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【SUPER GTインタビュー】ブリヂストン MSタイヤ開発部長 寺田浩司氏に聞く

2016年、2017年シリーズチャンピオンに続き3連覇を目指す

 世界一過酷なタイヤ開発競争が行なわれているレースがSUPER GT。その中でもブリヂストンは上位クラスのGT500クラスで、4シーズンを除きそれ以外の全てでシリーズチャンピオンを獲得している王者として君臨している。近年でも、2016年、2017年と連続でシリーズチャンピオンを獲得しており、2017年は37号車 KeePer TOM'S LC500(2018年シーズンの1号車)がシリーズチャンピオンに輝いた。

 そうしたブリヂストンが2018年シーズンのSUPER GTにどのように取り組んでいくのか、ブリヂストン MSタイヤ開発部長 寺田浩司氏に話を伺ってきたので、その模様をお届けする。

株式会社ブリヂストン MSタイヤ開発部長 寺田浩司氏

2018年SUPER GT ブリヂストンタイヤ装着車両

第2戦富士でGT500クラスのポールポジションを獲得した38号車 ZENT CERUMO LC500(立川祐路/石浦宏明組)
GT500クラス

1号車 KeePer TOM'S LC500(平川亮/ニック・キャシディ組)
6号車 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/フェリックス・ローゼンクヴィスト組)
8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/伊沢拓也組)
12号車 カルソニック IMPUL GT-R(佐々木大樹/ヤン・マーデンボロー組)
17号車 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史組)
36号車 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛組)
38号車 ZENT CERUMO LC500(立川祐路/石浦宏明組)
39号車 DENSO KOBELCO SARD LC500(ヘイキ・コバライネン/小林可夢偉組)
100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン組)

GT300クラス

31号車 TOYOTA PRIUS apr GT(嵯峨宏紀/平手晃平組)
55号車 ARTA BMW M6 GT3(高木真一/ショーン・ウォーキンショー組)
65号車 LEON CVSTOS AMG(黒澤治樹/蒲生尚弥組)
96号車 K-tunes RC F GT3(新田守男/中山雄一組)

第2戦富士でGT300クラスのポールポジションを獲得。決勝も1位となった55号車 ARTA BMW M6 GT3(高木真一/ショーン・ウォーキンショー組)

 2018年のブリヂストンのSUPER GT参戦体制は基本的には2017年シーズンと同様で、GT500クラスはレクサス5台と日産1台、ホンダ3台となっている。GT300クラスも2017年シーズン同様に4台への供給となっており、大きな違いはない。ブリヂストンにとって嬉しい変化は、2017年のミッドシップハンデの改訂やホンダの開発の進展などにより、ホンダのNSX-GTの戦闘力が上がっていることだろう。これにより、レクサスの5台、ホンダの3台の全てが優勝を狙うことが可能になっており、それだけ競合他社のタイヤを履く車両が上位に来ることを防ぐ可能性が高まる。陣営全体で上位を独占といったことを実現するのが競合他社とのコンペティションでは重要になる。

チームやメーカーと一体となった開発が功を奏して、レクサスで2017年のシリーズタイトルを獲得

――2017年シーズンを振り返っていかがだったでしょうか?

寺田氏:GT500クラスは2017年から車両の規定が変わって、レクサス LC500がチャンピオンを獲得することができました。2017年のタイヤの開発を進める中で、レクサスの各チームのエンジニアが協力して開発を進めるという体制を取られたのですが、それにブリヂストンも協力してLC500とのマッチングをよくしていくことができました。こういうのはメーカーさんだけでやってもなかなか上手くいかないので、TRDさんやブリヂストンもそこにコラボレーションして後押しすることで上手くやっていけたと考えています。

 ホンダさんともそういう形でやっていますが、NSX-GTに関してはまだピックアップの課題があり、正直そこに関してはさらなる努力が必要という形になっています。日産さんに関しては星野さんのところのGT-Rに供給していますが、ブリヂストン装着車両が1台のみなのでデータが取りづらい部分があり、苦戦してしまうというのが例年どおりの形になっています。

――GT300はどうだったのでしょうか?

寺田氏:GT300に関しては、ARTAさんとaprさん向けだけにやっていたのですが、ARTAさんがFIA-GT3のBMW M6を導入してからその知見がたまり、RC FとAMGについてもサポートができるようになり、2017年はRC FやAMGに関してもよい成績を収めることができました。

 GT300は今は無交換というのがトレンドになっています。2016年まで2台だけをやってるときにはあまり意識していなかったのですが、今はドライバーから言われるようになって無交換を意識しています。課題は耐久性になりますが、GT500クラスでタイヤを壊してしまった経験から学んだことなどをフィードバックして、GT500レベルの高いモノを導入することで対処できていると考えています。

GT500クラスやGT300クラスとさまざまなチームにタイヤを供給するブリヂストン

――2018年の開幕戦では、17号車 KEIHIN NSX-GTが見事優勝を飾りました。そうした開幕戦を振り返っていかがでしょうか?

