夏タイヤとスタッドレスタイヤをスケートリンクで乗り比べてみた
ブリヂストン「スタッドレスタイヤ勉強会」

東大和スケートセンターで、夏タイヤ装着車とスタッドレスタイヤ装着車を乗り比べ。モータージャーナリストの岡本幸一郎氏による、インプレッションをお届けする

2011年11月4日開催



 ブリヂストンは11月4日、報道陣向けに「スタッドレスタイヤ勉強会」を開催した。この勉強会は、夏タイヤとスタッドレスタイヤ装着車を氷結路面で乗り比べてもらい、その違いを改めて体感してもらうというもの。

 氷結路面には、東京都東大和市にあるBIGBOX東大和の「東大和スケートセンター」を設定。マツダ「デミオ」に、夏タイヤ「SNEAKER SNK2 ecopia(スニーカー エスエヌケー ツー エコピア)」を装着した車両と、スタッドレスタイヤは「BLIZZAK REVO GZ(ブリザック レボ ジーゼット)」装着した車両で、比較を行った。

 この勉強会では、前半がスタッドレスタイヤの試乗説明、後半が比較試乗会となっており、比較試乗についてはモータージャーナリスト 岡本幸一郎氏によるインプレッションをお届けする。


ブリヂストン 消費財タイヤマーケティング部長 鈴木将人氏

ハイブリッド車に適しているREVO GZ
 ブリヂストン 消費財タイヤマーケティング部長 鈴木将人氏によると、非降雪地区でもスタッドレスタイヤの装着率は年々上昇しており、2011年では27%。以前はスキーやスノーボードなどのウインターレジャーのために購入する人が多くを占めていたが、今では居住エリアの降雪や、路面凍結に備えて購入している人が38%になると言う。

 非降雪地区で重視されるのは、やはり「氷雪上性能」。非降雪地区では、雪道を走る機会が少ないにもかかわらず、路面凍結などがあるため、氷雪上性能が重視されているとのこと。また、冬期の首都圏での氷点下日数についても、近年増加しているとのデータが気象庁より発表されており、さいたまでは、1月は31日中28日が氷点下を記録している。

 そうした氷結路面で優れた性能を持つタイヤはスタッドレスタイヤとなり、各社が最新の技術を盛り込んだ製品で激しい販売合戦を繰り広げている。

非降雪地区のスタッドレスタイヤ保有率非降雪地区のニーズは、ウインターレジャー用途が減少傾向にあり、安全志向が強まっている非降雪地区で重視されるのは、氷雪上性能
氷雪上性能を重視しているが、雪道走行日数は少ない冬期に起こりやすい路面凍結の時間と場所気象庁のデータによると、路面凍結日数は増えている

 ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAKシリーズ」のコアテクノロジーとなるのが、微細な気泡を持つ「発泡ゴム」。最新のREVO GZでは、この発泡ゴムも新素材「コンティニューミクロパウダー」を配合した「レボ発泡ゴムGZ」となり、すべりの原因とされる氷上の水の排除性能を向上させ、旧製品である「REVO 2」に比べグリップ力をアップしている。

 また、この発泡ゴムの特徴として、柔らかなゴム構造を実現できるため、オイルなどの添加物によってゴムを柔らかくする方法に比べ、温度が低下してもしなやかさを確保できると言う。

ブリヂストン スタッドレスタイヤ「BLIZZAK」の特徴発泡ゴムによって、ゴムのしなやかさを確保している
構造からしなやかさを確保しているため、効きが長持ちと言う雪国の一般ドライバーの支持も高い
BLIZZAKシリーズのフラッグシップとなるREVO GZ氷雪路性能だけでなく、ドライ路面性能を改善している

 今回、鈴木部長が強く語っていたのが、ハイブリッド車とのマッチングのよさ。よく知られているように、ハイブリッド車は減速時にモーターを使ってエネルギー回生を行い、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する。スリップが起きた場合、安全面の問題もあるが、効率的なエネルギー回生が行えなくなり、結果として電気エネルギーの回収率が落ち、燃費に影響する。また、ハイブリッド車では発進時にモーターを使用するため、ガソリンエンジン車より立ち上がりトルクが強くなりがち。そのため氷雪路で必要な“じわっと発進”が苦手な傾向があり、旧製品であるREVO 2よりグリップ力の強いREVO GZが適していると語った。

プリウスがベストセラーカーとなるなど、ハイブリッド車が急増しているハイブリッド車に適しているのは、最新のREVO GZREVO GZは、旧製品であるREVO 2に比べ、優れている項目が多い

夏タイヤとスタッドレスタイヤを各種ツールで比較
 夏タイヤとスタッドレスタイヤとの比較は、東大和スケートセンターのスケートリンクで行われた。会場に用意されていたのは、前述のデミオ2台に加え、カンジキ、ソリ、3輪車で、さまざまなツールを使い、夏タイヤとスタッドレスタイヤ「REVO GZ」の違いを体感していく。また、左側にREVO GZを、右側に夏タイヤを装着した車両が用意され、ブレーキング時の姿勢変化のデモを行った。以下に岡本幸一郎氏によるインプレッションを掲載する。


