特別企画

【特別企画】岡本幸一郎の新型「アテンザ」で行く南九州1泊2日の旅

指宿スカイライン、桜島フェリー、JR最南端の駅などクルマ旅の楽しさを再発見

岡本幸一郎、新型「アテンザ」で南九州1泊2日のクルマ旅をしてきました

 3月中旬、鹿児島で新型「アテンザ」の取材会が開催された。マツダにとって鹿児島は、古くから縁のある場所だ。1936年に3輪トラックで鹿児島から東京までの約2700kmを25日間かけて走破した「鹿児島-東京間キャラバン宣伝」を実施し、その優秀性をアピールすることに成功。マツダ車の拡販につながったことがきっかけで、その後3輪トラック業界にキャラバンブームが起こったと言う。

 初日は、鹿児島空港前の「かごしま空港ホテル」をスタート地点とし、薩摩半島の南端に近い指宿の「白水館」を目的地とする行程。白水館で1泊し、再びかごしま空港ホテルに戻る1泊2日の旅程だ。途中には一般道、高速道路(九州自動車道)、やワインディング(指宿スカイライン)があり、さまざまなステージで、アテンザのツーリング性能を確認できるというわけだ。

今回の旅程。鹿児島空港前のかごしま空港ホテルから、指宿にある白水館を目指す。往路と復路では若干経路が異なり、復路においては桜島に立ち寄った

初日 かごしま空港ホテル→指宿 白水館

 初日の鹿児島はあいにくの雨模様。スタート地点である、かごしま空港ホテルで試乗車を受け取り、クルマ旅の始まりだ。

 アテンザに乗るのは少しご無沙汰だが、目の前にズラリと並べられたアテンザを見て、そのスタイリッシュさをあらためて実感。個人的には、デザインとユーティリティを両立したワゴンもいいが、スポーツカーのように美しいフォルムを持つセダンのほうが好みだ。ちなみに3月中旬時点では、セダンの販売比率が高いらしい。

鹿児島空港に到着。鹿児島空港の向かいにある、かごしま空港ホテルからクルマ旅は始まる
鹿児島空港出口の案内。指宿が目的地なので当然ながら指宿を目指したのだが、実は霧島温泉に向かうのが推奨ルート。そのため、鹿児島空港の東側を走る国道223号で霧島温泉方面に引き返した

 最初はブルーリフレックスマイカのボディーカラーが渋い、SKYACTIV-D 2.2(2.2リッターディーゼル)を搭載するXD L Packageのワゴンから。雨足の強い中を出発し、まずは一般道を走行。坂本龍馬のハネムーンで有名な塩浸温泉の辺りは、雨にまじって湯気が立ち込めていて、「日帰り入浴 大人200円」という表示も目に飛び込んでくる。激しく誘惑されたのだが、あまり時間の余裕がないので、先を急いだ。

 途中、景色のよい個所をあれこれ見つけて、雨の中で撮影を行う。開口部の横幅が広く、ゲートに連動して開閉するカラクリトノカバーの付くアテンザ ワゴンは、機材の積み降ろしがしやすく、またちょっとした雨よけになってくれて重宝する。

雨の国道223号。雨の中の運転は緊張するものだが、高いスタビリティを持つアテンザなら、より余裕をもって走ることができる。沿道には桜が咲いている個所もあった
ブルーリフレックスマイカのアテンザ ワゴン。雨の和の景色とのマッチングも抜群

 雨の一般道を走行後、雨の九州道へ。最大トルク420Nm(42.8kgm)/2000rpmと余力あるディーゼルのトルクのおかげで高速道路の運転はとても快適だ。一般道ではやや硬さを感じた乗り心地も、高速道路ではちょうどよく、フラットな姿勢を保って、雨の中を快走できた。

推奨ルートは国道223号を霧島温泉へ向かい、宮崎自動車道 高原ICから南九州へと戻るもの。あれこれ撮影して若干遅れ気味だったため、国道223号から県道50号にショートカットして九州道の横川ICへと向かう。肥薩線沿いに北上し、途中寄り道して踏切を越えところで列車が通過した

 途中、乗り換えポイントの桜島SA(サービスエリア)に到着。「桜島」と名前が付いているくらいなので、条件のよいときには桜島が見られるのだろうが、雨のこの日はまったく見えなかったのは残念……。2日目の予報は晴れとなっているので、なんとしても桜島をこの目に焼き付けようと決意した。

横川ICから乗り換えポイントの桜島SAへ向け、九州道を南下中。雨の高速道路も安心の性能
桜島SAに立ち寄り。この辺りから雨がときたま止むようになった

 ここで、別の組とクルマを交換。SKYACTIV-G 2.5(2.5リッター ガソリン)を搭載する25S L Packageのアテンザ セダンに乗り換える。ボディーカラーは、個人的に一番お気に入りのソウルレッドプレミアムメタリックだ。