寺田氏:岡山のレースに関しては、何よりもホンダさんとの活動が結果に結びついたということが嬉しかったです。2017年レクサスさんと一体になって開発を行ないそれが功を奏したというお話をさせていただきましたが、もちろんホンダさんとも同じような活動を行なっていましたが、なかなかそれがそれが結果につながっていない側面があったので。

――NSX-GTのピックアップの問題は解決したのでしょうか?

寺田氏:ピックアップに関しては、(なぜNSX-GTでだけ発生するのかは)正直タイヤメーカーからは分かっていません。ただ、付きやすいゴム、付きにくいゴムみたいのはあります。今のレーシングタイヤはハイグリップなので付いてしまう、そういう側面はあります。

ピックアップとはコース上に落ちているゴムの塊がタイヤに付着することで、タイヤ本来のグリップ力を発揮できなくなるというもの

タイヤの耐久性を重視した開発を行なってきて、それがチームのセッティングの幅を広げる

――2017年シーズンから2018年シーズンに向けて、開発で訴求してきたポイントは?

寺田氏:ここ最近はタイヤの耐久性を上げるべく努力してきて、それができている部分があります。一昨年のここのレース(2016年の富士500km)ではGT-Rのタイヤが壊れてしまうトラブルがあり、昨年の鈴鹿1000kmでもNSX-GTでやはり壊れてしまうというトラブルが発生してしまいました。GT-Rで発生した問題で対策していたのですが、タイヤの開発というのは追いかけっこという側面があって、(一方を直すと)違うところにストレスがかかるようになってしまって、トラブルの繰り返しになってしまいました。

 そこで、2017年の後半やマレーシアでのテストでは耐久性を上げていくことに集中して開発を行なってきました。タイヤが壊れてしまうとレースはできないし、安全性の観点からも問題があります。チャンピオンシップを考えると、ノーポイントが一番最悪ですので。

――SUPER GTのタイヤ開発競争はかなり高いレベルで安定して、重箱の隅をつつくみたいな競争になってきているのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

寺田氏:そうだと思います。突き詰めていくと、競合メーカーが同じレベルに達してしまい、技術がサチってしまいます。そこでもうちょっとイノベーティブになる必要があるのではないかと考えています。確か、2年前だったかに新しいタイヤを考えているというお話をしたことがあったと思うのですが、先ほどお話ししたタイヤが壊れてしまうトラブルが発生したためにそのプロジェクトはペンディングになっています。ただ、そのプロジェクトは再スタートしていますので、いつか成果をお見せできるのではないかと考えています。

 技術的には耐久性が上がることで、内圧の自由度が上がったりしてセッティングの幅が広くなります。その結果としてトータルでラップタイムが上がってくるので、引き続きそうしたところが開発では重要になってくると考えています。

――GT300に関してはいかがでしょうか?

寺田氏:GT300に関しては先ほどお話ししたとおり、GT500クラスほど先端な開発をしているわけではありません。しかし、GT500クラスで培った技術、形状だったり、構造だったりをフィードバックしています。GT500クラスに導入してある程度実績を得たものを、テストして導入しています。

――最後に2018年シーズンの目標をお願いします

寺田氏:GT500クラスに関しては全戦優勝です、そして当然チャンピオン。GT300に関してはチャンピオンを獲ってもらいたいです。強いチームばかりなので、取り合いという状況になるので、どのレースでもどこかのチームが優勝争いに絡む、そういうレースを期待したいです。


 このインタビューの直後に行なわれた第2戦富士の決勝レース(別記事参照)では、39号車 DENSO KOBELCO SARD LC500が第1スティントと第2スティントでトップを走っていたものの、第3スティントで逆転されて2位に終わってしまい、残念ながら全戦優勝はできなくなってしまった。しかし、開幕戦では17号車 KEIHIN NSX-GTが優勝して4位までをブリヂストンが独占したり、第2戦に関しても優勝こそ他メーカーに持っていかれたが、2位から9位までは全部ブリヂストン装着車になるなど、高いパフォーマンスを発揮している。

 2017年までのレクサス勢のみ期待できるという状況から、2018年はNSX-GTのパフォーマンスが上がってきて、岡山のレースのように上位に来ることができているのはブリヂストンにとってはよい傾向と言える。レクサス勢と併せて上位に入ることで結果的に競合の装着車を下位に押さえ込むことが可能になるだけに、今後のレースでNSX-GT勢の活躍にも要期待だ。

第2戦富士の決勝は39号車 DENSO KOBELCO SARD LC500が2位に