国土交通省とNASVA、平成23年度「自動車アセスメント」の結果を発表
大賞はレクサス「CT200h」、テスト車両を秋葉原で一般公開

安全性が高いと評価されたモデルの表彰を実施

2012年4月25日開催



平成23年度の受賞車両となった3モデル

 国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)は4月25日、平成23年度(2011年度)自動車アセスメント・チャイルドシートアセスメントの結果を発表し、東京・秋葉原のベルサール秋葉原で記者発表会とテスト車両の一般公開を実施した。

 平成7年度から行われている自動車アセスメントでは、日本市場で販売台数が多く、交通社会において影響力が大きいと考えられるモデルを対象に、各種の衝突試験を実施して車両の安全性能を評価。試験結果をユーザーにも分かりやすいよう点数や星印に置き換えて一般公開し、新車購入時の目安になるようにするほか、自動車メーカーに対してもより安全な車両開発を促すことを目的に、毎年度行われている。

 また、平成18年度からは評価を行った車両の中から、一定の条件を満たすモデルを「自動車アセスメントグランプリ」として表彰し、一般ユーザーに対するアピール度を高めている。ただし、昨年度は東日本大震災の影響から、グランプリの発表や表彰は行われていない。

 自動車アセスメントでは、社会情勢やユーザーニーズの変化に対応して試験項目の刷新や追加などを行ってきたが、平成23年度からは自動車自体と乗員に注目してきた従来までの評価方法を見直し、新たに乗員と歩行者保護まで視野を広げた、自動車の総合的安全性能を評価する「新・安全性能総合評価」に一新。これに伴い、従来の自動車アセスメントグランプリも「JNCAP大賞」に名前を変え、さらに新・安全性能総合評価で最高評価となる5☆を獲得した車両の中で、一定の条件を満たすモデルを「JNCAPファイブスター賞」として表彰することになった。

 これに基づき、今年度の試験車両の中からレクサス(トヨタ自動車)「CT200h」がJNCAP大賞を獲得。JNCAPファイブスター賞には日産自動車「エルグランド」、スバル(富士重工業)「レガシィ」、ダブル受賞となったCT200hの3モデルが選ばれている。ちなみに、軽自動車でも「軽自動車部門JNCAP大賞」が制定されているが、今年度は基準を満たすモデルがなく、該当車なしとなった。

平成23年度のJNCAP大賞に選ばれたレクサス「CT200h」記念の表彰状と大型メダルに加え、大賞獲得を示すトロフィーも贈られた

 発表会では、各受賞車両の開発担当者などに表彰状と大型メダルの授与が行われ、トヨタ自動車の包原功 開発主査から大賞に選ばれたCT200hの安全技術に関する解説が行われた。

前方・側面からの衝突を8エアバッグ、後方からの衝突をWILコンセプトシートで分散・吸収すると説明するトヨタ自動車の包原功 開発主査
会場に展示されていたCT200hの側面衝突試験車両。前後のドアが大きく歪むほどの衝撃を受けているが、サイドエアバッグも標準装備となる8エアバッグによってキャビンスペースはしっかり確保されている

 今年度からの変更点で大きなものは、新・安全性能総合評価の「歩行者保護」で新規導入された「歩行者脚部保護性能試験」。1月19日付けの関連記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120120_506282.html)でも詳しく紹介しているが、成人男性の脚部を模したダミーを車両前方から40km/hで衝突させ、脚部にかかる傷害値を計測する試験内容となっている。

 実はJNCAPファイブスター賞に選ばれたエルグランドとレガシィは、すでに自動車アセスメントの評価が行われている車両だが、メーカー側からの要望で新しい歩行者脚部保護性能試験を追加実施し、この評価を受けて改めて受賞することになった。