まずは、クルマで乗り比べ
 ブリヂストンでは、販売店等を対象に、主に新商品の発売時に同様の勉強会を行っており、その際は銘柄の異なるスタッドレスタイヤ同士の性能を比較している。

 しかし今回は、スタッドレスタイヤと夏タイヤでは、氷上でどのような違いがあるのかということを体感するのが目的。これから冬場を迎えるにあたり、より安全に、安心してドライブするために、いかにスタッドレスタイヤが欠かせないものであるかということを、あらためて我々に知ってもらい、その重要性を伝えてほしいというのが主旨である。

 ちなみに車両はデミオで、タイヤの銘柄は先述のように、スタッドレスタイヤが最新製品の「ブリザックREVO GZ」、夏タイヤが「スニーカーSNK2 ecopia」。サイズはともに175/65 R14となっている。

 なお、夏タイヤの車両も、大きく滑りすぎないようとの配慮と、駆動輪に履かせれば差は十分に体感できるとのことから、前輪のみ夏タイヤとし、後輪にはスタッドレスタイヤを装着していた。

4輪ともスタッドレスタイヤを履く、シルバーのデミオ駆動輪である前輪もスタッドレスタイヤ
もう1台のデミオは、駆動輪である前輪に夏タイヤを装着するちなみに、デミオのマフラーには、リンクを汚さないように特殊な装置を付加してある。ブリヂストンのタイヤ開発部隊が作ったものだと言う

 まずはパイロンで設定された8の字を描くコースで、テストドライバーによるデモ走行を見学。両タイヤで比べると、スタッドレスよりも夏タイヤでは全体的に滑っているのが目で見ても明らかだった。

 見学後、まずは夏タイヤから試乗。発進ではアクセルを踏んでも前に進まず、ホイールスピンが続く。夏タイヤでも多少は抵抗があるので、やがてなんとか前に進み出すが、その先のターンでは、わずか5km/hほどの速度でも、ステアリングを切っても滑って、とても反応が鈍い。

 次のターンで、試しにわざとアクセルを多めに踏んでみたところ、少し遅れて速度は上がるが、ステアリングを目一杯切っているのにまったく曲がらなかった。フルブレーキングでも、遅い速度にもかかわらず、ずっとABSが介入してなかなか止まらない。当たり前だが、これは危ない! 同じような状況下の公道で運転などしようものなら、確実に事故につながるはずだ。

 続いて、スタッドレスタイヤのREVO GZ装着車に乗り換えて同じコースへ。発進からして違い、わずかに滑っただけで前に進んでいく。先ほどよりも加速するので、車速にして10km/h程度でターンしても、ステアリング操作にあまり遅れることなくヨーが発生してクルマが曲がる。

 8の字の右ターンのところで、先ほどちょっとアクセルを強めに踏んだらドーンと前が滑ってしまった場所でも、少し膨らんだラインになるものの、ちゃんと曲がることができた。フルブレーキング手前の加速でも、夏タイヤでは滑って加速しなかったところ、こちらはグリップするので加速する。

スケートリンクでの乗り比べを行う。奥のパイロン群と、手前のパイロン群を使い、8の字を描くまずは、夏タイヤを駆動輪に装着した車両から試乗。なかなかインに付くのが難しい4輪スタッドレス車は、容易に8の字を描くことができた

 その後はフルブレーキング。ABSの作動音もずいぶん違う。最初のデモ走行でもスタッドレスタイヤではところどこでタイヤが瞬間的に止まっているように見えたのだが、感覚としてはまさにそんな感じ。これは、夏タイヤよりもグリップしている証拠と言える。

 進入速度は、スタッドレスタイヤ装着車が15km/h程度で、先ほどの夏タイヤでは10km/hを少し下回っていたにもかかわらず、停止距離はほぼ同じになった。スタッドレスタイヤのほうが、よりしっかり加速できて、しっかり止まれるわけだ。

 むろん、これほどツルツルの路面ともなれば、スタッドレスだって滑るので、ホイールスピンもすればアンダーステアも出るが、その度合いが夏タイヤと大きく違う。おかげで全体的にスムーズに走ることができた。

 ごく低い車速でもこれほど違うのだから、公道での現実的な車速になると、運動エネルギーは車速の自乗に比例して大きくなるため、その差がずっと大きなものになることは確実だ。

ほぼ同速度での制動距離の違い。左が前輪夏タイヤ、後輪スタッドレスタイヤ車、右が4輪スタッドレスタイヤ車。単制動では、前輪のグリップが支配的になるため、10km/hちょっとの速度でも1台分の距離の差が見られた