 桜島SAから南に向かう九州道は、結構アップダウンもある。ここでは、アテンザが搭載するエネルギー回生機構「i-ELOOP」がどのように働いているのか確認しつつ走行した。電力は何か電装品に使われてすぐになくなってしまうのだが、すぐにたまることがよく分かる。高速で移動する(運動エネルギーの大きい)高速道路では、ほとんど平らな場所でもアクセルをOFFにし、わずかに減速Gが発生するとあっという間に満充電になり、その電力をまた電装品に供給している。これを延々と繰り返すことで、燃費を節約しているのだろう。

 また、この高速道路の区間では、「リア・ビークル・モニタリングシステム(RVM)」が本当に頼りになる。これはリアバンパーに設置したレーダーセンサーで隣車線後方から迫るクルマを検知する機構で、レーダーを使っているため雨の日でも警報を発してくれる。この日のように天候が芳しくないと、注意しても後方を走るクルマの存在を見落としてしまうこともあり、そういったときに大いに役立ってくれることと思う。

すぐにたまって、すぐ使えるエネルギー回生機構「i-ELOOP」。エネルギーバッファとして優秀なレスポンスを持つ。キャパシターならではの特性だ
RVMの表示はサイドミラーに行われる。斜め後方にクルマがいる場合、このような表示で知らせてくれる

 九州道を終点の鹿児島IC(インターチェンジ)で下りて、有料道路の「指宿スカイライン」へ。指宿スカイラインは、箱根ターンパイクや芦ノ湖スカイラインと同様の雰囲気を持つワインディングロードで、大小さまざまなR(半径)のコーナーとアップダウンが続く。SKYACTIV-D 2.2搭載車からSKYACTIV-G 2.5搭載車に乗り換えた直後は、やっぱりディーゼルエンジンのほうが圧倒的にトルクフルだなと思わずにいられなかったのだが、ガソリンエンジンにはガソリンエンジンの味わいがある。

 13.0という高い圧縮比を持つ自然吸気のガソリン直噴エンジンの強みを活かしたSKYACTIV-G 2.5のエンジンフィールはSKYACTIV-D 2.2よりもリニアでレスポンスがよく、吹け上がりが伸びやかで、個人的には2.5リッターのガソリンのほうが好み。さらに、車重の違いもあるせいか(ワゴン XD L Packageが1530kg、セダン 25S L Packageが1450kg)、フロントタイヤの荷重が軽く、ステアリング操作に対するレスポンスが俊敏だ。

指宿スカイラインを走行中。天気が不安定で、雨が降ったり止んだりしたほか、一部区間では霧が出ていた
指宿スカイライン途中の駐車場でタイヤの状態を確認。ウェットグリップも確かで、アテンザのサスペンション性能がタイヤの性能を引き出している
アテンザというとSKYACTIV-D 2.2搭載車に注目が集まりがちだが、SKYACTIV-G 2.5のエンジンフィールは快い。筆者的には、こちらが好み

 プレゼンの場で開発者が、ガソリン車については「徹底的にリニアリティを追求した」と述べていたのは、エンジンだけでなくハンドリングも含めての話であることを、あらためて思い知った。SKYACTIV-G 2.5搭載車は、スポーツカーのようなテイストを味あわせてくれる。

 指宿スカイラインは終点の頴娃ICが目的地には近いのだが、土砂崩れの影響で頴娃IC~知覧IC間が通行止めとなっているため、知覧ICで下りて、やや遠回りを承知で知覧の市街地へと向かった。

 知覧というと、第2次大戦の末期に、特攻隊が飛び立つ拠点となっていたことで知られる地だ。両脇に燈篭が並んだ道をしばらく走った先に、「知覧特攻平和会館」がある。今回は立ち寄らなかったが、別の機会に見学したことがあり、感慨深かったことを思い出した。みなさんにもぜひ何かの機会に一度、訪れてみてほしい施設だ。

 知覧からは一般道をひた走り、宿泊地のある指宿を目指した。道路わきに立つ看板を見ていると、鹿児島は本当に名物がたくさんあることがよく分かる。サツマイモやさつま揚げ、黒豚や魚介類、焼酎だけでなく、お茶やそうめんや黒酢まで名物だったとは……。

 この日はワインディング、高速道路、一般道と300km近くを走行したのだが、そこで気づいたのがシートのできのよさだ。適正なポジションが取りやすく、心地よい包まれ感と硬さ感があって、半日走っても疲れ知らずだった。逆にリアシートはもう一歩。少しでも乗員にとって広く感じられるようにとの配慮なのか、低い位置で水平に近い角度に設定された座面に対し、背もたれが寝そべり気味で、身体を上手く支えてくれない印象がやや残った。この辺りは体型の差もあるのだろうが、筆者はうまく決まらなかった感じだ。

 目的地である指宿白水館は創業65年を超え、かつて日韓首脳会談が開催されたこともあるほどの格式の高い日本旅館。指宿名物の砂むし風呂や、驚くほどの規模の大浴場も用意されていた。

2日目 指宿 白水館→桜島→かごしま空港ホテル

2日目。朝の開聞岳を望むアテンザ ワゴン。日本には素敵な景色がたくさんある

 2日目は少し早起きして、朝の6時に出発。試乗車は、ソウルレッドプレミアムメタリックのXD L Packageのワゴン。SKYACTIV-D 2.2搭載車だ。

 まずは、鉄道ファンならずとも遠方から訪れる人が多いという、JR最南端の駅として知られる「西大山駅」へ。駅舎の南側は広大な農作地が広がり、西を望めば、開聞岳がそびえ立つ雄大な景色が待ち構えている。さらに、そこを南下して東シナ海に面した小さな漁港へ。

