ニュース
日野自動車、安全技術説明会を開催
テストコースでPCS(被害軽減ブレーキ)の実車デモや省燃費講習を実施
(2013/7/8 14:47)
日野自動車は7月5日、同社羽村工場内のお客様テクニカルセンターにおいて、報道陣向けに安全技術説明会を開催した。省燃費や安全運転講習などを行う施設とその講習内容の一部を公開、さらに同社が取り組んでいる安全技術についても公開した。
研修用の車両として38台のトラック・バスを用意
日野自動車が「お客様お役立ち活動」として展開する拠点が「お客様テクニカルセンター」。2005年6月に開設、今年1月には建物の増築やコース増設、車両の増加、スタッフの増員を行い、現在の体制となった。
お客様向け省燃費運転講習、安全運転講習および新型車紹介を行い、設備拡張が行われた現体制での年間講習会対応能力は550件。2012年度の実績では約半数が省燃費講習となっている。これらの活動はすべて無料で顧客に提供される。
センターで保有している研修用の車両は38台。内訳は大型トラックが11台、中型トラックが8台、小型トラックが14台、バスが5台。これだけの台数を確保している理由は、受講者の使用車両に合わせて講習ができるようにするほか、最新車両に乗ってもらうという理由もある。
省燃費講習で20%以上の燃費改善実績
省燃費運転講習は、受講生が運転をした後に省燃費講習の座学を受け、再度運転をして燃費を比較、個別に改善結果について指導を受けるという内容になる。2012年4月から2013年3月までの実績は、受講団体単位での平均燃費改善率はバスが26%、大型トラックが24%、中型トラックが22%。小型トラックが21%。
今回の講習内容の公開では、指導員がバスドライバーの受講生役となって実際に2つの運転を行い、燃費改善効果が示された。
1度目の運転では、非常にスムーズでゆったりとした運転だったが、燃費は4.13km/L。それに対し、座学で教えているというアクセルから足を離して惰性で車両が進んでいる状態の多用や、高速段ギアの多用などで、省燃費運転では4.64km/Lと12.5%まで改善された。タイムも計測しており、省燃費走行の結果、コースひとまわりの所要時間は元の運転の43秒から45秒へ若干の増加にとどまった。
具体的な改善点はいくつかあるが、デモで行われたものとしてはバスが発進する際、通常は2速でもアクセルを踏み加速するが、省燃費運転では2速でアクセルを踏まずにクラッチ操作だけで走行を開始させ、すぐさま3速にシフトアップして初めてアクセルを踏んで加速させるというもの。また、コース内には上り勾配もあるが、低いギアでエンジン回転を高めにして登っていくのではなく、エンジンのトルク特性を把握し、高いギアを使い低いエンジン回転で適度な速度を維持すること。さらに、アクセルから足を離していわゆるエンジンブレーキ状態にすると燃料が噴射されないことを利用し、燃料無噴射での惰性走行の多用。
特に燃料の無噴射走行比率は改善前の14.5%から31.0%まで増えており、これが燃費に大きく影響を与えたものと思われる。
実際に乗り比べてみたが、クルマの特性を熟知しているメーカーの指導員による実演ということもあるが、発進時にすぐさま3速にシフトアップするために前後の揺れが増える程度で、特別不快な印象はなかった。
指導員によれば、近年はデジタルタコグラフの普及により、省燃費運転の意識は進んでおり、受講前でも省燃費運転のレベルは高まっているとのこと。それでも参加者平均で20%以上の効果があるほど、指導の成果が出ているとのことだ。
バック時にカメラでも見逃す死角
安全運転講習では、車両の特性をよく理解した上で事故を減らすように指導を行っているが、そのうちのバックアイカメラの特性を理解する講習が披露された。
トラックで箱型荷台を搭載した車両はミラーによる後方視界がまったくないため、バックアイカメラを搭載していることが多い。しかし、カメラの死角があまり把握されておらず、特に上部の看板に接触する事故が多いと言う。
講習では死角を理解してもらうことを主にし、死角が分かりやすい機材などを使って死角の把握が進められる。
