長期レビュー
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その4:ヘッドアップディスプレイ、取り付け完了!
(2013/4/12 00:00)
先日、ポニョ嫁の妹が、家族と共に来宅した。旦那さんは普通にクルマ好きだったので、ハチロクに興味津々。その子供もスポーツカーに興味を持たないはずもない。そこでさっそく旦那さんを助手席に、子供を後部座席に乗せてちょっとドライブ。大人だときつめなハチロクの後部座席だが、普通体形の11歳ぐらいの子供ならいい感じで収まる。
嬉しいことに2人とも大喜び。旦那さんはハチロクの存在を知っている程度だったので、「エンジンは何ccか?」とか、「ターボは搭載していないのか?」とか質問してくる。ハチロクは2.0リッターで、ターボは搭載していませんよと説明すると、驚いたような顔をしていた。私も少し張り切っていたので、発進時からアクセルを踏み込んだのもあったのだろう。調子に乗ってVSC SPORTモードに切り替え、ドカンと出たのはちょっとやり過ぎだったかも知れないが。
考えてみれば確かにハチロクはノンターボ、2.0リッターの水平対向4気筒直噴DOHCエンジンである。出力は147kW、平たく言って200PSを7000rpmで発揮する。なかなかの出力だとは思うが、スポーツカーとして考えれば、驚くほどではないだろう。だが私自身、常々ハチロクはパワーのあるクルマだなと思っていたのだ。
私の貧弱なクルマ遍歴で言うと、もっともパワーがあったのはドッカンターボのカルディナGT-T、2.0リッターの直4ターボで260PSだった。次がフルタイム四駆のマークIIブリット2.5iR-S Four、2.5リッターの直6自然吸気エンジン、196PSである。ハチロクと比較してスペック的に近いのはマークIIブリットだが、脳内の記憶と比較しても、ハチロクのほうがパワフルに感じる。
もちろんカルディナGT-Tのドッカンパワーは凄かった。しかし、出だしのトルク感というか粘りというか、力強さはハチロクが一番エキサイティングだと感じる(記憶があやふやという話もあるのだが)。その理由をあれこれ考えてみたのだが、友人の言っていることが一番正解に近いのかも知れない。ある友人曰く「味付けだよ、味付け!」だそうだ。シンプルで大ざっぱな話だが、それだけに説得力がある。
要するにハチロクの制御は「スポーツカーらしさ、味付け」が最優先なのだ。もちろん「スポーツカーらしさ」はエクステリアやインテリアのデザイン、そしてサスペンションのセッティングにも反映されている。ハチロクはトータルパッケージとしてスポーツカーなのであり、一部を切り出して他者と比較してもあまり意味は無い(出力だけを比較すれば、ハチロクより上のクルマはいくらでもあるのだから)。
まあ、難しいことは追々考えていくとして、今はハチロクの運転を楽しむことに徹したい。意識を集中して追求するというやり方も理解できるが、私にとってハチロクは普段の足。楽しんで運転してナンボの代物なのである。
やってしもうた、やってしもうた……
ピッカピカの新車、まあ買ってから1年以内のクルマにキズができようものなら、半狂乱になるのは自然なことである。キズを発見した途端、両手で頭を掻きむしりながら、両目を見開いて絶叫するのである。ご近所の皆様、大変申し訳ありませんでした。昨年の話ではあるものの、私、これをリアルでやってしまいました。
昨年、秋真っ盛りの中、台風なども含めて暴風雨が続いたある日のこと。夕方あたりに風や雨の音を通して「ガン!」という、結構大きな音が外から聞こえて来た。気にはなったが強い風雨ということもあり、その時は原因を探らなかった。そして翌朝、私はハチロクの前(正確には後ろ)で絶叫したのである。
昨日聞こえた「ガン!」の正体が判明した。なんと駐車スペース後方の塀に立て掛けてあったアルミ製の脚立が倒れ、ハチロクのトランク部分を「ガン!」と直撃したのである。「ガン!」だよ、「ガン!」。あの「ガン!」は、この「ガン!」だったのだ! ああ、ちゃんと片付けておけばよかった脚立、後悔先に立たずとはこのことか!