ブリヂストンのスタッフによる走行デモ。向かって右側にBLIZZAK REVO GZを、向かって左側に夏タイヤを装着。REVO GZのほうがグリップがよいため、ブレーキング時に車体が向かって右側に回り始める

違いが分かりやすかった3輪車
 今回は、ツールを駆使して、スタッドレスの性能を体感するというユニークな試みが行なわれた。

 まずは、左足にスタッドレスタイヤ、右足に夏タイヤのトレッドゴムを貼り付けたカンジキを履いて氷上を歩くという「カンジキ・ミュー」。筆者は豪雪地として知られる富山県の出身なので、雪道を歩くのは慣れているほうだが、だからこそなおのことスタッドレスタイヤのグリップ感が頼もしく感じられた。BLIZZAKの発泡ゴム技術を応用した歩行者向けのスノーシューズがあってもよいのでは?と感じたほどだ。

スケートリンク上で転ぶと危険なため、ヘルメットを装着して体感左が夏タイヤカンジキ、右がスタッドレスタイヤカンジキ。特別に製作したものいよいよ挑戦
スタッドレスカンジキからは、頼もしいグリップ感が伝わってきた。雪国生まれのため、氷雪路は得意です

 「滑り台・ミュー」では、両タイヤのトレッドゴムを底面に貼り付けたソリを滑り台から落として、滑る距離を比較。短距離で早く止まったほうがよりグリップするわけで、同じことは氷上での制動性能と考えてよいのだが、その差は歴然だ。

 また、このソリに乗って、筆者が自ら壁を蹴って、どこまで滑っていくかというのも試したのだが、夏タイヤでは壁から5.4m滑ったところ、スタッドレスでは2.7mと、まるで示し合わせたかのように夏タイヤはピッタリ2倍の距離を滑った。ちなみにソリの底面に何も付けない状態で同じことをやると、数十メートルも滑ってしまうくらいの滑りやすい路面である。

滑り台・ミューでは、ソリの裏にトレッドゴムを貼り付け、違いを確認する緑色の重りを乗せて滑り台を滑らせた場合、この程度の差が現れた。短い距離で止まっているのが、スタッドレスタイヤのソリ背中でスタッドレスタイヤの性能を体感してみる。同じような力で壁を蹴ってみた
岡本発進します!!夏タイヤのソリの場合スタッドレスタイヤのソリの場合。ほぼ半分の距離で止まった

 さらに、両タイヤを履かせた特製3輪車にも試乗したところ、これが非常に分かりやすかった。夏タイヤでは発進からして滑って前に進まない。ペダルを漕ぐスピードをある程度ゆるめると、ゆるゆると前に進み出す。走り出したところで、スラロームを試そうとハンドルを切っても、最初は何も反応せずにまっすぐ進み、速度を落としたところでようやくヨーが発生するという感じ。夏タイヤでも多少は抵抗があるのでこうなるわけだが、意思とはまったく違う動きをしてしまう。

 ところがスタッドレスタイヤでは、ちょっと滑るだけで前に進むし、ハンドル操作にも反応する。ひとたびクルマに乗ってしまうと、このあたりの感覚が鈍ってしまい、少々の雪道であれば夏タイヤでも走れそうな気がしてしまうものだが、実際には、今回のプログラムで体験したものと同じことが、タイヤと路面の接する部分で起こっているということだ。いかに夏タイヤで雪道を走るのが危険であるかということを痛感させられた次第である。ちょっとでも雪道や凍結路面を走る機会のある人は、必ずスタッドレスを履くべきだし、夏タイヤを履いているときに雪が降ってしまったら、絶対に無理せずクルマの運転は控えるべきと言える。両者の差は多くの人が想像している以上に大きいものだし、そのことを改めて思い知った貴重な機会だった。

特製3輪車。タイヤのグリップ性能がよく分かるツール夏タイヤのトレッドパターンスタッドレスタイヤのトレッドパターン
スタッドレス3輪車で体感中
顕微鏡による、ゴムの確認も行われていた。こちらは夏タイヤ。200倍に拡大REVO GZの拡大映像。黒っぽく見えるのが、REVO発泡ゴムGZによる、細かい穴がよく分かる


 「スタッドレスタイヤ勉強会」は、主に夏タイヤとスタッドレスタイヤの違いを、改めて感じてもらうというものであり、岡本氏のインプレッションにもあるとおり、その差は圧倒的なものだった。

 REVO GZの技術解説や雪道でのレビューに関しては「ブリヂストンのスタッドレスタイヤ『BLIZZAK REVO GZ』レビュー」を、ドライ路面における走行瀬能については、「スタッドレスタイヤ『BLIZZAK REVO GZ』レビュー【ドライ編】」を、参考にしていただきたい。


(編集部:谷川 潔/岡本幸一郎)
2011年 11月 11日