歩行者脚部保護性能試験で使われる「脚部インパクタ FLEX-PLI」。高度なセンサーの集合体で、これ1つで数千万円すると言う記念メダルを受け取る日産自動車の植月剛セグメント・チーフ・プロダクトスペシャリスト「自動車アセスメントは多岐にわたる厳しい要求が必要となり、この賞をいただけるのは弊社の技術力の証明でもあり、大変嬉しく思っています」とコメントする植月氏
歩行者脚部保護性能試験で使われたエルグランド。ボンネット上にあるわずかなへこみで衝突部分がわかる程度で、バンパーはきれいに衝撃を吸収していることが見て取れる表彰状の授与。表彰状を読み上げているのはNASVAの尾澤克之 理事長職務代行
記念メダルを受け取るスバルの副島博文 広報部長「当社はオールアラウンドセーフティという考え方に基づき、危険回避性能、EyeSightなどによる予防安全性能、そして今回受賞した衝突安全性能をすべての条件に対応できる技術に進化させ、少しでも安全性の高いクルマを実現したいと目指しています」と語った副島氏
歩行者脚部保護性能試験で使われたレガシィ。保護性能は4段階評価で最高となるレベル4となっている

 発表会では表彰に加え、国土交通省 自動車局 技術政策課の永井啓文 車両安全対策調整官から自動車アセスメントの概要説明や変更内容などについて解説された。今年度からは前出の歩行者保護に加え、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)が急速に普及していることを踏まえ、新たに「感電保護性能試験」を実施。対象となったのはHVのCT200hとトヨタ「プリウスα」、EVの日産「リーフ」の3モデルで、いずれもすべての要件に適合し、新たに作られた適合マークが与えられている。

 また、今回から「新・安全性能総合評価」に移行した理由について、平成20年度以降は交通事故における状態別の死亡者の割合で歩行者が最多となっており、平成23年度では36.6%まで増えてきていることを受け、乗員保護に加え、歩行者保護を加えた総合的な自動車の安全性能を評価することになったと説明した。

国土交通省 自動車局 技術政策課の永井啓文 車両安全対策調整官従来型の車両単体で見た評価から、歩行者など周辺環境まで視野に入れた新・総合評価に今年度から生まれ変わっている

NASVAでは試験内容をまとめた小冊子を作成しており、今回のようなイベント会場や全国の車検場、NASVA支所などで配布。さらにホームページではデジタルデータをダウンロードできるようになっている

 発表会当日は3台の受賞車両に加え、今年度の試験を受けたアウディ「A1」とBMW「X1」の車両展示、試験中の模様を記録した映像の公開などがオープンスペースで行われていたが、会場のある秋葉原が近年ではすっかり観光地化していることもあってか、さまざまな国から訪れたであろう外国人や修学旅行中という風情の学生たちなどのほか、仕事中のサラリーマン、買い物客など非常に多彩な見学者が来場していたことが印象的だった。

 また、ちょうど記録映像の中に衝突の危険を知らせる警報音が鳴るシーンが含まれていたこともあり、驚いて画面を見た通行人が足を止め、そのまま試験風景を眺めたり、展示車両に移動して実車の状態を見学したりするなど、一般ユーザーにとっても関心が強いことを伺わせた。

衝突試験でクラッシュした実車を一般公開
のぞき込んで車内の状態をチェックしたり、車両の脇に置かれた解説パネルに目を通したりするなど、熱心に見学する人も多かった
刺激的な衝突シーンと警報音に足を止めた見学者による人の輪ができ、さらに歩行者の注目を集める連鎖となっていた
会場の一角では試験内容などをパネル展示で紹介
A1のオフセット前面衝突試験車
強い衝撃で運転席側のドアが歪むほどだが、キャビンはしっかりと保護され、ドアの開閉も問題なく、事故後の救出も可能という評価
X1のフルフラップ前面衝突試験車
衝撃を吸収して大きく潰れたエンジンルームに反して、フロントウインドー以降は驚くほど変化がない

チャイルドシートアセスメントではISO FIX固定タイプが試験に登場
 このほか、チャイルドシートアセスメントでは、新たにISO FIX固定タイプの評価が行われることになった。残念ながらISO FIX固定タイプのチャイルドシートは、自動車メーカーの純正品以外では流通数が少ないものの、自動車のニューモデルではISO FIX対応のモデルも一般的になっており、今後の市場拡大も視野に入れた導入となっている。

ISO FIX固定タイプのチャイルドシートは装着が手軽なだけでなく、ミスユースによって本来の性能を発揮できない危険性が少ないことも大きなメリット
金属製のISOバーで車体にしっかり固定できるので、子供の安全性も確保しやすいという

(佐久間 秀)
2012年 4月 26日