これがまた悲しいことに、脚立によって与えられたダメージはトランクのパネルだけでなく、ボディー側にも及んでいた。脚立がアルミ製で軽かったため、凹みはさほど大きくない。しかし、金属と金属がぶつかったのため、塗装へのダメージは深く、鋼板まで及んでいた。このままタッチアップもせずに放置すれば、錆が発生するだろう。いやいや、そもそも私のハチロクは、まだ新車と呼んでもいいぐらいなのである。
直そう。キレイに直して、何もなかったことにして、忘れてしまおう。朝起きたら空は晴れ渡っていてドライブ日和、私を待っているのはピッカピカの「キズ1つない」ハチロク! よし、そうしよう。そんな訳でさっそく東京トヨタ井草店の太田さんに電話をして、修理を手配してもらう。太田さんが言うには私のハチロク、ちょうど初回点検のタイミングなので、それを一緒にやってしまいましょうという話になった。
まあ、結果を言うとキズは「なかったこと」のように消滅し、初回点検はスムーズに終了した。その後、私が大いに反省し、脚立を片付け、さらにハチロク駐車スペースの周囲を徹底的に点検したのは言うまでもないだろう。修理にそれなりの金額がかかったのも、私に反省をうながした。ボディーまでキズが入っていたのが、痛かった、痛かった。
祝! ヘッドアップディスプレイ取り付け完了!
絶叫するほどのトラブルはあったものの、日々の運転で私もかなりハチロクに慣れてきた(注:パフォーマンスをフルに発揮させることができるとか、そういった意味ではない)。そこで昨年末、ついに懸案だったカーナビの機能拡張に踏み切った。そう、私がハチロクをナビレスで購入し、カロッツェリアのサイバーナビ、AVIC-ZH99CSを搭載したのはこの機能拡張のためだったのである。
ヘッドアップディスプレイ、すなわちHUD。すいませんが不肖・高橋、カーナビに関しては一足早く22世紀に行かせてもらいます(大げさだ、反省)! そう、AVIC-ZH99CSは後からAR HUDを追加して、その機能を拡張することが出来るのだ! 実は現在、そのAR HUDが最初からセットになったAVIC-ZH99HUDがリリースされている。しかし、私がハチロクを買った時はまだ、ナビ本体とクルーズスカウターがセットのAVIC-ZH99CSだったのである(注:ナビ単体のAVIC-ZH99はリリースされていたが)。
私がAVIC-ZH99CSを買った時、AR HUDは発売されておらず、それを含むセットを待つべきか、それともAVIC-ZH99CSを買っておいて、後からAR HUDを追加すべきか随分迷った。結果としてカーナビなしの生活はキツイと思い、まずはクルーズスカウターユニット付属のAVIC-ZH99CSを導入した訳である。もちろんその後、すぐにAR HUD単体も登場したのだが、タイミングがうまく合わずに未搭載のままだったのだ。
で、昨年末、とうとうAR HUDの追加搭載に踏み切った! 取り付けはもちろん、AVIC-ZH99CSの時にもお世話になったCATSさんにお願いした。また、ついでと言ってはなんだが、VICSのビーコンユニットの取り付けもお願いする。ビーコンユニットまでは必要ないだろうと思って取り付けなかったところ、VICSビーコンのシンパから大変なブーイングを喰らって取り付けることにしたのである。
部品が揃ったところで、ハチロクを再びCATSさんに持ち込む。もう見るからに頼りになりそうなCATSのチーフ小林さんが、ニコニコしながら早速作業に取りかかってくれる。だが、これが素人目からすると運転席を取り外す、大事のように見えるのだ。もっとも小林さんに言わせると、ごく普通のことらしいのだが。
ちなみに運転席を取り外したのは、座席の下にAR HUDの電源接続ユニットを設置するため。ついでに小林さんに「ハチロクはほかのクルマと比較して、作業しにくいとかありますか?」と質問してみた。すると「面倒とかそういったことはないのだけど、ちょっと迷うことがある」との返答。
