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日野、「新PCS」「ドライバーモニター」などを紹介する「安全技術試乗会」実施
速度差50km/hでも最大減速度0.7Gの自動ブレーキで衝突を回避
(2014/6/24 10:45)
日野自動車は6月14日、メディア向けの「安全技術試乗会」を開催した。冒頭の説明会では、大型トラックと大型観光バスをとりまく環境とそれに対する同社の技術開発の取り組みが解説された。
現在、貨物などを運搬する物流事業者や観光客などを運ぶ旅客事業者は“社会を支える重要なライフライン”であるとの位置づけから、安全で安心できる輸送サービスを安定的に供給することが求められていて、その実現のためには適切な運行管理や安全運転を行うことが不可欠であるとされる。また、万が一にも事故が発生してしまった場合は、社会的、経済的な面で損失が非常に大きいことから、可能な限り事故を未然に防ぎつつ、発生してしまった場合でも被害を最小限に留めていく策が強く求められている。
同社では安全性能向上に向けて、「トータルセーフティの推進」「安全装備の普及促進」という2本柱で取り組んでいるが、ここで大切なことは、乗用車とトラック/バスでは車両特性に大きな違いがあることを認識することにある。
まず、視界については、運転席の座面が乗用車よりも高い位置にあるため直前の車両などを発見しづらく、トラックでは車体後部に荷台があることから死角が大きくなってしまう。また、車両重量が重く、同社の大型トラック「プロフィア」では車両総重量(GVW)クラスが25tというモデルもあり、事故発生時に加害側となった場合にその被害が大きくなる。さらに、積荷によって車両の走行性能が大きく変化したり、車体の特性から内輪差やリアオーバーハングが乗用車と比べものにならないほど大きくなったりするなど、その違いは多岐に渡っている。加えて、トラック/バスの走行形態は長距離(多い車両で約1.5万km/月)が多く、かつ高速道路の走行が主体となることも大きな特徴だ。よって、ドライバーの疲労度を低減し、極力運転に集中できる車内環境や車両挙動の安定化を図ることが、事故を未然に防ぐ最大の策であるわけだ。
そうした理由から、2006年2月、日野自動車は商用車としては世界で初めて大型トラックに77GHzのミリ波レーダーセンサー方式で左右角10°、150m前方まで検知可能な「衝突被害軽減ブレーキ(同社での呼称はトヨタと同じくPCS:プリクラッシュセーフティ)」を搭載し、2010年7月には大型トラック/大型観光バスの双方でPCSを全車標準装備とした。
さらに今年の4月1日には、大型トラックのプロフィアと大型観光バス「セレガ」のPCSに「追突回避支援機能」を新たに追加して“新PCS”とした。また、従来から搭載しているドライバーの視線と顔方向を認識する「ドライバーモニター」も検出精度を向上させて全車で標準装備化し、車線逸脱警報を国土交通省の「LDWS基準」に適合させた。このほか、海コン(海上コンテナ)トラクター用に車両の傾きを検知して警告する「左右バランスモニター」を新装備している。
今回の安全技術試乗会では、追突回避支援機能が加わった「新PCS」に加え、「ドライバーモニター」「車線逸脱警報」の3点を、安全が確保された日野自動車 羽村テストコース(東京都羽村市)で同乗試乗ながら体験できた。前述のとおり、2006年2月に商用車で世界初となる「衝突被害軽減ブレーキ」が大型トラックのプロフィアに搭載され、この発表当時も同じ羽村テストコースで同乗取材しているが、今回は大型観光バスのセレガで進化した新PCSを体験した。
まずは、従来から採用している衝突被害軽減ブレーキ機能を試すべく、停止している障害物(≒停止車両)に対して60km/hで直進する。すると、あらかじめ速度によって設定されたTTC(Time To Collision:衝突余裕時間)に応じて新PCSの警報ブザーが鳴り、障害物に接近していることを知らせる「危険警報制動」と呼ばれる緩いブレーキ(一次ブレーキ)がかかる。それでもドライバーが反応しない場合、そのまま障害物に迫ると衝突が回避できないTTCとなった段階で、「PCSブレーキ」と呼ばれる強いブレーキ(二次ブレーキ)が作動する。
