【特別企画】SUPER GTタイヤメーカーインタビュー2012【ブリヂストン編】
GT500はチャンピオン奪回、GT300はまず1勝


 SUPER GTタイヤメーカーインタビューの第2回はブリヂストン。ブリヂストンは日本トップシェアのタイヤメーカーだが、グローバルな市場でも世界のトップシェアをライバルのミシュランと激しく争っている。

 そのブリヂストンはSUPER GT発足以来一昨年まで、SUPER GTのトップカテゴリーであるGT500において例外なくチャンピオンを獲得してきた車両のタイヤブランドとして君臨してきたが、昨年ついにその座を、もっとも負けたくないはずの相手であるミシュランに奪われることになった。強すぎる絶対王者であるだけに“負けたことがニュース”になるブリヂストンだが、GT500の参加車両15台中10台に供給し、昨年もブリヂストンのタイヤを履いた車両が8戦中7勝を飾るなど、依然としてGT500の屋台骨を支えるメーカーであることには変わりはない。

 そのブリヂストンは、昨年の雪辱を果たし、チャンピオン奪回を実現するという強い意志を持って今年のSUPER GTに参戦している。実際ライバルタイヤメーカーの関係者が“ブリヂストンは本気だ、テストからも気合いの入り方が違っていた”と評するほどの意気込みである。そうした雪辱に燃えるブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏に、SUPER GT第2戦富士の予選終了後にお話しをうかがってきた。

ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏GT500クラスでは、ブリヂストンタイヤユーザーがもっとも多い。写真は、38号車 ZENT CERUMO SC430GT300クラスでブリヂストンタイヤを使用するのは、43号車 ARTA Garaiyaの1台

勝ってあたり前、負ければ叱られるという絶対王者の悩み
──ブリヂストンにとってSUPER GTに参戦する意義を教えてください。
細谷氏:ご存じのとおり、弊社は一昨年の末をもってF1参戦を休止させて頂きました。そうした状況の中で、ブリヂストンのモータースポーツを通じたプロモーションを行う最適なカテゴリーは何かと考えていくと、やはりSUPER GTだろうと。というのも、SUPER GTは自動車メーカーさんがかなり力を入れて開発をしており、タイヤ競争という観点も激しい競争が繰り広げられています。

 また、弊社のタイヤ開発という観点でも、レーシングタイヤの開発を通じて市販タイヤに活かせる技術というのはかなりあり、そうした技術の開発でも意味があると考えて参戦しているというのが現状です。

──今年度のブリヂストンのモータースポーツ活動について教えてください。
細谷氏:基本的に昨年参戦していたカテゴリーの継続という形になります。国内で言えばSUPER GTとフォーミュラ・ニッポン。グローバルには2輪のMoto GP、米国のインディカー・シリーズに対してワンメイク供給をしていきます。

──昨年の結果(GT500でチャンピオンを失った)は社内ではどんな受け止めだったのですか?
細谷氏:社内からはもっとガンバレという声をいただきました。我々の立場というのは勝ってあたり前、負ければ叱られるというものですので、心構えとしては全部勝つつもりでやっていきたいです。そうしたこともありオフシーズンにメーカーさんが行うテストがあるんですが、そこで積極的にさまざまなトライをさせていただき、それなりの手応えはあったのですが、やはり天候などの予測できない要因が絡む場合があり、気を引き締めて第1戦に臨みました。38号車(ZENT CERUMO SC430)が優勝できましたので、ほっとしたのは事実です。

──GT500に関しては昨年同様のチーム体制ですが、いかがですか?
細谷氏:ここ数年ドライバーの顔ぶれなどが固定されていたのですが、今年は大きく動いたので、ある意味面白いのではないかと思っています。弊社としては、例えばロッテラー選手とか、トレルイエ選手とか、タイヤよりドライバーで勝ってるよねと言われていた部分があったと思うのですが、じゃあ、新しい顔ぶれになったときに「やっぱりタイヤがよかったから」と言っていただける状況もでてくると思うので、そのようなタイヤを作っていきたいです。

──GT300はいかがでしょうか?基本的には昨年の体制(43号車:ARTA Graiya)の継続だと思いますが、2年目の今年は?
細谷氏:GT300なのですが、車両規則の変更で、車重が100kgほど軽くなっています。競争上はありがたいことなのですが、タイヤメーカーの立場からすると、去年のデータが使えず1からやり直しという状況です。

 GT500でもエンジンのリストリクターが2段階アップというのが直前に決まりましたが、車両規則の変更が直前に入るとタイヤメーカーとしては対応するのが大変なので、もう少し早く決まってもらえると嬉しかったですね。

