車載マルチメディアネットワーク「MOST」最新版が次期「アウディA3」に
MOST標準化団体がアジア会議を東京で開催

MOSTCOのティール アドミニストレーター

2011年11月17日開催



 車載マルチメディアネットワーク「MOST」の標準化団体であるMOSTコーポレーション(MOSTCO)は17日、都内で「第12回MOSTインターコネクティビティ・アジア会議」を開催、報道関係者向けにMOSTの現状と今後を説明した。

113モデルが採用。最新版は次期A3が採用
 MOSTは「Media Oriented Systems Transport」の略で、車載インフォテインメントシステムに特化した車載ネットワーク規格となっている。車載ネットワークにはCAN、LIN、FrexRayなどもあるが、これらが車体制御に使われるのに対し、MOSTは車載インフォテインメントシステム用に作られており、オーディオやビデオなどのデータ転送、制御を主に受け持つ。

 MOSTCOは1998年に設立され、13年にわたって標準化作業を続けてきた。当初はBMW、ダイムラー、アウディといった欧州高級車メーカーが採用しており、2000年にBMW 7シリーズが初めてMOSTを採用した。

 現在では16の自動車メーカーと62のサプライヤー、合計78社が参加。うち欧州の企業が55%、26%がアジア/オセアニア、19%が北米となっている。

MOST参加メーカー参加メーカーの55%が欧州企業フォルクスワーゲンはグループ全体でMOST150を採用する
MOST採用モデル。日本ではトヨタと三菱が採用している

 MOSTを採用しているモデルは現在のところ16社113モデル。BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、ボルボ、ジャガー、ランドローバーなどの欧州勢のほか、アジアではトヨタ、ヒュンダイなどが採用。トヨタではレクサスブランド以外にも、プリウス、エスティマ、アルファード/ヴェルファイア、クラウン、ランドクルーザー、オーリスなどが採用している。

 この1年間で発売されたMOST採用車はアウディ「A6」「Q3」、ベントレー「ミュルザンヌ」、BMW「1シリーズ」「6シリーズ」、MINI「クーペ」、レクサス「CT200h」、メルセデス・ベンツ「Bクラス」「Cクラス」「CLSクラス」「Mクラス」「SLKクラス」、ボルボ「V60」となっている。

 現在は高級車を中心に採用されているが、今後はより価格の低いモデルへの展開が予想されている。とくにフォルクスワーゲングループは「トゥアレグ」への採用を皮切りに、配下の全ブランドで最新規格「MOST150」を採用することを表明しており、世界初のMOST150採用モデルは、2012年に発売されるアウディの次期A3であることも明らかにされている。

 また北米ではGMがキャディラックブランドで採用することを明らかにしている。

イーサネットをサポート
 そのMOST150だが、「MOST25」「MOST50」に続く第3世代の規格となっている。

 その特徴は、帯域幅が150Mbpsに広がったこと、イーサネットに対応したことが挙げられる。前者はより高解像度のオーディオやビデオデータを転送できるようになることを意味する。

 後者のイーサネットだが、MOST150はOSIモデルで言う「データリンク層」と「物理層」を担い、それ以上の層(TCP/IPなど)からはMOST150ネットワークがイーサネットに見えるようになっている。このため、既存のUPnPやDLNAといったマルチメディア規格や、イーサネット対応アプリケーションなどがそのまま使える。

 このため、コスト削減がしやすいほか、近年注目されているような車の外(インターネットなど)とのネットワークにも、接続しやすい。

 また、物理層もブラスチックまたはグラスの光ファイバー、同軸ケーブル、ツイストペアケーブルなどが使える。自動車ではドアミラーなど車外への配線に高い耐候性が要求されるため、プラスチック光ファイバーが使えないことがあるが、こうした問題にも対応できる。

MOST150は150Mbpsの帯域幅を持ち、イーサネットをサポートする
ネットワーク層より上のアプリケーションからは、MOSTはイーサネットに見える
MOSTでは、ストリーミングデータ、パケットデータ、制御データの入る位置が決まっている

マルチメディアに特化した仕組みを備える
 “外”からはイーサネットに見えるMOST150ネットワークだが、内部はオーディオやビデオのデータを高品質に転送するための仕組みが備えられている。

 MOST150ネットワークは機器と機器の間にリング状のネットワークを作る。これをMOSTCOのアドミニストレーター(取りまとめ役)であるクリスチャン・ティール氏は「山手線タイプ・ネットワーク」と呼ぶ。

 「しかし山手線と違うところがあって、それは座席が“指定席”になっていること。ストリーミングデータ、パケットデータ、制御データが“座る席”が決まっており、予め席を“予約”して確保することもできる」。こうすることで大きなデータがコリジョン(衝突)を起こすことなく、高品質なデータを高速に転送できる。

 ちなみにリング状になっているのは1つの機器と1つの機器の間であって、ネットワーク全体のトポロジーはリングだけでなくスター、ツリー、デイジーチェーンもサポートされている。

今後はドライバーアシスタンスも視野に
 2012年に採用車が市販されるMOST150だが、MOSTCOはその次の世代も見据えている。

 現在の車載インフォテインメントシステムには、HDビデオへの対応、携帯電話/iPodなどの携帯メディアプレーヤー/iPadなどのタブレット端末といったポータブルデバイスのインテグレーション、車外(インターネットなど)と車内の接続といった要求がある。

 これらのため、次世代では1桁以上のパフォーマンスアップを狙うが、2012年は高速になったネットワークがどのように使われ、どういった要求が出てくるかを議論する。

 また、エレクトロニクスなどによるドライバーアシスタンスの領域も視野に入れる。具体的にはカメラやレーダーなどのセンサーの情報を扱えるようにする。そうなると車体制御系ネットワークとの関わりが出てくるが、MOSTはあくまでインフォテインメントシステム用ネットワークとして運用し、車体制御系へのゲートウェイは整備するが、車体制御そのものには踏み込まないと言う。

会場に展示されていたデモの1つ。卓上左のUPnPサーバー内の映像コンテンツがMOST150ネットワークを経由して右端の無線ルーターに流れ、そのルーターに無線接続されているiPad(画面左端)でコンテンツが再生されているところ。これらはすべてイーサネットとTCP/IP対応のアプリケーションで実現されているもう1つのデモは、画面左のインターネットに接続しているPCでWebサイトをブラウズしているデータが画面右のPCのディスプレイに表示され、画面右のPC内のMPEG映像コンテンツが左のPCのディスプレイで再生されているところ。MPEGデータ用に専用のアイソクロナスチャンネルが用意されており、異なるデータが同時にMOST150ネットワーク内を流れるこのデモでは、画面手前のPCで仮想CDプレーヤーが動作しており、それを右上にあるタッチパネルディスプレイ(カーナビのディスプレイを想定)でコントロールしている。MOST150はイーサネットに見えるため、実際にCDプレーヤーがなくても仮想デバイスで代替できる。また、右奥の青いルーターにはPCの右にあるスマートフォンが無線接続されており、こちらからもタッチパネルディスプレイと同様のインターフェースで仮想CDプレーヤーをコントロールできる。これは、後席からインフォテインメントシステムをスマートフォンでコントロールすることを想定している

(編集部:田中真一郎)
2011年 11月 18日