トヨタ、“ドライバーと語り合い、ともに進化できる”FRスポーツ「86」発表会 サプライズゲストに元マツダの貴島孝雄氏登場 |
トヨタ自動車は2月2日、同日発表した小型FRスポーツカー「86(ハチロク)」のプレス向けイベント「86 Opening Gala Party」を、幕張メッセイベントホールで開催した。
車両の詳細については関連記事に詳しいが、86はスバル(富士重工業)製の水平対向エンジンを搭載した後輪駆動モデルで、1983年にデビューした5代目カローラレビン/スプリンタートレノ、いわゆる「AE86」の現代版にあたる。
FRならではの操舵感を得るための前後重量配分53:47、直噴技術「D-4S」に加え圧縮比を12.5と高めに設定することで、幅広い回転域で高出力&大トルクを得られる水平対向4気筒 2.0リッターエンジン、低重心を徹底的に追求したパワーユニットをフロントミッドシップ搭載するパッケージング、400mmというトヨタ車でもっとも低いヒップポイント、吸気音をコクピットにダイレクトに導入する吸気サウンドデバイス「サウンドクリエーター」など、スポーツカーとしての魅力が詰まった1台に仕上がっている。
ちなみに、同社の代表的なスポーツカーとして「トヨタ・スポーツ800」「トヨタ2000GT」「セリカ」「MR2」「スープラ」などがあり、2007年の「MR-S」の生産終了とともにスポーツカーは消滅していたが、86の発表により5年振りのスポーツカー復活となる。
4,240×1,775×1,300mm(全長×全幅×全高)とコンパクトなボディーに、最高出力147kW(200PS)/7,000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgm)/6,400-6,600rpmを発生する水平対向4気筒 2.0リッターエンジンを搭載。「RC」は6速MTのみ、「G」「GT」「GT“Limited”」はそれぞれ6速MTと6速ATをラインアップする |
GTのインテリア | ||
会場内にはRCなど標準車のほか、TRDバージョンの86も展示していた |
豊田社長が実際に試乗したモデル。Morizou(豊田氏のレーサーネーム)としてダートや雪上でドリフトするムービーを紹介していた |
■86にまつわる7つのアクションを実施
イベントでは、豊田章男社長が86に乗って登場。冒頭、「ここ十数年の間に、トヨタのスポーツカーは次々とドロップ。私たちはそのことを真摯に反省し、86の開発を進めてきた」「86はドライバーと語り合い、ともに進化できるクルマに仕上がった。クルマ好きの皆様と一緒に86を楽しみたいし、86もその楽しみ方もクルマ好きの皆様に育てていただくものだと思っている」と述べた。
その豊田社長が言う「楽しみ方」について、開発指揮をとった製品企画本部 製品企画 チーフエンジニアの多田哲哉氏、トヨタマーケティングジャパン スポーツカーカルチャー推進グループ マーケティングディレクターの喜馬克治氏から説明が行われた。
86に乗って豊田社長が登場 | ||
トヨタからスポーツカーが消滅したことについて、反省の弁を述べていた | MCは赤坂泰彦氏が務めた |
製品企画本部 製品企画 チーフエンジニア 多田哲哉氏 | トヨタマーケティングジャパン スポーツカーカルチャー推進グループ マーケティングディレクター 喜馬克治氏 |
同社は、スポーツカーカルチャーを再び日本に浸透させるべく、7つのアクションを実施する。具体的な7つの構想は、「峠カルチャー」「フォトカルチャー」「サーキットカルチャー」「ネットカルチャー」「カスタマイズカルチャー」「コラボレーションカルチャー」「ショップカルチャー」となる。
「峠カルチャー」では「86峠セレクション」と称し、86で走りたい日本中の峠を86オーナーやスポーツカーファンとともにセレクトする。86コミュニティ上で募集を行い、評判の高い86個所の峠・ドライブスポットを紹介する。Facebookのチェックイン機能を使い、こうした86の峠を制覇していく「リッジクエスト(仮称)」と呼ばれるサービスも展開すると言う。また、設置個所は未定なものの、峠のラウンジ「86ピットハウス(仮称)」の展開も行う予定。
評判の高い86個所の峠・ドライブスポットを紹介 |
「フォトカルチャー」は、86が「走り映え」するポイントに撮影システムを設置して、走行する86を撮影するサービスを行うというもの。撮影画像を楽しめるサービスを、現在開発中と言う。
「サーキットカルチャー」では、「スクールプログラム」「86ワンメイクレース」を用意。スクールプログラムでは、サーキット体験やドライビングテクニックを学べるほか、安全走行や大人の運転マナーをレクチャーすることで、スポーツカーをより「上質なカルチャー」に底上げするプロジェクトとなる。また、86ワンメイクレースは86オーナーが気軽に参加できるイベントで、ワンメイクレース車両での走行を楽しむことができる。
