの価値なんだと思います。


 このインタビューは第2戦富士500kmの予選前に実施した。同レースにおいてミシュランユーザーの39号車は見事に逆転優勝を果たした。小田島氏が語るとおり、近年のSUPER GTではいかにしてすべてのレースで均等にポイントを取っていき、勝てるときにはきっちり勝つという戦い方をしなければチャンピオンには手が届かない。そうした意味で、第1戦9位、第2戦優勝、第3戦4位と確実に入賞している39号車はチャンピオン候補の1台と言ってよいだろう。

 一方の1号車は第3戦こそリタイアになってしまったが、第1戦、第2戦ともに入賞しており、やはりこちらも今後の展開次第では十分にチャンピオンに届く可能性を秘めている。今後、温度が高くなることが予想される菅生、鈴鹿、富士というレースが予定されており、そこにどれだけ適合したタイヤを持ち込めるのはミシュランなのか、それともライバルメーカーなのか、今年のSUPER GTのタイヤ戦争はまだまだ楽しめそうだ。

(笠原一輝/奥川浩彦/Photo:清宮信志)
2012年 6月 25日