小林さんのようなプロは、これから取りかかる作業の内容がすべて頭に入っていて、その作業内容に合わせて工具を選ぶ。用意する工具は自動車メーカー、ナビのメーカーごとにほぼ決まっているので、それらを選べばいい。ここでハチロクの場合、ちょっと興味深い現象が発生する。そう、「トヨタ車+カロッツェリア」で工具を用意して作業を始めるのだが、いざ蓋を開けてみると相手は「スバル車+カロッツェリア」なのである。「ちょっと混乱しますよね」とのことだった。
さて、作業はスルスルと進み、ヘッドアップディスプレイを装備したハチロクが私の元に戻ってきた。ああ、運転席にAR HUDが取り付けられているじゃないですか! 手動ではあるものの、もともとあったサンバイザーのように、透明な表示部分を下ろしたり上げたりできる! 表示などの調整に関しては、各部を調べるのとあわせて、私自身でやることにした。小林さんにお礼を言って、ちょっとだけ近未来に突入した私のハチロクがCATSさんを後にする。
ついに憧れのヘッドアップディスプレイ、AR HUDを入手したぞ! これでWCS(ウェポン・コントロール・システム=兵装制御システム)の表示を、前方から視線を動かさずに把握できる。クルーズスカウターユニットで敵車両をロックオンし、中距離多目的誘導弾を発射誘導できるようになる! すいません、すいません、妄想が爆発してしまいました……。
クルーズスカウターとAR HUD
ちなみに本連載はカーナビの使い勝手をお届けするものではなく、あくまでトヨタのスポーツカー、ハチロクの長期レビューである。従ってカーナビに関して、あまり深く突っ込むのもどうかとは思う。しかし、このサイバーナビに関しては、面白い部分を是非とも紹介したいのである。なお、AR HUDを追加搭載したことで、私のサイバーナビ(AVIC-ZH99CS)は、AVIC-ZH99HUDと同等になっている。すなわちサイバーナビ本体、クルーズスカウターユニット、そしてAR HUDのフルセットという訳だ。
まずクルーズスカウターユニットだ。これは本体ユニットとカメラがセットになったもので、もちろんサイバーナビと連動している。クルーズスカウターユニット、スカウター。となればあなた、モノアイディスプレイを頭部に装着し、敵などを見た際にその戦闘力を表示する機械ということで決まりである。ちなみに不肖・高橋、私の戦闘力はたったの「5」、ゴミです。いやいや、まあ誰もがそう思うほど、ドラゴンボールの影響力は大きいと思う(いや、あのおっさんはウィンチェスターとおぼしきライフルを装備した状態で「5」だったのだから、生身の私なら「1」とかでもおかしくない)。
冗談は別として、クルーズスカウターユニット最大の特徴は、カメラで車両前方の映像を取り込み、それを画像解析してナビに活用しているという点だ。例えば先ほど暴走して「敵車両をロックオン」などと書いたが、実は限りなくそれに近いことをこのユニットはやってくれる。前方を走行している車両をロックオンして、車間距離をナビに表示してくれるのだ。
あるいは前方の赤信号が青信号に変わったこと、前方車両が動き始めたことなどをドライバーに知らせてくれる。はたまた速度標識を認識し、その地点をナビに自動登録、次にまた同じ地点を通過する際に、注意を促すといったことまでやってくれる。ほかにも道路上のレーンを認識し、ふらつきなどを感知して注意をうながすことまでしてくれる。もちろん映像はSDカードに位置情報などと共に記録できるので、いわゆるドライブレコーダーとしても役立ってくれるのだ。
もうこのサイバーナビ+クルーズスカウターユニットの段階で、すでに近未来圏に突入していることは間違いない。だが、さらにそこにヘッドアップディスプレイ、AR HUDが加わるとどうなるか? これはもう2階級特進、もとい、2世代先に進んだと言っても私は言い過ぎていないと思っている。