この状況では障害物に衝突するのだが、車両左前方に内蔵されたGセンサーにより衝突したことが検知されると、車両が完全停止するまでそのままブレーキはかけ続けられ、結果として、衝突後の被害拡大防止が図られる。ちなみに速度低減量を20km/hとした場合、追突死亡事故の80%が低減され、追突重傷事故も60%が低減されるため、これだけでも被害軽減効果は大きい。
次に、新たに加わった追突回避支援機能を体験。60km/hで走行するセレガで、30km/hで走行する先行車に向かって速度差30km/hを保って接近する。高速道路を走行中に渋滞最後尾に接近していくイメージだ。すると、TTCに応じて新PCSの警報ブザー&危険警報制動が作動してドライバーに危険を知らせるとともに、衝突が避けられない距離まで近づいた途端、強いブレーキ(最大減速度は0.7G程度)がかかり、結果、先行車との衝突が避けられた。一般的に減速度が0.2Gを超えると強いブレーキと判断され、大型第二種免許の運転試験では減点対象となる。新PCSではその3.5倍以上の強い制動力で衝突を回避するわけだ。
その追突回避支援機能を、今度はバスを下車して外から作動の様子を確認する。画像はそのときの様子だが、セレガは80km/h、先行車は30km/hで、速度差は50km/hにもなる。さきほどの速度差から20km/h増加しているため、かなり手前から最大減速度0.7G程度のブレーキ(フルブレーキの75~90%程度)をかけ始めるのが分かる。フロントタイヤがきしみ、大きくノーズダイブしながら速度を落としていく様は圧巻だ。新PCSの追突回避支援機能は、先行車速度10km/h、相対速度15km/h(=自車速度25km/h)以上で作動し、最大50km/h分の減速度を乾燥路(路面μ1.0程度)走行時に生み出すことができる。
ドライバーモニターは、運転しているドライバーの目線や顔の方向をメーターフード内の上部に設置された赤外線カメラで検知し、前を見ていないと判断されると警報ブザーによって視線を前に戻すことが促される安全運転支援システムだ。今回、新たにカメラを赤外線LED方式とすることで外乱光に対するロバスト性を向上させながら、ドライバーがサングラス(偏向レンズであっても赤外線を妨げなければ検知可能)を使っていても安定して作動するようになった。また、従来から採用されている機能だが、ドライバーモニターはドライバーが前を向いていないことが検知して、なおかつ先行車がいる場合には、新PCSの作動を最大で1秒(80km/hで走行の場合、距離にして約22.4m)早めることで安全性をさらに向上させる。
車線逸脱警報は、インパネ中央部分に設置された30万画素のカラーカメラ(システム上はモノクロモードで作動)によって8~15m先にある路面の車線を認識し、車線を逸脱した段階でドライバーに警報ブザーで知らせる安全装備。従来は逸脱量が1m以内となった場合に作動していたが、認識性能を向上させることにより、0.3m以内の逸脱であっても警告できるようになった。長距離走行時の居眠りやぼんやり走行時の車線逸脱防止に貢献する。
近年、商用車メーカーは物流事業者や旅客事業者に対するトータルサポートを掲げ、安全・安心な運行ができるようアシストしている。日野自動車では今回の安全技術試乗会の会場となった羽村テストコースに、こうした事業者を対象とした「お客様テクニカルセンター」を2005年6月に開設。2014年3月末までに5万1787人が受講している。そこでは燃費数値向上を目指した「燃費講習」や「予防整備」、死角の体験など学ぶ「安全講習」などに加えて、今回レポートした先進安全装備の講習も行われている。座学だけでは伝わりにくい安全サポート技術の数々を実際にテストコースで体験することで、装備に対する理解度は飛躍的に高まっていくだけに存在意義は非常に大きい。
乗用車ではJNCAP(自動車アセスメント)に対車両の「衝突被害軽減制動制御装置性能(衝突被害軽減ブレーキの性能)」「車線逸脱警報装置」についての試験・評価が組み込まれることが決まったが、商用車の世界では、大型トラック/大型バス(路線バスを除く)に対して「衝突被害軽減ブレーキ」や「車線逸脱警報装置」に対する装着義務化がすでに法律によって定められている。今後の動向にも注目していきたい。