「ネットカルチャー」としては、86公式サイト(http://toyota.jp/86/)などにオーナー同士が86のカスタマイズやドライブポイントの情報交換など、「大人のクルマ遊び」を共有できるファンサイトを用意する。また、86での走行データを採取する装置を開発し、走行データをPlayStation3のゲームソフト「グランツーリスモ5」につなげてCGでリアルに再現するサービスの展開も行う。
全国の販売店283店舗に専門スタッフが常駐する「AREA 86」を設置 |
「カスタマイズカルチャー」では、かつての「AE86」と同じようにカスタムする喜びをサポートするべく、カスタムを前提としたモデル「RC」グレードを用意するほか、トヨタの販売店でトヨタ純正用品やTRD、モデリスタのカスタムパーツの販売を実施する。
「コラボレーションカルチャー」では、アパレルブランド「PORTER」「EDWIN」、工具メーカー「KTC」、玩具メーカー「トミカ」「KYOSHO」など、各分野のブランドとコラボレーションしてさまざまなドライビングギヤを共同開発していく。
「ショップカルチャー」では、全国の販売店283店舗に専門スタッフが常駐する「AREA 86」を設置する。AREA 86では86用のパーツやグッズのほか、サーキットやイベント情報なども発信する。
会場内には各分野のブランドとコラボレーションしたさまざまな商品を展示していた |
レーシングドライバーを招いてのトークショー |
■サプライズゲストとして元マツダの貴島孝雄氏が登場
イベントでは、豊田社長、多田氏、喜馬氏とともにレーシングドライバーの影山正彦選手、飯田章選手、脇阪寿一選手を交えたトークセッションも行われ、脇阪選手は「この間86に乗ったが、パワステの味付け、ブレーキング、エンジンレスポンス、MTもそうだがATのパドルシフトのダイレクトさは、レーシングドライバーをも満足させられるクルマになっていた。このクルマで色々なことを学べる1つの材料になるのではないか」と述べるなど、それぞれから86の魅力が語られた。
そして、サプライズゲストとしてF1ドライバーの小林可夢偉選手がビデオで登場。小林選手は86に乗った印象について「86は誰が乗っても楽しめるクルマだと思うし、運転する技術を練習するクルマとしては非常によいと思いました。これから若い人たちから年配の方にかけて、昔の本当のクルマ好きがいてクルマがブームだった時代が戻ってきてくれたら嬉しいし、長い将来的なビジョンで取り組んでいくことでクルマのブーム、クルマの夢が広がっていくと思うので、ぜひ(86のような)こういうクルマ、夢のあるクルマを作り続けてもらいたいと思います」と述べた。
影山正彦選手 | 飯田章選手 | 脇阪寿一選手 |
F1ドライバーの小林可夢偉選手がビデオ出演した |
元マツダ ロードスター・RX-7開発主査で現在は山口東京理科大学工学部機械工学科教授の貴島孝雄氏 |
さらにもう1人のサプライズゲストとして、元マツダ ロードスター・RX-7開発主査で現在は山口東京理科大学工学部機械工学科教授の貴島孝雄氏が登場した。
貴島氏がトヨタのイベントに登場するのは少し違和感を感じるが、その理由を多田氏との関係について言及。貴島氏がまだマツダに在籍していた2007年に、「スポーツカーについて話をお伺いしたい」と多田氏から連絡があったと言う。その際、多田氏から「スポーツカーの経営承認がなかなか降りない。マツダさんはどうされているか」と聞かれたそうで、そのとき貴島氏は「スポーツカー(の経営承認)は、マツダにおいてはカーメーカーのプライドとエンジニアのパッションで決める。収益はそのあと」と回答したと言う。それがきっかけとなり、同イベントに招待されたそうだ。
また、実際に86に乗った感想について「多田さんのパッションがあちこちから私に訴えかけてきた。私はスポーツカー=FRだと今でも思っているし、楽しいのはFR」と述べるとともに、「日本はスポーツカーを楽しむカルチャーが、まだまだ欧米より劣っているのではないかと思っている。(86は)トヨタさんの素晴らしい提案。カーメーカーの壁を越えてスポーツカーを楽しむカルチャーを広めようと仰っていることに、ここにいる皆さんも(賛同し)一緒になって広めていこうではありませんか。これは多分、日本を元気にするのではないか」とし、自身のスポーツカーへの愛着や、86の魅力、そしてトヨタのスポーツカーカルチャーを浸透させる取り組みについて賛同する意を述べた。
なお、今回のイベントはプレス向けではあるものの、事前に一般参加者86名を特設Webサイトで募集しており、そのうち約30名程度の方が駐車場に用意された特設コースで、86の同乗走行を楽しんでいた。
(編集部:小林 隆)
2012年 2月 3日