新しいタイヤ規定は歓迎、より厳しい規定の中でこそ本当の実力がわかる
──今年からタイヤテストの規則が変わり、タイヤメーカーテストの時間が40時間から16時間に減り、その分合同テストの時間が増えました。そのルール変更をどうとらえていますか?
細谷氏:昨年の規定は震災の影響もあったイレギュラーなものものでした。タイヤメーカーのテストだと、ほかのタイヤメーカーのユーザーチームが走り込んでいるのに、弊社のユーザー様は交代でしか走れないという変則的な状況が続いていました。やはりレーシングカーは走り込んでデータをとればとるほど有利なのです。セットアップの熟成も進みますし。

 その点今年のように合同テストという形になると、希望するすべてのチームが走れますので、チーム間の競争という意味ではより公平な形になったと思います。また、弊社の立場からすると、走る車が増えますから、データは増えるのでメリットはあると考えています。

──しかし、GT300では逆に1台ですから逆のことは言えませんか?
細谷氏:1台には1台のメリットもあります。例えば弊社のSC430ユーザーチームは4チームありますので、同じ状態のタイヤを4台分用意しないといけない。それに対して1台だとあれこれといろいろトライできますので、そうしたメリットはあると思います。

──今年は持ち込みセット数が1セット減ったほか、予選1回目(Q1)が始まるまでに決勝で使うタイヤを決めなければいけなくなりました。その影響はいかがですか?
細谷氏:はい、このため、サーキットに持ちこむタイヤの精度を上げていかなければいけないと考えています。その意味からすると、タイヤメーカーの実力差が出るから弊社としては歓迎しています。自由になんでもやれるというよりは、限られた条件の中で環境に合わせていくというほうがずっと難しいのです。

 では具体的にどうやっているかと言えば、やはりデータの分析能力、チームとのやりとりの中からヒントを得てやっています。その部分のノウハウで他社に対して差をつけていきたいです。


ウエット時にグリップをあげる技術はレーシングタイヤから市販タイヤへ
──レーシングタイヤと市販タイヤというのは、どのくらい関連があるものなんでしょうか? レーシングタイヤに使われている技術で、市販タイヤにフィードバックされているモノは何ですか?
細谷氏:詳しい話しは企業秘密なのですが、最大のものはトレッドゴムの技術です。トレッドゴムに関しては、レーシングタイヤを開発する中で、レインの状況や、ドライのある温度領域でピークグリップを出すなど技術が培われています。その高いピーク状態を出せる技術があれば、それを市販タイヤでも使えるレンジに広げていくということが可能ですので、市販タイヤのグリップ性能をやエコ性能を向上させることに貢献することが可能です。

 弊社では開発グループの末端は別れていますが、基礎技術の部分、例えばゴムの開発グループなどはつながっており、レーシングタイヤ、市販タイヤに関わりなく技術の交換を行っています。

──具体的にレーシングタイヤから量産タイヤへと展開された技術はありますか?
細谷氏:実際にユーザーの方が気付かれているかどうかは分かりませんが、実は市販タイヤのウエットグリップ性能はここ数年で改善されています。その技術というのはもともとレーシングタイヤ用として開発された技術を市販タイヤ用に転用したものなのです。このように、両方のタイヤ開発は深い部分でつながっているのです。

──最後に今年の目標を教えてください
細谷氏:そうですね、GT500に関しては全部勝つつもりでやっていきます。その上でチャンピオンの奪回です。GT300に関してもチャンピオンと威勢のよいことを言いたいところなんですが、車両規則の変更などもありましたので、まずは確実に1勝を狙っていきたいです。


 このインタビューは第2戦富士500kmレースの決勝前に行ったのだが、その時は晴れていた天気も、決勝直前に突然の雨。それにより、誰よりも早くピットに入った36号車(PETRONAS TOM'S SC430)がトップになり、その後ほかのチームよりもピットイン回数を少なくした12号車(カルソニックIMPUL GT-R)と100号車(RAYBRIG HSV-010)が1-2体制を作った。しかし、残り数周の段階でタイヤを交換していたミシュランユーザーの39号車(DENSO KOBELCO SC430)がトップになるという波乱の展開で、残念ながらブリヂストンのシーズン全勝はすでになくなっている。

 しかし、第3戦ではポールからスタートした18号車(ウイダー HSV-010)が38号車(ZENT CERUMO SC430)の追い上げを振り切り優勝。3位には6号車(ENEOS SUSTINA SC430)が入り、ブリヂストン勢で表彰台を独占した。ポイントランキングでも、38号車が1位、100号車(RAYBRIG HSV-010)が2位につけており、ブリヂストンにとってはまずまずの結果と言えるだろう。ただし、3位にはミシュランユーザーの39号車がつけており、今後の展開次第では昨年のようなことも充分あり得る。これからもGT500のチャンピオン争いからは目が離せない。


(笠原一輝/奥川浩彦/Photo:清宮信志)
2012年 6月 26日