なお、前回も書いたことだが、AR HUDのARは「Augmented Reality」の略称で、訳すと「拡張現実」である。HUDはヘッドアップディスプレイ、すなわち「Head-Up Display」だ。こちらのAR HUDユニットは、透明なバイザーが印象的なユニット本体、電源接続ユニット(私は運転席の下に入れた)、そしてステアリングリモコンで構成されている。ちなみにステアリングリモコンは、主にセットアップ時に使用するので(ほかにも機能あり)、前述のとおり取り付けなかった。
こちらの特徴は言うまでもなく、ドライバーの視線の先に透明なバイザーを設置し、そこにナビ情報などを投影することにある。ただしバイザーの位置はドライバーの前方視線から微妙に外されており、ドライバーの視線を遮らないようになっている。状況にもよるが、ハチロクに規定どおりに取り付けた場合、バイザー上の情報を確認する際には、視線を少しだけ上げるようになる。
これがですね、2012年5月8日の段階で「レーザーを使用した車載用ヘッドアップディスプレイ」としては「世界初」なんですわ、ええ。実はこのAR HUDを取り付けてから、私のハチロクに乗るほとんどの人が「ディスプレイを見せて」と言うようになった。そして現時点まですべての人が「こんなにしっかり見えるんだ」と、その表示状況に驚きの声をもらした。
ちゃんと調整しておけば、高精細ディスプレイとまでは行かないが、漢字がちゃんと読めるぐらいの表示を行ってくれる。しかも、強い西日が入ってくるような状況でも、しっかりと内容を把握することができるのである。表示する内容はというと、目的地を設定していない状況では周辺マップ、目的地がある場合はもちろんルートナビゲーションである。しかも、一般道と高速道路の表示を切り替えるというこだわりようだ。
ほかにもクルーズスカウターユニットとの連携で、表示の端に前方車両との車間距離を表示していたりする。表示具合に関して言えば、まさにパーフェクト。1つだけ困ったことがあるとしたら、それは写真が撮りづらくてしょうがないということだ。透明なバイザーにレーザー光を使って投影しているため、オートフォーカスでもマニュアルフォーカスでも、なぜかぼやけて写ってしまうのだ(これに関しては現在試行錯誤中)。
また、ヘッドアップディスプレイに表示される情報は、サイバーナビ本体のディスプレイからも把握できる。「じゃあ、いらないんじゃないですか?」という話も確かにアリだろう。だが、ヘッドアップディスプレイは「ロマン」と「現実」の狭間にあるのだ! そんなことを言い始めたら「スポーツカーじゃなくて、普通のコンパクトカーでいいんじゃないですか?」という話になってしまうじゃないですか。
サイバーナビ+クルーズスカウターユニット+AR HUDの組み合わせには、拡張現実をはじめとした最新技術と、さらには「未来」が詰まっているのだ。その「未来」に無理のない範囲で触れることができるとしたら、それを逃す手はないと思うのだ。だから私はサイバーナビを選んだ。間違いと勘違いだけで生きているような私だが、この選択だけは正解だったと思っている。
例えば西日が運転席に差し込んできて、あまりのまぶしさにサンバイザーを下げたつもりだったのに、そこにはAR HUDの透明バイザーがあったとか、そんなことは細かいことはどうでもいいのだ! 私はハチロクの運転席、コクピットに座って近未来を見ているのである。この事実をオカズにすれば、御飯3杯はいけると思っている。
さて、今回はほとんどサイバーナビの話になってしまった。しかし、これだけの代物が手に入ったのだから、サイバーナビのネタはちょくちょく挟んでいこうと思っている。もちろんハチロクがあってナンボの連載である。そろそろリアウイング(リヤスポイラーか?)が欲しいなあとか、ホイールを18インチにしたいなあとか、ほかのエアロパーツも取り付けたいなあとか思っているので、そっちもボチボチ進めたい。
また、春に向かってポニョ嫁が「温泉に行きたいじゃ!」とか言っているので、御機嫌取りのため、ハチロクで遠出をしたいなあと思ったり、思わなかったり。最後にポニョ嫁のサイバーナビに対する反応ですが、予想どおりでした。「ふーん」の一言で済まされました、はい。