ただし、この講習を受講してドライバーに実際にやってもらいたいことは、バックする際にトラックから降りてする安全確認は、後退先の地面だけの安全確認にとどまらず、上部に位置する看板なども十分に確認することだと言う。
指導員によれば、実際に死角について受講した受講生でも、受講後にトラックでコースを走ると、高い位置に設置した看板への接触が起こるしまうほど、注意しなければならない問題だそうだ。
PCSやVSCの作動をデモ
安全技術の紹介は、まず技術開発方針から説明された。日野自動車が提供する車両はバス・トラックであり、一般的な乗用車とは事故の特徴が異なる。また、大型トラック・トラクタ(トレーラー牽引車)と小型トラックでも傾向が異なるため、それぞれに即した形で対策を行っていると言う。
例えば全体の傾向では、事故数そのものは少ないが、一度事故が起こると死亡事故に至る確立が高いこと、自車以外の死者が多いこと、大型トラックでは高速道路による長距離走行が多いため相手方は乗用車、小型トラックでは短距離走行が多いため歩行者、自転車の割合が高いといった具合だ。
そのため視界支援技術、被害軽減対策、車両安定性向上技術の3つが重要とし、それぞれの車両の形状に合わせて安全技術の装備を行い、実用化したシステムではオプション装備ではなく、標準装備化を進めていると言う。
その結果、PCS(被害軽減ブレーキ)は2010年7月に大型トラック・大型観光バス全車標準装備化を達成、VSC(車両安定性制御システム)も大型トラック・バスでは標準装備化を達成している。
今回デモが行われたPCSは、ミリ波レーダーで追突の恐れがある場合は警報や弱いブレーキで注意を促し、追突の可能性が高まると強力なブレーキがかかるもの。さらにオプション装備となる、ドライバーの目の瞼の開閉状況を監視するドライバーモニター付きPCSでは、目をつぶっている時間が長い場合や顔が横を向いている場合は、それも加味して警告を発する。
テストコースでは、ミリ波レーダーに反応する障害物に見立てた反射板を置き、ドライバーが何もしないでも車両停止までブレーキがかかることや、警報が作動してすぐにドライバーが急ブレーキをかけたときに障害物手前で停止できることが示された。
一方VSCでは、カーブで車線のはみ出しや横転を抑止するため、警報とともにエンジン出力制限、ブレーキ作動で回避を支援する。デモでは小型トラックを用い、車両が傾いた際、横に張り出したアームの先のタイヤに接触するか否かが実演され、VSCを作動させた状態では横転しにくいことが示された。
VSCは大型車では標準装備となっており、トラクターでは滑りやすい路面でトラクターがスピンして、トラクターとトレーラーが鋭角で折れ曲がるジャックナイフ現象を抑止する効果もある。
視界確保のための安全技術や、電動パーキングなども紹介
展示では、大型車トラックである「プロフィア」を置き、運転席に座り、大型車向けのアンダーミラーの追加や、左後側方視界補助カメラを体験するデモが行われた。バンボディーによって後方や左側側面の視界がない大型トラックでは、ミラーやカメラによる視界補助が重要ということを実感させられた。
小型トラックでは、現行の「デュトロ」を展示。視界方向に対して細くなったAピラーを実感できた。カメラでは死角ができてしまうが、人間の左右の目で同時に見ると、死角がほとんどななっていることを実感できた。
また、補助ミラーによる両側面の視界向上も実感、左側の道路から自転車が突進してきた場合に気づきにくい点が改善される。説明担当者によれば、デュトロの死角の少なさに慣れると、Aピラーが太い一般的な乗用車の運転が怖くなるとのことだ。
電動パーキングブレーキは、拡充を進めている装備の1つ。誰でも確実に強力にブレーキをかけられるため、不十分な力でパーキングブレーキを引いたことによるトラックの自走事故を防ぐために有効となる。
特に、AMT車(自動変速車)ではPポジションに入れることで自動的にブレーキを掛ける設定のため、短距離走行とドライバーの乗り降りが高い頻度で行わえる塵芥車を使う現場では、安全面以外にも操作手順の軽減に有効な装備となる。