JR最南端の駅「西大山駅」とアテンザ ワゴン。以前は日本最南端の駅だったが、沖縄に鉄道ができてJR最南端となった
JR最南端の駅だけあり、駅舎前には桜が咲いていた
小さな漁港にも立ち寄ってみた。アテンザ ワゴンの美しいボディーラインが際立つ

 そこから、鹿児島空港へ向けて北上を開始する。往路とは逆のルートで、知覧へと向かう。知覧には武家屋敷通りがあり、一般客の少ない10時までであれば、通路をクルマで走行することが許されている。

知覧の武家屋敷通りをゆっくり進むアテンザ ワゴン
この通りは細いのでより慎重に運転。アテンザの車幅はセダン/ワゴンともに1840mmあるが、車幅を掴みやすいこともあって問題なく通過できた

 2日目は、好天に恵まれ指宿スカイラインを快調に北上する。アテンザの引き締まった乗り味は、ワインディングをハイペースで走ったときにも真価を発揮する。姿勢変化が小さく、クルマの次の動きが読みやすい。指宿スカイラインは荒れた路面などもあり、高速ツーリング性能とトレードオフになる部分かもしれないが、こういった路面ではもう少し乗り味にしなやかさが欲しいと感じた。

途中荒れた路面などもあるものの、穏やかな春の日差しの中を北上中。絶好のドライブ日和だった

 指宿スカイラインを無事終え、接続する九州道へ。九州道は鹿児島北ICで下りた。この試乗会での推奨ルートは、鹿児島市の市街地に入らず鹿児島空港へ向かうというものだったが、桜島の景色を間近で見たかったのだ。

 そのため、鹿児島の中心部に突入し、桜島を目指す。桜島はご存知のとおり活火山で、2009年頃から噴火回数が増えているとのこと。おかげで、筆者が学生時代に旅行した際には、鹿児島市内から大きな姿がくっきり見えたのだが、最近はほとんど灰が舞って曇っているらしい。ちなみに、桜島の東側の大隅半島とは1914年(大正3年)の爆発により溶岩が流出して陸続きになったのだが、西側の鹿児島市とは4kmほど離れており、桜島フェリーが24時間運航していて、片道15分で行き来することができる。

 ここまで来たからには、当然ながらフェリーへ乗って桜島へ向かう。クルマでフェリーに乗るのは久しぶりで、旅気分を盛り上げてくれる。桜島が見えるかと、ワクワクしながらデッキに向かったが、やはり桜島の上のほうは見えなかった。桜島に上陸したものの、時間の関係でほとんどドライブすることなく鹿児島空港へ向かわなければならない。そのため、さっさと桜島フェリーで鹿児島市内にUターン。フェリー復路で車両置き場に置いたアテンザを上から眺めたのだが、改めてホレボレするほどスタイリッシュだ。長距離のクルマ旅をともにしたせいか、アテンザだけよい意味で浮いて見えた(笑)。

鹿児島市内側の桜島フェリー発着場。朝のラッシュ時などは、10分間隔でフェリーが出航してるようだ
鹿児島市内側から桜島を望む。桜島の上部は、ガスっており、全景を見ることはできなかった
鹿児島市内から桜島フェリーに乗船。フェリーなので、クルマごと乗船する。しかも、車両置き場は1階部分と、2階部分に設けられていた。クルマ社会なんだなと
桜島への往路は、中央最後列への駐車となった
フェリーのデッキから眺める桜島。気持ちよかったです
いざ桜島へ上陸
上陸したけど時間がないので、すぐに復路に
頻繁にフェリーが出ているので、とても便利
復路は1階に乗船
今度は、先頭になりました
お腹が空いたので、フェリーでうどんを食す。讃岐風の薄味の美味
最後まで桜島の全景を見ることはなく残念。改めて訪れたいところだ
2日間一緒に過ごすと、それなりに愛着が。アテンザ ワゴンが一番かっこよく見えるのは気のせいですか?

 鹿児島市内に戻り、一路鹿児島空港へ。鹿児島空港ICまで九州道で移動したが、SKYACTIV-G 2.5搭載車と比べ、SKYACTIV-D 2.2搭載車は、より落ち着いたドライブフィールであることを再認識。高速巡航に適した印象のエンジン特性は、クルマで旅をする機会の多い人にとって、なにかと恩恵があると思う。

鹿児島市内側で下船し、鹿児島空港を目指す
九州道を北上
無事、鹿児島空港に到着。この後、かごしま空港ホテルの駐車場に行き、2日間のクルマ旅を共にしたアテンザとお別れした

 往復600km近くのクルマ旅だったが、ツーリングカーとしてのアテンザの魅力を再認識し、たっぷり満喫することのできた2日間だった。

【お詫びと訂正】記事初出時、大隅半島の表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